基準最終化に向けた議論(2020年2月IASB会議の解説)

基準最終化に向けた議論(2020年2月IASB会議の解説)

週刊経営財務(税務研究会発行)2020年4月27日号に、IFRS第17号の最終化に向けた2020年2月のIASB会議に係るKPMG/あずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

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はじめに

国際会計基準審議会(IASB)は、2019年6月26日、IFRS第17号「保険契約」(以下、IFRS第17号)を部分的に修正する公開草案「IFRS第17号の修正」(以下、本公開草案)を公表し、その後回答者から寄せられたコメントを踏まえ、2019年11月から再審議を開始した。
2020年2月のIASB会議では、2019年11月の会議で暫定合意された、「さらなる検討を行うべき論点」のうち、以下のトピックについて議論が行われた。なお、文中の意見にわたる部分は私見であり、特に断りのない限り、項番号および付録はIFRS第17号のものを指す。

2月のIASB会議で議論された論点

2月のIASB会議で議論された論点は以下のとおりである。このうち本稿では1~4についてその概要を解説する。

Topic

  1. 投資リターン・サービスに帰属する契約上のサービス・マージン
  2. 集約のレベル - リスクの世代間共有が行われる保険契約に関する年次コホート
  3. リスク軽減オプション - 純損益を通じて公正価値で測定する非デリバティブ金融商品への適用
  4. 移行に関する追加的な軽減措置
  5. 軽微な修正
  6. その他のトピック

1.投資リターン・サービスに帰属する契約上のサービス・マージン

本公開草案において、直接連動有配当契約以外の保険契約では、保険カバーに加え、該当ある場合には投資リターン・サービスの給付の量とサービスが見込まれる期間を考慮してカバー単位を決定するということが提案された。これに対し一部の回答者から、投資リターン・サービスを識別するための規準を適用した場合の結果や、実務上の複雑性等を懸念するコメントが寄せられたため、2月のIASB会議では以下の点を中心に議論が行われた。

投資リターン・サービスを識別するための規準
投資リターン・サービスの識別に関連し、本公開草案に対する一部の回答者から、本公開草案が提案する規準の下では、保険契約者が投資リターンを得る権利を有していない期間(例:据置年金の据置期間)は契約上のサービス・マージンを純損益に認識できないのではないか、とのコメントが寄せられていた。
これに対しIASBの見解は、そのような保険契約において、保険契約者は企業(保険会社)の投資活動による便益を保険カバーの増大(例:給付額の増加)という形で享受することになるため、関連する契約上のサービス・マージンは投資リターン・サービスではなく保険カバーの提供期間を通じて純損益に認識されるべきである、というものであった。

投資リターン・サービスを考慮することの実務上の複雑性
保険契約のカバー単位の識別において投資リターン・サービスを考慮することは実務上の複雑性を増加させ、また、複数のサービス間のウェイト付けに主観的な判断を伴うため、簡便法や免除規定を織り込むことを望むコメントが回答者から寄せられていた。
これに対しIASBスタッフの見解は、企業は投資リターン・サービスに限らず、直接連動有配当保険契約や複数のタイプの保険カバーを提供する契約のカバー単位について既に同じような判断が求められており、また、簡便法の適用や免除を許容する場合、多様な保険契約のサービスの提供を適切に描写できなくなる恐れがあるとして、簡便法や免除規定は規定しないとするものであった。

回答者から提案された代替案
本公開草案が提案する投資リターン・サービスを識別する規準に同意しない回答者からは、当該規準の修正案やプリンシプル・ベースの規準を提案する代替案が寄せられ検討が行われたが、さらなる主観性をもたらす可能性があるとして却下された。

用語、文言の修正
本公開草案のB119B項の文言の明確化を要求するコメントが寄せられ、特に「正の投資リターン」の意味や意図を明らかにする要望が回答者からあった。「正の投資リターン」としたIASBの意図は、単に未経過期間に対応する前払保険料を払い戻す場合や企業がカストディアンとしてのみ機能する場合を除外する点にあったが、「正の」とすることで実務に混乱が生じる可能性があることに鑑み、「正の」の文言を削除し「投資リターン」とすることで合意に至った。

