グループ通算制度移行に係る税効果会計のポイント

グループ通算制度移行に係る税効果会計のポイントについて解説します。

グループ通算制度移行に係る税効果会計のポイントについて解説します。

この記事は、「旬刊経理情報 2020年6月20日増大号」に掲載したものです。発行元である中央経済社の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

ポイント

  • 実務対応報告第39号の適用により、グループ通算制度の適用を前提とした税効果会計における繰延税金資産および繰延税金負債の額は、税効果適用指針44項の定めを適用せず、改正前の税法の規定に基づくことができる。
  • 実務対応報告39号に基づき特例的な取扱いを適用した場合、実務対応報告39号の取扱いにより改正前の税法の規定に基づいている旨を注記する。

はじめに

2020年3月に公布された「所得税法等の一部を改正する法律(令和2年法律8号)」(以下、「改正法人税法」という)では連結納税制度を見直し、グループ通算制度へ移行することとされており、グループ通算制度は2022年4月1日以後開始する事業年度から適用される。
グループ通算制度の適用は、税効果会計の会計処理にも影響を与える可能性がある。そのため、企業会計基準委員会(ASBJ)は、2020年3月31日に、必要と考えられる取扱いを定めた実務対応報告39号「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い」(以下、「実務対応報告39号」という)を公表し、同日以後適用されている。
本稿では、グループ通算制度および実務対応報告39号の概要ならびに実務上の留意点を解説する。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添える。

グループ通算制度の概要

グループ通算制度とは、完全支配関係にある企業グループ内の各法人を納税単位として、各法人が個別に法人税額の計算および申告を行い、そのなかで損益通算等の調整を行う制度とされている。
適用法人の範囲、損益通算や欠損金の通算が可能である点は、おおむね連結納税制度と同様とされているが、大きな特徴として、企業グループ全体を1つの納税単位とする方法から、企業グループ内の各法人を納税単位とする方法に枠組みが変更される点(「一体申告方式」から「個別申告方式」への変更)があり、各法人が法人税額の計算および申告を行うことになる。これにより、損益通算・欠損金の通算のメリットを享受しながら、連結納税制度と比べて大幅な事務負担の軽減を図ることが可能とされている。
2022年4月1日以後に開始する事業年度においては、連結納税制度の承認はグループ通算制度の承認とみなされるため、連結納税制度を適用している企業は、所定の手続きをしなければ、自動的にグループ通算制度に移行することになる。

実務対応報告39号の概要および実務上の留意点

(1)範囲

実務対応報告39号では、改正法人税法の成立日の属する事業年度において連結納税制度を適用している企業および改正法人税法の成立日より後に開始する事業年度から連結納税制度を適用する企業を対象としている。
したがって、3月決算企業の場合、2020年3月期において連結納税制度を適用していない場合であっても、たとえば当第1四半期決算日までに連結納税の承認を受けた場合には、翌事業年度より連結納税制度を適用するものとして、実務対応報告39号の対象になると考えられる。

(2)会計処理

企業会計基準適用指針28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下、「税効果適用指針」という)44項では、繰延税金資産および繰延税金負債の額は、決算日において国会で成立している税法に規定されている方法に基づき将来の会計期間における減額税金または増額税金の見積額を計算するとされている。

この点に関して、実務対応報告39号3項ではおおむね次の会計処理が定められている。

改正法人税法の成立日以後に終了する事業年度の決算(四半期決算を含む)において、グループ通算制度の適用を前提とした税効果会計における繰延税金資産および繰延税金負債の額は、税効果適用指針44項の定めを適用せず、改正前の税法の規定に基づくことができる。

当該会計処理の対象は次の項目とされている。

  • グループ通算制度への移行
  • グループ通算制度への移行にあわせて単体納税制度の見直しが行われた項目

ここで、「グループ通算制度への移行にあわせて単体納税制度の見直しが行われた項目」とは次の項目を指している。

  1. 受取配当等の益金不算入制度
  2. 寄附金の損金不算入制度
  3. 貸倒引当金
  4. 資産の譲渡に係る特別控除額の特例

当該単体納税制度の見直しはグループ通算制度を適用しない企業も対象となる。
したがって、実務対応報告39号の対象範囲に含まれない企業は、当該単体納税制度の見直しを考慮しなければならない一方、実務対応報告39号の対象となる企業では、これらを考慮せず改正前の税法の規定に基づくことができることとなる。

また、前述の実務対応報告39号の会計処理が適用されるのは、次の実務対応報告に関する必要な改廃をASBJが行うまでの間とされている。

  • 実務対応報告5号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その1)」(以下「実務対応報告5号」という)
  • 実務対応報告7号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その2)」(以下「実務対応報告7号」という)

連結納税制度を適用する場合の税効果会計の適用に関する取扱いは、実務対応報告5号および実務対応報告7号に定められており、これらは連結納税の範囲に含まれる連結会社群が法人税法上同一の納税主体となることを前提としている。そのため、連結納税制度とグループ通算制度では納税主体等が異なることを踏まえると、グループ通算制度に基づいた繰延税金資産の回収可能性の判断についての考え方の整理が必要であるとしている。
ASBJが公表している「現在開発中の会計基準に関する今後の計画」(2020年5月1日公表版)では、前記の実務対応報告の改廃を2021年3月までに行うことを目標としている。新たに開発される会計基準等ではグループ通算制度に基づいた繰延税金資産の回収可能性の判断についての考え方が明らかにされると考えられるので、今後の動向に留意が必要と思われる。

(3)開示

実務対応報告39号に基づき特例的な取扱いを適用した場合、原則的な方法による場合と見積りの基礎が異なることとなる。そのため、実務対応報告39号の取扱いにより税効果適用指針44項の定めを適用せず、改正前の税法の規定に基づくこととした場合、繰延税金資産および繰延税金負債の額について、実務対応報告39号の取扱いにより改正前の税法の規定に基づいている旨を注記することとされている。
実務上は、当該事項を追加情報として注記することが考えられる。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
シニアマネジャー 公認会計士
三宮 朋広(さんのみや ともひろ)

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