試練の壁をどう打ち破るか? 新規事業に「守破離」が効く理由

試練の壁をどう打ち破るか? 新規事業に「守破離」が効く理由

新型コロナウイルスの感染拡大によって、企業は試練の時を迎えています。多くの場合、過去の延長線上では、ビジネスの成長や進化の見通しが立てづらい状況になっており、事業変革が急務となっています。

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しかし裏返せば、これまでの価値観が強く揺さぶられているいまだからこそ、未来へと挑戦していく人々にとっては、最大のチャンスであるように思えてなりません。

そんな状況のなかで、とても参考となる「守破離(しゅはり)」という考え方についてお伝えしたいと思います。変化の時だからこそ、私たちが心にとどめるべきヒントが込められています。

日本企業の衰退の大きな要因

昭和の時代には、日本では多くの企業が生まれ、いくつもの企業が世界でも知られる大企業となっていきました。一方、平成の時代では、そのような大きな企業はほんのわずかしか生まれませんでした。もちろん、昭和が約61年間、平成が約30年間と長さの違いがあるため、単純に比較するのは適切ではないでしょうが、昭和の終わりから平成の始まりにかけてのいわゆる日本経済のバブル期(1986年〜91年)には、多くの日本企業が時価総額で世界ランキングの上位を占めていました。

しかし、今日では、米国のGAFAや中国のIT企業など、1990年以後に創業された企業が数多くランキング入りしている一方で、日本企業はほとんど入っておらず、寂しい限りです。

この日本企業の衰退については、多くの要因があると思いますが、以前は企業の中に自然と根付いていた「守破離」という経験と思考のプロセスが、著しく欠けてしまったことが最大の要因であるのではないかと、私は考えています。

ビジネスにも役立つ「守破離」の考え方

「守破離」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。武道や芸術の世界において師弟関係のあり方について使われる言葉ですが、これがビジネスの世界においても重要なキーワードになると考えています。

この言葉は、1500年代の戦国時代から安土桃山時代の茶人として知られる千利休が詠んだ「規矩作法 りつくしてるとも るるとても本を忘るな」という和歌に由来するものと言われています。つまり、師匠からの教えを「守る」フェーズが最初で、その次に師匠の型を「破り」型を産み出すフェーズに移行し、最後にその自らが創造した新しい型を持って師匠から「離れる」ことを示したものとされています。

この「守破離」という言葉を、ビジネスに当てはめて考えると、なるほどと納得できるものがあるのです。社会人となって上司から仕事の基本を学び、自身で業務を勤め上げることができるようになることが「守」。上司から学んだ基礎のうえに、創意工夫して独自の仕事のスタイルを確立させ、自身の意思で方向性を決めていくことが「破」。そして、さらに自身のスタイルを前進させ、上司から完全に独立し、独自の価値提供をできる存在になることが「離」。まさにぴったりとくる言葉なのです。

私が「守破離」という言葉に出会ったのは、社会人になった頃に手にした日本武道に関する書籍であったと記憶しています。その後しばらくの間は「守破離」について考えることもなく過ごしていくのですが、ゲームプラットフォーム開発責任者に就任した頃にこの言葉の意味を実感として捉えることになりました。

ゲームプラットフォームのフルモデルチェンジというのは、5〜6年に一度の頻度で、発売後10年の寿命を見通す必要がある大事業。これまでのモデルの良いところを学び、踏襲しつつ、新たな価値提供の創出する、まさに「守破離」を体現するようなものです。

検討する際には、つい時流やトレンドを過剰に意識してしまうものですが、私たちはむしろ創業当時からの歴史を振り変えることからはじめました。そして、ゲームプラットフォームのアイデンティティを明確に定義し、そこから開発を始めたのです。

これは、当時の社長が「子は親を超える義務がある」と「守破離」に通じる教えを常々発していたことに触発されたものでもあります。親を超えるには親を知る必要が自ずと出てくるのです。

