コロナ禍における監査役等とのコミュニケーション

月刊監査役(公益社団法人日本監査役協会)716号 2020年12月号の「コロナ禍における監査役等とのコミュニケーション」にあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

月刊監査役 716号 2020年12月号の「コロナ禍における監査役等とのコミュニケーション」に解説記事が掲載されました。

この記事は、「月刊監査役(公益社団法人日本監査役協会)716号 2020年12月号」に掲載したものです。発行元である公益社団法人日本監査役協会の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

はじめに

2020 年3 月期の決算監査は、その直前に新型コロナウイルス感染症の拡大という想定外の事象が発生し、監査の繁忙期において、緊急事態宣言等の感染拡大防止措置による往査や国内外の出張自粛といった多くの制約の下でのリモート監査を余儀なくされた。決算・監査作業の遅延により、決算発表や会社法監査日程を遅らせる事例は少なからずあったものの、株主総会の開催時期や有価証券報告書の提出を大幅に遅らせた事例は限定的であり※1、おおむね予定どおりに監査を完了させることができたものと思われる。

これは関与先企業とこれまで築き上げてきた信頼関係に基づく御助力があってのことであり、監査役、監査等委員、監査委員の皆様を始め、関係者に厚く御礼申し上げる次第である。

本稿は、依然としてコロナ禍が続く中、監査人の立場から、2020年3月期の決算を振り返りつつ、2021年3月期の期末監査に向けて監査役若しくは監査役会、監査等委員会又は監査委員会(以下「監査役等」という。)と深度あるコミュニケーションが行えるよう、今年度の監査上の課題を紹介するものである。

なお、本文中の意見にわたる部分は筆者の個人的な見解である。また、本稿は2020年11月11日時点の情報に基づいており、その後新たな情報が公表される場合もあるため、今後の動向に留意されたい。

2020年3月期の監査の振り返り

新型コロナウイルス感染症により、一部業種においては著しい業績悪化など新たな事業リスクが発生した。このため、監査上のリスク評価を適切に行い、監査計画の適切な見直しが必要となる領域を把握するため、監査上の検討事項に関する監査チーム・ミーティングを実施した。

また、感染拡大防止措置により往査が制限されたリモート監査環境下において、関与先企業との監査資料やデータの受渡しを電子的に行う必要があり、残高確認状の発送・回収業務にも影響を与えることとなった。ただし、これらに関しては、情報セキュリティ、データ活用や業務の効率化といった観点から、早晩電子化は不可避であり、コロナ禍によりそれが前倒しで進んだと評価することもできるものと思われる。

海外子会社等とのコミュニケーションについては、現地駐在員を通じて情報収集を行いつつ、リモート会議等により実施した。また、一部の限定された監査エンゲージメントでは実地棚卸立会が実務的に不可能となり、一定の厳格な条件の下、リアルタイムでの動画、画像データにより、実質的に立会と同様の手続を実施することで代替するといったことも行われた。なお、未来の監査ということでは、デジタル環境の進化により、ドローンを使った立会など新たなデジタルツールを活用した手法が導入されることも想定される※2

このように、場合によっては代替的手段も組み合わせることによって、監査手続を終了することができたが、こうした代替的手段はあくまで期末直前に想定外に生じた新型コロナウイルス感染症に対応するための緊急避難的な対応であり、過年度までの監査で得られた理解や心証の蓄積をベースに、内部統制の有効性評価や拠点往査等、期末までに行われた各種手続の積上げがあって初めて実現できたものと考えられる。

したがって、2021年3月期の決算監査に向けても、基本的には監査のアプローチやスケジュールに大きな変更はない。ただし、ウィズコロナが常態化していることから、感染症対策を十分に実施した上で、少人数での往査も維持しつつ、リモートと使い分けながら不測の事態に備えて、前倒しで手続を実施するなどの対応を行っている。このようにコロナ禍では従来とは異なる対応がなされる可能性があるため、監査役等は、こうした(会計)監査人の監査の方法を確認し、相当かどうか検討することが必要である。

