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コロナ禍におけるチェコ、ハンガリー、ポーランドの最新投資環境

コロナ禍におけるチェコ、ハンガリー、ポーランドの最新投資環境

本稿では、それぞれの国における投資インセンティブ制度などの最新投資環境について、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う影響にも触れながら解説します。

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コロナ禍による中長期での需要減少が予想され、コスト削減・経営効率化を目的とした事業モデルの再構築が検討されるなか、安価で優良な人材や進みつつあるデジタルインフラ整備を理由として、中東欧諸国はふたたび日系企業の新規投資先として注目されつつあります。本稿では、第1章ではチェコ、第2章ではハンガリー、第3章ではポーランドを取り上げ、それぞれの国における投資インセンティブ制度などの最新投資環境について、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う影響にも触れながら解説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • チェコ:過去十数年間にわたり、グリーンフィールド投資と拡張投資の両方の観点で非常に注目されている一方で、失業率は著しく低い水準にあり、今後は高付加価値産業に焦点を当てるべく、2019年に投資優遇措置法を改正している。
  • ハンガリー:企業の投資促進のためにさまざまなインセンティブ制度が設けられているが、将来は、高付加価値創出を誘導するインセンティブ制度に変化することが予想される。一方、コロナ禍による過度な外国資本算入を制限するために、外国資本に対する投資規制が導入された。
  • ポーランド:特徴として質の高い人材市場、地理的アドバンテージ、EU基金による恩恵が挙げられる。インセンティブと呼ばれる研究開発/投資/環境関連の手厚い助成制度があり、各企業のビジネスに応じた利用が重要となる。一方、コロナ禍により一時期に財政状態が悪化した戦略的重要企業を保護するため、外資による敵対的買収規制が導入された。

I. チェコ投資環境

1. 背景

チェコは昨今の安定した経済成長、教育水準の高い労働者、中央ヨーロッパに位置する地理的優位性等の要因から非常に魅力的な投資環境にあり、外国からの直接投資を積極的に受け入れてきました。その一方で近年、失業率は著しく低い水準で推移しており、多くの企業が人材不足の問題に直面しています。そこで政府は、外国からの投資プロジェクトの誘致を、労働集約型のプロジェクトから、より高い技術を創出する高付加価値プロジェクトに方向転換し、2019年に投資優遇措置法を抜本的に改正しました。

2. 投資優遇措置法の概要

(1)投資インセンティブの概要
投資インセンティブは投資優遇措置法で定められており、法人税の免除(最高10年間)、雇用創出に対する助成金、土地の低廉価格での提供等で構成されています。また、申請が認められる投資の種類は製造業、技術センター、戦略的投資等で構成されています。本稿では、日系企業が最もよく利用している製造業での申請かつ法人税の免除について説明します。

(2)投資インセンティブを受けるための主な要件
投資優遇措置法においては、以下の要件が充足される必要があります。

  • 投資インセンティブの権利付与の決定から3年以内に要件を充足すること
  • 国家補助の対象となる投資金額が最低5年維持されること
  • 投資プロジェクトの着手が投資インセンティブ申請書の提出後であること
  • 投資プロジェクトの電力消費の定量的分析等、環境的側面の評価を実施すること
  • 投資プロジェクトによってその地域にもたらされる便益を定量化すること

上記に加えて、製造業においては以下の要件が充足される必要があります。

  • 有形固定資産および無形固定資産に対する最低投資額が100百万CZK(約4.5億円、1CZK=4.5円換算)であること(特定の地域においては最低投資額は上記の半額)
  • 「高付加価値」を証明するプロジェクトであること

上記の「高付加価値」の定義は以下のとおりです。

  • 投資プロジェクトを実施する地域で業務に携わる従業員のうち、少なくとも80%の従業員が当該地域の平均賃金を上回り、かつ次の3つのいずれかの要件を充足すること
    • 投資インセンティブの受領者は研究開発活動において研究機関/大学と提携する必要があり、投資総額の1%以上をこの提携に費やしていること。同時に、少なくとも10%の従業員が大学卒業資格を有すること
    • 少なくとも全従業員のうち2%が研究開発活動に従事していること
    • 投資インセンティブの受領者は、プロジェクトの投資総額の少なくとも10%を研究開発目的の機械設備に投資していること

