新型コロナウイルス感染症(COVID-19):保険業界における顧客とデジタル化

新型コロナウイルス感染症(COVID-19):保険業界における顧客とデジタル化

保険会社は顧客へのコンタクト方法を増やし始めている。対面コンタクトチャネルは喪失したが、オンラインチャネルのてこ入れを行い積極的な対外コミュニケーションをとることで、多くの保険会社は、顧客に対し最低限のサービスレベルを維持している。これら保険会社の対応はこれで十分なのだろうか?

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保険業界においてCOVID-19はカスタマーエクスペリエンスとパーソナライズの限界を突破する「革新の触媒」となりえるか

「このパンデミックは私たちにどのような影響を及ぼすだろうか?生活は?仕事、教育、卒業、誕生日、祝い事、休日、社会生活は?」と質問しない人はいないだろう。さらに、「家計は?貯蓄は?退職は?」と続き、「私たちは乗り越えていけるか?必要な保障はあるか?」と考える。

保険は、パンデミックによる多くの影響や損失に補償を提供する。旅行保険、医療保険、ビジネス中断保険、労災補償、有給病気休暇、生命保険、入院費用補償、障害補償などを提供する。状況によっては補償の条件を見直す必要があるかもしれない。個人車両を業務配送へ利用する、個人住宅を在宅勤務または労災補償の業務場所として使うような場合である。多くの保険会社は経済的な影響を考慮し、支払い時期、遅延料、未払いの解約、運転頻度減少による保険料の部分的な返還(例:自動車保険)など支払い条件の調整を始めている。

また、保険会社は顧客へのコンタクト方法を増やし始めている。対面コンタクトチャネルは喪失したが、オンラインチャネルのてこ入れを行い積極的な対外コミュニケーションをとることで、多くの保険会社は、顧客に対し最低限のサービスレベルを維持している。

カスタマーエクスペリエンスの6つの柱

これら保険会社の対応はこれで十分なのだろうか?26ヵ国3,000社10年間にもおよぶ調査から導き出されたKPMGカスタマーエクスペリエンスの6つの柱には、成功するカスタマーエクスペリエンスの主要原則が定められている※1

  1. 高潔さ(Integrity):正しいことを行い、公正に顧客の本心と向き合う
  2. 決意(Resolution):顧客のニーズに対応し、解決策を見つけ出す
  3. 期待(Expectations):顧客の期待を設定し、マネージし、達成する
  4. 時間と尽力(Time and Effort):顧客からの情報アクセスを容易にし、必要な情報を得やすくする
  5. 個別化(Personalization):個々の顧客の状況を理解する
  6. 共感(Empathy):心配していることを示し、感情的に正しい対応を選択する

この内、不確実な現状でもっとも重要な柱は「高潔さ」と「共感」である。COVID-19蔓延の中で保険会社のサポートを顧客がどれだけ好意的に感じているかはわからない。COVID-19の急増はさておき、保険業界はその性質上、他の金融サービス業や小売り・消費財の領域に比べ顧客コンタクトの頻度が少なく、また平均的に顧客との距離が遠い状況にある。この解の1つに保険業界において早急に対応が求められていたカスタマーエクスペリエンスとパーソナライゼーションがある。COVID-19は、これまでの限界を突破するための「革新の触媒」となる可能性がある。


※1Hernandez, J. (2020, April 3). A customer first approach during unprecedented times. Retrieved from A customer first approach

保険業界がさらにやるべきことはあるか?

