With/Afterコロナを生き抜くためのCFOアジェンダとDigital Transformation - ニューノーマルに備える決算デジタルプラットフォーム -

With/Afterコロナを生き抜くためのCFOアジェンダとDigital Transformation

With/Afterコロナ環境下で、CFOが取り組むべき短期的・中長期的な取組み事項と、ニューノーマルの時代に目指すべき財務経理のデジタル化の方向性について解説します。

河合真吾

アカウンティング・アドバイザリー・サービス事業部 ディレクター

あずさ監査法人

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新型コロナウイルスの影響は全世界に拡がり、第2波、第3波まで考慮すると収束時期が不透明であるため、業種・業態を問わず、各企業は収束後のAfterコロナの回復プランだけでなく、ウイルスが収束しない中で経済活動を続けていくためのWithコロナのプランも考えざるを得ない状況です。
財務経理に目を向けても、決算書類の提出期限や株主総会の開催時期を延期することが可能とはなりましたが、ただでさえ忙しい決算時期に、資金繰りやテレワーク対応等の様々な課題を一気に抱えることになり、With/Afterコロナの時代を生き抜くために何を優先的に取り組んでいくべきか、頭を悩ませている状況です。
本稿は、With/Afterコロナの 環境下で、CFOが取り組むべき短期的・中長期的な取組み事項と、ニューノーマルの時代に目指すべき財務経理のデジタル化の方向性について解説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 新型コロナウイルスは、KPMGが提唱する、成長、ガバナンス、コンプライアンス、効率の4つのCFO機能領域に少なからず影響を与えており、その深度によっては早急な対応が迫られている。
  • With/Afterコロナの対策として、短期(A.危機へ緊急対応するReaction、B.危機に耐えてマネージするResilience)と中長期(C.成長への機会を捉えるRecovery、D.新たな世界に適用するNew Reality)に分けて対応を施すことが重要である。
  • CFO機能をサポートする日常業務、決算業務のいずれにおいても、ロケーションに依存しない働き方が加速され、デジタル化によるオペレーション変革が避けて通れない。
  • 直近では、デジタルを活用した決算業務のリモート化のみならず、リモート監査の実現を目指す決算デジタルプラットフォームを導入する企業も散見される。

I. 新型コロナウイルスのCFO機能への影響

1. 収束の見通しが困難な新型コロナウイルスの影響

新型コロナウイルスが世界中で猛威を奮っており、日本でも全国に非常事態宣言が出されるなど例外ではない状況になりました。人と人との接触が多いビジネスモデル(サービス業、旅行業など)の企業から打撃を受けましたが、主要都市のロックダウンや需要停滞によって、グローバルにサプライチェーンを持つ製造業や、中小規模向け債権を持つ金融機関へも影響が出かねない状況であり、景気回復にはかなり時間がかかるものと思われます。また、いったん収束に向かったとしても、第2波、第3波が襲来する可能性もあるため、収束後のAfterコロナの回復プランだけでなく、ウイルスが収束しない中で経済活動を続けていくためのWithコロナのプランも考えざるを得ない状況です。

2. 財務経理機能でも多方面の課題に直面

財務経理の領域でも、事業継続のための資金繰りの確保等の財務上の課題、直近あるいは中長期的な業績着地見込みへの影響判断等の経営に関連する課題、政府からの在宅勤務要請に伴う急なテレワークへの対応等の現場オペレーション上の課題など、様々なジャンルの課題を一気に抱えることになりました。また、4月には決算書類の提出期限や株主総会の開催時期を9月まで延長することが可能とはなりましたが、テレワーク期間と決算業務のタイミングがちょうど重なることになり、止めるわけにはいかない決算業務とのジレンマに悩まされた企業も多く、関係各所(政府、金融機関、租税関連、金融庁等)から随時出された法令や措置案の情報収集をしながら、直近の対応に追われていたと思われます。
在宅勤務の割合を極力高めることが求められる中で、在宅勤務の足枷となる紙を前提とした業務(紙資料の押印を含む)の変更・廃止が論点になりやすいものの、それだけを重視してしまうと、実行すべき施策の優先度を見誤ってしまう恐れがあります。

