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COVID-19が加速させる非財務情報報告を巡る世界の動き

COVID-19が加速させる非財務情報報告を巡る世界の動き

統一化された非財務情報の報告を可能にするために、主要な機関がグローバルレベルでの議論を加速させています。本稿では、国際統合報告評議会、世界経済フォーラム、Accountancy Europeの動きをご紹介します。

髙橋 範江

KPMGジャパン コーポレートガバナンスCoE パートナー

あずさ監査法人

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近年、気候変動リスクに代表される非財務情報の報告に対し、企業や投資家等の間で注目が集まっています。新型コロナウイルス感染症(以下「COVID-19」という)による世界的なパンデミックの発生により、多くの企業、投資家、従業員などが影響を受け、平時におけるリスクマネジメントの在り方を見直す必要性に迫られることになりました。たとえば、気候変動は中長期的に企業のビジネスモデル、戦略、業績や持続可能性に影響を及ぼすのに対して、想定外のパンデミックは短期間で業績や存続を左右する事実が明らかになっています。
つまりCOVID-19は、ひとつの非財務的事項が、企業の財務や持続可能性に及ぼす影響の大きさを明確に知らしめたとも言えます。企業は、COVID-19の短中長期的なビジネスへのインパクトを分析するだけでなく、COVID-19以外のビジネスリスクや戦略との関連性も踏まえて検討し、わかりやすくステークホルダーに伝えていく必要性が一層高まってきています。
その一方で、数百にものぼる非財務報告に係る基準・フレームワークやメトリックスは、作成企業や利用者に混乱をもたらしています。この課題を解決し、財務情報との繋がりを重視し、統一化された非財務情報の報告を可能にするために、主要な機関がグローバルレベルでの議論を加速させています。
本稿においては、この動きの一部をご紹介します。なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 環境・社会・知的資産等の非財務的な事項は、短中長期的に企業の財務的価値や持続可能性に影響を及ぼすため、財務情報と整合性のとれた非財務情報の報告のあり方は企業にとっての課題である。
  • 非財務情報については、基準、フレームワークやメトリックスが乱立し、企業と利用者の双方に混乱をもたらしている。こうした課題を解決するために、より財務情報との関連性を高め、適合した非財務情報の報告をめざして多くの機関が協調を模索する動きを見せている。
  • 本稿においては、国際統合報告評議会、世界経済フォーラム、Accountancy Europeの動きを紹介する。

I. COVID-19が加速させる財務情報とより統合された非財務情報の報告の必要性

企業活動のグローバル化や地球環境に対する懸念の高まりなどを背景に、気候変動や人権問題等の環境・社会における事項や、知的資産等のインタンジブルズなど、非財務情報に関する報告は、企業や投資家はもちろん、市場にかかわる多くの関係者等から注視されるようになりました。非財務的な事項が、中長期的に企業のビジネスモデル、業績や持続可能性に影響を及ぼすという認識が浸透するにつれ、投資家を始めとするステークホルダーは、企業の経営者が環境・社会・インタンジブルズ等の非財務的な事項をどのように捉え、管理しているかを理解し、その意思決定に資する報告を期待し、その内容に高い関心を寄せるようになりました。
このような背景の中で、COVID-19による世界規模のパンデミックは、短期間で多くの企業の流通、収益、ビジネス形態、雇用等に多大な影響を及ぼし、業績のみならず、場合によっては持続可能性をも脅かすことになりました。また、このパンデミックの収束が不透明な中、第2波・第3波への懸念も示されており、今後とも企業は生き残りをかけて、中長期的に臨機応変な対応を求められています。そして、企業のステークホルダーである従業員、仕入業者、顧客、投資家等の資金の出し手等にも、それぞれに異なる様相の中長期的な影響が生まれてきています。
このように、パンデミックという社会厚生や衛生に類する事象は、企業の業績やビジネスモデルに短中長期的な見直しを余儀なくし、ステークホルダーにも複雑な影響を与えることを、多くの人々が実感しています。これは、社会的な事象が企業の財務や持続可能性にいかに直結しているかの1つの証左とも言えます。
今や経済問題となったパンデミックが、短中長期的にビジネスにどのような影響を及ぼすのか、またどのようなガバナンス体制のもとでビジネスリスクや機会を特定・管理し、どのような短中長期的な戦略を策定・遂行するのかといった企業の行動に対して、ステークホルダーはこれまで以上に関心を示しています。また、企業のビジネスに影響を及ぼす事象はCOVID-19のみではありません。企業には、他の短中長期的な外部環境や事象とも関連させて、企業価値を左右する課題や事項を総合的に特定し、戦略を見直したり、関連するKPIを明らかにしたりすることが期待されています。つまり、より財務情報と関連した非財務情報の報告への要請が、COVID-19のパンデミックによって加速したと言えます。

