新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とメディア業界

コロナ禍により、複数のメディア企業が、事業の停止または一部事業の停止に追い込まれました。新たな行動様式によって生じるメディア業界への影響を紹介します。

COVID-19により市場構造の急速な変化に対し、新たな行動様式によって生じるメディア業界への影響を紹介します。

COVID-19が契機となって生じた市場構造の急速な変化に対し、メデイア業界を挙げた取組みが求められています。
一連のコロナ禍により、複数のメディア企業が、事業の停止または一部事業の停止に追い込まれました。株式市場では既にこうした影響を織り込んでいます。KPMGは、メディアに関連する上場企業の株価は、ピーク時から40%程度下落していると分析しています。とりわけ映画館やライブイベントを運営する企業などを含むサブセクターでは、メディア業界の平均よりも株価の下落が大きくなっていますが、最新テクノロジーを有する新興メディア企業の株価は比較的持ちこたえています。

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新たな行動様式によって生じるメディア業界への影響には、次のようなものがあります。

  • 視聴者の急増 - テレビの視聴者および動画配信の利用者が大きく増加しています。Nielsen社は、2020年3月初旬における視聴時間が、昨年同時期と比較してプラス85%であったと報告しています。こうしたニュースはテレビや動画配信企業にとって朗報ではありますが、視聴者・利用者の増加をいかに収益機会に繋げるか、すなわち、より高い収入をもたらす広告モデルやサブスクリプションモデルの確立にいち早く取り組むことが重要です。
  • “コードカッティング”(=ケーブルテレビ契約の解除) - eMarketer社は、本年度のケーブルテレビ契約解除件数が、2019年度の6.5%%減よりも大きくなる可能性があると考察しています。失業者の増加や景気の悪化によって、低コストの動画配信サービスへの関心が高まっています。また、キラーコンテンツであるスポーツイベントの中止によって、ケーブルテレビ利用者にとっての存在価値が低下しています。各社は“D2Cモデル”「視聴者との直接取引形態」の開発を急ぐ必要があります。
  • 広告収入 - 広告費はGDPと強い相関関係があります。KPMGは、過去の景気後退局面では、広告費は7%から15%の減少幅であったと分析しています。エコノミストが予想するGDPの減少予測に基づけば、今回の広告収入の落ち込みはより大きな減少幅となる可能性があります。
  • イベントの観客動員数 - 政府による「ソーシャルディスタンス」要請により、この数週間で20,000以上のライブイベントが延期されました。そうした要請が解除されたとしても、人々は大規模イベントを引き続き忌避するかもしれません。仮に年内一杯ライブイベントが中止に追い込まれるような場合、コンサート業界が90億ドルの損失を被ると予測する業界紙もあります。各社は、これまでとは異なる時間軸でイベントのプランニング、そして、より高度な安全手順を前提とするイベントの集客とその開催費用の見積もりを、綿密に計画する必要があります。
  • 制作遅延 - 映画とテレビ番組の制作の多くが現在中断しています。このため、新たなコンテンツがなくなってしまう由々しき“空白期間”が生じており、各社では、コンテンツの制作・配給に関する戦略の再考、たとえば、映画を家庭に直接配信する、過去のコンテンツを再利用するような施策を考える必要があります。

企業は、手元の現金残高、当面の現金支出、債務の返済余力など、依然として短期的な財務上の課題に注力しています。企業にとって、このタイミングで流動性を確保することは重要なことですが、“ニューリアリティ”における競争を勝ち抜くための事業再生プランにも同時に着手する必要があります。
企業は、短期的には「生き残り」、長期的には「成長」に資するように、次に掲げる3つの組織的なアクションを含む戦略的な施策を検討する必要があります。

  • レジリエンス - 現預金を確保する、顧客や従業員を不安にさせない、事業継続を確実にするための緊急アクション “4C” - すなわちCustomer(顧客)、Cash(現預金)、Cost(支出)、Capital(資本)に係るアクション:
    • 顧客に関するアクション例:料金の据え置き、コンテンツ配信の早期化、無料お試し期間の延長といったサービスを含めた契約やサブスクリプションの提案
    • 支出に関するアクション例:野外イベントに関連するチケット価格、観客動員数、さらには安全対策のための追加支出等に応じた会計上の費用および現金支出に係るシミュレーション
    • リカバリー - 不確実性下における経営上の選択肢を最大化し、今後の不景気においても業績を改善するためのアクション:
    • D2Cやオンラインサービスへの人的リソースの再配分
    • 事業部の統合や共通機能の集約(たとえば、広告枠販売、コンテンツ制作、マーケティング等)
  • ニューリアリティ - 顧客の増減や市場の混乱が落ち着いたタイミングでの新たな事業機会のためのアクション:たとえば
    • 観客の不安が取り除かれるような安全対策を講じた大規模ライブイベントの開催
    • 映画館やその他施設での作品公開と同じタイミングで家庭のテレビ向けに有料放送を行うことによる、新たな顧客層の獲得
    • 生ライブとバーチャルライブの組み合わせによる集客の拡大

以前の景気後退局面と同様に、将来に向けて積極的な行動をとる企業は、リカバリー・フェーズにおいて競合他社を圧倒することになります。短期的な課題を早期に克服してリカバリー・フェーズへと向かい、さらにはニューリアリティへと備える企業は、今後の競争を有利に進めることでしょう。
テクノロジー、メディア、通信の各企業がコロナ問題の収束のために果たしている重要な役割については、COVID-19 and the media industryをご覧ください。

英語コンテンツ(原文)