3. 領域別・段階的な対応施策の必要性

対応施策の優先度を適切に見極めるためには、KPMGが定義するCFOレーダー(図表1参照)にあるように、財務経理機能を1.成長、2.ガバナンス、3.コンプライアンス、4.効率という4つの領域に整理し、4つの領域ごとに、攻めと守り、事業部門とマネジメントという軸を重ね、財務経理が直接責任を持つ業務、影響や指導を与える業務をまとめたものに沿って、それぞれの領域ごとに取り組むべき改革テーマや、レジリエンス対応のポイントを整理することが必要となります。また、一度に課題を解決することは不可能であるため、(1)短期的な施策(A .危機へ緊急対応するReaction、B .危機に耐えてマネージするResilience)と(2)中長期的な施策(C.成長への機会を捉えるRecovery、D.新たな世界に適用するNew Reality(≒ニューノーマル))に分け、段階的に対応施策を検討することが肝要です。

図表1 KPMGが定義するCFOレーダー
図表1

II. CFO機能別の短期・中長期的アジェンダ

各企業が短期・中長期的に取り組むべきと思われる代表的なアジェンダを、CFOレーダーの各領域ごとに説明します。

1. 成長領域

(1) 短期

1. 事業戦略の変更要否の見極め
現在および近未来の業績影響を可能な限り見極め、短期的な事業戦略の継続可能性、収益構造モデルの変更、サプライチェーンの変更等について、マネジメントの意思決定をサポートする必要があります。必要に応じて、「業績の悪化にどう対処するか」という観点でのグループ内再編やM&Aについても検討対象となるケースが考えられます。

2. 短期・中期経営計画の見直し
事業戦略の変更要否によっては、今後の事業収益のシミュレーションを行い短期経営計画を修正するだけでなく、中長期の資金繰り予測や労務対応も対象とした中期経営計画の見直しが必要になると考えられます。


(2) 中長期

1. 新ビジネスモデルに基づく組織・制度設計
ニューノーマル時代の新ビジネスモデルに対応する必要性や、中期経営計画の変更に基づいて、グループ内の組織設計(機能、役割)や制度設計(規定、ルール)の見直しが必要になることが考えられます。投資・撤退基準の見直しや、SSC化などのオペレーション改革も含めた組織再編(グループ内統廃合)の検討が必要となるケースがあると思われます。

2. 人材育成プランの見直し
テレワーク型の業務モデルに即した人材育成が必要となることから、リモートで研修を実施するための機器を準備することはもちろんのこと、これまでOJTに頼っていた業務の目的や業務を行ううえでのコツの伝承、さらにはテレワークによる直接的なコミュニケーション不足を補うための施策を検討する必要があります。

2. ガバナンス領域

(1) 短期

1. 承認ルール簡略時におけるガバナンス担保
通常時は紙資料での押印を前提にしている申請・承認業務では、テレワーク化で臨時的にメール承認に代替し、紙資料の承認は後日対応とする会社も多いと思われますが、後に内部統制の問題にならないように、臨時ルールを別途文書化し、周知徹底する必要があります。

2. 資金需要への対応
グループ全体でのキャッシュ流出を最小化するべく、キャッシュ保全プログラムを設けて、資金管理体制の引き締めを行うとともに、不良債権対応、子会社におけるキャッシュ不足への対応としてのキャッシュプーリングの検討が必要となります。各国の新型コロナウイルス対応の税制措置の把握や申請作業も必要となります。
 

(2) 中長期

1. グローバル管理体制の見直し
リスク分散の観点からも、コーポレートからリージョンへの機能配置・権限委譲(リスクマネジメント含む)について検討する企業が存在する一方で、情報を集約し、迅速な分析を可能とする経理組織の構築(グループデータ統合を前提としたグループ経理体制など)を検討する企業が存在すると思われ、各々の企業に応じたグローバルガバナンス体制の再構築が求められます。

2. 財務戦略・キャッシュマネジメント方針の見直し
株式市場が不安定な中、格付けを維持しながら最適資本構成を再検討したり、株主還元・事業投資の方針・優先順位付けの重要性がますます高まることが想定されます。また、今まで以上にグループ全体でキャッシュフローを把握・コントロールする仕組みの構築は必須になると考えられます。

