メキシコ2020年税制改正の重要な論点整理

メキシコ2020年税制改正の重要な論点整理

2020年のメキシコ税制改正において、日系企業が留意すべき重要な個別論点を解説します。

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2020年のメキシコ税制改正における、在メキシコ日系企業にとっての主要なポイントとしては、税務当局(SAT)の権限のさらなる強化、課税所得の割合をベースにした支払利息の損金算入制限の制度化、低税率国へのメキシコからの支払いが損金否認する規定の導入が挙げられます。
当該改正内容が自社にどのような影響をもたらすかについて、インパクトの試算や、必要に応じた文書化等の準備、専門家を介した内部検討などが重要であると考えられます。
本稿では、2020年のメキシコ税制改正において、日系企業が留意すべき重要な個別論点を解説します。なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 今回の税制改正では、税務当局の権限がさらに強化され、追加的な報告事項等の対応を納税者側に新たに要求している。また、BEPSのアクションプランを能動的に導入している。
  • 従来の過少資本税制と並行して、課税所得の割合をベースにした支払利息の損金算入制限が新たに制度化された。
  • 低税率国へのメキシコからの支払いが損金否認する規定が新たに導入された(ただし例外あり)。

I. はじめに

今回の税制改正では、メキシコ税務当局(SAT)の権限がさらに強化され、追加的な報告事項等の対応を納税者側に新たに要求しています。また、BEPSのアクションプランを能動的に導入しています。
本稿では、2020年のメキシコ税制改正の内容において日系企業に対して影響のある項目を整理しています。日系企業においては、当該改正内容が自社にどのような影響をもたらすかについて、インパクトの試算や、必要に応じた文書化等の準備、専門家を介した内部検討などを行うことが重要であると考えられます。

II. 支払利息の損金算入制限の制度化

1. 支払利息の損金算入制限

BEPS行動計画を踏まえた支払利息の損金算入制限が新たに設けられ、2020年度より、純支払利子のうち、調整後課税所得の30%を超える金額については損金不算入となりました。

  • 純支払利子=支払利息 - 受取利息 - 20百万メキシコペソまでの適用除外額
  • 調整後課税所得=課税所得+支払利息+減価償却費等

計算を実施する際の留意事項は、以下のとおりです。

2. 20百万メキシコペソの適用除外額

上述のとおり、純支払利子の計算において20百万ペソの適用除外額が設けられていますが、当該適用除外額はグループ会社全体または関連者全体(以下、グループ全体という)での金額となり、前事業年度におけるグループ全体での益金総額に基づき按分を行います。したがって、メキシコ国内に複数のグループ会社がある場合は、1社当たりの適用除外額が少なくなることに留意が必要です。

3. 課税所得がゼロまたはマイナスの場合

欠損等により調整後課税所得がゼロまたはマイナスになる場合には、純支払利子の全額が損金不算入となります。

4. 過少資本税制との関係

本規定は既存の過少資本税制と併用されることになるため、本規定に基づき計算された損金不算入額が、過少資本税制による損金不算入額を上回る場合にのみ適用となります。したがって、最終的な損金不算入額は、本規定に基づき計算された損金不算入額と、過少資本税制に基づき計算された損金不算入額を比較し、いずれか大きい方の金額となります。

5. 損金不算入額の取扱い

本規定により損金不算入となった純支払利子は、10年間繰り越すことができます。

6. 本規定の適用対象外

金融機関については、本規定の適用対象外です。また、特定のプロジェクト(公共インフラ、メキシコ国内の不動産建設とその土地取得、石油や天然ガスの炭化水素源の探査・採取・輸送・貯蔵・供給、電力や水資源の生成・流通・貯蔵等)の資金調達に係る債務や公債から発生する利子も、本規定の計算から除外されます。

