企業のESGコミットメントと監査委員会 - それは本当なのか、証明せよ

企業のESGコミットメントは本物か。その証明を求めるステークホルダーに応えるために、監査委員会と監査人は何を対話すべきなのか

企業のESGコミットメントは本物か。その証明を求めるステークホルダーに応えるために、監査委員会と監査人は何を対話すべきなのか

企業のESGコミットメントは本物か。それを「証明せよ」というステークホルダーの要求に応える鍵は、ESG情報の保証です。そこで重要な役割を担う企業の監査委員会と監査人は、何を対話すべきなのでしょうか。(本稿は、米国KPMGのパートナー Maura Hodgeが、AccountingToday.comに寄稿したコラムを翻訳したものです)

2019年、米国のビジネスラウンドテーブルは、企業のパーパス(存在意義)を拡大し、株主だけでなく、顧客、従業員、地域社会などのステークホルダーに焦点を当てました。

2020年の新型コロナウイルスの感染拡大は、気候変動へのコミットメントの加速と並行し、企業の多くのステークホルダーを支援するための多大な努力とコミットメントを生み出しました。

この夏、ジョージ・フロイド氏をはじめとする多くの黒人市民の死と、それに関連して世界中で巻き起こった抗議行動を受けて、多くの企業が寄付を行うとともに、ダイバーシティとインクルージョンへの取組みについての声明を発表しました。

これらの行動に対しては、いつも同じ要求が付きまとってきました - ""それは本当なのか、証明せよ""と。

ソーシャル・ウォッシング(企業が実際よりも社会的責任を負っているかのように見せる発言)は、単なる口コミなどを介したPRリスクのように思えるかもしれません。しかし、投資家、顧客、従業員は、企業に対して、より戦略的でインパクト(結果)を伴う、測定可能なESGの方針を策定するよう要求を強めています。そして、そうした要請への対応は不可避となりつつあります。

いま、議論すべき課題は、資本コスト(だけ)ではなく資本へのアクセスです。BlackRock や State Street などの大手機関投資家は、企業が ESG へのコミットメントについての説明責任を果たすよう、強力に促しています。実際に、投資家によるESGファンドへの資金投入額は過去最高を記録し、今年4月から6月だけで710億ドルが流入しました。人材や顧客も、自らの行動や自らの財布を使って、意思表示をしています。

監査委員会(公開企業、非公開企業の財務報告を監督する独立機関)は、これらすべてのステークホルダーの要求に応えるために重要な役割を担っています。つまり、監査委員会は、「それが本当なのか、証明せよ」という問いに適切に答える必要があるのです。

監査委員会が、「それが本当なのかを証明する」ために必要な保証を提供するにあたって、役割を果たすのが監査人です。

しかし、そもそも「それ」とは何であり、「証明」とは何なのでしょうか。監査委員会がESGに直接的な責任を有するか否かに関わらず、監査人が監査委員会に問いかけるべき5つの問いを挙げてみます。
 

質問1:どのようなESGトピックを測定し、報告していますか?そして、それはなぜですか?

監査委員会が企業のESG戦略を決定するわけではありませんが、ステークホルダーが抱える優先課題と企業のマテリアルなESGトピック、そして最も大切なこととして、この2つがどこで交差するのかを理解しておく必要があります。このマッピングを行うことで、イニシアチブやレポーティングに関する戦略上の意思決定をより焦点を絞ったものにすることができます。最終的には、現状(企業が何をしているか)と将来(企業が何をしようとしているか)の両方を反映した報告書を作成しなければならず、そこで報告するメトリクスは、イニシアチブの有効性を示す証拠となります。

質問2:ESGに関する報告をどこで公表していますか?

