LIBOR公表停止に関する代表者宛通知(Dear CEOレター)の解説

LIBOR公表停止に関する代表者宛通知(Dear CEOレター)の解説

2020年6月1日、金融庁・日本銀行連名で、LIBOR公表停止に向けた取り組み状況を代表者に確認する、「代表者宛て通知(Dear CEOレター)」が発出された。その潜在的影響の大きさを鑑み、「2021年末以降、恒久的に公表が停止されることを前提」とした準備を間接的に促すものと考えられる。本稿では、本レターの概要と対応のポイントを解説する。

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本邦における「代表者宛通知」の位置づけ

いわゆる"Dear CEOレター"は、金融行政においては、英国の金融当局である健全性監督機構(PRA)および金融行為規制機構(FCA)によるものがよく知られており、金融機関の直面する、リスクの高い問題に関する注意喚起の手段となっている。金融機関のトップに直接メッセージを伝えるだけでなく、広く公開することでマスメディアをはじめとする一般の関心も得られることから、近年よく用いられている。

英国においては、シニアマネージャー・レジーム(SMCR:Senior managers and Certification regime)と呼ばれる、上級役職員個人に対する責任を強化する規制枠組みがある。この下で、レターで示された問題が修正されない場合、宛先の当人が直接責任を問われる可能性がある点で、Dear CEOレターが一つの重要な政策ツールとなっている。関連するレターには、2018年9月に、LIBOR公表停止に係る主要なリスクと、その対応策、担当のシニアマネージャーの名前などを回答する旨を、FCAが求めたものがある。

一方で、金融庁・日銀連名で6月1日に発出された本レター「ロンドン銀行間取引金利の恒久的な公表停止に向けた対応について」では、「求められる対応」として、LIBOR移行のいくつかの重要ポイントを提示したうえで、「当該対応が、示した時期までに完了していないことをもって不適切と判断するものではない」とし、最近の検討状況が分かる資料の提出を、各金融機関の代表者に求めている。このため本レターのほうは、個別の法令に基づく命令ではなく、規制当局からの情報提供依頼と位置づけることができる。

いずれにしろ、求めるところは、代表者自身がレターを読んで内容を理解し、指摘されたリスクに関して自社が適切に運営されていることを確認されたい、ということであり、社内において、期せずして対応部署や責任分掌の事情で優先順位が下がっていたり、責任分担が不明確で思わしく進捗していなかったり、というようなことが起こっていないかを、網羅的に点検し、早めに是正するために意義のあるものであるという点に、違いはないであろう。

求められる対応

移行計画とガバナンス

「求められる対応」のなかで示されている、LIBOR公表停止準備の重要なポイントの中で、まずLIBORを利用している金融商品や取引の移行のタイムラインを含む、移行計画を策定することがうたわれている。一部文中では、無リスク金利による新規契約締結に限って「移行」と呼び、旧LIBOR関連契約に対して水準調整済みの金利を適用しようとする「フォールバック」と区別している部分もあるが、ここで言う移行計画は、新金利の取り扱い開始とフォールバック金利への引継ぎを両方含んだ、全体的なものを指していると考えられる。

特に日本円については、ターム物金利の構築やフォールバック金利の選択など、市場のコンセンサスはまだまだ見えない中で、後継金利に関する確定的な前提のもとに計画を定めることは難しい。このため、いくつかのシナリオを想定した上で、複数の計画を立てることは不可避であろう。また、このような計画は、取締役会やその他経営会議などの高位の会議体で、報告・承認されることが期待されている。

また、移行計画の報告・承認のみならず、実行に当たってのガバナンス(責任者、責任部署、指揮命令系統、意思決定主体、レポーティングライン等)を確保することが求められている。プロジェクト遂行の上では、既に何らかの形でプロジェクト管理チームは存在すると思われるが、このチームを通して、長期にわたるプロジェクトの活動を、ビジネスラインやファンクション横断的に調整・監督することになる。

