気候関連の開示への準備

気候関連の開示への準備

気候変動および関連リスクは、保険会社の引受業務や投資のみならず、業務活動にまで甚大な影響を及ぼします。

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TCFDの提言は保険会社にどのように影響するか

気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は、2015年の設立と2年後の最初の提言の公表以来、またたく間に多様な金融サービス分野の組織から大きな賛同を集めるようになりました。

気候変動リスクは当然のことながら、現在の経済とコミュニティが直面する重要問題の1つとして、ますます認識されるようになっています。世界経済フォーラム(WEF)は、気候リスクを私たちが直面する脅威のトップに過去4年連続で挙げており、最近では、「気候変動は多くの予想よりも深刻かつ急速に襲いかかってきている」という批判的所見を発表しています。新型コロナウイルス感染症は、急激にであれ累積的結果としてであれ、自然現象がこれまで想像もしなかった経済的社会的混乱を引き起こしうることを明らかにしました。

行動の機運は高まっています。たとえば、いくつかの主要機関投資家が大胆な動きを見せています。ブラックロックのCEOであるラリー・フィンクは、気候変動を自社の投資戦略の中心に据え※1、ゴールドマン・サックスは、気候を中心とする分野に1兆ドルの融資と投資を約束しました※2


※1A Fundamental Reshaping of Finance
※2Goldman Sachs’ commercially driven plan for sustainability

TCFDの柱

今日、900以上の組織が公式にTCFDを支持し、その提言は気候関連開示のグローバルスタンダードとなっています。その理由は明白です。TCFDの議長であるマイケル・ブルームバーグが述べるとおり、「透明性が高まればますます効率性が増し、経済はいっそう安定してレジリエントになる」からです※3

TCFDの提言は、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標という4つの柱からなり、各々に対して開示が提案されています。ここでは各柱の詳細を述べることはできませんが、効果は大きいとだけ述べておきます。


※3Task Force on Climate-related Financial Disclosures

気候関連財務情報開示に関するタスクフォースの4つの柱
気候関連財務情報開示に関するタスクフォースの4つの柱

出所:Task Force on Climate-related Financial Disclosures

戦略の柱における次の短い提言を取り上げましょう。「2度またはそれ以下のシナリオも含め、気候関連のさまざまなシナリオを考慮に入れて、組織の戦略のレジリエンスを説明する」。これはおそらく、かつて存在した最も複雑な開示の提言と言えるでしょう。たとえば、参照すべき過去のデータも、共通の同意が形成された一連の気候関連シナリオや進展経路もなく、気候関連のインパクトに関する評価および定量化の方法論(気候科学、マクロ経済モデル、保険数理モデルを統合する方法など)に一貫性もなく、この要件を満たすには途方もない困難が伴います。繰り返しになりますが、新型コロナウイルス感染症は、グローバル経済の景気後退の持続性を評価する際の重要なポイントとなるでしょう。

保険会社にとっての意味

明らかに保険会社は、気候変動および関連リスクが、保険会社の引受業務や投資のみならず、業務活動にまでも甚大な影響を及ぼすと認識しています。TCFDの提言は、保険会社の全領域に取り組み解決する必要のある課題があることを意味しています。
注目すべきことに、TCFDはまた、保険会社とアセットオーナーのために考慮すべき追加ガイダンスも提供しています。

 

損害保険と熟考すべき問題

損害保険会社を最初に取り上げましょう。損害保険会社は気候変動の危険をすでに十分認識していますが、気候変動に関する自社の戦略をよりうまく評価し説明する必要があります。どのように対処しているかを明らかにし、自社のポートフォリオがさまざまな時間軸でどれだけレジリエントかを示す必要があります。

損害保険会社は、予想される気候変動の影響が自社の保険数理モデルに確実に反映されるようにする必要があります。それは、自社が提供する保障範囲に調整が必要となるか、保険料構造に変更が必要か、特定の産業セグメントへの商業的エクスポージャを再検討する必要があるかといった問題を考えることを意味します。

一部の事例では、保障範囲を拡大する機会でもありえます(必要なデータソースと引受モデルが開発されれば、洪水に対する保険を提供するなど)。しかし、他の特定リスクや地域に関しては、保障範囲を縮小しなければならないかもしれません。たとえば、カリフォルニアでは火災保険の提供が次第に難しくなってきています。

TCFDの提言は、急性リスク(頻度と激しさが増しているハリケーンなど)と慢性リスク(森林火災の後に台風による洪水が続くという、オーストラリアで見られるような「複合極値」や※4、オーストラリアで繰り返し襲う熱波により住宅への不法侵入が増加するといった長期的傾向など※5)の両方に関して、分類しエクスポージャを報告するよう求めています。ビッグデータの洗練された利用は、損害保険会社が予期せぬ相関関係を特定するための分析にますます必要となるでしょう。

 

自動車保険は低迷するか

移行リスクの検討は、自動車保険事業にとって特に重要となるでしょう。低炭素経済への波が広範に押し寄せれば、車両の種類や使用方法が変化します。交通シェアリングの利用が増えると、時間ベースの保険(固定額の年間保険料を支払う保険)よりも、使用ベースの保険(「運転行動連動型:PAYG」の保険)のニーズが増します。

一方で、自動運転車が登場してくると、事故の法的責任の問題を解決することが急務となるでしょう。

TCFDの提言では、そのような傾向の戦略への影響を開示することが期待されます(重大な情報である場合)。

 

