AI技術の活用によって変わる新しい業務フローとは

「小売りの明日」第20回 - 多様化する消費者ニーズへの対応がさらに求められる小売業にとって重要となる、AI技術の自然言語処理の活用について解説する。

多様化する消費者ニーズへの対応がさらに求められる小売業にとって重要となる、AI技術の自然言語処理の活用について解説する。

「オーガニック」という言葉に対して思い浮かべるのは何だろうか。「有機」「健康」「少し高めの価格」「ダイエット」「専門店」などだろう。ところが、KPMGコンサルティングでオーガニック市場について新聞や文献を対象に自然言語処理をもとに分析したところ、一般的に思い描くものとは異なる内容が抽出された。

オーガニックに関連した100項目近いワードが人工知能(AI)により選出され、特に相関性の強いキーワードとして挙がったものの中から「ビヨンド・ミート」「赤かぶ」「minne(ミンネ)」「自然科学研究科」「サンメイト」の5つに注目したい。

ビヨンド・ミートとは欧米で急激に拡大しているビーガン(完全菜食主義者)やベジタリアン、ヘルシー志向の消費者に向けた「植物だけで作るお肉」のことだ。米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が出資したことでも話題となった。AIがオーガニックと相関性の強いキーワードとしてビヨンド・ミートを抽出したことはオーガニック食材で売れているものが何なのか、という観点ではなく、オーガニック食材を重視する人はこのビヨンド・ミートに親和性が高いとAIが判断したということだ。それ以外の「赤かぶ」も同様だ。オーガニック食材を活用したレシピや記事に赤かぶが多いことから関連性の強いものとして抽出された。オーガニックの文献や有用性を学問の観点から述べている自然科学研究科の教授や、ハンドメイド商品の販売・購入ができるオンラインサイトの「ミンネ」などはオーガニックを訴求していく上で参考とすべき情報源に該当する。「サンメイト」はペットがなめてしまっても無害な消臭剤として100%天然由来の成分を訴求するペット用オーガニック消臭剤のメーカーである。もちろん、これが市場分析のすべてでも結論でもない。しかしこれらの情報を参考にせず、一部の消費者アンケートなどだけで今後の展開を判断しては、ニーズへの対応に不備が生じるのではないだろうか。

経済産業省によれば、健康保持・増進に働きかけるヘルスケア産業の市場は、2020年に約10.3兆円、2025年には12.5兆円となる推計も出ている。消費者のニーズやライフスタイルの多様化など、環境変化への対応がさらに求められる中、商品・サービスの市場投入までの精度とスピードを上げることは企業の競争力に不可欠だ。その実現に向けてAI技術の自然言語処理を活用すれば、市場トレンドの可視化・体系化を可能にする。人が培った現場のノウハウだけでなく、テクノロジーによって抽出された事象をどう統合していくか。新しい業務フローを構築することが小売業における業務高度化の重要な鍵を握る。

 

日経MJ 2019年7月8日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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