【第19回~TCFDを旅する~】徒然考:TCFDとESGとCOVID-19

COVID-19に関連してTCFDとESGを俯瞰的に考察します。

COVID-19に関連してTCFDとESGを俯瞰的に考察します。

本文中の意見・感想等に関する部分については、筆者の私見であることをお断りいたします。

 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって在宅勤務が増加しました。当初は戸惑いがあったものの、最近ではCOVID-19後においても在宅勤務を一定程度継続すると表明する企業が増えています。

その理由は色々考えられます。

まず、役職員の健康・安全と家庭生活への配慮です。これはESGのうちS(社会)への配慮といえます。“痛”勤体験は出社後の生産性の向上に寄与していると考えるのは難しいと思われます。また、少子高齢化が都市部においても進行していることを考えれば、ご家族の介護等に従事されている役職員もある程度の割合でいらっしゃるのではないでしょうか。在宅勤務の推進においてよく指摘される課題の1つに人事評価の難しさがありますが、在宅勤務中の業務評価は、大変そう、やる気がありそうなどということでなく、アウトプットの品質等に基づくことになっていきそうです。

次にオフィス面積の減少による賃借料削減が考えられます。オフィス面積の減少は、そのまま入居ビル面積からの炭素排出量の減少につながることから、ESGのうちE(環境)への配慮といえます。また、低炭素排出のZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビルのこと。建築計画の工夫による日射遮蔽・自然エネルギーの利用、高断熱化、高効率化によって大幅な省エネルギーを実現した上で、太陽光発電等によってエネルギーを創り、年間に消費するエネルギー量が大幅に削減されている最先端の建築物)に移転することになれば、さらに炭素排出量が減ることになります。

また、最近経済産業省が非効率な石炭火力発電所の発電市場からの退出に関する方針を明らかにしましたが、それと並行して送電に関するルールを変更して再エネ発電による電力を優先して流せるようにする方向性を明示しました。こうしたことを踏まえて考えてみますと、本社ビルだけでなく生産工場や事業所において再生エネルギーを優先して使用することで炭素排出量を削減することが可能になりそうです。

TCFDでは、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標の4項目を開示することになります。概要は第3回「TCFD提言を概観する1」第7回「TCFD提言を概観する2」にご紹介していますが、排出量の削減は主に指標と目標に関連すると思われます。

TCFD開示は実務が開始されてからまだ日が浅く、今後の実務の醸成が期待される状況ですが、炭素排出量の削減は自社の事業活動だけでなく、そのために利用した電力などのエネルギー、バリューチェーンの全てから生じる排出量が対象となります。

COVID-19対応によって、入居しているビル面積の削減、利用する電力の種類、最新のZEBへの移転、再生可能エネルギーの優先利用、これらのことをサプライチェーン参加企業へ要請するなどの方策により、TCFD開示で公表する将来の炭素排出量の削減量を今までよりも増加させるとともにその実現可能性を高めることが可能にならないでしょうか。角度を変えてみれば、企業業績と気候変動リスク対策の一石二鳥となる可能性を秘めているといえそうです。

TCFD開示では、リスクだけでなく機会(ビジネスオポテュニティ)もその対象としていますが、COVID-19対策においても同様に、その業績へのリスクだけでなく、ビジネスオポテュニティにも目を凝らすことも必要ではないかと考えます。

ご紹介:TCFD及びEUタクソノミーに関するKPMGジャパンのサービス等

KPMGジャパンでは、GSDアプローチによるTCFDアドバイザリーサービスを提供しています。
また、EUタクソノミーに関するご相談を受け付けています。
詳細は、ページ内の「お問合せフォーム」もしくは「ご依頼・ご相談 RFP(提案書依頼)」からお問い合わせください。
 

※ GSDアプローチとは、Gap analysis(TCFD最終提言とのギャップ分析)、Scenario analysis(シナリオ分析)、Disclosure analysis(開示内容・手法の妥当性分析)を指します。

執筆者

KPMGジャパン
コーポレートガバナンスCoE LEAD of TCFD group
テクニカルディレクター/公認会計士
加藤 俊治

TCFDを旅する ~サステナビリティを目指して~