経営者の意思が問われる - 報告書作成より大切なこと

経営者の意思が問われる - 報告書作成より大切なこと

不確実性に満ちたコロナ禍の中では、現状をふまえて将来を考える「フォーキャスト」と、将来からみて現状の施策をかたる「バックキャスト」、双方の視点を有する必要があります。

芝坂 佳子

KPMG サステナブルバリュー・ジャパン パートナー

あずさ監査法人

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不確実性に満ちたコロナ禍の中では、現状をふまえて将来を考える「フォーキャスト」と、将来からみて現状の施策をかたる「バックキャスト」、双方の視点を有する必要があります。そして、経営者に求められるのは「バックキャスト思考」です。経営に関わる様々な利害関係者との連携を再定義し、リスクマネジメントの視点からの多様性を活かしつつ、自らが定義したパーパス(存在意義)実現にむけた施策の内外からの共感を得ようとする経営者の意思と誠実さが、ニューノーマルにおける企業価値向上の前提であるといえましょう。

バックキャストとフォーキャスト

新型コロナウィルス感染症の影響を受け、節目ごとの様々な報告資料をどう記載すべきなのか、に苦心している担当者の方も多いと思います。もちろん、IRの現場で奮闘しておられる方にとっては、「何をどこまでどう書くか」「予想はやはり記載すべきなのか」「なるべく修正はしたくない」などなど、いま、現状をどう分析するのか、が大きな課題になっているでしょう。しかし、報告内容について責任を有し、それを遂行する人は誰でしょうか?これまでの延長線上や過去の経験に基づく予測可能な環境であれば、一番現場を知る人たちが適切なのかもしれません。しかし、今は「想定外」の事態に直面しており、今の延長線上で予測可能な領域には限界があります。

「ゲームのルール」が大きく変わってしまった今、浮かび上がってくるのはリーダーであるCEOの説明責任に対する誠実さであり、リーダーシップの在りようです。さらには、平時において、どのようなコミュケーションを培ってきたかが、非常時におけるレポーティングの質を左右することが、財務・非財務といった領域に関わらず、如実にあらわれてきています。

その成果は、実務に対応しておられる方々による「フォーキャスト」の視点と、経営者がコロナ禍を契機とするニューノーマルで実現を目指す自社の価値を明確にした長期視点に根差した「バックキャスト」の視点を統合させた報告によって示されます。

長期的な視点を有する責任ある投資家は、その二つに関わる内容の整合性や結合性に関心を有していますし、対話のテーマとして取り上げていくでしょう。今回のコロナウィルス感染症は、環境問題を含む社会的課題と企業経営、そして、その結果である財務的価値の性質や、社会的価値を包括した企業価値との関係の深さをはっきりと顕在化させ、これらの課題に対する様々な取組を加速する必要を迫っているのです。

再考「マルチステークホルダー」

グローバルで活躍する投資家が主たる構成メンバーであり、長期的な視点を有する責任投資を推進している団体であるICGN(International Corporate Governance Network)は、2020年3月12日付でICGN Viewpointという文章を公表しています。2020年3月期の決算にあたっては、内外と問わず多くの投資家団体が、従業員(いいかえれば人的資本)や関係先への配慮と、企業決算の正確性や質を確保する必要性について言及し、「従来のやり方」や「慣習」に捉われない対応を求めるものでした。

一方で、このViewpointは、After/Withコロナの時代における持続的な価値向上を実現するために、経営者と投資家がともに考え、対話すべき内容について指摘をしています。全部で12項目が提示されていますが、今回は、その中で、「従業員、顧客、サプライチェーン、地域経済への影響についての見解」という項目について考えてみたいと思います。

2020年7月にPMI(Philip Morris International)が、The Statement of Purposeを公表し、この文章は、制度か任意かを区別せず同社によるほとんどの公表文書に組み込まれました。海外、国内問わず多くの企業が「Purpose」を明らかにしていますが、公表されたPMIのThe Statement of Purposeは、ニューノーマルの時代における自社の立ち位置を見直し、経営課題に対応する際の課題(言い換えればマテリアリティ)への認識とその対応を進める際の根幹となる方針が理解できるものとなっています。

米国Business Roundtable が公表したThe Statement on the Purpose of a Corporationは広く関心を集めました。しかし、残念ながら多くの誤解も生んでいるようです。よくある誤解が「株主資本主義」と「マルチステークホルダー資本主義」との二項対立で論じられるものです。これでは、より複雑性と不確実性が顕著となったwith/afterコロナの時代に対応することはできないでしょう。

確かに、行き過ぎた株主「中心」主義が、持続的な企業価値の向上を目指す施策と矛盾する側面は否定できません。しかし、一方で、企業が期待されている第一の責任は、事業を通じて価値を創出し、結果として社会的厚生の向上に貢献することです。つまり「利益(財務的価値)の創出」は企業がもっとも優先すべき事項であり、この活動に貢献したならば、それ相応の便益を得ることは当然のことです。

ICGNが投資家との対話の項目に「従業員、顧客、サプライチェーン、地域経済への影響についての見解」を入れているのは、取締役会を構成する経営に責任を有する人たちが、企業価値との影響において、様々な関係者との関係性を見つめる必要性を表しているものです。「誰が一番大切か明記する」なのではなく、「それぞれがどのように関わっているかの考え方を示す」なのです。この結果、当然のように「株主」だけではなく、価値創造ストーリーを構成する様々な存在を意識していくことに繋がっていくのです。

先に紹介したPMIのStatementにおいて、自社のPurposeを実現するために、そのカギとなる「ステークホルダー」を特定し、それぞれの役割について記載しています。その結果として、株主にむけて、取締役会の総意として実現にむけたコミットメントを表明しており、Purposeへの意思がはっきりと伝わってくるのです。

リスクに対応するための取締役会の多様性

新型コロナウィルス感染症の拡大は、判断や決定において、どれだけ多角的な視点を持ちうるか、あるいは、どれだけ多様な専門性を結集しうるか、についても多くの課題を残しました。多様性を活かせるかどうかは、経営者がどれだけ自らの判断に客観性を持ちうるかに繋がっているのではないでしょうか?同調圧力の排除に敏感であることも必要でしょう。加えて、「これまで」の延長線上で検討できない社会の中では、どれだけ想像力を発揮できるかも問われます。そのためには、柔軟な思考を維持する姿勢も大切でしょう。

多くの経営者は、申し上げるまでもなく日々、これらの事柄に配慮しておられると思います。しかし、外部にその姿勢に対する理解の獲得には、「きちんと見せる」ための配慮も一方で求められます。コーポレートガバナンスの実効性を「外部から」評価するために、多様性の質が着目されるには、まさにそのためなのです。換言すれば、「どのような軸の多様性が必要なのか」も検討すべきです。例えば、ジェンダーダイバーシティの位置づけは業種や企業にとって異なるはずです。

今回の新型コロナウィルス感染症への対応の中で、これまでのリスク認識で十分に機能しなかった部分も明確になってきていると思います。Afterコロナの戦略立案の中で検討するとともに、実現にむけた価値創造ストーリーの中に、どう組み込んでいくのかを、バックキャストから語ることで、この危機を超えた先の企業の存在意義実現への道筋への共感獲得へとつながっていくと考えます。

執筆者

KPMGジャパン
コーポレートガバナンス センター・オブ・エクセレンス
パートナー 芝坂 佳子

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