プロジェクトの意思決定に影響を与える外部条件には不確実な部分が多く、当局の新しいアナウンスや市場慣行の収束等による、変化する状況に逐次対応していくことが求められる。このため、各プロジェクトの目標、成功基準、および内部マイルストーンを詳細に決定しておき、状況に応じ優先順位を変えていける柔軟性を持たせることが、移行計画の策定に際しては重要と考えられる。

顧客対応(主に契約条件の変更とその交渉)

本レターでは、FCAが公表停止のタイミングとアナウンスする、2021年末をまたぐ契約について特に関心を寄せており、そのような契約への早めのフォールバック条項の導入、もしくは(まき直し等による)新金利への移行により、顧客との円滑な取引継続を行うことが期待されている。加えて、顧客とのコミュニケーションとして、契約変更や新契約への移行の交渉に関する従業員の教育、並びに交渉の態勢整備を求めている。契約変更の文言や新金利、フォールバック金利への移行スケジュールが、ある程度具体的に決定されない限りは、多人数を動員しての組織的なコミュニケーションは困難である。したがって、まずはそのようなコミュニケーションの材料である、契約条件並びにそれに基づく対顧事務の詳細が先決となる。

3月末に発表された全銀協の「相対貸出のフォールバック条項の参考例(サンプル)」では、日銀主催の「日本円金利指標に関する検討委員会」による検討内容に沿った形で、契約書の案文が提示されている。「ハードワイヤードアプローチ」では、ローン等の相対の契約書におけるウォーターフォール形式でのフォールバック条項の例を示しているが、フォールバック金利の選択肢は特に示されておらず、その選択の優先順位はユーザーが決めるような形になっている。つまりは、契約変更時に、変更事由のトリガー発生後にどの金利を(どの優先順位で)適用するかを交渉するということになる。一方、「修正アプローチ」では、移行のトリガーが引かれたときはじめて金利変更の交渉を始めるようになっており、契約変更時はさしあたり後継金利の合意を行う必要がない。

現場で個々に金利の選択を行うことは考えにくいので、顧客との組織的コミュニケーションを始める前に、後継金利の種類や、その決定タイミングに関する柔軟性を後に残しておくのか、あるいは独自に後継金利(もしくは優先順位)を決定したうえで交渉を行うのか、についての、顧客の選好の調査・検討並びに意思決定が、まず必要となるであろう。

主に顧客保護や競争法の観点から関心の高いコンダクトリスクについては、本邦規制上の直接の手掛かりは少ないものの、英国FCAのガイダンス”Conduct risk during LIBOR transition“において主要な観点が示されている。顧客とのコミュニケーションに関して、通常の説明義務で想像するものに加えて特徴的なものとしては、移行対応は一種類ではなく、既存のLIBOR関連のエクスポージャーの代替商品の選択肢について(それぞれのコスト・ベネフィットやリスクを)公平に説明すべきというものがある。既存契約のフォールバック金利への移行が少なからずリスクを伴うことから、考えうる選択肢の検討機会ならびに時間を、十分に顧客に与えることが求められていると理解される。特に前述の全銀協案における「修正アプローチ」では、貸付人の提案する金利が当局の推奨内容や市場慣行を適切に考慮したものである限り、借入人は合理的な理由なく拒絶することができないとされており、十分な顧客説明の余裕を考慮しておくべきものと考えられる。

事務・システム対応

リスクフリーレートを参照した商品について、2020年末を目途にシステムでの取り扱いを可能にすること、またそれが十分にできない場合は、手作業の事務により対応すること、またシステムか手作業かのいずれに関わらず、必要な事務規程、事務フローを整備し、研修を行うこととしている。リスクフリーレートには、フォールバック金利が含まれると見られ、全般的な事務・システム対応を指すと考えられる。

既に事務・システムに関するハイレベルな影響度調査を行っているところは多いと見られるが、主要機能のある各ビジネス部門、主計、資金・財務、在庫管理、システム、事務管理、などでのLIBORの利用状況を詳細に理解する必要があるので、既存の文書化の程度によっては、オペレーションフローやデータフローを実際に辿っていく、いわゆるウォークスルーによる現状把握により、移行の際のリスクを低減させることも考えられる。事務の変更はシステムに依存するところもあるが、影響の最も大きい後決め金利の採用可能性が高いところで、現状調査の上で、優先的にハイレベルな変更後フローの検討に着手することは十分可能であろう。

