新型コロナ影響下における四半期報告書の留意点

2020年6月末における四半期報告書(3月決算企業の第一四半期)の作成にかかる留意点を解説します。

2020年6月末における四半期報告書(3月決算企業の第一四半期)の作成にかかる留意点を解説します。

ハイライト

Focus1では、2020年3月末以降に年度末決算を迎える企業の有価証券報告書の開示に焦点を当て、日本基準とIFRS基準の両基準の観点から実務上の留意点を解説しました。本稿では、2020年6月末における四半期報告書(3月決算企業の第1四半期)の作成にかかる留意点を解説します。当該期間においては、世界の主要都市でロックダウンや外出自粛措置が取られ、より多くの企業が新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)の直接の影響を受けています。また、新型コロナがマクロ経済に及ぼす影響についての情報も日々更新されています。このような著しい環境変化があるなかにあって、この四半期報告書の作成にあたっては、例年の四半期とは異なる対応が必要と考えられます。なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。また、本稿は6月1日時点の情報に基づいており、その後新しい情報が公表されている場合もありますので、ご留意いただければと思います。

Point1 四半期特有又は簡便的な会計処理(日本基準)
四半期特有・簡便的な会計処理は、基本的には、前期末から事業環境が大きく変化していない場合を想定している。新型コロナにより環境変化が著しい中にあって、これらの会計処理は慎重に適用すべきである。

Point2 追加的な注記(日本基準)
四半期で要求される注記事項は、年度末に比べて大きく省略されているが、他方で、財務諸表利用者の理解にとって必要な情報は開示すべきとする包括的な開示要求がある。新型コロナにより年度末から著しい変動がある場合や重要な会計上の見積りがある場合には、何をどこまで追加的に注記すべきか検討すべきである。

Point3 追加的な開示(IFRS基準)
IAS第34号は、前期末からの変動に焦点を当て、四半期に発生した重要な事象及び取引の影響を財務諸表利用者が理解できる情報を開示することを求めている。日本基準同様、何をどこまで追加的に開示すべきかを企業自身が判断しなければならない難しさがある。

Point4 四半期報告書における「経理の状況」以外での開示
2020年3月期から有価証券報告書等でより詳細なリスク情報と会計上の見積りの補足情報の開示が要求されている。四半期では、年度末からの更新が要求される。
 

I. はじめに

本稿では、3月決算企業の第1四半期末となる2020年6月末の四半期報告書における実務上の留意点を、日本基準とIFRS基準の両基準の観点から解説したいと思います。3月末の有価証券報告書における開示の留意点(Focus 1)も併せてご参照ください。

II. 日本基準

1 会計処理の概要

四半期連結財務諸表の作成のために採用する会計方針は、四半期特有の会計処理を除き、原則として年度の連結財務諸表の作成にあたって採用する会計方針に準拠しなければならないとされています。ただし、当該四半期連結財務諸表の開示対象期間に係る企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する財務諸表利用者の判断を誤らせない限り、簡便的な会計処理によることができるとされています※1

1 企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準(以下、「四半期会計基準」)」9項

2 四半期特有の会計処理

2つの四半期特有の会計処理が認められており、いずれも会計方針として継続適用が要求されていると考えられます。

図表1 四半期特有の会計処理

項目名 説明
原価差異の繰延 標準原価計算等を採用している場合において、原価差異が操業度等の季節的な変動に起因して発生したものであり、かつ、原価計算期間末までにほぼ解消が見込まれるときには、継続適用を条件として、当該原価差異を流動資産又は流動負債として繰り延べることができるとされています。新型コロナの影響により工場の操業が停止又は縮小した場合は、季節的な変動に起因するものではないことから、当該原価差異は資産として繰り延べることはできず費用又は損失として認識すべきと考えられます※2
税金費用の計算 四半期の税金費用は、年度の税引前当期純利益に対する税効果会計適用後の実効税率を合理的に見積り、税引前四半期純利益に当該見積実効税率を乗じて計算することができるとされています。この場合、前年度末に存在する繰延税金資産及び繰延税金負債について、四半期末における回収可能性等を検討するとされています。ただし、予想年間税引前当期純利益や予想年間税金費用がマイナスになる場合等、見積実効税率を用いて税金費用を計算すると著しく合理性を欠く結果となる場合には、法定実効税率を用いて税金費用を計算するとされており、新型コロナの影響を受ける当四半期については留意が必要と思われます。なお、税引前四半期純損失に対して計上される繰延税金資産は期首における繰延税金資産と合算したうえで、回収可能性の判断が必要となります※3。 

