収益認識基準の適用タイミングにも留意 会計方針開示等会計基準案の実務への影響

旬刊経理情報(中央経済社発行)2020年1月1日特大号に 収益認識基準の適用タイミングにも留意 会計方針開示等会計基準案の実務への影響に関するあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

旬刊経理情報(中央経済社発行)2020年1月1日特大号に 収益認識基準の適用タイミングにも留意 会計方針開示等会計基準案の実務への影響に関するあずさ監査法人の解説記事が掲載されまし

この記事は、「旬刊経理情報2020年1月1日特大号」に掲載したものです。発行元である中央経済社の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

ポイント

  • 関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に、会計方針を開示していなかった企業は、新たに会計方針の開示を行うことが必要となる可能性がある。
  • 関連する会計基準等の定めが明らかでない場合と判断される会計事象には、関連する会計基準等が存在しない新たな取引や経済事象が出現した場合に適用する会計処理の原則及び手続や、業界の実務慣行とされている会計処理が含まれる。

本章では企業会計基準公開草案69号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準(案)」(以下、「本公開草案」という)の適用にあたり影響があると考えられる「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」の開示に係る実務上の論点の解説を行う。なお、意見にわたる部分は筆者の個人的意見である。

新たな開示対象

(1)関連する会計基準等の定めが明らかでない場合の会計方針の開示に関する現行実務
現行基準のもとでは、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に、企業が実際に採用した会計処理の原則および手続を重要な会計方針として開示しなければならないかについては会計基準上必ずしも明らかではないと考えられる。

このため、関連する会計基準等の定めが明らかでない会計事象については、たとえ同水準の重要性があったとしても、会計処理に係る会計方針を開示している企業もあれば開示していない企業もある、という状況であると考えられる。

本公開草案が基準化される際に、これまで関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に会計方針を開示していなかった企業は新たに会計方針の開示を行うことが必要となる可能性があるため留意が必要である。なお、前述のとおり、このような会計方針をすでに開示している企業もあるため、本解説記事の中でそのような企業の事例を紹介する。

(2)関連する会計基準等の定めが明らかでない場合と判断される会計事象
本公開草案4 - 2項~4 - 5項において「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」においても、財務諸表を作成するための基礎となった事項を財務諸表利用者が理解するために、採用した会計処理の原則および手続の概要を、重要な会計方針に関する注記において開示することが求められている。

なお、「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」は、「特定の会計事象等に対して適用し得る具体的な会計基準等の定めが存在しないため、会計処理の原則及び手続を策定して適用する場合」と説明されている。また、本公開草案44-4項および44-5項において、これは次の項目を含むとされている。

1.関連する会計基準等が存在しない新たな取引や経済事象が出現した場合に適用する会計処理の原則および手続で重要性があるもの

2.業界の実務慣行とされている会計処理で重要性のあるもの(企業が所属する業界団体が当該団体に所属する各企業に対して通知する会計処理方法を含む)

 

1.関連する会計基準等が存在しない新たな取引や経済事象が出現した場合に適用する会計処理の原則および手続

近年、多くの企業が役員や従業員に対する様々なインセンティブ報酬を導入している。株式報酬や業績連動報酬に関連するインセンティブ報酬はさまざまな形態をとるため、会計上の取扱いが必ずしも会計基準等で明らかではないケースもみられる。

そのため、インセンティブ報酬によっては、企業が「関連性がある」と判断した別の関連する会計基準の定め等に準じた会計処理が行われている場合もあり、前述の1に該当するものとして注記対象となる可能性があると考えられる。参考情報として、現行実務においてすでに開示が行われている事例を紹介する(開示例1~2)。

(開示例1)キーコーヒー(株)(2019年3月)

(追加情報)

1.取締役等に対する株式給付信託(BBT)の導入

当社は、取締役等の報酬と当社の株式価値との連動性をより明確にし、取締役等が株価上昇のメリットのみならず、株価下落リスクまでも株主の皆様と共有することで、取締役(監査等委員である取締役を除きます。)及び取締役を兼務しない執行役員に関しては、中長期的な業績の向上と企業価値の増大に貢献する意識を高めることを目的とし、また、監査等委員である取締役に関しては、当社の経営の健全性と社会的信頼の確保を通じた当社に対する社会的評価の向上を動機付けることを目的として、取締役等に対する株式報酬制度「株式給付信託(BBT(=Board Benefit Trust))」(以下「本制度といいます。」)を導入しております。

当該信託契約に係る会計処理については、「従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い」(実務対応報告第30号 2015年3月26日)に準じております。

(出所)キーコーヒー(株) 2019年3月期 有価証券報告書

(開示例2)江崎グリコ㈱(2019年3月)

(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)