一部の保険会社では、顧客とのコミュニケーションを大幅に増加させ積極的に顧客サポートを実施している例がみられる。自動車保険では運転頻度が減少していることを考慮し、多くの国が保険料割り戻しを検討している※2。また、オーストラリアなどの国々では、個人医療保険会社がCOVID-19により通常の補償を受けられない商品に関し、保険料支払いの緩和など援助の提案を行っている※3。英国ではいくつかの保険会社が在宅勤務者向けに無料の自動車補償や対象範囲の広いビジネス補償を提案している※4

これらは全て保険会社によるポジティブな活動であるが、一方で問題も浮かび上がってきている。いくつかの保険商品に対し本当に必要な補償となっているかが意識され始めている。多くの人々はストレスと突然の収入断絶に苦慮しており、支出を減らすことが急務となっている。これが、保険の保有自体に疑問を持たれることにもつながっている。自動車の運転機会が劇的に減っているにもかかわらず、これまでと同等の保険料を支払うのは公平なのだろうか?日常業務が中断しているにもかかわらず、手術のみに支払われる医療保険で補償されているものは何なのか?パンデミックのような中断条件が含まれないとしたら、そもそも旅行保険に加入する価値はあるだろうか?

顧客にとってより価値があると感じられている商品もある。身体障害保険や生命保険は増加が期待されている。また、保障範囲の広い入院費用保障、重度医療保障、ビジネス中断保険なども同様である。年金、生涯保障のような収入保障商品やその他貯蓄退職金商品の需要も増えるだろう。また、在宅勤務が広範囲で残ることを考慮すると、住宅補償は以前より価値が増すかもしれない。

グローバル市場調査会社であるIpsosによって実施された中国、香港、シンガポール、オーストラリアの顧客2,500人への調査から以下のような仮説が導き出された。

  • 生命保険商品、医療保険商品への関心はCOVID-19の蔓延以来高まっている。
  • 仮想ヘルスケアサービスおよびヘルスケア事業者から優先的にサービスを受けられることは現金支払いよりも重要である。
  • 顧客は保障についてより精査するだろう(中国では顧客サービスを最も歓迎する)※5


※2Scism, L. (2020, April 6). Less Driving, Fewer Accidents: Car Insurers Give Millions in Coronavirus Refunds. Retrieved from The Wall Street Journal.
※3Doherty, B. (2020, April 24). Australia's private health funds say they will return any 'abnormal' coronavirus profits to members. Retrieved from The Guardian.
※4Scott, K. (2020, April 14). Aviva to provide free breakdown cover and courtesy cars for customers working for the NHS. Retrieved from Insurance Times.
※5Swiss Re COVID-19 Consumer Survey: Financial anxiety, demand for insurance products accelerates across APAC: Swiss Re. (2020, April 07). Retrieved from Swiss Re.

危機により動き出した変革と変化

COVID-19蔓延の結果、保険会社にはビジネスを見直す機会が生まれている。

まず、新しい商品ニーズの創出がある。パンデミックやエピデミックにおいて支払われる保険商品を既にいくつかの保険会社が検討し始めている。パンデミックを含む何らか突発的な事態から発生する新たな支払いに対し、少額の一括払いを提供するものである。また、診断された段階で支払われる重病疾患は、世界中でさらに関心が高まるだろう。

さらに、活動に応じて保険料を支払うタイプの保険商品へのニーズが高まる可能性がある。例えば自動車保険である。期間に応じて一定の保険料を支払うのではなく、テレマティクス(telematics)とデータ分析に基づき実際の走行距離によって保険料を決める。このタイプの保険引き受けで課題となるのはプライバシーとセキュリティである。ロックダウン中の状況を踏まえると、自動車は固定資産ではなく変動資産とみなすような動きがある。シェアードサービスやオンデマンドのモビリティーサービスに対する関心の高まりである。このモデル(活動に応じて保険料を支払うモデル)は一部の人たちにとって非常に魅力的なものとなっている。COVID-19後、公共交通機関の利用は低下する可能性があり、個人の車両を利用した移動がいっそう浸透するかもしれない。

顧客の保険業界に対する期待は個人の資産管理にまで拡大している

COVID-19が続いている影響で世界中の人々は個人の資産管理に奮闘しており、今後の動きに注目している。個人が資産管理を心配していることはIpsosの顧客調査を見ると明らかである。全ての市場調査の回答の約40%は「ぎりぎりだが何とかやっている」と回答しているなかで、27%の回答は資産管理が「心配」または「困惑」と答えている※6。調査で明らかとなった主な状況は以下のとおりである。なお、本調査はアジア太平洋地域のみに限定されたものである。

