デジタル経済課税の現状と将来の移転価格管理

デジタル経済課税の現状と将来の移転価格管理

国際課税ルールの原則の見直し(Pillar 1)の議論の中心である統合アプローチについての論点、ならびに統合アプローチを踏まえた移転価格管理上のポイントについて解説します。

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2018年以降加速したデジタル経済課税の国際的議論は、当初の目標であった2020年末のコンセンサスベースの合意に向けた正念場に差し掛かっています。デジタル経済課税の議論は、GAFAをはじめとする自国のデジタル企業が狙い打ちされる結果をよしとしない米国と、デジタル企業への課税権を主張したいその他の諸国との間の政治的相克のなか、国際課税ルールの原則の見直し(Pillar 1)という大義のために1つのテーブルに多数の国が参加して継続されてきました。最近米国がPillar 1からの離脱を表明するなどPillar 1の合意形成には暗雲が立ち込めていますが、各国によるデジタルサービス税(以下「DST」という)の動向次第では米国が交渉のテーブルに戻ってくる可能性も完全には否定できません。
本稿は、デジタル経済課税の経緯を簡単に振り返った後、Pillar 1の議論の中心である統合アプローチについての論点、ならびに統合アプローチを踏まえた移転価格管理上のポイントについて解説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 国際課税の枠組みを大きく転換するPillar 1における統合アプローチは、一定の場合に物理的プレゼンスがない市場国にネクサスを見出し「利益A」として課税権を認めることに意義がある。
  • Pillar 1のもう1つの要諦は、多国間の協議体制の紛争解決メカニズムの提案にある。移転価格税制の適用範囲である利益B/Cに関して、多国間の合意により設置された機関を通じた紛争予防・解決手続を提案している。
  • デジタル経済課税に係るPillar 1の成立には、国際課税制度全体のあるべき姿を見据えた多国間枠組みによる政治的合意が不可欠であり、米国を含む主要国の今後の動向を注視する必要がある。

I.デジタル経済課税の議論の進展

1.議論の進展※1

1998年のOECDオタワ会議以降継続してきたデジタル経済課税の議論は、途中、税源浸食と利益移転(BEPS)プロジェクトにおいて取り扱われた後、OECD/G20の枠組みを拡大した包摂的枠組み (OECD/G20 Inclusive Framework on BEPS、以下「IF」という)によって今日まで引き継がれています。
2018年3月にはデジタル経済課税に関する「中間報告書」が発表され、次いで2019年1月にOECDはIFが承認した「ポリシーノート」を公表し、国際課税の基本原則について合意すべき具体的な2つの議論の柱を打ち出しました。その1つが、デジタル化する経済による広範な課題に対処するための現在の国際課税ルールの原則(ネクサスルール、ならびに独立企業原則に基づく利益配分ルール)の見直し(以下「Pillar 1」という)でした。その後、2019年2月13日には公開討議のための論点を整理した「公開討議草案」が公表されています。ここで提示された複数の提案は、価値創出の源泉をユーザーの所在する市場国に認め、利益の配分方法については残余利益分割法を指向する点で共通していましたが、対象事業をどの範囲に設定するかという点で見解の対立が依然として残っており、課税中立性とデジタル経済への対応の必要性という相克のなかで議論が進んでいたことを窺わせます。
2019年5月に公表された「作業計画」におけるPillar 1に関しての進展は、物理的プレゼンスを有しない市場国に対する新たな課税権の配分方法に焦点を当て、利益配分とネクサスルールの一貫性のある見直しを実施するために、解決する必要があるさまざまな技術的論点について整理していることです。作業計画が論じた利益配分方法に関する3つの提案(修正残余利益分割法、定式配分法、および仕向地ベースアプローチ)、ならびにそれらに付随して検討すべきとされた諸課題は、後述するPillar 1に関する統合アプローチの意図を理解するうえで重要な視点となります。

 

※1誌面の都合上、デジタル課税の議論の経緯についてはその概略を紹介するにとどめる。OECDが公表した複数のレポートの出典情報を含む詳細は、経済産業省委託事業「令和元年度内外一体の経済成長戦略構築に係る国際経済調査事業(諸外国等における経済の電子化を踏まえた課税の動向等に係る調査研究事業)」の調査報告書(受託者:KPMG税理士法人)に詳しいので参照されたい。
令和元年度内外一体の経済成長戦略構築に係る国際経済調査事業

