気象データ分析によるサスティナブルな経営の実現

台風等の災害や異常気象など企業活動にも大きく関与する気候変動に対し、社会的かつ経済合理性を創出するための変革とは何か考察します。

台風等の災害や異常気象など企業活動にも大きく関与する気候変動に対し、社会的かつ経済合理性を創出するための変革とは何か考察します。

求められる気候変動や気象リスクへの実効的な対応

近年、猛暑や暖冬等の異常気象、大型台風や局地的豪雨等による気象災害が増加しており、気象が社会や経済に与える影響はますます高まってきています。企業の事業活動においても、異常気象による在庫の滞留やロス、災害によるビジネスインフラや重要資産の棄損などのさまざまな実害が生じており、BCP等のリスク対応体制の見直しはもちろん、日々のビジネスオペレーション等においても、気象リスクを加味して将来の見通しを立てて対応していくことが重要になってきています。
また、国連の「気候変動に関する政府間パネル」では、 “人為起源による地球温暖化に伴う気候変動による将来の一層深刻な影響”として、洪水や水不足の影響、人口の増加、植物の喪失と穀物価格の高騰、経済・GDPの下押しが取り上げられるなど、社会、経済活動において深刻なリスクが懸念されています。このような背景もあり、近年では2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)を皮切りに、温室効果ガスの削減を目指すパリ協定や欧州気候法案、企業の気候変動リスクの開示促進のためのTCFDなど、国際的に持続可能性を巡るさまざまな取組みが加速しています。また、企業においても、KPMGのグローバル調査レポート(グローバルCEO調査2019)では、経営者が考える企業経営における重大リスクとして、「環境/気候変動」がグローバル全体でも日本においても最も多く挙げられており、気候変動や付随する気象リスクへの対応は、企業がサスティナブルな経営を実現していくためには対応不可欠なテーマになっていると言えます。

企業における対応のポイント

企業が気候変動や社会課題に対して、一過性ではなく、真に取組みを継続し続けていくためには、社会課題の解決と同時に経済合理性を創出していくことが非常に重要になります。そのためには、揺るがない経営理念や長期的な経営ビジョンは勿論のこと、既存の枠組みを超えたイノベーションを創発していくことも求められます。例えば、国連開発計画(UNDP)によると、気候変動とも関連性の高いSDGsの目標を達成するためには、世界で年間5~7兆ドルの投資が必要と言われている一方、SDGsの達成による労働生産性の向上や環境負荷軽減等を通じて2030年までに年間12兆ドルの新たな市場機会が生まれうると言われています。社会課題の解決とともに、このような新たな市場機会を獲得していくためにも、企業は場合によっては自らの存在意義も再定義しながら、イノベーションを継続的に創発していかなければなりません。

気象データを活用したイノベーション

イノベーション創出のための手段としては、テクノロジーやビッグデータの活用が挙げられますが、気候変動や気象リスクへの対応においても気象データの活用が有効となります。気象データは、産業やビジネスを問わず影響を及ぼすものと言われている一方で、欧米と比較して日本では活用が遅れていますが、さまざまな業界知見やテクノロジーと掛け合わせることにより、ビジネスにとって重要なインサイトとして主に、(1)災害リスクの予測、(2)ビジネス影響の予測、(3)長期的な変化の予測を得ることが可能になります。

リスクの予測と想定される影響への対応例

災害リスクの予測

気象予測データと、地理データや過去の災害情報等を掛け合わせて分析することより、気象災害だけでなくその先にある損失や事故等のリスクを見通すことが可能。
ビジネス影響の予測 気象予測データと、各社や業界のビジネストランザクションデータ等を掛け合わせて分析することにより、気象に応じた商品やサービスの需要変化や、エネルギーや農作物等の生産量、その先にある企業業績等への影響を見通すことが可能。
長期的な変化の予測 各国の研究機関等による気候変動の予測データをさまざまなデータと掛け合わせて分析することにより、将来の気候変動によって生じる自社のビジネス環境やインフラ等へ及ぼす影響を見通すことが可能。

イノベーション実現に向けて

KPMGは、日本気象協会との協業により、企業の気候変動に対する「緩和」、リスクの軽減を目指す「適応」の両方に向けたビジネスプランやモデルの変革、リスク管理体制の高度化などをはじめ、幅広いコンサルティングサービスの提供を行っています。
あらゆるインダストリーを横断し、サービスの展開と拡充を進め、各社の企業価値の向上を支援するとともに、それらの支援を通じて気候変動を中心とした社会課題の解決に寄与します。

執筆者

KPMGコンサルティング
ディレクター 関 憲太

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