流通業の新たなチャンスはデータビジネスにあり

「小売りの明日」第28回 - 流通企業でありながら、データを活用し広告収益も生み出している企業の具体例を紹介し、流通業におけるデータビジネスについて解説する。

流通企業でありながら、データを活用し広告収益も生み出している企業の具体例を紹介し、流通業におけるデータビジネスについて解説する。

新業態開発を経営の重要課題に掲げている企業は多い。新業態とは新たなビジネスモデル、もしくは新たな流通店舗のあり方を指す。以前本連載で紹介したニューヨークなどで展開している消費者の行動データを売る店舗を運営する米b8ta(ベータ)はレジ無し、店舗在庫無し、接客無しのモデルとして新しい流通業のあり方の1つと言える。
しかし、実はベータにはもう1つの新しいビジネスモデルも備わっている。それはデータビジネスである。
ベータの店内で商品の前に立つと、商品の横にあるタブレット端末の動画広告が流れ出す。消費者は商品の目の前で広告を見ることになり、これを広告効果と捉えて、メーカーから広告費をもらうのだ。流通企業でありながら、物販収益のみならず、広告収益を生み出している。

これは海外だけの話ではなく、既に日本でも展開する企業がある。代表的なのがマツモトキヨシホールディングスだ。米国ではウォルマートやホームデポなど多数の企業が既に展開している。これらの企業はベータのモデルとは異なり、自社の購買データとアプリのデータを統合することで、商品購入者に対して広告を展開している。メーカーをサポートし、共にブランディングやマーケティングに活用していくモデルだ。例えば、これは特定のメーカーのシャンプー購入者に、関連商品を提案することも、競合商品を提案することも可能にする。
従来のウェブ広告にあるサイトのアクセスデータをもとにした広告以上に、購買という行動に基づく広告であり、かつエリアも限定できるため大変有用性が高い。この広告モデルを流通企業が展開することで広告収益を既存事業に付加できるのだ。

流通業界は過当競争なうえに、異業種や海外からの参入も多い。この広告モデルを生かすことで、実店舗を持つ既存の流通業の集客にも寄与でき、流通・メーカー双方のメリットが創出できる。顧客接点がこれだけ多い産業は流通業以外にないだろう。この強みを生かしていくうえでデータビジネスは事業領域を広げ、強化できる有力な候補になる。

ただし、これはデータの蓄積があってこそである。データが蓄積されておらず、従来通りの現金決済が中心で、顧客IDとの紐付けがされていなければ、このビジネスは成り立たない。ネット通販ではなく、既存の流通業こそ顧客とのリレーション強化のためにデータの活用を中枢の課題に置くべきで、データ活用ができれば次のビジネスにつながるだろう。
新型コロナウイルス問題などの事態も起き、流通業の市場の先行きには懸念もある。だが、流通業のチャンスが異業種にあると捉えると、様々なヒントが見えてくる。

 

日経MJ 2020年3月23日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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