2.Pillar 1に係る統合アプローチの概要

OECD事務局は、2019年10月9日に、「統合アプローチに係る事務局提案」の概要を含むパブリックコンサルテーションドキュメント を公表しました。統合アプローチは、1920年代に確立した物理的プレゼンスに基づく課税権の配分を定めた現在の国際課税の原則を大転換するものであるとされています。加えて、物理的プレゼンスがない状況のみならず、物理的プレゼンスが存在する状況についても、既存のルールを変更する必要があるとして新たな国際課税ルールの枠組みを提案しました(図表1参照)。

図表1 統合アプローチの概念図(大枠合意)
図表1 統合アプローチの概念図(大枠合意)

(1)利益A
利益Aは、多国籍企業が国境を超えて市場国において経済活動を行っているにもかかわらず、その市場国に物理的プレゼンスを有していないために市場国の課税権が及ばないという問題に対応して設定された新たな課税権を構成します。利益Aは、大規模な消費者(ユーザーを含む)向け事業(Consumer facing business)に適用され、物理プレゼンスに依存するのではなく、主に売上に基づく新しいネクサスの概念が認識されることになります。OECDによれば、利益Aの概念は、独立企業原則の適用を超えている、とされています。利益Aが個々の企業に与えるインパクトは、利益Aの詳細設計(対象ビジネスの範囲、適用除外、利益A認識のための閾値等)に依存することになります。

(2)利益B
利益Bは新たな課税権を創設したものではなく、独立企業原則から逸脱しない範囲で「基礎的な販売活動に係るベースライン利益」に強制的な定式配分を採用するものです。そのため、利益 Bは、独立企業原則の適用をめぐる企業と課税当局の紛争を回避することを狙い、二重課税のリスクとコンプライアンスコストの低減を意図したものと説明されます。「ベースライン利益」の基準に関しては、(1)単一の固定割合、(2)業界および/または地域によって異なる一定の割合、または(3)その他の合意された方法、によることができるとしました。

(3)利益C
利益Aと利益Bの導入に伴い従来の移転価格税制との衝突が生じる領域を指し示すために、概念上設けられたものが利益Cです。利益Cに関しては、それ自体の定義付けに積極的な意義はなく、利益Aや利益Bに対する統合アプローチ下での課税の結果、独立企業原則の適用を通じて二重課税が生じ得る所得、あるいは市場国で主張される利益Bを超える追加的利益を総称した概念であり、利益Cについては二重課税の防止と強力な紛争解決手段を講じる必要があるとされています。

3.大枠合意とその後

統合アプローチに係る事務局提案について、米国は特に利益Aに関して、これまで長く続いている独立企業原則やネクサスのルールからの逸脱を強制するおそれがあり重大な懸念があると表明しました。2019年12月3日付でSteven Mnuchin米国財務省長官からAngel Gurria OECD事務総長宛ての書簡※2によって提案された「第1の柱に関連するセーフハーバー提案」にその主張が反映されています。米国以外の主要国は、セーフハーバー提案は、Pillar 1の枠組みを骨抜きにするものだと批判しました。このような場外戦を経て、IFは2020年1月31日に『経済のデジタル化から生じる税務上の課題に対処するための2つの柱からなるアプローチに関する「BEPSに関するOECD/G20包摂的枠組み」による声明※3』(以下「大枠合意」という)を公表しました。IFは、Pillar 1に関する統合アプローチについて大枠合意に至ったとここで宣言し、詳細な検討状況を記載した付属文書を公表しています。
大枠合意では、当初2020年7月に予定していたIF会議で合意に至る目標を設定していました。今般の状況を踏まえてIF会議は10月に延期されたものの、OECDは最近まで2020年内にコンセンサスを得ると公言していたところです。ところが、米国は2020年6月に入り、Pillar 1に係るコンセンサス形成は不可能だとして議論からの離脱を表明し、暫定措置としてのDSTを導入・施行を予定する各国に対して報復措置を示唆するに至ります。俄然先行きが見えなくなったデジタル課税(特にPillar 1)の議論ですが、米国の大統領選挙前の政治的に微妙な時期の態度であることを踏まえても、IFにおける議論が米国の動向との関係で今後どのように展開するのか、引き続き予断を許さない状況にあると言えます。

 

※2Letter from OECD Secretary-General Angel Gurria for the attention of The Honorable Steven T. Mnuchin, Secretary of the Treasury, United States
※3OECD (2020), Statement by the OECD/G20 Inclusive Framework on BEPS on the Two-Pillar Approach to Address the Tax Challenges Arising from the Digitalisation of the Economy - January 2020, OECD/G20 Inclusive Framework on BEPS, OECD, Paris.

