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新型コロナ影響下における有価証券報告書の留意点

新型コロナ影響下における有価証券報告書の留意点

2020年3月末以降に年度末決算を迎える企業の有価証券報告書における開示に焦点を当て、実務上で問題となる留意点を解説します。

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新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)の世界中での感染拡大は、多くの企業の事業活動に影響を与えています。ロックダウンや外出規制等の感染拡大防止措置は経済に甚大なダメージを与えており、現在、これらの措置は世界各地で緩和されつつありますが、規制の緩和により感染が再拡大するリスクもあり、感染拡大防止措置と企業活動のバランスについては重大な不確実性が存在しています。2020年3月は、世界中で感染が拡大し始めた月にあたり、売上の減少等により、新型コロナの直接の影響を受けている企業も多いことと思います。また、2020年3月末の財務諸表では、将来の不確実性をどのように会計上の見積りに反映させ、適切な開示を行うのかが重要な会計上の論点となっています。本稿では、このような将来の不確実性が存在する中において2020年3月末以降に年度末決算を迎える企業の有価証券報告書における開示に焦点を当て、日本基準とIFRS基準の両基準の観点から、実務上で問題となる留意点を解説します。なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。また、本稿は6月1日時点の情報に基づいており、その後新しい情報が公表されている場合もありますので、ご留意いただければと思います。

Point1 会計上の見積りに関する開示
新型コロナにより不確実性が増大し、見積りの不確実性が財務諸表利用者に重要な影響を及ぼす場合には、追加情報の開示(日本基準)または見積りの不確実性の発生要因の開示(IFRS基準)が必要になると考えられる。

Point2 後発事象の開示
新型コロナの感染拡大が継続するなか、会計上の見積りに関する修正後発事象と開示後発事象の線引きは明確ではないとも考えられ、財務諸表利用者に対する適切な開示が必要と考えられる。

Point3 継続企業の前提の開示
新型コロナは事業活動に重大な影響を及ぼしており、継続企業の前提について検討が必要となる企業が増加すると考えられる。

Point4 有価証券報告書等における「経理の状況」以外での開示
2020年3月期からリスク情報のより詳細な開示と会計上の見積りの補足情報の開示が要求される。新型コロナの影響をどのように開示するか検討が必要と考えられる。

I. はじめに

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の世界的な感染拡大とその防止措置により企業活動に甚大な影響が及んでいます。新型コロナは、決算業務・監査業務にも影響を及ぼしています。2020年4月14日、金融庁は、有価証券報告書等の提出期限を一律に9月末まで延長する内閣府令の改正を行いました※1。その翌日、日本公認会計士協会及び経団連等で構成される「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会」は、共同声明「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について」を発出し、会社法の計算関係書類の定時株主総会における報告が例年とは異なるスケジュールで運営できることを示し、決算業務や監査業務に従事する者の安全確保に十分な配慮を行いながら、柔軟かつ適切に決算及び監査の業務を遂行していくことを求めました。
上記の措置により、6月末までに有価証券報告書を提出していない3月決算企業もあるのではないかと思われます。そのため、本稿では2020年3月末以降に年度末決算を迎える企業の有価証券報告書において留意すべき開示を取り上げたいと思います。
 

※1 金融庁ホームページ

II. 日本基準

1. 会計上の見積り

財務諸表を作成するうえでは、様々な会計上の見積りを行うことが必要とされています。会計上の見積りが必要となる例としては、棚卸資産の正味売却価額の算定、固定資産やのれんに対する減損損失の認識及び測定、貸倒引当金の算定や投資有価証券の減損損失の認識、繰延金資産の回収可能性の評価、その他の引当金の計上などがあります。感染拡大防止のために前例のない措置が取られており、新型コロナによる将来の不確実性を考えると、これらの会計上の見積りを行うことは容易ではないと思われます。
このような状況の中、企業会計基準委員会(ASBJ)は、会計上の見積りに関して、議事概要「会計上の見積りを行ううえでの新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」を公表しました。議事概要は、会計上の見積りの定義が「資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出すること」※2であるとし、以下の点を指摘しました。