コロナ禍での適切なリスク評価と対応手続

新型コロナウイルス感染症によるビジネスへの影響及び回復への道のりは、業種・業態によって異なる。図表1は、新型コロナウイルス感染症を起因としたビジネスの変化を、「安心・安全の確保」、「オペレーションの維持・継続」、「ピークアウトし平時へ復旧」、「『ニューリアリティ』への適応」という四つのステージで整理したものである。現在、一般的にはステージ2にいると言われている。

監査人は、不確実性が高い状況下においては、変化を見逃さないように経営者と従来よりも頻繁にコミュニケーションを行い、これまで得られた業種に関する知見や関与先企業のビジネスの理解に基づき、事業上のリスクを把握し、とりわけ経営者の不正リスクや、後述する見積りといった重要な領域への対応を適切に行う必要がある。

監査役等においても、監査人とのコミュニケーションを通じ、監査の実施中に特別に留意が必要と考える事項の共有を行うとともに、必要に応じ追加手続の実施を要請することが重要である。

図表1
図表1

会計上の見積り項目の監査

コロナ禍における会計上の見積り

会計上の見積りとは、適用される会計基準に従って、金額の測定に見積りの不確実性を伴うものをいう。我が国の会計基準では、資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出することをいう(企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第4項(3))。

特にコロナ禍では、例年以上に見積り要素を含む資産の評価が問題となる。顧客の信用状況が悪化し、期日までに入金されない可能性が生じれば、債権評価が問題となる。自粛生活やソーシャル・ディスタンスによる需要の変化に対応するため販売単価を見直したり、サプライチェーンの毀損や操業度の低下により原価や労務費が上昇したりすれば、棚卸資産の評価が問題となる。修正予算により将来の課税所得の減少が見込まれれば、繰延税金資産の評価が問題となる。経営環境の著しい悪化や、事業の廃止又は処分、固定資産の遊休状態化によって、有形固定資産や、のれんを含む無形固定資産、関係会社株式の評価が問題となる。資産の評価以外にも、工事等の長期プロジェクトが大幅に遅れ、追加コストが発生すれば、進行基準における進捗度の基礎となる原価総額の見積りに基づく収益認識や引当金の評価が問題となる。

過去との断絶が大きいコロナ禍では、過去の実績が必ずしも参考になるとは限らない。そのような状況下であっても、経営者は最善の見積りを行う必要があり、先行きをどうみるかといった経営者の仮定が特に重要となる。

監査基準の改訂と改訂ISA540

そもそもこうした新型コロナウイルス感染症による影響が懸念される以前から、会計基準の改正等により、財務諸表に計上する金額を決定する際に複雑な会計上の見積りが必要となっており、かつ、財政状態及び経営成績に与える影響が相対的に大きいことが指摘されていた。それにもかかわらず、近年の公認会計士・監査審査会の検査結果において、会計上の見積りに関して、経営者の使用した仮定の合理性の検討が不十分であるなど、重要な虚偽表示のリスクに対応する監査手続が不足しているとの指摘がなされてきた※3。国際的にも世界的な金融危機を契機に、国際監査基準(ISA)540「会計上の見積りと関連する開示の監査」が改訂されている。こうしたことから、2020年11月6日に改訂された「監査基準」における改訂事項の一つとして、リスク・アプローチに基づく監査の実施において、会計上の見積りについて適切に評価されたリスクに対応した深度ある監査手続の導入が盛り込まれることとなった※4

具体的には、改訂ISA540との整合性をとり、会計上の見積りに関するリスクに対応する監査手続として、原則として、経営者が採用した手法並びにそれらに用いられた仮定及びデータを評価する手続が必要である点が明確化された。

改訂監査基準によるリスク・アプローチの強化については、2023年3月決算に係る財務諸表の監査から適用することとされ、それ以前の決算に係る財務諸表の監査から実施することを妨げないとされる予定である※5。しかしながら、グローバルのネットワークにおいてISAベースの監査メソドロジーを導入している監査法人においては既に、改訂ISA540に基づき2021年3月期の会計上の見積りに関する監査手続が強化されているところである※6

