eスポーツ市場の広がりにおける流通小売業の役割

「小売りの明日」第17回 - 様々な業界への影響が期待されるeスポーツ市場について、今後流通小売業が担う役割と課題について解説する。

様々な業界への影響が期待されるeスポーツ市場について、今後流通小売業が担う役割と課題について解説する。

最近、様々な分野の市場が縮小傾向にある中で、世界的に毎年30%以上の伸長で注目を集める市場がある。「eスポーツ」だ。オンライン上で世界中のプレーヤーと対戦するゲームをスポーツ競技と捉え、世界の市場規模は2018年時点で約1000億円といわれる。日本は世界第3位のゲーム大国にもかかわらず、eスポーツ市場においては欧米や韓国、中国などのeスポーツ主要国に後れを取っている。海外ではすでにスタジアムを会場にした国際大会も開かれ、優勝賞金が1億円を超える大会も開催されるなど、盛り上がりを見せている。

欧米でのプロスポーツチームによるeスポーツ参入や、大手芸能事務所によるプロチーム設立が話題になるなど、様々な業界の企業や団体がeスポーツに参入しはじめているが、eスポーツはゲームだけの市場の話にとどまらない。今後の認知拡大によっては様々な業界に好影響を及ぼす。子供から高齢者、障害者が自分の部屋で「スポーツ」を楽しむことができるからだ。これは介護や高齢者施設、病院の付加サービスにつながる。また、様々な戦術についてゲームを通じて学ぶことは教育の側面も持ち合わせており、人材育成として大学がeスポーツ講座を開講するなど取組みも始まっている。

野球やサッカーなどと同じくeスポーツの大会の開催で、イベント会場への集客は入場料や関連グッズの物販のみならず、会場周辺の施設への消費も活性化させ、地方創生にもつながる。小売流通業界ではパソコンの販売はもちろん、オーディオ機器やゲームウェア、グッズ販売などゲームのソフトウェアを売ることにとどまらない広がりを見せることになるだろう。中国では、ある企業がプロモーションを行った直後の10分間でゲーム専用パソコン「ゲーミングPC」が数千台売れたという。小売流通業界は大会などイベント会場の場や物販など、起点となる機能を持っているのだ。

国内でeスポーツが今後さらに拡大していくには、もちろん課題もある。景品表示法をはじめとした賞金に関する法規制や大口スポンサーの獲得などである。世界では企業のブランディングとして有効活用され、eスポーツ市場の約40%がスポンサー収入と言われている。
eスポーツの価値に対する理解促進を図ることで今後ゲーム関連企業のみならず、小売業、メーカー、通信企業などスポンサー企業を増やせるかがカギを握る。世界に後れは取っているものの、日本は数多くのゲーマー、ゲーム関連企業、スポーツ関連団体、配信プラットフォームなど市場が成長していく必要な要素はそろっている。ゲームを通じて、世界との友好、ヘルスケア、教育などその先にある意義は深い。そのeスポーツ促進の起点に、流通小売業がこれから担う役割は大きい。

 

日経MJ 2019年5月27日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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