  • 「財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出する」うえでは、新型コロナの影響のように不確実性が高い事象についても、一定の仮定を置き最善の見積りを行う必要があると考えられる。
  • 一定の仮定を置くにあたっては、可能な限り外部の情報源に基づく客観性のある情報を用いることが望ましいが、それができない場合には、今後の広がり方や収束時期等を含め、企業自ら一定の仮定を置くことになる。
  • 企業が置いた一定の仮定が明らかに不合理である場合を除き、最善の見積りを行った結果として見積もられた金額が事後的な結果と乖離したとしても、誤謬にはあたらないと考えられる。
  • どのような仮定を置いて会計上の見積りを行ったかについて、財務諸表利用者が理解できるような情報を具体的に開示する必要があると考えられ、重要性がある場合には、追加情報としての開示が求められると考えられる。

追加情報は、財務諸表等規則第8条の5において、「この規則において特に定める注記のほか、利害関係人が会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する適正な判断を行うために必要と認められる事項があるときは、当該事項を注記しなければならない」と規定されています(連結財規は15条で同様の取り扱い)。重要性が認められないものについてまで追加情報の開示は求められていませんが、利害関係人が会社の状況に関する適正な判断を行うために必要と認められる事項があるときは、当該事項を注記しなければならない(当該注記を省略することはできない)とされています。したがって、会計上の見積りの不確実性が財務諸表利用者の判断に重要な影響を及ぼす場合には、追加情報としての開示が求められると考えられます。なお、会社法の計算書類及び連結計算書類にも、財規及び連結財規と同様の趣旨の追加情報の注記があります(会社計算規則98条及び116条)※3
日本公認会計士協会(JICPA)も、会計上の見積りに関して、「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その2)」を発出し、以下の指摘を行っています。

  • 最善の見積りは企業自身が行うものではあるが、「明らかに不合理」なものであってはならない。監査人は、企業が行った見積りが、過度に楽観的又は過度に悲観的な傾向を示していないことを確かめる。
  • 会計上の見積りに関して、将来の利益やキャッシュ・フローの予測が行われている際には、企業の事業活動にマイナスの影響を及ぼす情報及びプラスの影響を及ぼす情報の双方を含む入手可能な偏りのない情報に基づき、企業固有の事情を加味して説明可能な仮定及び予測に基づいて見積もっていることを確かめる。
  • 企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」※4は、2021年3月31日以後に終了する会計年度から適用されるが、早期適用も認められている。したがって、当基準にしたがって、会計上の見積りに使用される情報、主要な仮定及び翌年度の財務諸表に与える影響を開示することは財務諸表利用者の意思決定に資すると考えられ、状況に応じて、早期適用について検討する企業もあると考えられる。

ここで、追加情報の注記に何を記載すべきかは、各企業の置かれている状況に鑑み企業自身が判断すべきものですが、3月末決算を前提にした場合、たとえば以下を注記することが考えられます。

  • 新型コロナにより現時点でどのような影響を受け、それが3月末の連結財務諸表にどのように反映されているか
  • 今後どのような影響が生じる可能性(リスク)があるか
  • 上記のリスクが重大な勘定科目は何か
  • 当該勘定科目の見積りに使用した主要な仮定は何か、新型コロナの影響を仮定の中にどのように織り込んだのか
  • 上記で使用した仮定を変更した場合には、見積り数値はどの程度変わるか※5

ASBJは、2020年5月11日に議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方(追補)」を公表し、上記で開示が必要とする「重要性がある場合」には、当年度に会計上の見積りを行った結果、当年度の財務諸表の金額に対する影響の重要性が乏しい場合であっても、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある場合が含まれることを明確にしました。この考え方は、企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」の考え方と整合していると考えられます※6


※2 企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第4項(3)

※3 監査・保証実務委員会実務指針第77号「追加情報の注記について」3-6項、19-20項類

※4 企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」は、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目における会計上の見積りの内容について、財務諸表利用者の理解に資する情報を開示することを目的とする会計上の見積りに関する包括的な開示基準である。たとえば、固定資産について当年度に減損損失の認識を行わないこととした場合でも、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある場合は、当該固定資産は当基準の開示の対象となる可能性がある。何を開示するかは、財務諸表利用者の理解に資するかという開示目的から判断される。

※5 「会計上の見積りの開示に関する会計基準」をたとえ早期適用していなかった場合でも、JICPAからの取扱いに含まれている、「会計上の見積りに使用される情報、主要な仮定及び翌年度の財務諸表に与える影響」は、何を開示すべきかの検討にあたり参考になるものと思われる。「翌年度の財務諸表に与える影響」とは、当年度の財務諸表に計上した金額が翌年度においてどのように変動する可能性があるのか、また、その発生可能性はどの程度なのか等を意味し、翌年度の財務諸表に与える影響を定量的に示す場合には、単一の金額のほか、合理的に想定される金額の範囲を示すことも考えられるとされる(企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」30項)。