2021年末での全LIBOR取引の一括の移行を求めるものではなく、受け皿としてのインフラの準備を期待するものと考えられるが、インフラ整備に残された時間は非常に少なく、後継金利の選択に関する全ての可能性を残して、全てのプロセスで事務・システムを整備することができるのかどうかは、金融機関によって判断の分かれるところとなる可能性がある。時間的制約の判断によっては、関連事務の重要性によって対応を変えることも考えられるので、そのような対応の範囲並びに可否に関する意思決定を、早めに行うことは十分考えられる。

本レターへの回答にあたって

本レターで指定されている金融庁への提出資料としては、1.ガバナンス体制、2.業務における影響範囲、3.移行計画、4.進捗状況の監視、5.人員・予算の配分、6.コンダクトリスク対策、7.公表停止前トリガーへの対応、8.投資家リレーション、ディスクロージャー方針、などが求められている。上記を踏まえ、回答において考慮が考えられる点を例として挙げると、次のようになる。

  1. ガバナンス体制
    プロジェクトの総責任者、各分野で説明責任を持つ上級管理職、プロジェクト体制の概要、指揮命令系統並びにレポーティングライン、報告会議体と頻度、他の会議体との連携
  2. 業務における影響範囲
    LIBOR移行の影響の予想される業務、取引規模(残高、取引フロー、取引相手数)、エンティティ並びに所属法域、組織上の所掌、該当業務のワークフローや情報システムにおける影響範囲
  3. 移行計画
    各ワークストリームにおける、個別プロジェクトの目標、スケジュール、マイルストーン、プロジェクト間の依存性、当局方針や市場慣行等の変化や明確化による計画変更方針、移行リスクの特定(市場の備え、ビジネスフランチャイズへの影響、金融・法的リスク)と緩和方針
  4. 進捗状況の監視
    進捗管理におけるPMO(プロジェクト管理部署)の権限と機能、各ワークストリームにおける進捗状況のダッシュボード、定期的報告体制、各部門間の調整状況のトラッキングと意思決定結果の記録
  5. 人員・予算の配分
    PMO並びに各ワークストリームにおける人員のアサイン状況(専担・兼務)、必要な専門性の確保、外部リソースの活用、現状における予算配分と確保の状況
  6. コンダクトリスク管理
    各業務におけるリスク認識(例:説明義務、利益相反・情報の非対称性、優越的地位の濫用、特別利益の提供、反競争的行為、その他不公正取引)と対処方針、リスクコントロール手段
  7. 公表停止前トリガーへの対応
    現状認識と対処方針、実施におけるマイルストーン
  8. 投資家リレーション、ディスクロージャー方針
    外部コミュニケーションの達成目標と優先順位、利害関係者(顧客、他金融機関、規制当局、業界団体等)とコミュニケーションチャンネルの特定、移行計画における準備(教育研修やマテリアル作成)と実施タイミング

いずれも、その内容の細かな妥当性を今の段階で問うというよりは、取締役会あるいは経営会議等が承認したものとして、つまり金融機関全体として、そのような計画並びに方針が首尾一貫したものとして存在し、具体化に向けどこまで取り組みが始まっているかを確かめる、という趣旨であると考えられる。なお、英国の2018年9月のDear CEOレターの回答結果は、1年ほど後にフィードバックとしてまとめられ(” Feedback on the Dear CEO letter on LIBOR transition”)、FCAから公開されている。

最後に

LIBOR移行をめぐる条件は完全に定まったとは言えず、ムービングターゲットである上に、経営における重要性は高く、かつ残された時間は多くない。このことから、本レターの趣旨を鑑みるまでもなく、経営レベルのリーダーシップのもと、専担のプロジェクトチームによる計画の検討並びにその遂行を行うことは多くの場合必須であると考えられる。今回のレターへの回答の作成を契機に、代表者のリーダーシップのもと、そのような取り組みがさらに進むことが期待される。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
金融事業部
ディレクター 北野 利幸

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