II. 乱立する非財務情報の基準やフレームワークと、その統一化

非財務情報の報告に関する課題のひとつに、SASBGRICDPCDSBTCFD等のさまざまなフレームワークや基準が存在していることがあります。類似する報告事項の目的や定義が微妙に異なることもあれば、メトリックスの算定方法が基準間で必ずしも一致していないこともあるため、作成企業のみならず、報告書の利用者にも混乱が生じています。また、数多くある非財務情報に関する基準やフレームワークをどのように「使いこなす」のかについても、理解が十分に浸透しているとは言えません。非財務情報を報告・開示すること自体への「義務感」が先行してしまい、将来的に企業の財務状況に大きな影響を及ぼすような非財務情報が必ずしも含まれていない傾向すら見られます。
そのため2018年頃より、グローバルで「統一化」された非財務情報の報告フレームワーク、基準、メトリックスに対する要望や、財務情報とより統合された非財務情報の報告の在り方について、欧州を中心にさまざまなイニシアティブや議論が加速しています。本稿では、より統一化され、より財務情報と関連した非財務報告を実現するためのイニシアティブや議論をいくつか紹介します。

III. 非財務報告をめぐる欧州、および世界の動きについて

1. 国際統合報告評議会

より統合され、比較可能な企業報告を支援する目的で、国際統合報告評議会(以下、「IIRC」という)によって設立されたCorporate Reporting Dialogue(以下、「CRD」という)は、2018年11月にBetter Alignment Project(以下、「当プロジェクト」という)を立ち上げました。当プロジェクトの目的は、CRDを構成する各基準設定団体の基準やフレームワークの開示要求事項の類似点と相違点を整理し、これらの混乱を低減することでしたが、当時の資本市場からの関心の度合いの高さを鑑みて、気候変動に関する開示に焦点をあてています。
具体的には、CRDに参画している非財務情報の基準設定団体であるCDP、CDSB、GRI、IIRCとSASB(以下、「当プロジェクト参画組織」という)が公表している各基準もしくはフレームワークを、TCFDの原則、推奨される開示内容および指標例(illustrative example metrics)とマッピングしています。その結果、当プロジェクト参画組織の基準とフレームワークは相互間のみならず、TCFDの提言とも高い整合性があることが確認されました。同時に、気候変動情報に代表されるESG情報のより良い報告の促進に向けて実施すべきことも明確になりました。詳細は、2019年9月に公表された当プロジェクトのレポートである“Driving Alignment in Climate-related Reporting - Year One of the Better Alignment Project”をご参照ください。
なお、その後CRDは、グローバルで統一化された非財務報告の必要性を認めているものの、これを遂行するのはCRDの役割ではないと結論づけ、当プロジェクトは終了することになりました。ただしCRDは、当プロジェクトの参画組織のコミュニケーションプラットフォームとして、今後とも存続する予定です。

2. 世界経済フォーラム年次総会2020年 IBC分科会

企業の目標が社会の長期的な目標と一致した時に社会への貢献度が最も大きくなる、という考えのもと、“The Compact for Responsive and Responsible Leadership”が、2017年において世界経済フォーラムのIBC(International Business Council)分科会により公表されました。それ以来、IBC分科会は、投資家のみならず他のステークホルダーも同時に繁栄していくために、どのようにして企業は短期的および長期的な課題をバランス良くマネージすべきかについて検討を開始しました。企業が抱える課題の1つとして、企業が投資家やステークホルダーに向けてその価値創造を伝えようとする場合、測定方法や報告に一貫性がない点が挙げられました。それを受けて、IBC分科会は、企業がESG事項やSDGsへの貢献度に関する意味ある報告を、一貫性および比較可能性を持って実施できるような提案を策定するタスクフォースを2019年に立ち上げました。
当タスクフォースは、4大監査法人とバンク・オブ・アメリカにより構成され、世界経済フォーラムがコーディネイト・取りまとめを行ないました。その結果、2020年1月に開催された世界経済フォーラム年次総会において、“Toward Common Metrics and Consistent Reporting of Sustainable Value Creation”が公開草案として公表されました(コメント期間は2020年6月5日まで)。
当公開草案は、既存の基準やフレームワークにおいて公表されているメトリックスや開示事項をより拡張させ、シナジーを持たせながら、共通のコアとなるメトリックスや推奨される開示事項を提示することを目的としています。新たにメトリックスや開示要件を発行することが意図ではなく、むしろ、非財務報告に見られる分散化を低減し、マテリアルなESG事項に関する報告を可能とする体系的な解決(たとえば、一般に公正妥当と認められる国際報告基準の策定)を促進させるためのものとなります。
内容に関する評価はさまざまですが、世界の政治やビジネス界におけるリーダーが集まる世界経済フォーラムの場でこの種の公開草案が公表されたことは、中長期的な環境や社会課題に対する企業の対応や、ステークホルダーへの一貫性のある比較可能な企業報告が世界的にも期待されていることを明示しています。

