IFRS財団は、サステナビリティ報告基準の設定主体となるべきか – 意見募集始まる

IFRS財団は、国際サステナビリティ基準審議会(SSB)を設立し、IASBと共に、企業報告の質向上と効率化を率いるべきか。

IFRS財団は、国際サステナビリティ基準審議会(SSB)を設立し、IASBと共に、企業報告の質向上と効率化を率いるべきか。

2020年9月30日、IFRS財団トラスティが協議文書「Consultation Paper on Sustainability Reporting」を公表し、パブリックコンサルテーションを通して、国際的なサステナビリティ報告基準の設定に対するデマンドを見極め、そこで高いデマンドが認められた場合に、IFRS財団がその基準設定にいかに貢献するかを評価していくことを明らかにしました。(注:本稿におけるサステナビリティとは、社会や環境等に限らず、事業の持続可能性、および、そのアウトカムやインパクトを通じた社会の持続可能性に関わる事象を含む概念として広義に捉えています。)

協議文書の背景

IFRS財団トラスティは、国際会計基準審議会(IASB)を傘下に持つIFRS財団の監督機関であり、財団の戦略的方向性の決定の役割を担う組織です。近年、ESG要素が企業に及ぼす影響についての認識が高まり、財務報告と同等の一貫性と比較可能性を有するグローバルなサステナビリティ報告基準を求める声が高まっていました。

IFRS財団は、グローバルで一貫したサステナビリティ報告が求められる背景として、フォーカスの異なる様々なサステナビリティ報告関連基準の乱立により、企業が非効率を強いられていることや、企業と情報利用者の双方から、信頼性の構築に足る報告が必要とされていること、気候変動などに関するイニシアチブの進展を後押しするための比較可能性が企業報告に求められていることなどを挙げています。また、このような現状の解決は、急務であるとも述べています。

IFRS財団は、既に、財務報告の領域において、透明性、アカウンタビリティ、効率性をもたらす国際財務報告基準(IFRS)を策定してきました。それゆえに、そこで培われた専門性や経験、そして透明性の高い基準設定プロセスが、信頼性の高いサステナビリティ報告基準の策定においても有用だとして、IFRS財団に、その役割を担う(IASBとは別の)新たなボードを設定すべきとの提言もされていました※1。今回の協議文書の公表は、このような声を受けたものと考えられます。

これに対し、IFRS財団は、現状の組織構造を維持したままでの貢献や、サステナビリティ報告基準の調和を図るために既存のイニシアチブをファシリテートすることも考えられたものの、サステナビリティ報告をめぐる状況の改善には、サステナビリティ基準の審議会を新たに設置し、既存のイニシアチブと協働しつつ、それらが構築した成果物をベースとする基準の設定主体となることが、最適なオプションであるとの考えを示しました。したがって、今回のコンサルテーションは、IFRS財団がサステナビリティ基準の審議会を新たに設置するオプションについて、意見募集を行う内容となっています。


 ※1IFRS財団に求める役割について言及した報告書等として、以下が挙げられます。

協議文書の概要

サステナビリティ基準の審議会の設置に向けたステップとして、まずはIFRS財団トラスティ-の承認を得て、IFRS財団の傘下に、新たなサステナビリティ基準審議会(Sustainability Standard Board、 以下、SSB)を設置し、SSBにおいて、グローバルなサステナビリティ基準を策定していくことを提案しています。その中でも、まずは気候変動に関連する基準の設定から着手することを想定していると述べています。

また、IFRS財団がSSBを設置するベネフィットとして、次のことを挙げています。

  • IFRS財団のガバナンス構造のもとにSSBを設置することで、財務報告との首尾一貫性と相互関連性を有するサステナビリティ報告のフレームワークを提供し、投資家や財務報告の利用者に寄与する
  • SSBがIASBと対を成す形で運営されることにより、サステナビリティ報告と財務報告の相互関連性の高まりに効果的に対応できる(サステナビリティ報告において、高質かつ一貫した測定と開示基準を設定する際には、会計士の知見は必要不可欠だと考えられる)
  • 単一組織が財務報告とサステナビリティ報告の双方の基準を策定することにより、特にリサーチ分野におけるシナジー効果が期待でき、複雑性が大幅に低減できるため、ステークホルダーにもベネフィットをもたらすことができる

これらの構想を実現するために不可欠な要素として、規制当局、投資家や企業を含む市場関係者からのグローバルなサポートを挙げています。それに加え、2020年9月にグローバルな非財務報告に使用されるメトリクス一式を策定するための協働に向けた共同声明を公表した5団体(CDP、 CDSB、 GRI、 IIRC、 SASB)やTCFD等の専門組織の成果物や知識ベースの上に成り立つ仕組みとすることが大切だとしています。

マテリアリティの概念をどう捉えるかについても、協議文書は言及しています。ここでは、主に投資家の意思決定に関連性が高く、企業に重大な影響を及ぼすサステナビリティ情報だけでなく、企業自体が環境や社会に及ぼす影響の双方を報告すべきであるとする”ダブル・マテリアリティ”の考え方があることをふまえつつも、その複雑性が基準策定プロセスに遅れを生じさせる懸念を鑑み、SSBは、まずは投資家の意思決定に関連性の高いサステナビリティ情報にフォーカスし、徐々により包括的な情報へと範囲を広げることを提案しています。

今後の動き

今回の協議文書からは、IFRS財団が、財務報告を補完し、また財務報告と一体となったサステナビリティ報告のための基準設定が急務であると考えていることが伺えます。2021年には、財務報告とサステナビリティ報告が一体となった場合の共通項として、経営者が長期的な企業価値向上に向けた戦略やビジネスモデルを記述することが考えられるIFRS実務記述書、いわゆるマネジメントコメンタリー(Management Commentary)の改訂も予定されています。企業報告の未来に大きく影響する動きとして、非財務情報の観点からも、今後のIFRS財団の動向は注視しておきたいものです。

IFRS財団は、本協議文書に対するコメントを2020年12月31日まで受け付け、寄せられたコメントを受けて、今後の方針を検討していく方針です。

執筆者

KPMGジャパン
コーポレートガバナンスCoE

お問合せ