3. コンプライアンス領域

(1) 短期

1. テレワークに伴うセキュリティリスクへの対応
今回の新型コロナウイルスの流行をきっかけに、事業継続のために急遽テレワーク実施に踏み切った企業が多いことが予想されますが、テレワークに関する網羅的なセキュリティ対策が取られていない場合には、改めて対策を検討する必要があります。テレワーク環境においては、ネットワークやデバイスが企業の統制外に置かれるため、企業内ITネットワークにて担保されていたセキュリティは保証されないため、端末やネットワークに関する情報漏洩等のセキュリティ対策は喫緊の課題となります。

2. 拠点・子会社における決算作業の支援体制の構築
テレワークの準備が不足している地域がロックダウン等によって閉鎖された場合を見越して、子会社の決算をコーポレートとして支援するための体制を準備する必要があります。特に工場・営業所などの拠点や、子会社からの決算情報の収集方法やモニタリング方法について、暫定的であってもリモートで収集できるための手段を準備する必要があります。


(2) 中長期

1. ESG課題の特定と中長期戦略策定への組み込み
投資家のESGへの関心がさらに高まることにより、ESG投資を通じた企業へのプレッシャーが益々高まると思われます。新型コロナウイルス等のパンデミックに対する企業の取組方針、社会貢献策などの見直しが必要となり、昨今導入が進んでいる統合報告書の中でも、中長期戦略策定において、企業市民として新型コロナウイルス対策に取り組んでいる姿勢を打ち出すことが必要となってくると思われます。

2. 内部統制の見直し
テレワークの普及に伴い、業務プロセスの変革・改革が必要となり、それに伴い内部統制も見直す必要があります。業務プロセスが自動化されることによって業務統制がシステム統制として簡素化されるものがある一方、システムによって制御されている事項の妥当性の評価や、リモートアクセスについてのIT全般統制の重要性が増すことも予想されます。必要に応じて、内部統制報告制度に関する文書修正が必要となるケースも想定されます。

4. 効率領域

(1) 短期

1. テレワークの阻害要因の除去
リモートで財務経理の日常業務を遂行できるように、各企業のテレワーク阻害要因に応じて、VPNやバーチャルデスクトップを用いた社内システムへの接続を強化したり、契約書の電子化、ワークフローによる承認プロセスの自動化、受発注関連帳票や請求書・支払明細書の発送および証憑との突合業務をデジタルプラットフォーム上でやり取りする仕組みを導入、といった自動化・ペーパーレス化の検討が必要となります。

2. 業務の可視化・標準化の推進
急遽テレワークを試みた企業では、作業メンバー間の負荷の偏りが明るみになった一方で、作業が属人化しているがゆえに、思うように作業負荷を分散できなかったという課題を感じた企業も多かったようです。作業品質を担保しつつ負荷分散を図れるように、業務の手順書やマニュアル類の整備を通じた業務の可視化、標準化の検討が急務となります。


(2) 中長期

1. Intelligent Automation※1の実現へ
ワークフローによる紙承認の電子化、電子請求書の受取り・発行によるペーパーレス化などの個別のサービスとERPシステムを連携し、加えてAI等の技術も組み込みながら、つぎはぎではなく、全体として整合をとりながら、財務経理のオペレーションを効率化するための検討が必要となります。

2. 決算デジタルプラットフォームによるリモート決算、リモート監査の実現
決算デジタルプラットフォームとは、決算処理の自動化やプロセス管理を通じて、経理プロセスのシステム統合管理を実現するクラウド型デジタルソリューションです。決算の各作業の目的、処理手順はもちろん、実施結果(エビデンス)や進捗状況を一元管理することでリモート決算を実現可能とし、あわせて、決算処理手順と実施結果を監査法人が閲覧できるように設定することでリモート監査が可能となり、監査法人とのコミュニケーション工数の削減を検討することが考えられます。