  • 保険に対し経済的な節約よりスピード、簡便さおよび履行を優先した。
  • 保険を見直した人々の半数は認識していなかった保障に気づき、一部の保障は今回のCOVID-19に対し有益であった。
  • 保険契約と保険金調査においてオンライン対応は最優先である。
  • 最初から最後までオンラインで対応できることは保険会社を選択する際の最重要事項である※7


※6Ibid.
※7Ibid.

注目されるデジタル化、データ、パーソナライゼーション

おそらく、業務上のもっとも大きな変更点は、保険商品の販売・サービス・顧客データの利用である。この動きはさらなるパーソナライゼーションを加速し、カスタマーエクスペリエンスの向上につながるだろう。

保険業界は長い間パーソナライズに苦心してきた。保険の提案は比較的標準化されており、顧客が個別の保障を購入するのは稀である。顧客は代理店やブローカーを通して間接的に保険に加入しており、多くの顧客にとって少なからずわだかまりがある。顧客は保険にお金を使いたいとは思っていないが、加入する必要はあると考えている(オーストラリアの個人医療保険においては、保険に加入しない場合は懲罰的税金を支払う必要がある)。

COVID-19によりパーソナライゼーションに変化が見られる。保険会社はさらなる個別提案とコミュニケーションを通じて、顧客に多くの価値をもたらす必要性を感じている。現在ビデオを含むオンラインコミュニケーションが非常に関心を集めている。デジタルファーストアプローチの保険商品は、顧客がアドバイザーとのビデオコールを通じて接触し、その後対面や郵送などで契約を完了するものである。このアプローチは保険会社に販売費用の低減をもたらすと同時に、顧客の方から個別アドバイスを求めてくるケースが多いため、結果として費用対効果の向上につながる。

ここまで見てきた通り、特定の保険においては需要が増える可能性がある。保険会社はチャネル戦略を見直し、チャネル統合とエンドツーエンドでのデジタルパスに投資する必要がある。顧客は外部業者が関与する煩雑な手続きをこれまで以上に敬遠するかもしれない。COVID-19は保険会社に対しオペレーションと保険金支払機能の効率化およびデジタル化を強く求めている。保険会社は自ずとカスタマーエクスペリエンスとデジタル戦略、変革アプローチと業務改善の連携を意識することになる。

データ交換を受け入れるか?

よりよいパーソナライゼーションを創る上での主要課題の1つに個人データの管理があるが、COVID-19によって状況が変わりつつある。オーストラリア政府のCOVID-19追跡アプリケーションCOVIDSafe※8では、200万人ものオーストラリア人がサービス開始後48時間以内にサインアップしている※9。COVID-19の危機を通し、人々は多少プライバシーを犠牲にしてでも健康を守ることを気にし始めているかもしれない。

顧客は必要とする商品やサービスを得るためにサービスプロバイダー側との協働も受け入れ始めている。顧客と保険会社間のデータ交換を通し、さらなる個別化と顧客ごとのターゲット商品の提供が可能となる。保険会社は商品を個別のリスクコンポーネントに分解し、個人や企業に必要なコンポーネントを販売することで、顧客はよりパーソナライズされた保障を得ることができ、保険会社はより正確なプライシングが可能となる。


※8Australian Government Department of Health. (2020, April 29). COVIDSafe app. Retrieved from Australian Government Department of Health.
※9Regan, H. (2020, April 28). 2 million Australians have downloaded a coronavirus contact tracing app. Retrieved from CNN.

