実店舗とオンラインの連携による相乗効果とは

「小売りの明日」第13回 - 小売業界における実店舗とオンラインの連携強化について、IoTやAIなどを活用した取組みなどの事例を交えて解説する。

小売業界における実店舗とオンラインの連携強化について、IoTやAIなどを活用した取組みなどの事例を交えて解説する。

米国の小売大手で伝統的な実店舗型の小売業者、ウォルマートとターゲットの過去12ヵ月間の株価上昇率がアマゾン・ドット・コムを上回ったという(2019年3月執筆時点)。アマゾンの上昇率が従来型の小売業者に大差をつけていた前年と比べると大きな変化だ。ウォルマートとターゲットに共通するのは、オンラインの小売部門を付加・強化し、商品の引き渡し場所を多様にしている点だ。「通販で買うから店舗で買わない」という単純な時代ではないことは明らかだ。顧客はオンラインショップで商品の品揃えをチェックし、店舗で実際の素材やサイズを確認する。重たいものは配送してもらうし、急いでいる物はそのまま持ち帰る。もしくはオンライン上のみで購入判断ができる商品についてはオンラインで決済し、近隣の店舗へ引き取りに行き、配送料を節約しようとする。

引き渡し場所の多様化をはじめとする「オムニチャネル」が叫ばれて久しいが、軌道に乗っている企業と苦戦する企業で分かれているようだ。米国や中国と同様、店舗のショールーム化、商品引き取りや配送の物流拠点というモデルが果たして日本でも成功するのか懐疑的な人も多いだろう。しかし避けては通れない道で、むしろ効果を上げている企業がいることも事実だ。

あるホームセンターではオンラインショップを開設後、実店舗との連携を重視し、電子商取引(EC)サイトを改善した。ポイント連携、QRコードでの購入だけでなく、新ブランドのセレクトショップ、シニア向けサービスなどを立ち上げ、実店舗と連携することでオンラインショップの売り上げが10倍近くまで伸びた。

また、ある百貨店では顧客データを活用し、従来なかった新たなサービスを開発し、顧客体験を改善しようとしている。第1弾としてセンサーを取り付けた「IoTメジャー」を使い、採寸した顧客の身体データを基にオーダーメードを作るサービスを始めた。採寸データは店舗間で共有、他店舗やオンラインショップの買い物にも活用できることで、顧客対応力を強めている。

人手によるターゲットの抽出と、人工知能(AI)を使ったセグメント抽出の2つの方法でダイレクトメール(DM)を1万通配信した場合の購買金額を比較したところ、購買平均金額はAIの方が35%も高かったという例もある。DMという従来型のプロモーションでも、AIと組み合わせることで効果をもたらす。

販売予測や在庫の最適化、商品の自動補充、配送経路の最適化は流通小売業の共通する課題だ。それを実現するには、オンラインショップと店舗の連携強化は必須だろう。その先にはファン顧客の育成と業績の向上が待っている。従来のサプライチェーンを見直し、商品、情報、システム、組織すべてにおいて変革が待ったなしになっている。ウォルマートやターゲットの株価上昇率からその兆しが見えるのではないだろうか。

※本文中に記載されている会社名・製品名は各社の登録商標または商標です。

日経MJ 2019年3月25日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

小売りの明日

お問合せ