III. 低税率国への支払いが損金否認する規定の導入

1. 海外低税率国に所在する関連者への支払いの損金不算入化

同じくBEPS行動計画をふまえた改正により、2020年度よりメキシコ企業から低税率国(Low Tax Jurisdictions)に所在する関連者への直接または間接の支払い、またはストラクチャード・アレンジメントを通じてなされた支払いがある場合、メキシコ企業において当該支払いに関する費用が損金不算入となりました。
低税率国として取り扱われるのは、メキシコの法人税率30%の75%よりも低い国、すなわち22.5%(30%の75%)未満の国・地域となります。また、ストラクチャード・アレンジメントとは、メキシコ企業またはその関連者が締結する契約で、当該契約に基づく支払いが、メキシコ企業またはその関連者が便益を受ける優遇税制のある地域に所在する企業への支払いと関連付けられている契約、または同様の目的と見なされる契約を指します。
従来は、これらの支払いが独立企業間価格として第三者価額にて行われている場合には、一般に損金算入が認められていました。なお、メキシコ税務当局(SAT)は当該規定に関する詳細なガイダンスを今後発行する予定です。
本規定に関する主な留意事項は、以下となります。

2. 対象となる支払い

本規定は原材料を含む物品の購入、利息の支払い、ロイヤルティテクニカルアシスタントフィーといったサービス対価の支払い等の、いかなる支払いにも適用される点に留意が必要です。

3. 間接的な支払いについて

当該規定は、上記直接の支払いに加えてメキシコ企業から低税率国関連者への間接的な支払いも適用対象としています。つまり、メキシコ企業(A)からの支払いが、低税率国に該当しない国に所在する関連者(B)への支払いであったとしても、そのBからさらに別の国のグループ会社へ支払いが行われ、当該支払いの最終的な受益者(C)が当該低税率国に所在する関連者である場合は、本規定が適用されることとなります。

4. 例外規定:「当該取引が実態を伴う場合」

ただし、メキシコ企業の行う支払いが「取引実態を伴う場合」には、損金算入できる例外規定が設けられています。当該例外規定は、支払いを受ける低税率国に所在する関連者が事業活動に従事し、事業活動を遂行するにあたって不可欠な人的リソースおよび資産を有していること、また法人企業であり、メキシコと情報交換協定(Exchange of Information Agreement)を締結している国に有効な事業遂行場所を有していることを立証できる場合、当該関連者への支払いの損金算入を認めるものとなります。
一方、ストラクチャード・アレンジメントに関しては、当該例外規定は適用されません。また、ハイブリッド・ミスマッチ(複数国間における税務上の取扱いの差異)があると認定された場合にも、当該例外規定が適用されないことになります。
一般的な日系企業の取引を鑑みた場合、ほとんどの取引が実態を伴うものであり、当該規定の影響は受けないものと考えられます。ただし重要な論点として、当該取引実態の例外規定は、取引の実態がある場合、かつその取引相手がメキシコと情報交換規定を締結している国※1に所在することが条件となっているため、メキシコと租税条約等を締結していない国にあるグループ会社との取引は、実態の有無にかかわらずその支払いが損金否認されてしまうという建付けとなっています。
注意点として、東南アジアのタイ(法人税率20%)、ベトナム(法人税率20%)、マレーシア(法人税率24%)は、現在租税条約締結に向けて協議中であり、現在の締結国ではないため、これらの国(※マレーシアは規定で定められる22.5%の税率に抵触しない可能性が高い)の関連者へのメキシコからの支払いは、当該規定の影響を受ける可能性があります。SATからの詳細なガイドラインがまたれるところではありますが、当該国の関連者との取引が大きい会社の場合、詳細な分析のうえ対策をとることが肝要です。
 

※1 メキシコが現在租税条約(情報交換規定含む)を締結している主要な国:日本、米国、カナダ、中国、韓国、香港、シンガポール、フィリピン、インドネシア、インド、英国、スペイン、ポルトガル、ドイツ、フランス、イタリア、オランダ、ベルギー、オーストリア、チェコ、ハンガリー、ロシア、トルコ、オーストラリア、南アフリカ、ブラジル、アルゼンチン、コロンビア、チリ、ペルーなど

