アウトポストから学ぶ企業の「幅広い視点」とは

「小売りの明日」第24回 - コンセプト住宅「アウトポスト」を例に、日本のデジタルトランスフォーメーションの推進に必要な視点について解説する。

コンセプト住宅「アウトポスト」を例に、日本のデジタルトランスフォーメーションの推進に必要な視点について解説する。

2019年10月に開かれた国内最大級の家電・IT(情報技術)の見本市「CEATEC(シーテック)2019」で、上下水道管や電線、ガス管がなくても暮らせる、オフグリッド型コネクテッド住宅「OUTPOST(アウトポスト)」が公開された。コンセプトや着眼点には、小売業にも参考になる大きなヒントが込められている。
アウトポストはモジュール型家屋で、ガスや電気、水といった既存のライフラインに依存せずに設置ができ、輸送すれば瞬時に入居可能となる。住宅の内部は次世代通信規格「5G」のネットワークでつながり、データを活用する。英アーム社の日本法人、トレジャーデータがデータを管理・分析する。バイタルセンシングを取得するイメージで、住む人の心拍や呼吸数を把握し健康管理までを見据える。可動式のテーブルや利用するときだけ現れるコンロ、水はフィルタリングして再利用ができる。コストは従来の住宅との比較ではなく、コンテナの費用に照準を合わせており、2030年をメドに供給開始を目指している。
アウトポストは全ての面で「住む人に新しく何ができるようになるか」ということを考え抜いている。その顧客体験の実現に向けてデータ分析、無線給電技術、VR(仮想現実)、無線センシング、水循環など、様々な分野の企業が開発面で連携している。

日本は世界と比較してテクノロジーの発展が遅れていると言われる。原因として、日本には「テクノロジーによって人的リソースが代替されてしまうのではないか」との懸念があるとの見方がある。また、テクノロジーの導入を検討する際、効率化やコスト削減に焦点が当たってしまうケースも多い。これらはいずれも「自社の視点」である。本来は目指す姿から逆算してどう業務を変革するかという幅広い視点が求められる。
アウトポストを「自社の視点」のみで行うと、成否や業務負担の増加、既存ビジネスとの競合など、足踏みする要素が次々に上がるだろう。従来のサービスを超越するにはどのようなアイデアがあるか、それをすぐに形にしてみて早く失敗し早く改善点に気づく。このようなスタンスとサイクルが必要だ。

デジタル技術で企業を変革する「デジタルトランスフォーメーション」の推進には、誰の視点で変革を進めるかが重要だ。マーケティングの根幹には顧客があることに今も昔も変わりはない。米アマゾン・ドット・コムのビジョンは「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」だ。この幅広い視点がアマゾンの成長を支えている。
顧客に喜ばれる、人的サービスを超越した店舗やサービスとは何か、そのゴールを設定することがスタートになる。

 

日経MJ 2019年11月18日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

※本文中に記載されている会社名・製品名は各社の登録商標または商標です。

小売りの明日

お問合せ