HowではなくWhyを問え「問題を定義する力」を身につける方法

コロナ禍による社会や経済の混乱よって、これまであたり前であったことの再定義や、新たな価値創造への渇望が世界中で広がっています。 このような状況は、バブル経済以降、伸び悩んできた日本企業にとっても大きな転機となり得るものであり、「災い転じて福」とせねばならない機会でもあります。

HowではなくWhyを問え「問題を定義する力」を身につける方法 Forbes Japan Onlineに記事が掲載されました。

私たちはいま、よく知る「穏やかな海」へと引き返すのではなく、「海図なき航海」へと旅立つ勇気を持てるかどうかを試されているのではないでしょうか。勇気を持てなければ、日本企業の浮揚を今後望むのは難しいでしょう。

では、そのような「海図なき航海」において、企業という船を牽引するのはどのような人材でしょうか。私は「本質的な問題定義ができる人」こそが、企業を新世界へと導くはずだと考えます。

ビジネスはWinner Takes Allの時代に

足元のビジネス環境を見渡せば、GAFAに象徴されるように、「Winner Takes All(勝者が全て取る)」という状況です。

これは、ネットワークの発達によって、さまざまな情報が高速で行き交い、豊富な知識が提供されるようになったことが主因でしょう。

ネットワークの発達は、消費者と企業、企業と企業の間の情報格差を縮めました。消費者は製品やサービスについて情報共有できるようになり、企業も顧客の情報を容易に取得することができるようになったのです。

消費者から高い評価を得た製品やサービスの情報は、ネットワークを通じて瞬く間に他の多くの消費者へも伝わり、売り上げトップの企業は2位以下に大きく先行する事態が生まれました。ネットワークが未発達だった時のように、業界トップ集団から下位企業までが同じような事業規模を擁して均衡する市場環境は徐々に減りつつあります。

例えば、映画、ゲーム、書籍などのエンターテインメントコンテンツでは、ランキング1位のコンテンツとそれ以外のコンテンツは、質的な差を遥かに上回る売上げの差になることがあります。

この、「Winner Takes All」は、ネットワークをインフラとしたデジタル要素の強い産業であればあるほど起こりやすいものです。さらに「Winner」は、顧客を集めた上で、その強い交渉力を活かして、より競争力のある提示を顧客にすることで、市場における優位性をますます高めることができるのです。

以前は、企業間の生産性の差は小さく、横並びで「他社と同じであること」に価値がありました。ですから、人材に関しても、自ずと一定の均質性が要求されていたのです。

しかし、Winner Takes Allの時代には、「Winner」がその技術的優位性と機動力によって、異分野へのディスラプティブ(破壊的)な変化を起こすことが可能です。

このような時代に重要なのは、「どうやるか(How)」よりも、「なぜ(why)を問うこと」であると言われています。

「なぜ(why)を問う」とは、その企業が何を信じて、何のために存在しているのか、その企業が提供する商品やサービスが人々の生活をいかに豊かにしているのか、つまり、企業の目的や存在意義を問うことによって、その世界観を修練していくことだと言えるでしょう。

「なぜ(why)を問うこと」の重要性には、多くの人が賛同するはずです。それは、今日の社会が、これまで経験したことのないスピードで変容し、人間や企業が常に新たな環境に適応することを求められる状況になっているからです。

「なぜ(why)を問うこと」は、定量的であると同時に定性的な作業です。数字から見える企業の現状と、あらゆるステークホルダーから見える企業のイメージを客観的に整理し、企業が抱える「問題を定義する」ことによって、企業の「なぜ(why)」を導き出すことができます。

そして、導き出された「なぜ(why)」が、企業の社員やその他のステークホルダーの主観に響き、共感の輪が生まれていくのです。

私は、この一連の「なぜ(why)を問う」プロセスの中でも、特に「問題を定義する」ことにその核心があると考えています。それは、私が経験したAI開発のなかで学んだものです。

「問題を定義する」ことの重要性

近年のAIブームは「第3世代AI」と呼ばれています。私は1990年代初頭に、手書き日本語文字認識のアルゴリズム開発をしていたので、いわゆる第2世代AIに関わっていました。当時はまだルールベース(人が決めたルールに従って処理する)で文字認識辞書を作成しており、今のような深層学習の手法が産み出される前でした。

第2世代と第3世代の間には、20年近く「冬の時代」があり、当時はAIの研究や開発のための人材や予算の確保が容易ではありませんでした。その結果、自社内でAI人材を育成できた企業は稀であり、経営陣に至っては、AIに関する経験やリテラシーを有しているメンバーがいる企業は皆無と言っていいほどになってしまいました。

現在、経営トップがAIを使用した施策を企画することが少なくありません。しかし、経営トップは、AIの知見が少ない経営陣よりも、デジタル人材層に近い経営戦略や経営企画を担う次世代のリーダーに「当社もAIでなにかして欲しい」と指示を出します。

そのような指示を出されたリーダーは、なぜAIを使いたいのか、何のためにAIを使うのか、その課題は本当にAIで解決すべきか、AIを適用する前にしておくべきアクションはないかなど、「経営的な問い」を持つことになります。

そして、さらにその問いを深めていくと、この会社は一体何になりたいのかという「企業の自分探し」、ひいては「なぜ(why)を問うこと」に行き着くことになります。

この問いへの答えを出すために、定量・定性の両面で企業を考察するのですが、それだけでは隣人と同じ答えを出せるだけです。答えに至るプロセスが論理的であればあるほど、誰でも同じ答えに至るのは当然のことです。

ですから、大切なのは、直感的で感性豊かな創造力を加えること。そうすることで、「問題を定義する」ことが可能となり、「なぜ(why)」に対する、ユニークで本質的な答えが導き出せるのです。

では、直感的で感性豊かな創造力はどのように養われるのでしょうか。私はこれまでの経験から、次の3つの行動が重要だと考えています。

1つ目は、歴史を学び、起こり得る事を類推すること。2つ目は、物事の本質を見抜く努力を絶やさず、本質の先を行く進化系を創造するよう努めること。最後は、発想が独善に陥らないように律し、根源的な価値を常に求めることです。

私たちを取り巻く環境は、デジタルの進展によってさらにスピードを増して、変化していきます。今後、このような本質的な問題定義をできる能力は、企業人としての重要な資質としてより注目されていくはずです。

皆さんも、私とともに3つの行動を日々の習慣としてみてはいかがでしょうか。

 

※この記事は、「2020年10月12日掲載 Forbes JAPAN Online」に掲載されたものです。この記事の掲載については、Forbes Japanの許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

茶谷 公之

KPMG Ignition Tokyo代表取締役社長兼CEO/KPMG Japan CDO

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