IV. その他

1. サービス会社への支払に対するVAT6%源泉税徴収義務

委託者(サービスの受益者)にスタッフを派遣し、サービスを提供する会社(サービスの提供者)から受け取る請求に対して新たに規定された制度で、委託者側(サービスの受益者側)は、当該サービスの対価に対する16%のVAT(付加価値税)のうち、6%ポーションを源泉して当局に納税することとなりました(当然、サービス提供会社に対しては、差分の10%ポーションのVATのみを支払うことになります)。
このVAT源泉は、法案時には単純にアウトソーシングと呼ばれる人的サービスの提供を対象として規定されていたものの、実際に施行された法令において、それ以外のサービス事業者に対しても適用される可能性がでてきたため、該当可能性のあるすべてのサービス業者との契約、取引を今一度網羅的に確認することが望ましいと考えます。当該サービスに対する受益者側のVAT源泉徴収義務を順守することは、所得税法上損金経理するための要件となっている点にもご留意ください。
たとえば、SATから出されたFAQにおいては、清掃サービス、機械等のメンテナンスサービス、従業員の移動に関するサービス(通勤バス会社等)は、源泉の適用対象相手先として例示されています。
最後に、該当する企業はほとんどないと思いますが、北部国境地域税務インセンティブを享受している納税者のケースでは、VAT税率が16%ではなく8%に減額されているため、今回の改正の対象となる源泉税率は6%ではなく3%となります。

2. メキシコPE(Permanent Establishment=恒久的施設)の定義変更

非居住者がメキシコにおいてビジネス活動を行う場合のPEの定義が新たに拡大されることとなりました。 これもBEPSプロジェクトの行動計画をふまえた改正です。特に米国や日本の会社が直接メキシコ顧客と取引を行っているケースで、メキシコ子会社やその他第三者の代理人をメキシコ側で使用している場合、今一度その影響度を確認することをお勧めします。
改正前のメキシコ所得税法上においては、メキシコの代理人(個人・法人)が、メキシコ国内にて非居住者の代わりに権限を行使したり、契約に代理で署名したりする場合、その非居住者はこの代理人を通してメキシコにおいてPEがあるとみなす規定がありました。
今回の改正においては、メキシコの代理人が、非居住者の「契約締結に繋がる主要な役割をメキシコ国内において果たしている場合」に、その非居住者はメキシコにおいてPEを持つと定義が変更されています。
さらに、非居住者とメキシコ代理人の関係が関連者の場合、かつメキシコ側関連者が非居住者の関連者のためにもっぱら代理人業務を行う場合、PEに該当しない「独立代理人」とみなさないとも、新たに規定しています。
PEの例外とされる準備的、補助的活動について、いかなる活動も準備的、もしくは補助的でない場合、PE認定されるという定義も追加されています。
上記改正を踏まえた場合、2020年以降において非居住者が代理人を通して、メキシコにおいて販売活動や販促活動を行い利益を享受している場合、メキシコ当局によりPE認定を受ける可能性がでてきます。非居住者のための販売および販促活動もしくはこれらに類似する業務に従事する従業員がメキシコ企業の従業員であり、かつ非メキシコ企業がその活動の全部または一部の受益者である場合に、特にその影響度について留意が必要となります。

3. 濫用防止規制(ビジネス上の正当な理由付け)