ガイダンスや教育的マテリアルの提供について
一部の回答者から、a)複数のサービスを提供する契約に関するカバー単位およびウェイト付けの方法並びに、b)投資リターン・サービスと投資関連サービスの区分に関してガイダンス等を求めるコメントがあり、検討が行われた。
これらに対しIASBは、a)については、ガイダンスを提供してしまうとそれが唯一の方法であるかのように読まれてしまうリスクがあり、また、企業が多様な保険契約に対して各々適切なアプローチを採用することを妨げる可能性があるとして、ガイダンスを提供するべきでないと結論付けた。他方、b)については、投資リターン・サービスに関する詳細説明はその理解に役立つと思われるため、IFRS第17号の結論の根拠の一部として含めることができるという見解を示した。

直接連動有配当契約にも投資リターン・サービスが含まれるか
一部の回答者から、直接連動有配当保険契約は投資関連サービスや保険カバーに加え、投資リターン・サービスを含む可能性があるため、投資リターン・サービスを提供する契約を直接連動有配当契約以外の保険契約に限定すべきでない、というコメントが寄せられた。
これに対しIASBは、見込まれる便益が限定的であるにもかかわらず重大な複雑性と適用上のコストを生じさせてしまうだろうという懸念から、投資リターン・サービスは直接連動有配当契約以外の保険契約にのみ含まれるとする本公開草案の考え方を採用すべきであるとの見解を示した。
以上の議論の結果、以下の点がIASB会議で暫定的に合意された。

(a)直接連動有配当契約以外の保険契約に投資リターン・サービスが含まれる場合には、保険カバーに加え、投資リターン・サービスの給付の量とサービスが見込まれる期間も考慮してカバー単位を決定するという本公開草案の提案を最終確定する。
(b)本公開草案のB119B項で規定する投資リターン・サービスを識別する要件は、「正の投資リターン」という表現を「投資リターン」に置換えて最終確定する。
(c)投資リターン・サービスを提供しない保険契約であっても、企業が当該保険契約に係る保険カバーの給付を増大させる投資活動を行うのであれば、その範囲で投資活動に係るコストを契約の境界線内のキャッシュ・フローに含めなければならないことを規定する。

契約上のサービス・マージンに係る定量的情報の開示について
開示に関しても、特に契約上のサービス・マージンに係る定量的情報を開示することについて懸念するコメントが回答者から寄せられたが、企業が将来期間に提供するサービスに合わせてどのように収益認識するかということを財務諸表利用者が理解するためには、本公開草案の提案の通り、a)契約上のサービス・マージンに係る定量的情報と、b)保険カバーと投資リターン・サービス又は投資関連サービスによって提供される給付に関するウェイト付けの方法に関する情報を合わせて開示する必要があるとして、本公開草案のとおり最終化することで暫定合意された。

2.集約のレベル - リスクの世代間共有が行われる保険契約に関する年次コホート

集約レベルの要求については論点が多く、特に年次コホートの要否については以前のIASB会議等でも議論されてきた。そして、2019年11月の会議において、リスクの世代間共有が行われる(年次コホートを跨いでリスクを共有する)保険契約に関する年次コホートについてはさらなる検討を行うが、それ以外の保険契約については議論を尽くしたとして、さらなる検討は行わないと結論付けていた。したがって、今回のIASB会議では、リスクの世代間共有が行われる保険契約に関する年次コホートについてのみ議論が行われた。
その結果、主として以下の論点について議論が行われたものの、結論としては、リスクの世代間共有が行われる保険契約に関する年次コホートについても現行のIFRS第17号の規定を修正せず、また、例外規定を設けることもしないという結論に至った。

リスクの世代間共有のある保険契約に年次コホートを適用するために必要なステップ等
リスクの世代間共有が行われる保険契約に関し、基礎となる項目のリターンを共有する際に企業側に裁量権がある場合どのような追加判断を経て新規の年次コホートに係る契約上のサービス・マージンを決定し、また、どのように事後測定を行うことになるか、ということが検討された。一部の回答者からは、その際の追加判断は主観的なものになるといった懸念が寄せられたほか、基礎となる項目の公正価値に関する企業の持分変動がある場合に、当該変動をどのように基礎となる項目を共有する年次コホートに配分すれば良いのか明確でないといったコメントが寄せられたため、それらについても検討が行われた。

年次コホートを適用するためのコストと年次コホートを適用しない場合に失われる情報とのバランス
年次コホートの適用に関するコストと便益を比較衡量するため、仮に年次コホートを適用しなかった場合に失われるであろう情報の分析が行われた。それによると、失われる情報としては主に2種類あり、1)保険金や金融保証など、基礎となる項目を共有することから発生するものではない、いわゆる固定キャッシュ・フローの影響に関する情報と、2)共有する基礎となる項目に係る企業の持分の収益性に関する情報であると分析されている。これらの情報はIFRS第17号の重要な便益ではあるが、リスクの世代間共有が行われる保険契約の場合は年次コホートを適用するためのコストが比較的高いことから、リスクの世代間共有が行われる保険契約の中でどのような特性をもつものが、年次コホートのコストが便益を上回る可能性があるか、さらに検討することとした(次のセクション参照)。