営業のデジタル化も必要不可欠

販売チャネルのデジタル化もまたキーとなるテーマである。直接販売(direct-to-consumer)市場は国や地域により様々であり、保険会社は顧客のオンラインビジネスに対する意識変化を踏まえこれまで以上にオムニチャネルを追求している。ブローカーに目を向けてみると、デジタル環境の未整備が明らかになってきた。多くのブローカービジネスでは、デジタル活用やリモート業務用の機器が行き届いていない。デジタル化は、保険会社にとってコストのかかる見積もりや提案プロセスも効率化する。データ交換領域のデジタル化はプロセス全体の効率化にもつながる。

アジアでは、一般的に顧客と対面で業務を遂行していたため、COVID-19の影響でほぼ停止状態にある。ある国では、代理店ブローカーが存続できるよう超低金利ローンや手数料の前払いを検討している。一方、アジア各国ではいまだに署名が必要なため、状況を難しくしている。香港や中国では新規ビジネスのパイプラインが成長しているにもかかわらず、署名が得られるまで有効にならない。これらの国々では、保険会社が協調して電子署名の認可に関し規制当局に圧力をかけるかもしれない。デジタルを活用したエンドツーエンドの保険業務への転換とともに、新しいビジネスモデルが生まれる可能性がある。

また、英国のような国々ではM&Aを通してブローカーマーケットの再編の可能性がある。いくつかの保険会社は運転資本が枯渇している会社の買収機会を調べ始めている。富裕層向け商品の販売ルートを成功要因とみて、富裕層ネットワークに注目している。COVID-19の後、保険会社は「実現可能な最小の販売規模」がどの程度のものなのか、費用対効果と顧客リーチとのバランスをみながら買収機会を探っていくことになるだろう。

このような状況において優先度が高いのは、ブローカーとエージェントのデジタルケイパビリティを高め、デジタル化された保険会社と統合を進めることである。ビジネス保険では顧客はブローカーを通して保険会社と接点を持っている。もし、保険会社が顧客のためにデジタル化とパーソナライゼーションを強化したとしても、代理店とブローカーを切り離すことはできない。カスタマーエクスペリエンスは顧客のアクセス方法にかかわらず、保険会社が提供する価値は全て一貫する必要がある。

規制当局はこれまで以上に変化を注視している

今後は規制当局とよりいっそう緊密に動く機会が増えてくるだろう。伝統的に動きの遅かった保険業界の変化を促進するため、規制がその妨げとならないよう、保険会社は規制当局と歩調を合わせる必要がある。最近、オーストラリア証券投資委員会(ASIC:Australian Securities and Investments Commission※10)およびオーストラリア健全性規制局(APRA:Australian Prudential Regulation Authority※11)が社会の期待に沿うために正しい行動をとる重要性を生損保会社向けに発表した。これは前述した2つの柱である高潔さ(Integrity)および共感(Empathy)と完全に合致している。英国の金融行動監督機構(Financial Conduct Authority)も、この領域について業界向けのガイダンスを発行している※12。他にも同様のガイダンスを発行している規制当局があり、これらすべては保険業界と規制当局がともに活動している機会であるとみなすことができる。


※10Australian Securities and Investments Commission. (2020, April 27). ASIC letters to general and life insurers in the current COVID-19 environment. Retrieved from Australian Securities and Investments Commission.
※11Australian Prudential Regulation Authority. (2020, April 1). A joint letter from APRA and ASIC on the impact of COVID-19: APRA. Retrieved from Australian Prudential Regulation Authority.
※12Sweet, P. (2020, May 4). Covid-19: FCA wants clarity on business interruption insurance. Retrieved from Accountancy Daily.

今後に向けて

本シリーズにて既に説明してきた保険ビジネスにかかわる多くの観点において、COVID-19はリーチの難しい顧客とのリレーションシップを打破するきっかけとなる。この後、新たな顧客接点の誕生やブローカーネットワークの統合など保険会社において新しいビジネスの形態が見えてくるだろう。


本稿はKPMG Global Head of InsuranceであるLaura Hayの「COVID-19: customer and digitization in insurance」をKPMGジャパン保険チームにて翻訳したものである。

英語コンテンツ(原文)

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