税務当局の調査において、企業のある取引が、ビジネス上の合理性はないが税務メリットを享受できるものと判断された場合、その取引が架空取引と見なされる規定が加わりました。
このような法的な不確実性を生じさせる可能性のある改正内容は、税務当局による判断基準によって、「ビジネス上の理由」がなく、一方で税務上のメリットを生じさせるとみなされてしまう危険性を当然のように伴うことになります。規定によると、当該取引によって生じる現在または将来の経済的便益が税務上の便益を下回る場合、ビジネス上の理由はないとされています。
税務当局は、納税者に対し個別に税務調査を行ったうえで、その取引にビジネス上の合理性がないと判断した場合、その旨が納税者に通知されることになります。
たとえばメキシコグループ会社間での合併に際し、一方の会社が持つ欠損金を活用するため存続会社を当該会社にする、などが考えられます。
税務メリットをとる取引が発生するケースにおいて、その取引のビジネス上のメリットと、なぜ事業上その取引を行う必要があるかについて実行前に検討し、文書化しておくことが、将来の税務調査リスクを軽減するために必要となります。

4. 電子スタンプの使用権限停止

税務当局は、企業の電子スタンプの使用権限を停止させ、事業継続を止めることができるという点に改めて留意しなければなりません。万が一そのようなケースに陥った場合、速やかに当局に対して説明を行い、その理解が得られれば、翌日には(電子スタンプを止めた理由が明確に当局側で処理されるまでの間一時的ではあるが)再度利用が可能となります。
このようなリスクに対応するためにも、今一度内部の報告体制と、仮にそのような事態が起こってしまった際の当局へのアクションに関するフローについて再度見直し、必要な文書化をすることが肝要と言えます。

5. 当局への報告義務がある一定の取引

連邦税法典において「報告対象となる一連の活動が開示」されました。すなわち税務アドバイザーは当該取引に対してのアドバイスを納税者に提供した場合、その事実を税務当局に情報を開示する義務を持ちます。これらの報告制度は、他国でも導入されているようですが、それらはより国際的な取引に焦点を当てており、メキシコにおける今回の改正のような国内取引は対象とされていません。
企業の取るべき対策として、当該規定にて明記された取引に該当するものがあるかどうかについてチェックリストを作成し、一定期間ごとに振り返ることで、当該アドバイスを提供した専門家とのすり合わせ等の情報を共有することが挙げられます。

6. ユニバーサル・コンペンセレーション (税金相殺処理)

本規定自体は2019年度よりメキシコにおいて施行されているため、既におなじみとなった改正点となります。既にAMPARO※2を適用した企業も多数あるようですが、重要な論点であるため、本稿でも記載します。
ご存知のとおり、税金(ISRやVAT等)の過払いについては、還付もしくは他の税金との相殺という行為が過去認められていたものの、当該変更により、相殺行為は同種類の税目に対してのみ可能であるという制限がなされました。この制限規定は、2019年の税制改正において時限立法的に施行されたもので、今回2020年の改正によって、連邦税法典に新たに組み込まれることとなりました。
VATのクレジット残高を継続的に保有することとなるIMMEX※3等の輸出製造業や、マキラドーラ※4企業は、還付申請プロセスを通じてのみ当該クレジット残高を回収することができます。
 

※2 税制改正がなされたとき、メキシコ憲法の平等性、均衡性に照らし、納税者の権利が侵害されると判断した場合、その改正を違憲として納税者側から提訴できる制度。特徴として、仮に勝訴となった場合、違憲の訴え(すなわちAMPARO訴訟)を起こした納税者のみが、その効力を享受できる

※3 「輸出向け製造、マキラドーラ、サービス産業」を意味し、輸出の促進と、メキシコ企業による国外市場へのアクセスおよび国内の製造インフラの近代化促進を目的として、メキシコ政府が申請企業に保税による一時輸入の恩恵等を与える制度

※4 IMMEX制度の一形態であり、寄託受託関係にある海外会社とメキシコ企業間でマキラドーラ契約を締結することにより行う保税委託加工制度。地理的に隣接している米国企業のメキシコ進出に際してよく使われる

執筆者

KPMGメキシコ
メキシコシティ事務所
ディレクター 東野 泰典

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