年次コホートのコストが便益を上回る可能性がある保険契約の特性
以下の特徴を有する場合には年次コホートのコストが便益を上回る可能性があるとされた。

  1.  グループ内の他の契約と基礎となる項目を共有し、基礎となる項目のリターンを共有する際に企業側に裁量権がある契約
  2.  変動手数料アプローチの適用要件(B101項)を満たす契約
  3.  基礎となる項目のリターンに金融保証が付されている契約で、その効果が世代間共有され、かつ、企業の残存持分が少ない場合
  4.  他の契約者と変動の影響を共有しない「固定キャッシュ・フロー」の金額が小さい契約

このような特徴を有する契約に対し年次コホート適用の例外を規定すべきか
仮に前述の特徴を有する契約に対し年次コホート適用の例外を認める場合、そのような契約を特定するための明確な線引きが必要であるが、かかる線引きは恣意的にならざるを得ず、複雑な要件を組み合わせる必要もあり、実務的に困難である。また、さらなる複雑性が生じる場合、現在進行しているIFRS第17号の導入に混乱をもたらすことが想定される。それゆえ、年次コホート適用の例外を規定すべきでないと結論付けられた。

3.リスク軽減オプション - 純損益を通じて公正価値で測定する非デリバティブ金融商品への適用

本公開草案は直接連動有配当契約から生じる金融リスクを軽減するために利用可能なオプションを、従来から認められていたデリバティブに加え保有する再保険契約(出再契約)にも拡張することを提案しているが、一部の回答者から、純損益を通じて公正価値で測定する非デリバティブ金融資産(例:債券)についても適用を認めるべきであるというコメントが寄せられていたことから、IASB会議で検討された。
リスク軽減オプションは、1)貨幣の時間価値および金融リスクのうち基礎となる項目から生じないもの(例:金融保証)の変動による履行キャッシュ・フローの変動(B113項(b))、および、2)基礎となる項目の公正価値の企業持分の変動(B112項)による契約上のサービス・マージンの変動を認識しないことを選択するものであるが、このうち1)については、純損益を通じて公正価値で測定する非デリバティブ金融資産を用いたリスク軽減オプションの適用が認められた。他方、2)についてリスク軽減オプションの適用を認めてしまうと、基礎となる項目を保有しないときにも変動手数料アプローチの採用を認めていることと矛盾する結果になってしまうことから、リスク軽減オプションの適用は認められなかった。

4.移行に関する追加的な軽減措置

IASB会議では、IFRS第17号適用上の経過措置に関してもさらなる議論が行われ、最終的に以下の経過措置を追加することで暫定決定された。

  1. 契約開始時または当初認識時の評価に関する修正遡及アプローチの修正項目および公正価値アプローチの救済措置として、投資契約が裁量権付有配当投資契約の定義を満たすか否かの評価を追加する。これにより、投資契約が裁量権付有配当投資契約の定義を満たすかどうかを、移行日時点で利用可能な情報を使用して判定することが認められる。
  2. 基礎となる保険契約(元受契約)が不利である場合の保有する再保険契約(出再契約)に係る修正遡及アプローチの修正項目を修正する。具体的には、保有する再保険契約が基礎となる保険契約の発行前に締結されたのか、または、同時に締結されたのかを識別する合理的かつ裏付け可能な情報がない場合には、基礎となる保険契約を発行した後に再保険契約を取得したとみなし、移行日時点で保有する当該再保険契約に損失回収要素はないものとする修正を加える。
  3. 過去の期中財務諸表で行われた会計上の見積りの取扱いを変更しないという会計方針を選択する企業について、修正遡及アプローチにおける修正項目を追加する。当該修正項目を適用する場合、移行日現在の契約上のサービス・マージン、損失要素および保険金融収益・費用に関連する金額を、移行日前に期中財務諸表を作成したことがなかったという前提で決定することができる。

今後のスケジュール

3月のIASB会議では、IFRS第17号の発行日の延長とIFRS第4号におけるIFRS第9号の適用を一時的に免除する例外措置の延長の2つのトピックが議題となった。これらについては後続の号で解説する予定である。なお、修正後の最終基準の公表は、本稿執筆時点においては2020年の中頃とされている。

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