報告書のスタイルが異なれば、その厳格さも異なります。消費者向けのウェブサイトに掲載されているキャッチーなインフォグラフィック、詳細を含むPDF、株主総会資料、投資家向けの年次報告(10-K)などで公表しているでしょうか。企業全体のESG戦略や財務上のマテリアリティの観点でのデータの重要度は、そのデータが関連付けられる規制やリスクのレベルと一致していなければなりません。報告の手法は、それら全体を考慮して決定されるべきでしょう。同様に、10-Kに含まれるESG情報は、従来の財務メトリクスと同様の厳格さをもってモニタリングされるべきです。監査委員会は、特にステークホルダーからの要求が急速に高まる中で、それぞれのメトリクスについて、報告戦略ごとにリスクを考慮すべきです。

質問3:収集・報告されるデータに対して、どのようなプロセスとコントロールが存在していますか?

特にグローバルで複数のラインを持つビジネスでは、データ収集が困難になることがあります。例えば、現在、多くの企業が温室効果ガスの排出量を報告していますが、それについては、温室効果ガス(GHG)プロトコルが、ほぼすべての投資家グループが認識する明確な基準を示しています。

しかし、単に温室効果ガスの排出量を追跡するといっても、各オフィス、事業部、地域、ビジネスラインにおいて、測定基準、報告方法、頻度などを一致させておく必要があります。さらに、データ収集をモニタリングする人員は、データに精通し、かつ温室効果ガスの報告に関する知識を有している必要があります。監査委員会は、そこで実装されている手順やコントロールを理解するために、積極的に質問すべきです。

質問4:ESGメトリクスについて保証を受けていますか?

何が保証されているのか、誰が保証しているのか、保証の価値は何なのかを把握しているでしょうか。ESGの保証には、画一的なアプローチがまだありません。業種ごと、また企業ごとに異なる道のりになるでしょうが、株主や顧客など、高い期待を寄せるステークホルダーや、保証が必須になった場合の対応期限のプレッシャーに直面して、選択の余地がなくなる前に、今できるところから着手しておくことが大切です。上述の通り、炭素(などの温室効果ガス)に関しては、広く利用されているスタンダードが存在するため、最初に着手する領域としては一般的であり、推奨できます。

しかし、取組みが前進するにつれて、監査委員会は、どのメトリクスが保証に値するかを理解できるようになるでしょう。例えば、小売企業の顧客は、報告書に関する保証を求めているかもしれませんし、消費財企業の株主は、グリーンボンドの資金使途についての保証を求めているかもしれません。最終的に、監査委員会は、どこまで取組みを進めるべきかを判断できるようになり、企業の社会的責任に関するレポートの完全な保証に向けて取り組むことも可能となるでしょう。

質問5:ESGに取り組む際に、監査委員会として、価値創造や競合他社についてどのように考えるべきでしょうか?

監査委員会は、一歩引いた視点で状況を理解すべきです。競合他社は、測定と報告においてどのような違いがあるのか。企業が積極的に準備しておくべき規制要件は何なのか。

このような状況を包括的に理解し、ESG情報の保証に戦略的投資を行うことは、ステークホルダーの要求に応えるだけでなく、組織の視野を広げ、ビジネスモデルに対する新たなリスクや成長と変革の機会を明らかにすることにもつながります。これこそが、ESGメトリクスの測定と報告を高度化させてくれる真の価値だと言えます。

データ駆動型のESGの視点は、概念的なテールリスクをより現実に捉え、企業戦略に実践的に反映することを可能にするでしょう。例えば、気候変動に対する投資ポートフォリオのエクスポージャーや、非人道的な労働慣行に対するサプライチェーンリスク、さらには、それらの問題に取り組むための企業独自のアクションを理解し、定量化することで、経営陣はその進捗状況を把握し、戦略をより適切に調整することができるようになります。これにより、企業が長期的な財務サステナビリティとすべてのステークホルダーに対する価値創造を推進する上で、監査委員会の影響力を高めることができます。

ESGに関する戦略と報告は、まさに企業にとっては差別化の機会となります。企業がESGの旅路のどこにいるかに関わらず、目標や方針を策定する段階であっても、評価基準の高度化や報告の信頼性の向上に取り組む段階であっても、イノベーションを推進する段階であっても、ESG課題への適切な取組みは、企業の中核となる事業活動に組み込まれた長期的な戦略でなければなりません。

執筆者

KPMGジャパン
コーポレートガバナンスCoE

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