膨大なデータと最新テクノロジーの活用~流通小売業の出店戦略とは~

「小売りの明日」第19回 - 流通小売業が持つ膨大なノウハウをデータ化し、活用する仕組みをつくるヒントを、英国の軽食チェーンの出店システムを例に解説する。

流通小売業が持つ膨大なノウハウをデータ化し、活用する仕組みをつくるヒントを、英国の軽食チェーンの出店システムを例に解説する。

英国で軽食をチェーン展開するある企業が、膨大なデータと最新テクノロジーを活用した出店戦略を構築している。業績に影響する6500項目を超えるシグナルデータ(予兆データ)と自社の数百店舗の購買データを統合し、どこに出店すれば最も収益インパクトが出るのかシミュレーションするシステムだ。
6500項目以上のシグナルデータとは何か。天候、駅からの距離、乗降客数、ホテルからの距離、ひったくりなど犯罪の発生数、気温、SNS(交流サイト)でのアクセス数、人口、照明の明度、競合店の数など、挙げればきりがない。分析結果を表示したパソコン画面上で、出店を検討している場所にポインターを合わせると業績予想数字が表示される。さらに、その根拠となるデータが一覧化され、どの要素を改善するとどのくらい業績が向上するのか、項目を選択するだけで瞬時に表示される。

英国や日本に限らず、これまでの流通小売業界での出店計画では、分析は行うものの、まずは空いている土地や店舗を確保せざるを得ないという実情もあるが、分析の対象となるデータ項目は6500よりもはるかに少ないだろう。しかも、そのデータを分析した数百ページにわたる報告書を何ヵ月もかけて作成し、出店するかしないかを判断する。それぞれのデータの相関性や、どのように各項目が業績に影響を与えるかという指標化はされず、人口や競合性に重きを置かれて判断することが多い。
しかし今はスピードの時代だ。データ分析に数ヵ月も要しているようでは経営判断を遅らせ、機会損失へつながる。何より出店するのがゴールではなく、開店後の対策こそが長きにわたる各企業のノウハウのはずだ。そのために、どの項目を改善すると業績にどのように寄与するか、外部データと自社データを蓄積・統合し、常に内容を更新していく必要がある。業績につながる効果をそのデータ項目が保証できるかどうか、という議論ではなく、自社としての成功確度を上げていくためにデータを中枢に据えていく、これこそがデジタルトランスフォーメーションの重要要素の1つだ。

流通小売業に限らず、多くの業界で従来業務からの変革が必要とされている。これまでは各店舗の売り上げをチェックし、次にどのような商品や販促を展開するかを考えるのがチェーン本部における主業務であったかもしれない。しかし、これからはどのようなデータを収集し、それらを統合・ルール化していくか、その設計ができる分析力と構築力を備えることこそが、人が関わる価値であり重要な役割となる。
流通小売業の一人ひとりが持つノウハウをデータ化し、属人的ではなく企業としてのノウハウを最大化する仕組みをつくる。そのヒントが英国の軽食チェーンの出店システムの例にある。

 

日経MJ 2019年6月24日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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