なお、改正投資優遇措置法のもとで、製造業においては新規雇用創出数(最低20名)が適用条件から削除されました。

(3)法人税の免除
投資インセンティブの要件を満たした場合、最高10年間の法人税の免除を受けることが可能となります。新規事業者の場合には、金利所得を除いた所得に対して課される法人税が免除となり、既存事業者の拡張の場合、免除される法人税額は、「新規事業者であるとした場合に適用される法人税額の免除額」と「免除の対象となる事業年度の直前3事業年度の平均法人税額」の差額となります(図表1参照)。この算定方法は、法人税の免除の範囲は拡張により増加した利益を限度とするという発想に基づいています。
2018~2020年の3年間の税額平均(当例では「16」)を上回る税額が、2021~2030年の10年間において免除されます(免除される上限額は(4)参照)。

図表1 既存事業者のケース
図表1 既存事業者のケース

(4)国家補助の上限額
インセンティブの総額は、国家補助の許容水準を超えることはできません。EU法の定めによる国家補助の上限額は、適格コスト(土地、建物、機械装置、特定の無形資産への投資)の25%となります。また、投資額によって次のようにインセンティブの割合は変動します。

投資金額 最大補助
50百万ユーロ以下 25%
50百万~100百万ユーロ 12.5%
100百万ユーロ以上 8.5%

※100百万ユーロを超える投資プロジェクトについてはEUの承認が必要となります。

(5)個別留意事項
投資インセンティブの要件充足後の所得の計算では、減価償却費の計算やR&Dの税額控除等において、税額が最小となるように計算することが求められています。また、関連当事者との取引において、意図的に課税所得を移転する取引は厳しく規制されており、場合によっては投資インセンティブの権利が取り消されてしまう可能性もあるため、グループ会社間との取引、特に移転価格については細心の注意を払う必要があります。

3. まとめ

現在のコロナ禍において、チェコ政府は税制面からのさまざまな施策を設けていますが、意図的な租税回避行為を防ぐため、税務当局の調査はより厳しくなることが想定されます。特に、前述の移転価格の領域については多くの在チェコ企業が税務当局より指摘を受けているため、投資インセンティブの要件を充足するためには、関連当事者との取引が課税所得の意図的な移転と見なされないよう、グループ間取引の価格決定には特に留意する必要があります。

II. ハンガリー投資環境

1. 背景

ハンガリーでは堅調な経済成長、比較的安価で優秀な労働力、ヨーロッパ西側諸国へのアクセスの容易さ、政府による積極的な支援を背景に、近年、外国資本による投資が安定した推移を見せています。政府は、国内産業育成に重点を置いており、製造業(特に自動車産業)の進出を後押ししています。

2. ハンガリー投資インセンティブ制度概要

企業のハンガリーへの進出や設備投資を促すため、さまざまな投資インセンティブ制度が設計されています。企業はハンガリーで、個別助成金、法人税の減免、研究開発助成金、雇用助成金、教育訓練給付金、EU基金等を利用することができます。本稿では、個別助成金、法人税の減免、研究開発助成金について解説します。


(1)個別助成金
新規進出をする場合、多くの企業が検討するのが個別助成金の活用です。かつては、個別助成金の支給要件のひとつに投資による新規雇用創出が設けられていましたが、現在はこの要件が撤廃されたため、より活用しやすくなりました。個別助成金の活用を検討する場合には、以下の点を考慮する必要があります。

  • 進出する地域により、投資額に対する助成率が異なる。助成率の範囲は20~50%。ブダペスト近郊は助成率が低く、地方は高い傾向にある。
  • 実行後の投資は助成金の対象外となるため、投資実行前に申請する必要がある。
  • 投資実行後、大規模法人は5年間、中規模・小規模法人は3年間にわたり、投資内容に関するモニタリングが実施される。


(2)法人税の減免
法人税の減免制度も新規進出時に活用されています。申請が認められた場合、投資を実施した企業は、投資完了後12年間にわたって法人税の80%が減免されます。個別助成金の支給要件と同様に、かつては、投資による新規雇用創出が適用要件のひとつでしたが、現在は撤廃されています。現在は、投資額が基準額を上回る場合に申請可能です。基準額は、投資が実行される地域、もしくは企業の規模により異なります。


(3)研究開発助成金
大規模法人の研究開発活動およびハンガリー国内の研究開発拠点の設置を促進するために、2017年から研究開発助成金制度が開始しました。1~3年の研究開発プロジェクトによる、3百万ユーロ超の支出と研究開発者25名の新規雇用創出が支給要件です。なお、助成金の支給には、ハンガリー知的財産庁による研究開発活動の認定も必要です。