※6 「会計上の見積りの開示に関する会計基準」第23項

2. 後発事象

後発事象には、当期の財務諸表項目を修正する修正後発事象と当期の財務諸表項目は修正せずに開示のみを行う開示後発事象があります(図表1参照)。

図表1 後発事象

項目名 説明
修正後発事象 発生した事象の実質的な原因が決算日現在において既に存在しており、決算日現在の状況に関連する会計上の判断ないし見積りをするうえで、追加的ないしより客観的な証拠を提供するものであって、これによって当該事象が発生する以前の段階における判断又は見積りを修正する必要が生じる事象
開示後発事象 発生した事象が翌事業年度以降の財務諸表に影響を及ぼすため、財務諸表に注記を行う必要がある事象

7都府県に対する緊急事態宣言が発令されたのは4月7日でしたが、3月末日時点において国内での新型コロナの感染者数は増加の一途を辿っていました。したがって、緊急事態宣言を発令する実質的な原因(=新型コロナの感染拡大)は3月末日時点において既に発生しており、緊急事態宣言に伴う外出自粛要請や休業要請等の感染拡大防止措置は、3月決算企業の修正後発事象として取り扱う必要があると思われます。
新型コロナの感染拡大は、4月以降も状況は継続・変化しています。そのため、3月末決算を前提にした場合、4月以降において3月末時点では想定されていないような大幅な感染拡大が仮に起こった場合、決算日以後の大幅な感染拡大の「実質的な原因」が既に3月末時点において存在しており、両者を切り分けることができないと考える場合には、これらはすべて3月末決算の修正後発事象として取り込むということになると考えられます。したがって、このような状況においては、発生した事象の実質的な原因が決算日現在において既に発生していたのか否かを判断し、開示後発事象として開示すべき項目がある場合においては、その判断の内容を財務諸表利用者が理解できるように開示することが重要であると思われます。
また、4月以降の世界主要都市でのロックダウンや外出自粛による売上の大幅な減少等が生じている場合は、3月決算企業の場合、当該売上の大幅な減少等を追加情報として注記することを検討する必要があると考えられます。さらに、海外子会社等を決算期ずれがあるまま連結上取り込んでいる関係で、当該期間に子会社等で発生した新型コロナの影響が連結財務諸表に含まれない場合、重要性がある場合には、その事実及び影響を注記することを検討すべきと考えられます※7
なお、会社法監査報告書日の翌日から有価証券報告書提出日までに発生した修正後発事象については、有価証券報告書に含まれる(連結)財務諸表上は開示後発事象として取り扱うとされています※8


※7 監査・保証実務委員会報告第76号「後発事象に関する監査上の取扱い」5(2)[2]c、 [付表1]II、「追加情報の注記について」4項

※8 監査・保証実務委員会報告第76号「後発事象に関する監査上の取扱い」4(2)[2]b

3. 継続企業の前提

新型コロナによる影響が深刻な場合、継続企業の前提に関する開示の検討が必要になるかもしれません。継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在する場合、企業は、当該状況を解消し、又は改善するための経営者の対応策を検討し、合理的な期間(少なくとも貸借対照表日の翌日から1年間)にわたり企業が事業活動を継続できるかどうかについて、入手可能なすべての情報に基づいて評価することが求められています。継続企業の前提が適切であるかどうかを総合的に評価した結果、貸借対照表日において、単独で又は複合して継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在する場合であって、当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応をしてもなお継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められるときは、継続企業の前提に関する注記を行います。
継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が決算日後に発生した場合(かつ重要な不確実性が認められる場合)には、重要な後発事象として注記を行います。ただし、そのような後発事象のうち、貸借対照表日において既に存在していた状態で、その後その状態が一層明白になったものについては、継続企業の前提に関する注記の要否を検討する必要があります。
なお、継続企業の前提に関する注記を行うか否かにかかわらず、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在する場合には、有価証券報告書の「事業等のリスク」及び「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」にその旨及びその内容等を開示することが求められています※9