今振り返れば、当時のゲーム業界は大きなターニングポイントにあったと思います。ネットワーク環境が飛躍的に進化し、オンラインを利用したコンテンツ配信やサービス提供が非常にスムーズにできるようになったことで、開発の幅が広がっていたからです。

しかし、そんな時流のなかでも私たちは、新技術だけに着目するのではなくて、創業以来の「ゲームを楽しむ」体験をより豊かなものにするという信念を見つめ直しました。「親を超える」ための新たな要素を創造し、新たな価値を提供するに至ったのです。

結果として、従来の光ディスクを使ったパッケージコンテンツに加えて、世界規模でのネットワーク配信インフラを構築、ネットワークコンテンツの提供をも実現することができました。

こうしてできたプラットフォームが、創業当時を遥かに上回る事業規模と収益規模となったのは嬉しい限りです。このような成果が達成できたのは、まさに「守破離」の考え方が私だけではなく、当時のチームにも深く浸透していたからだと考えています。

事業「運営」ではなく事業「経営」を

多くの企業人は、少なからず、その企業を創業し大きくしてきた創業世代への尊敬の念を抱きながら、日々の業務にあたっているのではないでしょうか。これは、創業の意思を自身のものとして社会と向き合い貢献するすべを探求する、社会における自己確認の作業であり、アイデンティティの問題とも関係すると言えるかもしれません。

もちろん、創業世代への尊敬の念は大事なものではありますが、それが崇拝であった場合、そしていつまでもそれに固執した場合、企業の成長や社会の発展に寄与することはできないと、私は考えています。

創業世代からすれば、早く自分たちを追い越し、世界を圧倒する事業を創造して欲しい、新しい価値を社会に提供をしてほしいと願っていることでしょう。ひと足飛びに創業者の偉業を越えることは容易ではありませんが、後進の人間たちが創業世代の偉業に届かないのであれば、その企業が縮小していくのは容易に想像できると思います。

現代のビジネス環境は猛烈なペースで変化し、時にはこれまでの常識が覆るような大きな変化や根本的な変化をもたらす事象も起きています。このような激しい変化の時期に、単調に事業運営しているだけでは、この大きな波を乗り越えることはできません。現在の日本企業では、前任者や上司の教えを金科玉条のように守り、「事業経営」ではなく、単に「事業運営」をしているだけのような例が多く見受けられます。

ビジネスに従事している限りは、まずは前任者を超える、そして次に上司を超える、さらには入社した頃の役員や社長、そして創業者の成果を越えることを目指すべきです。必ずしも同じ事業領域にこだわる必要はありません。さらには、その企業を離れて新たな企業でチャレンジしてもいいのです。過去に事例があるように、あえて子会社を選び、親会社を追い抜くような存在に成長させることを目指すのも良いかと思います。

多様なキャリアや働き方が許容される現代においては、チャレンジの選択肢は無限に広がっているのです。

バブルの破綻以後「失われた30年」などと言われるようですが、最近では、ひと昔前までは日本では皆無であったエンジェル投資やベンチャーキャピタリストによる投資も活発に行われるようになり、数々の有望なスタートアップも生まれてきています。

ユニークな視点や未知の市場を目指したさまざまな新たな試みが行われており、ユニコーンと言われる規模に成長したスタートアップも続々と現れ始めました。私は、こういった状況に大いに期待しており、今後の成果が楽しみでなりません。

皆さんも「守破離」を心に刻み、現行事業の価値を超える新しい事業の創造に挑戦していただければと思います。多くの事業が過去の延長線上での成長や進化に苦労しているいまだからこそ、そしてこれまでの価値観が強く揺さぶられている時だからこそ、新たな挑戦をしていく人々にとっては最大のチャンスなのです。

※この記事は、「2020年7月28日掲載 Forbes JAPAN Online」に掲載されたものです。この記事の掲載については、Forbes Japanの許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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