3. コロナ禍による外国資本に対する投資規制

2020年5月26日より、外国資本の過度な算入を防止することを目的として、指定産業(食品、製薬、金融等)に属する企業への外国資本からの投資(株式の取得、増資、組織再編等)のうち、条件を満たすものは、投資実施後10日以内に報告することが義務付けられました。外国資本とは、(1)EU、EEA、スイス以外の国に所在する企業または個人、(2)EU、EEA、スイス以外の国に所在する個人また企業の支配下にある、EU、EEA、スイスに所在する企業、と定義されています。報告を怠った場合には、投資が取り消され、罰金が科せられる場合があります。なお、この措置は2020年12月31日までの時限措置とされていますが、延長の可能性があるため留意が必要です。

4. まとめ

政府は、低廉な労働力を活用した工業国から、高付加価値を創出する工業国への転換を図ろうとしています。そのため、投資インセンティブ制度も、雇用創出から価値創出を重視した制度に変化することが予想されます。投資インセンティブの活用にあたっては、最新情報の入手と、専門家の関与が推奨されます。

III. ポーランド投資環境

1. 背景

給与水準に比して質が高く英語話者も多い人材市場、ドイツと国境を接しつつ東西欧州の中央付近に位置するという地理的優位性、そしてEU基金の恩恵享受を背景に、2019年のGDP成長率は4.1%とEUの中で上位に位置しています(EU全体では1.7%)。従来から自動車産業を始めとした製造業が主要な国内基盤となっていますが、優良な人材市場を背景にシェアードサービスセンターの設立等も盛んになってきており、また政府としても中長期的な産業構造の変化を見据えて先進的・革新的な企業への助成、インフラ整備を積極的に行っています。

2. ポーランド投資インセンティブ制度概要

2014年から2020年まで、ポーランドはEU地域政策により、EU基金として825億ユーロ以上を受領予定です。これは、EU加盟国中で最大の割当金額です。翌年以降については、2021年から2027年までを対象にEU内で現在予算の審議がなされていますが、ポーランドについては2020年までと同様に最大規模の恩恵を受ける可能性が高いと見られています。この基金とポーランド内部の予算を背景に、投資段階、操業段階での各種優遇制度が設けられています。具体的には、次のような企業活動が優遇制度の対象となります。

  • 研究開発:新製品開発および既存製品あるいは既存サービスの改善、技術開発、製造プロセス改善、研究インフラ
  • 投資:新工場建設、既存工場拡張、新製造ライン、新技術への投資
  • 環境:省エネ、原材料削減、再生可能エネルギー、ゴミ管理

3. 実務上利用漏れが多い研究開発インセンティブ

インセンティブ制度には、先述のとおり大枠の区分はあるものの、実務上は多数の制度により構成されており、制度利用について個々の企業のビジネスに合わせた最適な組み合わせを検討することが重要です。研究開発インセンティブについても多数の制度が設けられていますが、その中に研究開発の税務補助(R&D Tax Relief)があります。当該制度は非常に適用しやすい制度である一方、誤解が多く、企業が優遇を取り漏れているケースが多いため、以下概要を説明します。


(1)R&D Tax Reliefの概要
一定条件を満たす費用を法人税から控除できるという制度です。対象費用について、通常の損金算入に上乗せして法人税を減額する効果を持ちます。


(2)よくある誤解について
研究開発(R&D)という名称に影響され、適用範囲に誤解が生じやすい制度ですが、実際は以下のように広範囲を対象としています。

  • 中小企業、大企業ともに適用可能
  • 研究開発部門以外での発生費用にも適用可能
  • 明確なプロジェクト単位で研究開発活動をしている必要なし
  • 企業内部でのみ利用できる改善活動でも適用可能


(3)過去の適用漏れに係る還付の可能性
当該制度の適用漏れがあれば、制度が開始した2016年度まで遡って当局に還付を請求でき、数千万円規模の還付があるケースも発生しています。

4. コロナ禍に伴う外資による敵対的買収規制

2020年7月より一定分野の企業の買収または持分取得について、EU外、EEA外またはOECD外からの直接的または間接的な敵対的買収を防ぐため、規制当局の審査が必要となりました(2年間の時限立法)。趣旨はコロナの影響により一時期に財政状態が悪化した戦略的重要企業を保護することで、以下を対象としています。

  • 上場企業
  • 戦略的に重要な分野の企業:重要なインフラに係るソフトウェア、電力、石油・ガス、医療関連、軍事・防衛等

5. まとめ

コロナ禍による影響やブレクジット等により、今後のEU内の力学の急激な変化は必至です。そういった中でポーランドを新たな欧州拠点候補としている日系企業にとって、インセンティブを始めとした現地の重要制度の的確な把握は、よりいっそう重要になると考えられます。

執筆者

KPMGチェコ
マネジャー 斉藤 佳輔

KPMGハンガリー
マネジャー 福山 祐介

KPMGポーランド
マネジャー 波多野 純

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