※9 監査・保証実務委員会報告第74号「継続企業の前提に関する開示について」

III. IFRS基準

2020年3月27日、IASBは新型コロナの影響下におけるIFRS第9号「金融商品」の信用損失引当金の算定に関する留意点を記載した文書を公表しました。また、2020年5月28日には、IFRS第16号「リース」の一部を改訂し、新型コロナを直接の原因としてリースの借手が賃料の免除や繰延べ等の恩恵を受けた場合に、これをIFRS第16号の原則どおりリースの条件変更として会計処理する必要はないとする時限的な軽減措置の導入を行いました。本稿を執筆している時点において、新型コロナに対するIASBの対応(現時点で適用されている基準に対するもの)は上記の2つのみであり、その他については通常どおりのIFRS基準が適用されることになります。

1. 会計上の見積り

新型コロナの影響により、非経常的な会計処理が生じる場合(例、固定資産やのれんの減損)や、金融商品にかかるリスクが増大している場合(例、金融資産の信用リスク)、不確実性の増大により重要性が高まっている場合(例、非上場株式の公正価値評価に使用する定量的インプットや感応度分析の開示)などが考えられ、例年どおりの開示を行うのでなく、IFRS基準で要求される開示規定を今一度検討する必要があるように思われます。
また、IAS第1号「財務諸表の表示」125項の開示(見積りの不確実性の発生要因の開示)についても検討が必要と思われます。125項は、翌会計年度において資産や負債の帳簿価額に重要な修正を加える原因となる著しいリスクを伴う将来に関してなされた仮定、及び報告期間の末日におけるその他の見積りの不確実性に関する主な情報を開示しなければならないとしています。同129項は、当該開示は企業が行った見積りを財務諸表利用者が理解できるような方法で開示するとし、提供される情報の内容と範囲は、仮定やその他の状況の内容に応じて変わるとしています。開示される情報の例として以下を挙げています。

  • 仮定又はその他の見積りの不確実性の内容
  • 帳簿価額の計算の基礎となる方法、仮定及び見積りに対する感応度及びその感応度の理由
  • 不確実性について予測される解決方法及び影響を受ける資産及び負債の帳簿価額に関し翌事業年度に生じる結果の合理的な可能性の範囲
  • 不確実性が解決されないままである場合に、当該資産と負債に関する過去の仮定に対して行われた変更についての説明

当該規定は、2021年3月期末から日本基準で適用が開始される企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」の参考となっている規定であり、上記「II. 日本基準 1. 会計上の見積り」に記載のJICPAからの取扱いが参考になると考えられます※10

なお、仮定や見積りの不確実性の原因となる他の事項が与える影響の可能性の範囲について開示することが実務上不可能である場合には、企業は、影響を受ける資産や負債の帳簿価額に重要な修正を行う合理的な可能性があることを開示するとされています(同131項)。


※10 IAS第1号125項を適用する例としては、金融機関がIFRS9号に基づいて予想信用損失(ECL)を算定する場合における感応度分析の開示がある。ESMAが2019年10月に公表したステイトメント“European common enforcement priorities for 2019 annual financial reports”では、開示の例として、(1)ECL計算における仮定や前提を変えた場合(例、将来シナリオを変更する、将来シナリオに付す確率を変更する)におけるECLの変動(ステージ移動を含む)の程度(感応度)を算定する、(2)その感応度の理由を説明する、が挙げられている。

2. 後発事象

日本基準と同様に、4月以降の世界主要都市でのロックダウンや外出自粛による売上の大幅な減少等が生じている場合は、3月決算企業は当該売上の大幅な減少等の直近の新型コロナの影響を注記することを検討する必要があると考えられます。
なお、上述のとおり、日本基準では、「後発事象に関する監査上の取扱い」において、会社法監査報告書日の翌日から有価証券報告書提出日までに発生した修正後発事象を、有価証券報告書に含まれる連結財務諸表上、開示後発事象と同様に取り扱う旨の規定があります。他方で、IFRS基準における修正後発事象は、報告期間の末日から財務諸表の公表の承認日との間に発生する、報告期間に存在した状況についての証拠を提供する事象と定義されており、日本基準のような例外規定はないことには留意が必要と思われます。

3. 継続企業の前提

事業継続の前提について重大な不確実性が存在すると結論付けられた場合には、当該重大な不確実性について開示することが求められています。また、重大な不確実性は存在しないと結論付けられた場合であっても、その判断自体が重要である場合には当該判断について開示することが求められています(IAS第1号25項、122項、2014年7月のIFRIC Update)。なお、継続企業の前提に重大な疑義を抱かせる事象や状況は期末日後に発生することもあるとされています(IAS第10号「後発事象」16項)。