 

2 「四半期会計基準」第12項
3 「四半期会計基準」第14項、「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針(以下、「四半期適用指針」)」19項、「中間財務諸表等における税効果会計に関する適用指針」14-15項及び設例5

3 簡便的な会計処理

財務諸表利用者の判断を誤らせない限りにおいて簡便的な会計処理が認められています。なお、これらは会計方針とはみなされていないと考えられます。

図表2 簡便的な会計処理

項目名 説明
一般債権の貸倒見積高 一般債権の貸倒実績率等が前年度の財務諸表を作成する際に使用した貸倒実績率等から著しく変動していないと考えられる場合は、前年度末と同様の貸倒実績率等を使用できるとされています。したがって、4月以降の状況の変化を踏まえ、前年度末における見積りの前提が当四半期末でも妥当といえるか等の検討を行い、貸倒実績率等の補正の要否の慎重な検討が必要と思われます※4
棚卸資産の正味売却価額の見積り 四半期末に通常の販売目的で保有する棚卸資産の簿価切下げにあたっては、収益性が低下していることが明らかな棚卸資産についてのみ正味売却価額を見積ることが認められています。また、営業循環過程から外れた滞留又は処分見込等の棚卸資産であって、前年度末に帳簿価額を処分見込額まで切り下げている場合には、四半期末において、前年度からの著しい状況の変化がないと認められる限り、前年度末における貸借対照表価額を引き続き計上することが認められています。よって、新型コロナの影響により事業環境が急速に変化している中にあっては、これらの判断は慎重に行うべきと思われます※5
固定資産の減損の兆候 年度末に比べて簡便的な減損の兆候の把握が認められており、使用範囲又は方法について当該資産又は資産グループの回収可能価額を著しく低下させる変化を生じさせるような意思決定や、経営環境の著しい悪化に該当する事象が発生したかについて留意するとされています。新型コロナの影響により経営環境が急激に変化していることから、固定資産等の減損の兆候の有無(及び兆候が有る場合における減損損失の算定)について慎重に判断すべきと思われます※6
税金計算・繰延税金資産の回収可能性

法人税等(納付税額等)の算定において、簡便的な方法を採用することが認められています(納付税額の算定にあたり加味する加減算項目や税額控除項目を重要なものに限定する等)。また、政府による新型コロナ対策における税制上の措置として、中小法人のみに認められている青色欠損金の繰戻し還付の措置が、いわゆる中堅企業(資本金1億円超10億円以下の法人)にも認められることになりました※7。したがって、対象企業が繰戻し還付の対象となる欠損金を計上した場合には、繰延税金ではなく当期税金(未収法人税等と法人税等)として計上されることになると思われます。

また、繰延税金資産の回収可能性の判断についても、簡便的な取り扱いが認められています。つまり、経営環境等に著しい変化が生じている場合であっても、財務諸表利用者の判断を誤らせない範囲において、前年度末の検討において使用した将来の業績予測やタックス・プランニングをベースに著しい変化の影響を加味したものを使用できるとしています。なお、経営環境等に著しい変化が生じている場合とは、具体的には、「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」第15項から32項に従って判断される会社分類が変わる程度の著しい変化又は大幅な変動が生じた場合などが考えられるとされています。このような簡便的な取り扱いはあくまで実務上の負担を考慮して認められているものですが、当四半期については四半報告書の提出期限が延長されています。また、簡便的な処理はあくまで財務諸表利用者の判断を誤らせない限りにおいて認められており、新型コロナにより企業環境が急速に変化している可能性があることに鑑みれば、前年度ベースの業績予測を用いることには慎重な判断が求められるのではないかと思われます※8

 

4 「四半期適用指針」第3項、「金融商品会計に関する実務指針」111項
5 「四半期適用指針」第8項
6 「四半期適用指針」第14項
7 対象となる欠損金は、令和2年1月から令和4年1月31日までの間に終了する事業年度に生じた欠損金である。大規模法人(資本金の額が10億円をこえる法人など)の100%子会社及び100%グループ内の複数の大規模法人に発行済株式の全部を保有されている法人等は対象外である。
8 「四半期適用指針」第15-17項、94項

