新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と通信業界

サービスへの需要は高まっていますが、業界のダイナミクスは変化しています。今こそCOVID-19終息後の戦略を考えるときです。

サービスへの需要は高まっていますが、業界のダイナミクスは変化しています。今こそCOVID-19終息後の戦略を考えるときです。

通信セクターはこれまでのところ、COVID-19がもたらした市場の混乱ほどの大きな影響を受けていません。都市封鎖によって経済の大部分が停止した一方で、在宅勤務、リモート教育、ホームエンターテイメントをはじめ、隔離された消費者が友人や家族と繋がるためのコミュニケーションサービスへの新たな需要が誕生しました。

市場全体の株価下落率が27%であったのに対し、2月中旬から4月初旬にかけての通信サービス関連株価の下落率は18%であったなど、この影響は株式市場にも反映されています ※1

変容した市場行動と業界に及ぼし得る影響は、以下のとおりです。

  • ブロードバンド
    在宅勤務、リモート通学、ホームエンターテイメント等により、住宅用ブロードバンドの需要が著しく拡大しました。これらの活動によって、テレビ会議、ストリーミング、ゲーム、VPNなどの音声およびデータサービスのトラフィック量が押し上げられました。たとえばComcast社は、2020年3月期は前年同期比で、VoIP/テレビ会議が212%増、VPNトラフィックが40%増、ビデオストリーミングが38%増、Wi-Fiでのモバイルデータ通信が24%増となったことを公表しています ※2
  • 移動
    外出禁止令およびソーシャルディスタンスに関するルールにより、移動パターンが激変しました。携帯電話の追跡データから、3月27日までに外出禁止令が施行された国では、前月比で平均約85%の移動が減少したことが明らかになっています ※3 。これらの変化は、通信事業者のネットワークデザインや運用管理プロセスに影響を与えています。
  • 音声
    3月は、主要通信事業者すべてにおいて、音声トラフィックが増加し、パターンが変化しました。Verizon社では、音声トラフィック総量が25%増加したほか、ワイヤレス音声トラフィックが10%増加しました ※4 。AT&T社は、Wi-Fi経由の音声トラフィックが76%、住宅用音声通信が65%、ワイヤレス音声通信が33%それぞれ増加したと発表しました ※5 。T-Mobile社は、通話時間が17%増加したと発表しました ※6 。通話が自宅環境に移行したことで、大手通信事業各社と競合他社がともにさまざまな影響を受けました。
  • ビデオ
    静的コンテンツとライブ映像コンテンツ両方のストリーミングが劇的に増加しました。Nielsen社は、テレビ視聴時間が2019年3月期比で85%増加したと推定しています ※7 。Zoom社の創設者であるEric Yuan氏は4月3日、2019年12月に記録した最大1千万人規模の参加人数と比較し、3月は毎日2億人以上がZoomで会議に参加したとのブログを投稿しました ※8 。これは、通信事業者ネットワークへの重要な新しい需要となります。
  • ケーブルテレビの契約解除
    ケーブルテレビの契約解除がさらに加速する可能性があり、コンテンツのネット配信によって通信ネットワークの負荷が増加しています。eMarketer社は、ケーブル契約世帯数が2019年に6.5%減少したと推定しています。失業者数の増加によって、より多くの消費者がアプリのストリーミングや予算の見直しをするほか、オリンピックなどのスポーツ番組がないことでケーブルを解約するなど、このトレンドは拡大する可能性があります ※9

これらの変化によって、無線、有線、コンテンツの統合をはじめ、5Gネットワークのデザイン、構築パターンおよび時期の企画立案など、主な戦略や設備投資計画を再評価せざるを得なくなるでしょう。

通信会社の多くが現在、店舗閉鎖への対応、都市封鎖および混乱が顧客に与える影響を軽減する施策の特定、価格計画の変更、および米国連邦通信委員会による“Keep Americans Connected”プログラムなどの規制変更の理解など、目先の課題に注力しています。

各企業は、COVID-19後のリアリティで競うための戦略策定に向けて取り組み始めるべきです。本記事に記載された各要素を考慮して統合的な枠組みを検討し、以下例に挙げるような組織的かつ戦略的な行動を実施する必要があります。

 

※1 2月19日から4月3日までに全米主要証券取引所で主に取引された通信会社32社についてのKPMGの分析
※2 2020年3月の米国におけるComcast社のネットワークのデータ使用量の増加(情報源:Comcast社)
※3 ウイルスが蔓延しても自宅にいなかったアメリカ - 2020年4月2日付The New York Times紙
※4 2020年3月12日(木)から同3月19日(木)までの期間
※5 2020年3月29日(日)の活動と平均的な日曜日との比較
※6 2020年3月24日までの2週間
※7 2020年3月24日までの2週間
※8 4月1日付Zoom社のユーザーへの投稿
※9 米国のケーブルテレビ契約世帯数と非契約世帯数(2015年~2024年) - eMarketer社、2020年2月

1.レジリエンス

現金を留保し、顧客および従業員に自信を与え、事業継続を確実にするための緊急行動:4つのC(Customer(顧客)、Cash(現金)、Cost(コスト)、Capital(資本))

  • 「顧客」の例:延滞料や超過生産に関する方針の調整、更新価格/コミットメント取引の評価、新しい使用パターンに基づいたサービスクオリティのモニタリング
  • 「現金」/「コスト」/「資本」の例:融資機会の評価、運転資本のモニタリング、短期的なコスト削減の評価(例:任意マーケティング支出)

2.リカバリー

起こり得る不景気を乗り切り、不確実性に直面しながらも選択肢を最大限に活かすための業績改善行動

  • 「顧客」の例:顧客維持プログラムおよび解約件数の最小化に関するモデルの更新、状況や行動の変化に応じた提供および獲得アクティビティの適応
  • 「現金・コスト・資本」の例:変化する需要や使用パターンを考慮したネットワーク設備投資計画の見直し、リテールからコールセンターへの支出のシフト、広告の組合せとメッセージの調整、貸倒損失の積極的な管理

3.ニューリアリティ

顧客と市場の混乱が「新しい現実」に落ち着くことから生じる新しいチャンスを評価することでもたらされる行動。たとえば、

  • 在宅勤務、リモート学習、およびネット配信のエンターテイメントなど、恒久的に増加していく顧客のニーズに応えるアクションの実行
  • リテールストアフットプリント、補助金、および流通モデルを適応させ、顧客購買要因のドライバーが異なる可能性のある環境で価値を最大化する

今後数週間にわたり、この統合されたフレームワークの各構成要素を詳細に検討し、困難な時期をうまく乗り切るために通信会社がとるべき具体的な行動と検討事項を特定したブログ記事を掲載していきます。市場のダイナミクスが急変し、将来が不確実なままである状況において、短期的な課題から脱却して回復と新しい現実への準備に注力する企業は、有利な立場に浮上するでしょう。

テクノロジー、メディア、通信の各企業がCOVID-19の課題対応でどのように重要な役割を果たしているかについては、COVID-19 and the telecom industry(英語サイト)をご覧ください。

英語コンテンツ(原文)