II.デジタル経済課税の枠組み下における移転価格管理

前述のとおり、Pillar 1における統合アプローチが実現するかどうかは不透明な状況にあるものの、デジタル経済に対処する方法としての統合アプローチは従来の国際課税の枠組みに大きな変更をもたらすものであり、その設計の如何によってはグローバルに活動する企業にとって大きな税務戦略上のインパクトを与える可能性があるものと思料されます。IFで引き続き議論されている統合アプローチの設計上の論点の詳細は他の解説※4によるとして、大枠の方向性に関してグローバル企業が対処すべき移転価格管理上の論点について、検討材料は多くないものの若干の考察を行うこととします。

※4前掲※1参照

1.利益A

物理プレゼンスのない市場国に新たに配分される利益Aは定式的に把握されるものであり、対象事業、適用除外、事業のセグメンテーション、金額的閾値等の諸々の基準が定められれば、各企業においてインパクトの大小(利益Aが発生しない場合を含む)は当然あるものの、納税義務の認識と納付手続(簡素化された報告と登録に基づく仕組みーワンストップショップが提案されている)については比較的明確になるものと思われます。ただし、利益Aの計算方法として、連結財務諸表を出発点とすることが謳われているため、その詳細は専ら政治的合意に委ねられている状況にあるものの、いずれにせよ企業は連結財務諸表作成作業において、利益Aを含む新たな国際課税の枠組みを踏まえ、事業別・地域別等セグメンテーションを作成する必要が生じると思われます。自社の事業に係るデジタル化のウエイト付け(“Digital differentiation”)についての検討も必要になると考えられます。
他の問題として、利益Aがエンティティ(PEを含む)のない国に配分されることにより、必ず利益Aに対応する(独立企業原則に基づきいずれかのエンティティに配分済みの)利益Cとの関係で一旦二重課税が生じるのですが、市場国とどこの国との間で二重課税が生じているか(租税債務を負う法人はだれか)について重要な論点が生じるものと推察されます。利益Aに係る租税債務を負う法人がどのように決定されるかという問題に加え、二重課税の解消のために外国税額控除の方法を採るとすれば、債務者法人の側で控除できる税額がそもそも存在するかどうかという問題があり、控除不能な場合は短期的には連結税負担が増えてしまう可能性もあります。利益Aに関して二重課税が完全に解消されるように租税債務者の認識を行うこと、ならびに各国による税務調査が散発的に展開されないような安定的な仕組みの構築が必須との認識が既にIFにおいて示されています。

2.利益BおよびC

2-1.利益Bのコンプライアンス
利益Bの概念は既存の移転価格税制の枠内にあるとされていることから、その適用対象は利益AのようにConsumer facing business等に限定されず、規模の大小や業種を問わず広く適用されるものと想定されています。ベースライン利益としての利益Bが及ぶ対象は、基本的なマーケティング、および流通機能であるとされています。利益Bは「売上高×固定率」で算定され、この固定率は地域と業種により異なる設計とすることが提案されているところです。
企業におけるプランニング上の視点としては、販売機能を有する国外関連者がどの業種区分による利益Bの羈束を受けることになるのかをあらかじめ把握する検討作業が必要になると思われます。そのうえで、当該国外関連者が果たす機能、負担するリスクの様態を踏まえて、利益Cとしての追加的利益を配分すべきか否かに係るスタディを行い、納税者としてのポジションを明らかにしておく(必要に応じて文書化する)ことが求められます。納税者の予測可能性を高めるべく、OECDから販売会社等の機能リスクプロファイルを利益Bとの関係で類型化整理したガイドラインが示されることが望ましいとしても、どの程度明瞭なガイドラインが示されるかは不透明な状況にあります。