4 注記事項

四半期財務諸表の注記は、開示の迅速性や財務諸表利用者の開示ニーズ等を勘案し、前年度と比較して著しい変動がある項目など、財務諸表利用者が四半期財務諸表を理解するうえで重要な事項が注記事項として定められています※9。 

9 「四半期会計基準」第55項

図表3 留意すべき注記事項

項目名 説明
会計上の見積りについての重要な変更 会計上の見積りについて重要な変更を行った場合には、変更を行った四半期会計期間以後において、その内容及び影響額を注記します※10
継続企業の前提 四半期会計期間の末日に継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在し、重要な不確実性が認められるときは、その旨及びその内容等を注記します。なお、前年度末から当四半期末までに継続企業の前提に関する重要な不確実性に特段の変化がない場合には、前年度末の注記を踏まえて記載する必要があり、また、四半期末以降に新たに継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められた場合にも注記を要するとされています※11
後発事象

重要な開示後発事象を注記します。

なお、決算期ずれにより海外子会社等の4月から6月までの経営成績が連結四半期財務諸表に取り込まれていない場合、その事実及びその影響を注記することを検討する必要があると思われます※12

企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を適切に判断するために重要なその他の事項

平成23年の四半期適用指針の改正により、財務諸表作成者の負担軽減の観点から、監査委員会報告第77号「追加情報の注記について」で記載されている事項の準用が廃止されました。現在の規定では、当該事項の記載にあたっては第77号の例示等を参考に、個々の企業集団又は企業の実態に即して判断することが適切と考えられるとされています。第77号が準用されなくなった結果、四半期財務諸表における追加情報の記載事項は、年度の財務諸表で開示される事項に比べて、その範囲は、通常、限定されるものと考えられるとし、利害関係人が会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を適切に判断するうえで必要と認められる項目であるため四半期財務諸表に注記される項目の例として以下が挙げられています。

  • 利害関係人が年度の財務諸表を理解していることを前提に、年度の財務諸表と比較して著しい変動がある項目
  • 借入金や社債等に付された財務制限条項に抵触している状況など、著しい変動の有無にかかわらず四半期財務諸表に重要な影響を及ぼすと認められる項目※13

よって、新型コロナの影響により、前期末の財務諸表と比較して著しい変動がある項目については、注記によりその内容を説明する必要があると思われます。また、見積りを要する項目も、当四半期に見積りを変更したことにより前年度末からの著しい変動がある場合には、その内容、見積りに使用した仮定や当該仮定を変更した場合の影響等、財務諸表利用者の理解に必要となる情報を注記する必要があると思われます。さらに、前年度末からの著しい変動がない見積り項目についても、その見積りの判断自体が四半期財務諸表に重要な影響を及ぼすと認められる場合(翌四半期以降の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある場合)には、四半期財務諸表の開示の趣旨を踏まえ、注記することが求められるのではないかと思われます※14。 

 

10 「四半期会計基準」第19(4)項
11 「四半期会計基準」第19(14)項、60-3項
12 日本基準では、親会社と子会社等の決算期が異なる場合(親は3月決算、子会社等は12月決算)、連結財務諸表上では決算期ずれのあるまま取り込むことが認められており、当該期間に子会社等で発生した取引は、親子間の連結内部取引や子会社等の修正後発事象に該当する取引を除いて、連結財務諸表には取り込まれていないと考えられる。売上の減少等の新型コロナの影響は、世界的なロックダウンが行われた4月から6月にかけて最大になる可能性があるが、12月決算企業の海外子会社等を決算期ずれのあるまま連結で取り込んだ場合、海外子会社等の4月から6月までの売上の減少等の新型コロナの影響は当四半期には計上されないと考えられる(企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」16項及び注4、企業会計基準第16号「持分法に関する会計基準」10項、会計制度委員会報告第9号「持分法会計に関する実務指針」4項、監査・保証実務委員会報告第76号「後発事象に関する監査上の取扱い」4(2)2a、5(2)2c及び[付表1]Ⅱ)。
13 「四半期適用指針」114項、監査・保証実務委員会実務指針第77号「追加情報の注記について」16-18項
14 第432回企業会計基準委員会(2020年5月11日開催)議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方(追補)」における「重要性がある場合」の考え方

