デジタルトランスフォーメーションのいま Part 1

電力業界におけるデジタルトランスフォーメーションの取組みについて、GAFAやBATなどのプラットフォーマーの動きも含め解説します。

電力業界におけるデジタルトランスフォーメーションの取組みについて、GAFAやBATなどのプラットフォーマーの動きも含め解説します。

「デジタルトランスフォーメーションのいま」と題し、生産性向上や業務改善、働き方改革、新規事業開発など、さまざまな分野で活用されるデジタル技術について、2回に分けテーマ別にその取組みや課題について解説します。

新たなビジネスの創出

2020年6月に改正電気事業法が成立し、電⼒データの有効活⽤、配電事業者とアグリゲーターの新設、配電網の独⽴運⽤、電気計量制度の合理化などの制度措置により、電力ビジネスの新たな構想が可能となりました。
電力データの活用は、災害復旧時の自治体への情報提供だけではなく、将来的には電力版情報銀行の設立も想定され、また配電事業への新規参入ではAIやIoTなどのデジタル技術の活用も期待されます。
このような電力業界の取組みは、今後ますます進む人口減少やインフラ劣化など、重大な社会課題への解決策にも応用できる可能性があります。
その1つの例として、地域公益事業の設立が挙げられます。
送電事業者と配電事業者を分離し、配電事業者と自治体が連携して共同企業体を立ち上げ、他のインフラとバンドリングします。配電事業者内の小売りとの間に適切にファイアーウォールを設置すれば、地域公益事業の成立も見込めます。このような地域の公共サービスは、これまでもドイツのシュタットベルケ※1をモデルとして日本でも検討されたことはありますが、地域のネットワークインフラを持っていないことから実現は難しいものでした。しかし、制度改革をきっかけに、このようなイノベーションへの道が開けたと考えることもできます。

電気事業におけるイノベーション

電力業界に限らず今後は異業種間の融合が進むことが考えられますが、電気事業を含む公益事業の機能と役割がどのように変化していくかを考察し、電気事業におけるイノベーションへの示唆を得ます。

1. 競争市場
制度改革により独占市場から競争状態へと変わることで、市場の種類は多様化し、その規模も利害に応じて変化することが予想されます。異業種間融合の典型とも言える、エネルギーとモビリティの複合的なビジネスモデルが模索されると考えられます。

2. ネットワークインフラ
送配電などのネットワークインフラは、依然⾃然独占が残る部分であり、これまでと同様に規制下に置かれると考えられますが、デジタル技術の進化が既存のネットワークを無効化させ、破壊的イノベーションをもたらす可能性があります。しかしその一方で、イノベーションへの投資判断が規制下では難しく、インセンティブ規制などの制度的措置が必要かと思われます。

3. 需要家・顧客
市場の変化の影響を受けて消費者の選択が広がることが予想されます。価格やサービスだけではなく、サブスクリプション、シェアリングなど、所有から利⽤へと消費形態も大きく変わっていくと思われます。このような消費需要のあり方は、AI等のデジタル技術により、今後さらなる⾼度化と多様化が期待されます。

4. 新たなサービスプラットフォームと分散型システム
いわゆるGAFAやBAT※2などに代表される、プラットフォーム型ビジネスの台頭が、公益事業全般に大きく影響することが予想されます。また、従来の資本集約型の設備所有や中央集権型のオペレーションも、アセットの分散化に伴いソフトウエアでオペレーションの最適化を図るビジネスモデルが志向されています。公益事業においても、このようなプラットフォーマーの出現が今後はあるものと見られます。

GAFAやBATなどのプラットフォーマーにとっては、電力など公益事業が所有する「生活に基づくデータ」は魅力的であるため、すでに一部のプラットフォーマーが電気事業者にアプローチを試みている動きもあります。このように、サービスプラットフォームの領域では、今後繰り広げられる展開に注意が必要だと言えます。

※1 シュタットベルケ
ドイツやオランダなどの、主に⾃治体が経営する都市公社。電⼒、ガス、地域熱供給などのエネルギービジネスをコアに、上下⽔道、公共交通、廃棄物処理、公共施設の管理運営、通信といった地域の公共サービス提供を包括的に担っている。

※2  GAFAやBAT
GAFAは、Google、Amazon、Facebook、Appleの、BATは、Baidu(百度)、Alibaba(阿⾥巴巴集団)、Tencent(騰訊)それぞれの略。

※本文中に記載されている会社名・製品名は各社の登録商標または商標です。
※本レポートは、電気新聞 2020年5月25日/2020年6月1日 掲載の記事を一部加筆・修正の上、再編集したものです。この記事の掲載については、日本電気協会新聞部の許諾を得ており、無断での複写・転載は禁じます。

連載後編はこちらから
デジタルトランスフォーメーションのいま Part 2

関連リンク

・電気新聞 (2020年5月25日)テクノロジー&トレンド
デジタルトランスフォーメーションのいま 第1回 法改正とイノベーション
「強靱かつ持続可能な電力システムの構築にはDXが不可欠だ」

・電気新聞 (2020年6月1日)テクノロジー&トレンド
デジタルトランスフォーメーションのいま 第2回 公益事業のイノベーション
「DXは電気事業にどのようなイノベーションをもたらすのか?」

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