2-2.利益Bを起点とした利益配分管理の重要性
加えて、利益Bが「売上高×固定率」で機械的に算定されるために、当該拠点に帰属した会計上の利益と税務上求められる利益Bと差異が生じた場合に、それをどのように調整するか、という問題があります。販売会社等の会計上の利益が利益Bとされる額に足りない、またはそれを超えた場合に、実際に行った関連者間取引のうちのいずれにその差異を帰属させるべきか、について難しい技術的な問題が生じると思われます。
典型的な例としては、図表2のようないわゆる外 - 外取引(X国の販売会社がY国の製造会社から購入しているケース)において、利益Bが適用されると、二重課税をあらかじめ回避しようとすれば対応的に関連者間取引を通じて他拠点の利益を増減させるしかありません。納税者において販売会社等への利益Bの配分と、関連取引の相手側であるY国製造会社の移転価格リスクの管理を、期中の取引価格の設定・運用を通じて管理するというのは、言うは易く行うは難し、になるものと思われます。たとえば、販売会社の所在するX国の税務当局がベースライン利益としての利益Bに加えて追加的利益としての利益Cを要求する可能性もあると思われますし、逆に、X国の利益Bの配分を優先させた結果として、Y国製造会社の方で移転価格リスクが顕在化する恐れもあります。X国とY国の必要配分所得額が各々足りない場合、無形資産を保有するアントレプレナーとしての日本の親会社が最終的な所得配分管理責任を負うことになると思われますが、X国の配分利益の妥当性に関する主張に柔軟性がなくなることは、日本企業において海外における二重課税リスクが顕在化しやすくなる要因となるかもしれません。日本企業においては、先述の機能リスクに係るスタディを踏まえて、期中取引と期末調整を組み合わせた実績利益配分管理の仕組みを構築することが今以上に求められると思われますし、コンプライアンス対応として販売会社の利益Bを優先せざるを得ないとすれば、その利益原資を関連者の誰にどのように負担させるかをあらかじめプランニングしておく必要が生じるのではないかと思料されます。

図表2 利益Bと利益Cの調整に係る問題
図表2 利益Bと利益Cの調整に係る問題

III.おわりに

市場国への利益Aの配分の是非は政治的に決着される問題であると割り切ったうえでの議論として、B to C事業における利益Aのインパクトは企業により大小さまざまになることが想定されます。どのような政治的決着になるとしても、利益Aは今後の政治的合意の結論を受けてその計算メカニズムの特徴を踏まえた企業の行動を誘引することになると思われます。利益Aが連結財務諸表の数値を起点として計算されることになると、大なり小なりセグメント開示について税務戦略的な要素を加味した検討が必要になります。
IFの議論では、利益Bの導入によって二重課税のリスクとコンプライアンスコストを簡素化するとしているものの、個別の取引に焦点を当てると、むしろ独立企業原則に基づく分析上のフレキシビリティを制約してしまう側面が強調されると別の紛争の種を撒いた結果にはなりはしないかという懸念もあります。IFは、利益A、および利益Bの概念の導入に伴って紛争を解決し二重課税を防止するための強力な手段の必要性を説き、IFのメンバーを代表する紛争解決のための代表者パネルの設置を提案しています。ここまで大胆な提案であることを踏まえると、IFの利益A・利益Bに関する提案は、先進国・途上国を巻き込んだ、マルチ協議体制づくりのための布石であると捉えるのが自然かもしれません。マルチ協議体制の紛争解決メカニズムについては壮大な提案であり、その実現可能性については見通せないものの、新たなネクサス概念に基づく利益Aに関する提案と並ぶ、Pillar 1の要諦になるものと推察されます。
Pillar 1に係る統合アプローチ提案の移転価格管理実務へのインパクトは、独立企業原則を体面上維持しつつ導入された利益Bとそれに連動する他の関連者における利益Cとの調整をどのように行い、事前リスク管理と事後の紛争解決手続(本当にそれが導入され機能するのであれば)とをいかに使い分けるかという問題になります。企業においては、すべての移転価格上の問題を代表者パネルを通じた事後的解決に委ねるということも現実的ではありません。そうすると、利益Bへのコンプライアンスの達成と、それに伴う利益Cの二重課税の発生回避のためのプランニング(利益配分管理をしやすいSCM再構築を含む)が今にも増して必要になることが予想されます。デジタル経済課税が実現した暁には、実体法的観点では利益A、B、Cの相互作用を正しく理解し、同時に手続法的観点では相対・マルチの租税条約関係を適時にキャッチアップしつつ、グローバルの税務プランニングを推し進めることが今にもまして重要になるものと思われます。

執筆者

KPMG税理士法人
パートナー 藤原 拓哉

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