Ⅲ.IFRS基準

1 IAS第34号の概要

IFRS基準に準拠した要約期中(連結)財務諸表を作成する場合、当該財務諸表はIAS第34号「期中財務報告」のすべての要求事項に従って作成される必要があります。IAS第34号は、企業が当該財務諸表に含めるべき最低限の内容を規定しており、それは要約財務諸表と選定された説明的注記により構成されます。期中財務報告は、情報の適時性や財務諸表作成者の負担軽減の立場から、年次の財務諸表で要求される開示事項の多くが省略されています。そして、財務諸表利用者が直近の年次財務諸表を利用できることを前提に、前期末からの変更点に焦点を当てた開示を要求しています。しかしながら、開示が省略される結果、期中財務報告が財務諸表利用者にとって誤解を招くものとなる場合には追加的な開示を要求しており、財務諸表利用者にとって必要な注記が開示されているかについては慎重な検討が必要と考えられます(IAS第34号10項)。

2 認識・測定の原則

IAS第34号28-29項では、四半期(連結)財務諸表を作成する際の会計方針は、原則として、直近の年次財務諸表で使用した会計方針と同じものを使用するとしています。

3 開示事項

IAS第34号は、最低限の開示事項(同16A項)とともに、追加的な開示の要求規定を設けています。つまり、前期末から期中報告期間末にかけての企業の財政状態の変動及び業績を財務諸表利用者が理解するうえで重要な事象及び取引がある場合には、企業は、期中財務報告において、当該重要な事象及び取引の説明をし、前年度の財務諸表に含まれている関連情報を更新しなければならないとしています(同15、15C項)。15B項は、網羅的ではないとしつつ、当該重要な事象及び取引の例を挙げています。年次の財務報告に含まれている関連情報の更新方法については、IAS第34号に規定はなく、開示する事象や取引の性質や重要性の程度に応じて企業自身で判断すべきと考えられます。たとえば、以下のような方法が考えられるかもしれません。

  • 年次財務報告書で既に開示されている定性的情報について、年次財務報告書に含まれている情報と関連付ける形で定性的に説明する。
  • 年次財務報告書で既に開示されている定量的情報について、期中報告期間末時点に時点を変更して定量的情報を開示する、または、年次財務報告書に含まれている情報と関連付ける形で定性的に説明する。
  • 年次財務報告書では開示されていない情報について、関連するIFRS基準で要求されている開示情報を参考に、財務諸表利用者にとって有用と考えられる情報を開示する。

また、IAS第1号「財務諸表の表示」は、IAS第34号に準拠して作成される期中要約財務諸表の構成と内容には適用されないものの、IAS第1号の第15項から35項は期中要約財務諸表にも適用されるとしています(IAS第1号4項)。したがって、継続企業の前提の開示(同25-26項)や、財務諸表の適正表示の原則(同15項、17項(b)(c))が含まれることになります。また、会計方針を決定する際に行った重要な判断についての開示(同122項)や、見積りに不確実性がある場合についての開示(同125項)についても、必要がある場合には開示が求められるものと思われます。

さらに、IAS第34号16A項に規定される最低限の開示事項のリストには、以下の開示が含まれており、当四半期には留意が必要と思われます。

  • 資産、負債、資本、純利益又はキャッシュ・フローに影響を与える事項で、その性質、規模又は頻度から見て異例な事項の内容及び金額(16A(c)項)
  • 当事業年度の過去の期中報告期間に報告された金額の見積りの変更又は過去の事業年度に報告された金額の見積りの変更の内容及び金額(16A(d)項)
  • 期中財務諸表に反映されていない期中報告期間後の後発事象(16A(h)項)

4 2020年6月末(第1四半期)の新型コロナの影響

2020年4月から6月にかけては、世界各地でのロックダウンや外出自粛等による新型コロナによる直接の影響が企業活動に及んだ期間であり、前年度末と比較して企業の事業活動には著しい変動が生じているものと思われます(売上の著しい減少等)。また、今後の感染拡大及びその予防措置が企業の将来の事業活動に及ぼす影響の見通しについても、3月末時点での予測から変更されているのではないかと思われます(このような見積りの変更の影響も当四半期に計上されます)。したがって、企業は、新型コロナによって発生する企業活動の著しい変動や重要な会計上の見積りの変更が及ぼす影響について、財務諸表利用者が理解できる情報を適切に開示すべきと考えられます※15

