日本企業はデジタル勝者になれるのか

「小売りの明日」第26回 - アメリカで急速に進む小売業のデジタル化について、米ニューヨークで開催された展示会「NRF2020 Retail’s Big Show」を例に紹介する。

アメリカで急速に進む小売業のデジタル化について、米ニューヨークで開催された展示会「NRF2020 Retail’s Big Show」を例に紹介する。

2020年1月11~14日で全米小売協会(NRF)主催の展示会「NRF2020 Retail's Big Show」が米ニューヨークで開催された。世界中から流通関係者とテクノロジー関係者が集結する世界的なリテールのイベントである。約800社が出展し、講演ではウォルマートやマイクロソフト、コールズ、イケアなど世界の小売ビジネスをけん引する企業のCEOやマーケティングの責任者が多数登壇した。
今や小売業はテクノロジー企業への転換期を迎えているとさえ感じるほどデジタルトランスフォーメーション一色だった。出展テーマもキャッシュレスを促進するための会計関連ソリューション、自動読み取りレジ、コードリーダー機器のほか、店舗での引き取りボックス、品揃えと棚の陳列を最適化する認証技術、物流、VR(仮想現実)など多岐にわたる。
中には数年前から必要とされるソリューションながら、今年も継続出展するブースもかなりあった。これはテクノロジー企業と小売企業とのスピード感の違いや温度差、組織を動かすことの難しさの表れではないだろうか。まだまだ浸透していないソリューションが多く出番を待っているのである。
それは会場を出て、周辺の店舗を見ると明らかだった。ニーマンマーカスというショッピングモールでは、デジタルの気配がまったく感じられない店も多く、そのような店は日曜日の日中にもかかわらず閑散としていた。

しかし、「発見の為にデザインされた店」をミッションとする「b8ta(ベータ)」はたくさんの人でごった返していた。ベータは1商品1品展示で店頭に在庫がなくレジもない。全ての商品の前にタブレットが設置され、そこで機能をアピールする動画が流れ、その場で決済できる。ECで決済して店舗に引き取りに来るというBOPIS(Buy Online Pick up In Store)の概念ではなく、店舗で決済して自宅に届けるというモデルだ。店舗はあくまで商品の魅力を体験してもらう場として位置づける「ショールーミング」が今後の1つの潮流として見てとれた。

2019年4月にウォルマートはニューヨーク郊外の店を人工知能(AI)実験店舗と位置付け、完全デジタル化した。店の天井にはカメラが1000台以上設置されて、AIが商品のパッケージを学習、顧客の動向に合わせて約3万点の商品の陳列を最適化する。既に成果につながっており、導入前よりも来店数が11%増、売り上げは20%増えたという。
小売業でこの数字は驚異的成果だ。同社トップによる「ウォルマートはAI活用の世界的なリーダーになる」との決断に始まる。デジタルトランスフォーメーションの成否は、経営者の覚悟と行動にかかっている。今後、多くの日本企業もデジタル勝者になるべく覚悟を決めるだろう。

 

日経MJ 2020年1月27日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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