経営者による見積りの不確実性に関する理解や対応、コロナ禍においてはとりわけ財務諸表作成時に入手可能な最新の情報に基づいて見積りがなされているかが重要となるため、監査役等は、会社の予算が適宜更新されているか、信頼できる外部データを参照するなど見積りの客観性が担保されているかを確認するとともに、監査人の監査の方法や、経営者の見積りに関する監査人の見解についても確認することが重要である(日本公認会計士協会 監査基準委員会報告書260「監査役等とのコミュニケーション」第14項(1)、付録2参照)。

会計上の見積りに関する注記

会計上の見積りの監査においては、会計処理だけでなく、経営者による見積額の選択方法及び見積りの不確実性に関する注記事項に関連する手続も実施する必要がある。この「見積りの不確実性に関する注記」に関連して、2021 年3 月期の期末決算から、企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」が適用される。これは当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目における会計上の見積りの内容について、財務諸表利用者の理解に資する情報を開示することを目的とするものである。

例えば、固定資産について減損損失の認識は行わないとした場合でも、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクを検討したうえで、当該固定資産を開示する項目として識別する可能性がある。

企業会計基準第31号に基づく見積り開示は、見積り項目ごとに会計上の見積りの内容を表す項目名とともに、次の事項を注記することとされている。

1.当年度の財務諸表に計上した金額

2. 会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報

1・2の具体的な内容や記載方法については、開示目的に照らして判断するとされ、2の例としては、以下のようなものがあるとしている。

  • 当年度の財務諸表に計上した金額の算出方法
  • 当年度の財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定
  • 翌年度の財務諸表に与える影響

これらの情報は、単に会計基準等における取扱いを記載するのではなく、企業の置かれている状況が理解できるようにすることで、財務諸表利用者に有用な情報になるとされている。

2020 年3 月期決算においては、新型コロナウイルス感染症の影響という不確実性の高い事象が発生した。企業会計基準第31号の適用はされなかったものの、企業会計基準委員会から、新型コロナウイルス感染症の影響の考え方が示され※7、これに従って多くの企業が一定の仮定を置き最善の見積りを行い、新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に関する追加情報の開示を行った。これにより、実質的には企業会計基準第31号に基づく開示の予行的な運用ができたものと思われる。

ただし、時間の制約がある中での対応であったこともあり、定性的な情報のみの簡素な内容にとどまる事例も散見される。後述するように、KAMにおいて見積り項目が選定されることになれば、監査人による未公表情報の提供を避けるため、企業による追加の情報開示が必要になることから、より充実した開示が必要になってくる。2021年3月期の監査においては、改めて見積り開示の合理性を検討する必要がある。

KAM適用

早期適用事例から得られる示唆

2021年3月期の監査から、監査上の主要な検討事項(Key Audit Matters;KAM)が強制適用になる。一斉適用の混乱を避けるため早期適用も可能であったが、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、2019年12月期、2020年3月期及び2020年6月期の早期適用会社は、49社にとどまった(2020年9月末現在)。

2020年3月期の早期適用の事例をみると、連結財務諸表の監査報告書では、固定資産の減損、のれんの減損、貸倒引当金の評価、収益認識(工事進行基準の適用等)といった会計上の見積りに関するもの、個別財務諸表の監査報告書では、これらに加え関係会社株式の評価と、やはり見積りに関するものが多く選ばれていた。日本公認会計士協会が早期適用会社の監査役等及び財務諸表作成責任者に対して実施したアンケート調査※8によれば、KAMの導入による変化及び効果は以下のとおりである。

  • 経営者、監査役等、監査人間のコミュニケーションが深化した(以前から深度あるコミュニケーションがとれており大きな変化はないとの回答もあり)。
  • KAMの導入により追加的な情報の開示を行った(追加的な開示を行うにはタイトな決算スケジュールで困難を感じた、相当な時間を要したとの回答もあり)。
  • 監査のプロセスに関する情報が提供されることによって、監査の信頼性及び透明性の向上を期待する(専門的な記載が株主への有用な情報提供になっているかは継続的な検証が必要、財務諸表における注記の充実につながらなければ、株主にとって余り効果はないのではないかとの回答もあり)。
    そして、特に監査役等から、KAMを早期適用したことによる効果として以下が指摘されている。
  • 株主総会に先立ち有価証券報告書を提出したため、株主総会参加者に対して充実した情報提供を行うことができ、株主に対する説明責任の範囲・深度の観点で、監査役等としての対応をより充実させる契機になった。
  • 会社側は会計基準に従った企業情報の適切な作成・開示、監査人は監査基準に従った監査の適切な実施、監査役等はこの「二重責任の原則」が適切に機能しているか否かを監視・監督することが監査役等の重要な役割であることを改めて確認した。

