世界的なエネルギートランスフォーメーション 崩壊する従来のビジネスモデルと新たなエネルギーの世界

低炭素な未来へのトランスフォーメーションを議論したKPMG Global Energy Transformation Conference 2019の基調講演やパネルディスカッション、分科会の内容を要約しました。

KPMG Global Energy Transformation Conference 2019の基調講演やパネルディスカッション、分科会の内容を要約しました。

2019年11月に開催されたKPMG Global Energy Transformation Conferenceは、2つの全体会合、3つの基調講演、6つの分科会からなり、世界27カ国から246名が参加しました。

同カンファレンスにおいて、エネルギートランジションに関する基調講演を行ったJean Jouzel氏は、地球が人間の活動によって温暖化していることを指摘し、世界の気温上昇を最小限に抑えることの必要性を説きました。Jean Jouzel氏の考察としては、現在の産業、建設、運輸等の活動は、今世紀末までに4~5度の温暖化に繋がる可能性が高く、これは、海面の上昇と海水の酸性化、極端な天候、生物多様性の喪失およびエコシステムの汚染等を引き起こすと予想しています。また、水と食料の不安定さにより、低所得人口の間で気候変動難民が生じる可能性が高まります。このままでは従来通りの事業が継続不可能と指摘しています。

さらには、ほとんどの国において、パリ協定におけるコミットメント達成のための計画が予定通り進んでおらず、炭素排出量は増え続けていますが、気温の上昇幅を摂氏2度前後に抑制するには、炭素排出量を400億トン以下に維持し、2020年から2030年にかけての上昇幅を摂氏1.5度にする必要があります。これはJouzel氏によれば、化石燃料の使用を埋蔵量の20%未満に抑えることで達成可能となります。そして、そのためには、金融業界は摂氏2度の目標と両立可能な形で事業を行っている産業に投資すること、エネルギー効率にさらに重点を置くこと、炭素回収・貯留が未整備の化石燃料発電を売却し、原子力発電と再生可能エネルギー発電をより重視することが必要となり、エネルギーはまさに低炭素社会への移行の成否の核心にあると説いています。

ポイント

  • 世界の経済活動の成長を持続させ、人々を貧困から救うために、我々はより多くのエネルギーを必要とするが、企業や政府は協働してより少ない炭素排出量でそれを行わなければならない。
  • 消費者にとって重要なことは電気が確実に通っていることである。最近は気候関連事象が深刻さと頻度を増し、また発電システムも高度に複雑性や脆弱性が増しているため、システムの安定性と速やかな復旧を担保できるよう、エネルギーシステムのレジリエンスをより強化する必要性が高まっている。
  • エネルギー企業が低炭素の未来に向けビジネスモデルを転換するなか、従業員や組織文化も企業のビジョンに合致するよう劇的に変化することが求められる。

パネル1:エネルギー業界における事業変革のための戦略

本パネルディスカッションでは、企業や政府に所属する多様なパネリストが、所属組織のエネルギートランジションへのアプローチや、高い脱炭素化目標を達成するために必要とされる要素を議論しました。

例えば、パネリストとして参加したBP InternationalのVice PresidentであるGardiner Hill氏は、エネルギートランジションには二元的な課題があると述べました。すなわち、経済活動を成長させ、人々を貧困から救うには多くのエネルギーが必要であるものの、それは炭素排出量を削減させながら行われなければなりません。同社が2018年に導入したAdvancing the Energy Transitionという枠組みは、エネルギー需要を賄うための事業を拡大する一方で、2015年から2025年にかけてのネット炭素排出量の増加をゼロにするという目標も含んでいます。また同社は、英国内での急速充電ステーションの設置計画や中国でのEV車両向けインフラの構築等を通して再生可能エネルギー事業や低炭素事業の拡大にもコミットしています。さらにHill氏は、社会や政府が低炭素化の目標を達成するには、行動を起こす意欲のある政府と、新しい低炭素製品を購入、使用する意欲のある社会、およびそれらを提供する意欲のある産業界の大連立が必要になるだろう、と指摘しました。

分科会:レジリエンスの構築 - 起こり得ることの技術と科学

本分科会では、政策立案者や企業のリーダーが、エネルギー業界におけるレジリエンスの意味と、その構築のために必要な費用と基準を議論しました。

最近は熱帯暴風雨から山火事にいたるまで気候関連事象が深刻さと頻度を増し、世界のエネルギーシステムのレジリエンスをより強化する必要性が高まっています。英国の規制当局OFGEMのNolan氏は、レジリエンスは、システムが過酷な天候やサイバー攻撃等の衝撃に見舞われた時に、社会の信頼と自信を維持すべく、システムが安定していること、そして速やかに復旧できることを担保することであると述べました。さらに、国連のOffice for Disaster Risk Reductionに所属するPanda氏は、レジリエンスは復旧だけを意味するものではなく、サービスの中断を最小化し、個人によるサービスへのアクセスを最大化するためのトランスフォーメーションを意味すると説明しました。

また、発電事業が新たなプレーヤー(太陽光発電事業者やエネルギー貯蔵システム等)に広がるにつれ、新たなリスクや課題が出現しています。消費の予測、ネットワークの最適化および再生可能エネルギーの統合はすべてレジリエンスをサポートするものですが、いずれもデータを必要とするため、レジリエンスを向上させるには必然的にデータネットワーク自体のレジリエンスを高めなければならないとde Moissac氏は述べています。