3. Accountancy Europe

前述のとおり、環境・社会課題や知的資産等のインタンジブルズは企業の価値創造や持続可能性に欠かせないものの、非財務報告に関する基準やフレームワークが数多くあることから負担や混乱が生じており、グローバルで統一化された非財務情報へのニーズが高まっています。その背景の中で、Accountancy Europe(以下、「AE」という)は2019年12月に“Interconnected Standard Setting for Corporate Reporting”(以下、「AEペーパー」という)を公表しました(コメント期間は2020年3月31日まで)。
AEペーパーは、非財務情報の報告への混乱の低減と、より財務情報に統合された非財務情報を含む企業報告体系の在り方に関する議論を活性化させる目的で公表され、4大監査法人やIIRC元CEOのポール・ドラックマンなどから構成されるタスクフォースメンバーにより作成されました。
AEペーパーにおいては、財務情報とより統合され、グローバルに統一化された非財務情報の基準設定の必要性を認識したうえで、非財務報告の基準設定に欠かせない9つの視点(図表1参照)を提示しています。

図表1 非財務報告の基準設定に欠かせない9つの視点

  • urgency
  • global or local solution
  • oversight
  • due process of standard setting
  • responding to stakeholder interests
  • framework and metrics
  • materiality lens
  • legal embedding
  • role of technology


出典:ACCOUNTANCY EUROPE 
INTERCONNECTED STANDARD SETTING FOR CORPORATE REPORTING
December 2019

 

そして、財務情報とより統合された非財務情報の報告を実現させるための報告体系に関する4つのアプローチについても提案しており、中でも4つ目のアプローチ(図表2参照)を推奨しています。

図表2 報告体系に関する4番目のアプローチ
図表2 報告体系に関する4番目のアプローチ

出典:ACCOUNTANCY EUROPE
INTERCONNECTED STANDARD SETTING FOR CORPORATE REPORTING
December 2019

このアプローチは、国際財務報告基準・国際会計基準(IFRS)が国際会計基準審議会(IASB)により基準が設定されている一方で、国際的な非財務報告基準(INFRS)については、新規に設立するInternational Non-financial reporting Standards Board(INSB)により策定され、IASBとINSBは、Corporate Reporting Foundation(CRF)という新たな組織により監督されるという提案です。
さらにAEペーパーは、財務情報と非財務情報の基準やメトリックスを統合した形で報告するために用いるグローバルなフレームワークとして、IIRCにより公表された国際統合報告フレームワーク(以下、「IIRCフレームワーク」という)を挙げています。
当AEペーパーは、IIRC、SASBやGRI等の企業報告に係る基準設定団体、監査法人、国際会計士連盟(IFAC)などの専門家組織の関心を多く集めました。寄せられたコメントを反映し、AEは2020年6月に、そのフォローアップペーパーである“Follow-up Paper:Interconnected Standard Setting for Corporate Reporting~Feedback analysis”(以下、「AEフォローアップペーパー」という)を公表しました。AEフォローアップペーパーには、主に以下の点が記載されていました。

  • AEペーパーで提案された、非財務報告基準の設定に関する9つの視点と、財務情報とより統合された非財務情報を実現するための企業報告体系に関する4つ目のアプローチに賛同するコメントが多く寄せられた。
  • 財務情報とより統合された非財務情報の報告を実現させるためには、グローバルレベルでの解決策が必要である。そのため、既存の基準やフレームワークをもとにグローバルに統一されたメトリックスの必要性に関して、概ね同意を得ている。
  • 財務情報と非財務情報が統合された形で企業報告を可能にするフレームワークとして、IIRCフレームワークに加えて、IASBによるマネジメントコメンタリーを挙げているコメントがあった。

また、AEフォローアップペーパーには、非財務情報の報告をめぐる世界の動向がまとめられています(例:EUの非財務情報開示指令(Non-Financial Reporting Directive, Directive 2014/95/EU)の改正、上述の世界経済フォーラムIBC分科会のホワイトペーパー、米国の動き、IIRCフレームワーク改正等)。さらに、信頼性のある非財務情報の開示を促進させる手段として非財務情報の保証も取り挙げられ、国際監査・保証基準審議会(IAASB)により公表されているExtended External Reporting Assuranceの公開草案(コメント期間は2020年7月13日まで)も紹介されています。

IV. まとめ

本稿で紹介したのは、財務情報とより統合され、一貫性、比較可能性、信頼性、透明性を備えた非財務情報の報告を目指す世界的な動きの一部にすぎません。それは、COVID-19、気候変動、人権問題等の非財務的な事項がビジネスにとってクリティカルであることを、多くの企業、投資家、基準設定団体、規制当局、アカデミア等が認識し、意見発信を行っていることからも実感できます。
今後、グローバルな非財務情報の報告基準やメトリックスの策定、適切な手続きを経た関係者の合意に基づく監督体制の構築等の実現までには、まだ一定の時間がかかると思われます。一方で、今般のパンデミックが短期的にビジネスに与えた重大なインパクトは、想定外の非財務的事項がいかに財務に直結しているかを明確に証明することになりました。今後、非財務情報の報告に関する課題への対応や解決に向けて、多くの関係者の議論が醸成され、一丸となった解決への動きが加速していくことが望まれます。

執筆者

KPMGジャパン
コーポレートガバナンス センター・オブ・エクセレンス(CoE)
パートナー 高橋 範江

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