5.株式給付引当金

「事後交付型譲渡制限付株式報酬制度(リストリクテッド・ストック・ユニット)」における、役員に対する将来の当社株式の給付に備えるため、株式報酬規程に基づき、役員に割り当てられたポイントに応じた株式の給付見込額を計上しております。

(出所)江崎グリコ(株) 2019年3月期 有価証券報告書

 

2.業界の実務慣行とされている会計処理
業種・業界によっては、業種・業界特有の経済事象の会計処理について特有の実務慣行が形成されている場合がある。このような場合に、業界の実務慣行とされている会計処理方法で重要性があるものに関して開示を行うことは財務諸表利用者に有用であると考えられる。

参考情報として、業界特有の開示が行われている事例を紹介する(開示例3~4)。なお、具体的にどのような項目が開示対象となり、どのような開示を行うべきかについては最終化した改正基準の規定を確認する必要があることに留意が必要である。
 

(開示例3)四国電力㈱(2019年3月期)

(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)

(8)その他連結財務諸表作成のための重要な事項

(略)

ニ 使用済燃料の再処理等の実施に要する拠出金の計上方法

原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施に要する費用は、「原子力発電における使用済燃料の再処理等のための積立金の積立て及び管理に関する法律の一部を改正する法律」(平成28年法律第40号、以下「改正法」という。)に規定する拠出金を、原子力発電所の運転に伴い発生する使用済燃料の量に応じて電気事業営業費用として計上している。

(略)

(出所)四国電力(株) 2019年3月期 有価証券報告書

(開示例4)出光興産㈱(2019年3月)

(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)

(8)その他連結財務諸表作成のための重要な事項

(略)

4.油田プレミアム資産、負債

スノーレ鉱区買収時に締結した契約に基づく鉱区譲渡者に支払うプレミアムについて、原油埋蔵量及び原油先物価格等により将来の支出額を見積もり、割引後の金額を油田プレミアム負債に計上するとともに、同額を油田プレミアム資産として資産計上しています。なお、油田プレミアム資産については生産高に比例して償却し、油田プレミアム負債については実支払額で取り崩し処理を行っています。

(出所)出光興産(株) 2019年3月期 有価証券報告書

重要な会計方針として記載する項目および開示内容の判断

本公開草案の結論の背景では、注記の内容は企業によって異なるものであり、各企業が開示目的に照らして判断すべきと考えられる旨の提案がなされている。しかし、ある会計事象が関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に、当該会計事象に係る会計方針を重要な会計方針として開示する場合の開示の分量の目安や注記例は示されていない。

本公開草案では、財務諸表を作成するための基礎となる事項を財務諸表利用者が理解するために、採用した会計処理の原則および手続の概要を示すことを「重要な会計方針に関する注記の開示目的」とし、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合でも同様としている。

したがって、開示すべき項目および具体的な開示内容を検討するにあたり、当該開示目的を踏まえた検討が行われる必要があると考えられる。また、各社重要性についての判断基準をどのように考えるかは、監査人と相談のうえ検討することが必要と考えられる。

その他留意点

収益認識に関する会計基準との関係

現行の日本基準には収益認識に関する包括的な会計基準はないため、収益認識に関する会計方針について何をどこまで開示するかは実質的に各社の判断に委ねられていたと考えられる。しかしながら2019年10月30日に企業会計基準公開草案第66号(企業会計基準29号の改正案)「収益認識に関する会計基準(案)」および、企業会計基準適用指針公開草案66号(企業会計基準適用指針第30号の改正案)「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」(以下、「収益認識基準改正案」という)が公表され、今後は収益認識基準改正案における図表の定めに基づき、収益認識に関する詳細な会計方針についての開示を行うことが提案されている。

(図表)収益認識基準改正案での提案

企業会計基準公開草案第66号「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号の改正案)

80-2.顧客との契約から生じる収益に関して、次に定める項目を重要な会計方針として注記する。

(1)企業の主要な事業における主な履行義務の内容(第80-13 項(1)参照)

(2)企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)(第80-18項(1)参照)

80-3.前項に定める項目以外にも、第80-5 項(2)「収益を理解するための基礎となる情報」として記載することとした内容のうち、重要な会計方針に含まれると判断した内容については、重要な会計方針として注記する。

収益認識基準改正案は、2021年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から強制適用とすることが提案されており、会計方針の開示に関する本公開草案の強制適用時期の方が1年早い。

したがって、収益認識基準改定案について早期適用をしない場合、会計方針の開示に関する本公開草案の適用初年度において収益認識に係る会計方針について何をどこまで開示するかについては、翌期以降に収益認識基準改正案に基づき開示する予定の会計方針とも関係する可能性がある。このため、本公開草案に基づいて収益認識に係る会計方針についてどのような開示を行うかについては、両基準の関係を踏まえつつ、慎重な検討が必要となると考えられる。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
マネジャー 公認会計士
吉原 智子(よしはら ともこ)

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