Panda氏によれば、レジリエンス構築には何十億もの投資が必要なことは明白であるものの、行動しないことのコストは過小評価されているといいます。しかし、Nolan氏によれば一部の政府は、ブラックスタートに係る基準等のように、合理的な基準を設定する努力を行っています。こうした新たなレジリエンス基準は、新たなプレーヤーや、より信頼性の高いより多くのデータに基づいた新たな分析を創出するはずであると考えられます。Panda氏によれば、グローバルなリスクモデルはまだ十分に発達しておらず、レジリエンス構築の費用対効果分析も全世界で一律に適用することは不可能です。一方で、各種の事象はますます国境を越えて影響を及ぼし得る規模に拡大しており、このことは、将来どのように投資が行われるかに影響を与えています。

パネル 2:再生可能エネルギー投資の次の対象はどこか

本パネルディスカッションでは、エネルギーのプロバイダーやディベロッパーが注目する新たなテクノロジーや市場について議論が交わされました。

パネリストとして参加したPioneer Point Partners のCEOであるShaw氏は、同社は風力および太陽光以外のテクノロジーを模索しており、グリーンガスが成長分野の1つであると説明しました。生分解性素材を利用した燃料の生産は、農業を重要産業とする国々で関心が高く、同社はデンマークで農業廃棄物や食料廃棄物を原料とする世界最大のバイオメタン生産者に投資しています。

新たな市場に関しては、英国の電力・ガス供給網を運営するNational Gridが北米に大きなオポチュニティを見出しています。すでに米国北東部で送電サービスを運営していた同社は、米国ミネアポリスを拠点とする風力・太陽光発電のディベロッパーであるGeronimo Energyの買収を通じて、2019年に再生可能エネルギーへの第一歩を踏み出しました。Geronimoには、中西部回廊に加え、そこから南部と東部に広がる地域にも風力発電プロジェクトのパイプラインがあり、南部と東部では太陽光発電のオポチュニティもあります。同社はさらに、再生可能エネルギーで野心的な目標を設定しているニューヨークを含め、米国北東部での洋上風力発電を検討しています。

一方で、RWE Climate & RenewablesのDirectorであるSchwarzlose氏は、再生可能エネルギーの有力プレーヤーであり続けるには、規模が重要な要素になりつつあると述べました。規模の拡大には、既存の欧州や米国市場以外に展開する必要があるとし、同社は詳細な現地調査を経て日本、豪州、メキシコおよびチリに参入しています。

基調講演:エネルギートランジションにおける水素の役割

Air Liquide GroupのHydrogen Energy World Business LineのVice PresidentであるPierre-Etienne Franc氏は、エネルギートランジションにおける水素の役割に関する基調講演の中で、水素テクノロジーは、世界のエネルギー需要を賄いながら、より速やかに炭素排出量を削減するための決定的に重要なソリューションの1つであると述べました。

水素は軽く、豊富で、貯蔵や輸送が容易であり、汎用性があります。彼が提唱するエネルギートランジションにおける水素の7つの役割は以下の通りです。

  1. 大規模な再生可能エネルギーの統合と発電を可能にする。
  2. さまざまな産業や地域にエネルギーを供給する。
  3. バッファーとして機能し、システムのレジリエンスを高める。
  4. 輸送セクターを脱炭素化する。
  5. 産業界によるエネルギー使用を脱炭素化する。
  6. 建物の暖房と電力を脱炭素化する。
  7. 回収された炭素が供給原料となる。

すべての業界が脱炭素化したシナリオでは、水素は推定78エクサジュールまたは2050年までの世界の需要の18%に対応できる可能性があります。

Franc氏によれば、水素テクノロジーの規模の拡大はコスト低減をもたらし、明確な規制の枠組みはさらなる規模の拡大を促します。また、エネルギートランジションの緊急性と投資先としての水素の可能性に対する関心は、必要な規制の推進に役立つと予想されます。

朝食会セッション:エネルギートランジションにおける若者の役割

若い世代が企業や政府で昇進するにつれ、彼らがエネルギー政策や気候のための行動に与える影響は増大していくと予想されます。World Economic ForumがGlobal Shapers Communityの20歳から35歳のメンバーに行った調査の結果によると、若者の約70%が世界のエネルギートランジションが停滞しているか、遅すぎると考えています。また90%は自国がエネルギートランジションに備えて計画することが重要であると考えています。セッションの中でWorld Economic ForumのSingh氏は、若者を全面的に巻き込むために、エネルギートランジションの遅さに対する彼らの不満を利用することができると述べました。

また、若者が投票年齢に達し、若い政治家が増えるにつれ、気候政策への注目は高まる一方だろうとパネリストたちは述べました。ENGINEのエネルギートレーダーであるRisse氏は、コモディティとしてのエネルギーをより深く理解したいと考えている若い人々の関与に希望を感じていると述べ、若い友人や同僚に業界に加わり、さらに深くエネルギートランジションに参加することを勧めています。Risse氏は、キャリアの中でいくつかのテーマや文化を探求したい人々にとって、欧州のエネルギー業界は非常に魅力的な業界であると述べています。またSingh氏も、単に金銭を追うのではなく、目的意識に基づいて雇用主を選ぶ若者が増えるだろうと指摘しています。目的に基づくキャリア探しは大きなトレンドであり、エネルギー業界は今後ますますそうなることが予想されます。
 

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