15 3月決算企業については、2020年3月の本決算において当該時点における連結グループ全体の新型コロナの影響を取り込んでいる企業が多いのではないかと思われる。IFRS基準の場合は、決算期の異なる海外子会社等についても実務上不可能な場合を除いて仮決算が要求されること、また、決算期ずれがあるまま取り込む場合には、決算期ずれの期間に子会社等で発生した重要な取引又は事象を連結財務諸表に反映させることになっているためである(IFRS第10号「連結財務諸表」B92-93項、IAS第28号「関連会社及び共同支配企業に対する投資」33-34項)。この点は、日本基準と差異が生じる可能性がある(日本基準において仮決算をしていない場合)と思われる。したがって、第1四半期連結財務諸表には、基本的には4月から6月末における連結グループ全体の新型コロナの影響がそのまま反映されることになるのではないかと思われる(ただし、決算期ずれの子会社等がある場合における海外子会社等で発生する重要な取引又は事象の連結財務諸表での取り込みが前提)。

図表4 第1四半期で留意すべき事項

項目名 説明
収益の分解 IAS第34号では、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」における収益の分解の開示規定が必須の開示事項とされています(16A項(l))。新型コロナの売上への影響について説明すべきと考えられます。
棚卸資産の測定 IAS第2号「棚卸資産」の規定は、年次と同様の規定が適用されるため、6月末における正味実現可能価額の見積りが必要となります。正味実現可能価額が取得原価より低い場合には、年度末までに価額が回復するか否かに関係なく、即時に損失として認識する必要があります。また、重要な評価損又は評価損の戻入れを計上した場合には、追加的な開示が要求されると考えられます※16
非金融資産の減損 IAS第36号「資産の減損」の規定は、年次と同様の規定が適用されるため、6月末で減損損失を計上する必要がないかの検討が必要となります。重要な減損損失が認識される場合には、追加的な開示が要求されると考えられます。当該開示は、IAS第36号で要求される開示のガイダンスを参考にすることが考えられます※17
金融資産等に
対する予想信用
損失
IFRS第9号「金融商品」の規定は、年次と同様の規定が適用されるため、6月末の予想信用損失引当金が3月末から大きく増減している場合には、追加的な開示が要求されると考えられます。当該開示は、IFRS第7号「金融商品:開示」で要求されている信用リスクの開示事項を参考にすることが考えられます※18
金融商品の
公正価値開示
IAS第34号では、金融商品の公正価値開示が必須の開示事項とされています(16A項(j))。6月末におけるレベル3の重要な観察不能なインプットの定量情報の開示や感応度分析については留意が必要と思われます※19
税金費用の算定 IAS第34号では、四半期財務諸表における税金費用は、年間の見積加重平均実効税率に四半期の税引前損益を乗じて算定するとされています。繰越欠損金等に対して計上する繰延税金資産は、四半期末においても、その回収可能性をIAS第12号「法人所得税」の原則に基づき判定し、その影響については年間の見積加重平均実効税率の算定に反映させるとしています(IAS第34項B21項)。したがって、6月末時点における繰延税金資産の回収可能性をIAS第12号に従って検討し、繰延税金資産を認識できないとなった場合には、それだけ年間の見積加重平均実効税率が上昇することになります。ただし、繰延税金資産の減額の影響を当該見積りの変更のあった四半期のみで認識するのか、それとも年間を通じて認識するのかについては議論のあるところであり、実務上判断を要するのではないかと思われます。

 

※16 IAS第34号15B(a)、16A(d)、IE.B26-28項
※17 IAS第34号15B (b)、16A(d)、IAS第36号126-137項
※18 IAS第34号15B (b)、16A(d)、IFRS第7号35A-38項
※19 IFRS第13号「公正価値」93項(d),(h)(ii)