4. その他

あずさ監査法人のサイトでは、新型コロナがIFRS適用企業に及ぼす影響を論点別にまとめていますので、そちらもご参照いただければと思います※11


※11 あずさ監査法人のサイト「新型コロナウイルスの感染拡大がIFRS適用企業の財務報告に及ぼす影響

IV. 有価証券報告書等における「経理の状況」以外での開示

「企業内容等の開示に関する内閣府令」が改正され、2020年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等からは以下の開示が新たに求められています(事業等のリスクについてはリスク情報のより詳細な情報が求められるように改正された)(図表2参照)。

図表2 より詳細なリスク情報、会計上の見積りの補足情報

記載箇所 記載する内容
事業等のリスク 経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクについて、当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期、当該リスクが顕在化した場合に連結会社の経営成績等の状況に与える影響の内容、当該リスクへの対応策を具体的に記載する(第二号様式(31)a、第三号様式(11))
経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A) 連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについて、当該見積り及び当該仮定の不確実性の内容やその変動により経営成績等に生じる影響など、「経理の状況」に記載した会計方針を補足する情報を記載する。ただし、記載すべき事項の全部又は一部を「経理の状況」に記載した場合には、その旨を記載することで当該部分の注記を省略することができる(第二号様式(32)a(g)、第三号様式(12))

したがって、新型コロナの影響が重要な場合には、

  • 有価証券報告書等の「事業等のリスク」において、新型コロナが自社の企業活動に及ぼすリスクをより詳細に分析するとともにその対応策を可能な限り具体的に記載する必要があると考えられます。
  • また、MD&Aで要求される「見積り及び仮定の不確実性の内容、その変動により経営成績等に生じる影響」が、「経理の状況」における(連結)財務諸表の注記に含まれているかを判断し、含まれていない場合には、MD&Aで当該見積りに関する情報を補足することで、財務諸表利用者へ有用な情報提供を行うことが重要と考えられます。なお、MD&Aにおける「会計上の見積り」の要求は、「経営者」が重要と考える会計上の見積りを記載することを想定しており、必ずしも、「経理の状況」に記載のあるすべての会計上の見積りの開示をMD&Aで補足することは想定されていないと考えられています。また、「経営成績等への影響」については、可能であれば定量的な記載が望ましいですが、測定が困難な場合も想定されるため、そのような場合は、定性的にわかりやすく記載することが求められると考えられています。

V. おわりに

本稿では、2020年3月末以降に年度末決算を迎える企業を念頭に、新型コロナが当該企業の有価証券報告書に与える影響を中心に見てきました。上述のとおり、日本基準、IFRS基準ともに、有価証券報告書の「経理の状況」以外での注記、追加情報の注記(日本基準)、見積りの不確実性の発生要因の開示(IFRS基準)、後発事象の注記、継続企業の前提の注記が存在しています。これらの開示は、それぞれの内容が独立しているものでもなく、新型コロナが現に企業に及ぼしている影響及び今後及ぼすであろうリスクを開示しているという点で相互に関連していると思います。したがって、企業は、これらの相互に関連する開示事項の中で、企業が新型コロナから現に受けている影響及び今後受けるかもしれない影響(リスク)を財務諸表利用者に適切に伝達することが求められていると考えられます。将来の不確実性が高い場合には、財務諸表利用者からの情報提供のニーズはなおさら高いと思われます。
なお、最後になりますが、ASBJが2020年5月11日に公表した前出の議事概要でも、「重要性がある場合には、追加情報の開示を行うことは財務諸表利用者に有用な情報を与えることになると思われ、開示を行うことが強く望まれる」と開示の必要性を強調している点には十分に留意すべきと考えます※12


※12 ASBJからの追補版の公表を受け、JICPAは2020年5月12日に「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その2)」を更新し、会計上の見積りにかかる追加情報の開示については、監査上は今後の法定開示書類において留意すべき取扱いとすることが考えられるとしている。また、金融庁は、2020年5月21日に「新型コロナウイルス感染症の影響に関する企業情報の開示について」を公表し、ASBJの追補版に同意するとともに、財務情報における新型コロナウイルス感染症の影響に係る仮定に関する追加情報の開示を有価証券報告書レビューの対象に含めることを明確にしている。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
会計プラクティス部
シニアマネジャー 内田 俊也

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