※1 多様なテクノロジーを同一プラットフォームで最適化を図ること

III. ニューノーマルに備えた財務経理のデジタル化

1. ロケーションを選ばない働き方へシフトするための財務経理業務のデジタル化

II章の中長期的施策の検討にあたり、、共通的な大きな潮流として「ロケーションを選ばない働き方へのシフト」があります。II4(1)1.「テレワーク阻害要因の除去」で財務経理の日常業務のデジタル化の方向性について触れましたが、II章の最後に述べたとおり、決算業務にもデジタル化の波が届きつつあります。在宅勤務を再要請されることがあり得る環境下で、社員の安全を守りつつ、日程がタイトな決算業務をやり抜く必要性を踏まえると、決算業務も聖域とはせず、デジタルプラットフォーム上で実施することによってリモートワークを実現可能とする必要性が高まっていくと思われます。

2. 決算業務のデジタル化の遅れ

しかしながら、決算業務は、財務経理の中でも最もデジタル化が進んでいない業務であるのが実状です。基幹システムや制度会計・管理会計のシステム化は進んでいる一方で、引当金などの見積を伴う業務、単体・連結の各種決算整理仕訳のマニュアル作成、決算数値の分析、開示資料の作成、監査法人との調整など、決算業務は紙資料を基にした手作業や属人的なExcel・Accessの作業への依存度が高く、デジタル化されていない作業が大半を占めています。さらに、年度決算でテレワークを試みた企業では、物理的にバラバラの場所で業務をすることによって、これまで阿吽の呼吸で成り立っていた作業担当者別の進捗状況の把握が困難になったケースが多かったことからも明らかなとおり、作業タスク管理や進捗管理の面でもデジタル化が遅れている状況です。

3. 決算デジタルプラットフォーム導入による期待効果

II章の最後に説明した決算デジタルプラットフォーム導入による、主な4つの期待効果について説明します。

(1) 決算業務の期中前倒しと効率化
総勘定元帳と補助元帳との残高照合および差異分析、明細突合(ネッティング含む)とそれに伴う修正仕訳入力等について、締めを待たずに業務を実施することにより、従来月末締め後に行われていた決算処理業務を期中に実行できるようになり、業務負荷が平準化されます。その際、従来手作業やExcelで実施していた照合作業や差異分析を自動化することにより各作業の効率化も併せて実現します。

(2) 業務プロセスと進捗状況の見える化
決算業務の処理手順と、その背景にある目的や留意事項、さらには経理規定等をプロセスに連携する形でシステム上に定義し、可視化することで、担当者によって決算手順が異なり品質を担保できない課題を解決するとともに、テレワーク時でも誰がどの処理をいつ実施予定/終了したのかを把握することが可能となります。

(3) グループ業務標準化
前述の業務プロセスの可視化によって、個社決算業務の属人化による弊害から脱却できるだけでなく、グループ会社へ展開することによってグループ全体での決算業務の標準化が進み、組織再編やM&A時にもスムーズに業務統合を図ることができます。

(4) 個社および子会社への統制強化
これまで手作業に頼っていた業務について、誰が・いつ・どのような情報を活用して・何を分析し、何を作成し、誰が承認したか、がシステムで履歴管理されることによって統制が強化されます。個社単位での効果はもちろんのこと、子会社管理の面でも、各子会社の決算処理結果を本社から確認可能とすることによってガバナンスが強化されます。

決算デジタルプラットフォームを活用し、(1)から(4)の効果を実現させ、リモート決算、リモート監査が実現可能となることで、ロケーションを選ばない働き方に備えるデジタル基盤が整うことになると思われます。

4. 導入アプローチ

決算デジタルプラットフォームを最終の理想型と位置付けつつも、Step1では決算業務タスクの洗い出しと業務標準化を、Step2ではExcel等を活用し、決算業務に関するテンプレートによる処理手続きや分析手順を定義し報告業務の統一化を、Step3としてIT投資含めた決算プラットフォームの実装を、という考え方で、より迅速に効果を享受できるような段階的アプローチを取ることも考えられます。KPMGは、決算デジタルプラットフォームに定義する業務領域の全般にわたって、監査目線での分析観点も含めた業務テンプレート(図表2参照)を保持しておりますが、そうしたテンプレートを活用しながら決算業務全般のデジタル化を推進することが必要になってくると思われます。

図表2 決算デジタルプラットフォームの業務範囲とKPMGテンプレート
図表2

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
アカウンティング・アドバイザリー・サービス
ディレクター 河合 真吾

ニューノーマル時代のCFO機能の改革

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