早期適用事例を踏まえた監査役等とのコミュニケーション

KAMは、監査役等とコミュニケーションを行った事項の中から絞り込むプロセスを経て決定されることから、2021年3月期の監査計画説明時に監査人からKAM候補について説明を受けているであろう。そして、四半期レビュー結果報告や随時のコミュニケーションの機会には、文案やKAM候補の追加について共有されていることと思われる。

KAMは監査人の責任において記載することではあるが、監査役等は財務報告プロセスの整備及び運用における取締役の職務の執行を監視する責任があること、KAMは企業の有価証券報告書の一部として開示されることから、監査役等と深度ある協議が必要である。特に、KAMの内容及び決定理由をよく確認することや、文案が専門的で一般に分かりにくいものとなっていないかといった検討が有益であると思われる。

また、早期適用事例では、ほとんどの会社が未公表の情報を記載せずにKAMを記載できたことが判明しており、KAMの記載に向けた検討過程において、会社による情報開示の充実が図られた可能性がある※9。これには監査役等からの経営者に対する追加の情報開示の後押しもあったものと思われる。とりわけ投資家からは、監査役会等の実効性を判断できるよう、有価証券報告書における「監査役会等の活動状況」にKAMの検討やその検討結果なども含まれるべきとの指摘もあるところであり※10、開示の拡充という観点からも、監査役等によるKAMの検討プロセスへの関与は欠かせないものと思われる。

おわりに

現在、新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念が増しており、予断を許さない状況にある。有効なワクチンや治療薬ができるまでは、経済の先行きは不安定であり、依然としてビジネスの不確実性が残る。監査人としては、事象や状況変化に応じ、適切なリスク評価を行うとともに、それをもとに監査計画を適時に修正し、対応手続を実施すること、会計上の見積りに関する監査の厳格化の要請にも応えつつ、特に上場企業の監査においては、KAMの強制適用を着実に実行する必要がある。こうしたことから、2021年3月期は例年になく監査役等とのコミュニケーションが重要であると認識している。

監査役等と監査人との間の深度あるコミュニケーションのために、本稿が少しでも参考になれば幸いである。

【注】

1)2020年3月期の株主総会について、31社が継続会の開催、55社が延期、4社が臨時総会開催により、合計90社が総会延期を行っている(2020年8月31日現在、『週刊経営財務』3472号(2020年9月7日)より)。

2)あずさ監査法人ウェブサイト「先進の監査プラットフォーム『KPMG Clara』が提供する監査技術の未来」の動画参照。

3)公認会計士・監査審査会「監査事務所検査結果事例集(令和2事務年度版)」(2020年7月)、116頁。

4)金融庁「『監査基準の改訂に関する意見書』及び『中間監査基準の改訂に関する意見書』の公表について」(2020年11月11日)

5)監査基準のもう一つの改訂事項である「その他の記載内容」については、2022年3月決算に係る財務諸表の監査から実施するとされている。2021年3月決算に係る財務諸表の監査からの早期適用も可能である。

6)日本公認会計士協会 監査基準委員会報告書540「会計上の見積りの監査」も改訂される予定である(日本公認会計士協会 監査基準委員会報告書540「『会計上の見積りの監査』等(公開草案)の公表について」(2020年10月23日)参照)。

7)企業会計基準委員会議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」(2020年4月10日)同追補(2020年5月11日)

8)日本公認会計士協会 監査基準委員会研究資料第1号「『監査上の主要な検討事項』の早期適用事例分析レポート」(2020年10月8日)

9)前掲8)6頁。

10)井口譲二「投資家から見たKAM早期開示と監査役会等の実効性」『月刊監査役』714号(2020年10月25日)、3頁。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
パートナー 公認会計士
和久 友子(わく ともこ)

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