流通業界の新モデルとは~ビジネスのヒントは異業種に~

「小売りの明日」第30回 - 新型コロナウイルス感染症の影響により、変革が求められている流通業において、ヒントとなるだろう「異業種への視点」について解説する。

新型コロナウイルス感染症の影響により、変革が求められている流通業において、ヒントとなるだろう「異業種への視点」について解説する。

東京・六本木に「文喫」という書店がある。2018年12月にオープンし、入場料を払って入店するのが特徴の「本と出会うための本屋」というコンセプトのもとで展開する書店だ。
入場料1500円(土日祝は1800円)を払って入店すると、時間制限なく滞在でき、コーヒーと煎茶はおかわり自由。店内にある約3万冊の本から自分好みの本を選び買って帰るもよし、閲覧スペースのソファや椅子に座ってゆっくりと読みふけるもよしだ(2020年5月執筆時点)。
従来の書店のモデルのように1種類の本を店頭に平積みするのではなく、1つの著書を1冊ずつしか置いていない。本との一期一会という状態だ。毎日のように新書が店舗に納品されることで、棚からはじき出されるかのように在庫や返品が増えてしまう従来モデルとも一線を画す。顧客は本との出合いや気づきを楽しみながら店内をまわり、食事やスイーツも楽しめる。
入場料を払うことで、じっくり多くの本を吟味したいという、こだわりのある人が多く集まっていることだろう。顧客にとっては本を選ぶだけでなく、1人の時間をゆったりと過ごす憩いの場でもあるのだ。カフェで長時間滞在し何杯かのコーヒーを頼む事と比較したらコストメリットにもつながる要素を保持している。選書サービスも展開しており、テーマを相談すると本を推薦してくれる。まさに本のコンシェルジュ的な役割も担っている。

入場料制という点において、流通業で思い浮かぶのは米コストコだが、コストコのような大型店・大量ロット購入でなくとも、文喫のようにお店を体験空間として捉えることで小型店の入場料制が成り立つ可能性は秘めている。
文喫のように異業種に学ぶことは多く、外食産業でもスシローがいち早く店舗での引き取りサービスを展開している。流通業でBOPIS(Buy Online Pickup InStore)と言われる、オンラインで発注した商品を店舗で引き取るモデルだ。アプリでテイクアウトの発注をし、出来上がりの時間に店舗のロッカーのような棚に取りにいくと、誰にも接することなく購入が完了する。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響下でのメリットは更に明確だが、接客の効率化、顧客の利便性向上という点では新型コロナウイルスに関係なく普遍的な利点と言える。新型コロナウイルスの甚大な影響により、流通業は今後新たな業態転換や統合が更に求められるだろう。既存マーケットが縮小することで新たなモデルやマーケットへの参入も迫られる。その際、ビジネスのヒントは同業ではなく異業種に多くあるはずだ。

ポストコロナの経済は異業種を意識したものになり、ピンチもチャンスも異業種への視点が重要になる。緊急事態の今、新たなモデルを検討するのか、縮小均衡に陥るのか、重大な決断を迫られる局面を迎えている。

 

日経MJ 2020年5月25日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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