複雑な生命保険

生命保険会社に関しては、影響を受ける可能性が低いように見えるかもしれませんが、それでも考えなければならない重要な問題があります。前例のない平均気温の上昇のような慢性の物理的リスクが、感染症の地理的拡大および感染率の上昇と組み合わされば、死亡率と罹患率に予期せぬ影響をもたらす可能性があります。保険会社はそのような傾向が統計表に現れるのを待つのではなく、そうしたシナリオを事前にモデル化する必要があります。

生命保険会社はまた、医療機関や歯科医療機関などの従業員層に保障を提供すれば、団体給付の領域で大きな存在感を放つかもしれません。ここでもまた、予期せぬ2次的または3次的影響がありえます。たとえば、気候変動により薬に使用される何らかの自然由来の素材が不足し、その結果として薬剤コストの上昇を招くかもしれません。保険会社はこれをどのように織り込み、損失を被るのをいかに避けるべきでしょうか。

最近の動向としては長期介護の保障の提供があります。これらは生命保険との混合商品となるかもしれません。保険料は、複数年の保険料保証と死亡時の保険料の返還とともに、保険契約の存続期間中支払われる場合もあれば、定められた契約応当日/年齢まで支払われる場合もあります。保険会社はここでもまた、これらの商品の構成や価格設定に際して、気候変動が寿命や健康、保険対象費用に及ぼしうる影響を熟考する必要があるでしょう。

 

投資への監視

投資の面でも影響があります。保険会社自体が重要な機関投資家です。TCFDの提言にはどの株式や活動が投資対象として許容されるかについて述べられてはいませんが、指標と目標の柱には、アセットオーナーが投資ポートフォリオのカーボンフットプリントを開示するための補助ガイダンスがあります。TCFDはカーボンフットプリントが必ずしもリスクの1つの尺度とはならないこと、さまざまなデータや方法論的制約に依存することを認めてはいますが、そのような開示により必然的に、機関投資家が自社の資金をグリーンでサステナブルな事業や企業に投資しているかどうかがますます注目され、問われることになります。


※4The Fires Are Out, but Australia's Climate Disasters Aren't Over
※5Issues Paper on Climate Change Risks to the Insurance Sector

待ち受ける難題

それでは、これらすべてはどこで保険会社に課され、どのような事態が待ち受けているのでしょうか。簡単に述べると、すぐにも難しい事態になる可能性があります。

提言は義務づけられることになるでしょうか。

現時点では、TCFDの提言は任意ですが、マーク・カーニーやその他の人々は、特に規制対象セクターにおいて義務づけられることを望んでいると述べています※6。業界規制当局の他にも、証券規制当局や証券取引所はTCFDを非常に真剣に受け止めています。
金融セクターの規制当局はストレステストを重視する傾向があり、ある時点での単一の事象の影響をモデル化することを要求します。しかし、TCFDの提言は、広い意味でのシナリオ分析に重点をおいており、企業はより長い期間にわたる複数の変数の結果をモデル化する必要があります。これはより難しい課題です。

自発的なTCFDの導入が加速し、規制当局が実際にTCFDを義務化するのが遅れた場合、スケジュールが大幅に早められる可能性があります。多くのクライアントは現在、TCFDの実施に3年強の予定で取り組んでおり、将来シナリオ分析の開示ができるようにと、まず定性的開示に集中しています。規制当局が予定を早めた場合、計画の大幅な加速が必要となるでしょう。

開示の場所もまた重要です。現在、報告は任意であり、サステナビリティレポートにおける詳細な開示と年次報告書における要約情報という混合型が一般的です。義務化されれば、おそらく、年次報告書においてより長い詳細な開示が求められるでしょう。


2次的、3次的影響

レポートの他にも難題があります。すでに見たように、気候変動リスクの2次的、3次的影響を特定することが不可欠ですが、これは難しいことです。保険会社は気候変動から起こりうるすべての結果にわたり注意する必要があります。どのシナリオが最も実現する可能性が高いかだけではなく、可能性を特定し、自社の戦略が気温上昇と移行の複数のシナリオにわたりどの程度レジリエントかを検討する必要があります。その上で、保険会社と再保険会社は実現しそうなシナリオが次第に明らかになるにつれ、戦略と保障を機敏に順応させる必要があります。


哲学的な問い

しかし、もう1つの大きな難題は、およそ哲学的なものです。2019年には大災害により世界で約1,500億ドルの損失が生じましたが、保険によりカバーされたのはわずか500億ドルです ※7。私たち業界は、これらの費用の3分の2が事実上政府の緊急出資(すなわち税金)によりカバーされたことを喜ぶべきでしょうか。私たちは個人として、直接的あるいは間接的にこれらの増大する無保険の損失を負担する用意があるでしょうか。新型コロナウイルス感染症の流行で政府が前代未聞の負債を負ったことを考えると、納税者はこの負担を負い続けることができるでしょうか。

これは今後、気候変動の影響が大きくなるにつれ、ますます注目が集まる可能性の高い問いです。業界としては、保険会社は率先して政府、規制当局、ステークホルダーに関与し、革新的商品を提供し、クライアントおよびより広範なコミュニティを支援する必要があります。

気候変動自体との戦いの他にも、保険会社がすべき多くの課題があり、時間は限られているのです。


※6Task Force on Climate-related Financial Disclosures
※7Tropical cyclones causing billions in losses dominate nat cat picture of 2019.(2020, January 08). MunichRe

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