図表4 第1四半期で留意すべき事項 つづき

項目名 説明
金融商品の条件変更 金融資産・負債について、契約条件を変更(返済猶予や利息の減免等)した場合には、金融資産・負債の認識の中止の有無、契約条件変更後に使用する実効金利の決定、条件変更損益の認識につき検討する必要があると考えられます※20
引当金 事業環境の悪化により、既存の契約が不利な契約に該当する場合又はリストラ引当金を計上する場合は、認識する時期と金額がIAS第37号に従っているかを検討する必要があると考えられます※21
ヘッジ会計 新型コロナにより予定取引の発生可能性が低下している場合、発生時期が変更になった場合、取引ボリュームが変更になった場合等には、ヘッジ会計の(部分)中止や、ヘッジ会計の終了、ヘッジの非有効の純損益での認識等について検討する必要があると考えられます※22
リース 借手については、IASBが公表したIFRS第16号の改訂(賃料の支払猶予や減免の会計処理に対する軽減措置)を検討する必要があると考えられます。また、新型コロナによる事業環境の変化に対応して、リース期間の再評価(更新オプションや解約オプションの行使可能性の再評価)が必要か否かを検討する必要があると考えられます。※23
継続企業の前提 上記記載のとおり、継続企業の前提の検討は、年次と同様に求められます。第1四半期末から少なくとも1年間について、継続企業の前提が妥当かについての検討が求められます※24
会計上の見積りの不確実性 上記記載のとおり、IAS第1号125項の見積りの不確実性の発生要因の開示も、前年度末と同様に検討が必要と思われます※25
その他の開示 上記以外にも、IAS第34号の開示要求及びIAS第1号の規定に基づき、新型コロナが現に企業に及ぼしている影響及び今後及ぼすリスクを財務諸表利用者が適正に理解するために必要な情報を追加的に開示することを検討することが必要と思われます。

 

20 IFRS第9号5.4.3項, B5.4.6項, B5.5.25-27項, IFRS第9号3.3.2項
21 IAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」、IAS第34号16A(i)項
22 IFRS第9号6.3.3項, 6.5.5項, 6.5.6項、6.5.11項、6.5.12項
23 COVID-19関連レント・コンセッション(IFRS第16号「リース」の改訂)、IFRS第16号19-20項、39-40項、B41項
24 2020年3月の開示を取り扱ったFocus 1を参照。
25 2020年3月の開示を取り扱ったFocus 1を参照。
 

IV. 四半期報告書における「経理の状況」以外での開示

「企業内容等の開示に関する内閣府令」が改正され、2020年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等からは、より詳細なリスク情報と会計上の見積りの補足情報の開示等が求められています。2020年4月1日以後に開始する事業年度に係る四半期報告書においては、これら事項についての年度末からの情報の更新が求められています。

図表5 リスク情報、会計上の見積りの補足情報の更新

記載箇所 記載する内容
事業等のリスク 当四半期連結累計期間において、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクが発生した場合又は前事業年度の有価証券報告書に記載した「事業等のリスク」について重要な変更があった場合には、その旨及びその具体的な内容を分かりやすく、かつ、簡潔に記載する。(第四条の三様式(7)a)
経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A) 当四半期連結累計期間において、前事業年度の有価証券報告書に記載した「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」中の会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定の記載について重要な変更があった場合には、その旨及びその具体的な内容を分かりやすく、かつ、簡潔に記載する。(第四条の三様式(8)a)

V. おわりに

四半期財務諸表は、年度末の有価証券報告書に比べて簡便的な会計処理や開示の省略が認められています(日本基準:会計処理及び注記、IFRS基準:開示のみ)。しかしながら、これら簡便的な会計処理や開示の省略は、あくまでも財務諸表利用者の判断を誤らせない範囲で認められているものであり、特に注記・開示については、両基準ともに、財務諸表利用者が企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を理解するのに必要な情報の追加的な開示を求めており、企業には例年の四半期対応とは異なる難しい判断が求められるのではないかと思われます。何をどこまで追加的に注記・開示するのかを企業自身で判断しなければならないという点がここでの難しさではないかと思いますが、新型コロナの影響についての財務諸表利用者の開示ニーズが高まっていることに鑑みれば、開示すべきかどうかの判断に迷う事項については、積極的に開示を行うことが望ましいと思われます※26

26 日本基準・IFRSともに、基準で要求されている注記・開示事項は最低限のものであり、これを上回る注記・開示を行うことを妨げるものではないことが明確にされている(「四半期会計基準」55項、IAS第34号7項)。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
会計プラクティス部
シニアマネジャー 内田 俊也

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