金融機関における「お客様の声(VoC)」活用の高度化と顧客戦略への転換

金融機関における「お客様の声(VoC)」活用の高度化と顧客戦略への転換

国内金融機関のお客様の声(VoC)活用の現状と課題を踏まえ、広範囲かつ適切にVoCを収集し、顧客戦略へ転換していくためのアプローチを解説します。

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スマートフォンやタブレットといったモバイル機器、SNSの普及により、顧客はいつでもどこでも商品やサービスに関する情報を得ることができるようになり、実際の購買活動もこれらの媒体を通じて行うようになりました。こうしたデジタルを軸とした顧客行動の変化は、金融サービスにおいても既に影響を及ぼしており、顧客の店舗離れや顧客接点のデジタルシフトが進んでいます。
このような状況の中、顧客戦略を策定・実行していくうえで重要な判断材料となる顧客の声(Voice of Customer、以下VoCという)が対面や電話などで直接金融機関に入るケースは減少していくと想定され、金融機関は顧客接点の遷移を踏まえ、VoCを能動的に収集する対応が求められています。
本稿では、国内金融機関のVoC活用の現状と課題を踏まえ、広範囲かつ適切にVoCを収集し、顧客戦略へ転換していくためのアプローチを解説します。

なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りします。

ポイント

  • VoCは良質な顧客体験を設計・提供するうえで重要な判断材料である。
  • 顧客接点のデジタルシフトにともない、VoCの収集方法もこれまでの対面や電話に加え、デジタルチャネルでも収集できるよう整備が必要である。
  • 広範囲かつ適切にVoCを収集するために、音声認識技術、自然言語処理、ソーシャルリスニングツールや感情分析技術の採用も検討するべきである。
  • VoCから得られた示唆を顧客戦略に反映する際には、実際のオペレーションへの落とし込みを視野に入れて整合性を確保し、部門間で一貫したオペレーションを構築する必要がある。

I.「お客様の声」活用の再考

1. 良質な顧客体験の提供に繋がる「お客様の声」

消費者理解、顧客理解は、企業におけるマーケティング活動において欠かせない要素です。ターゲットとなる消費者や既存顧客の顕在化したニーズの把握のみならず、消費者のおかれている生活環境や行動に対する理解および共感をもとにした潜在的なニーズ(顧客インサイト)を顧客戦略や商品、サービス、実務オペレーションに反映させていくことが重要です。近年、商品やサービスのコモディティ化が進み、価格、機能面といった提供価値だけでは競争力が低下し、顧客の購買行動に繋がりにくくなってきています。それらを通して得られる満足感や喜びといった心理的な価値を考慮し、良質な「顧客体験(Customer Experience)」(以下CXという)を設計し付加していくことが求められています。
2019年にKPMGが公表した「Global Customer Experience Excellence Report」では、良質なCXを提供しているトップ100社の企業は、他社に比べ過去5年間の売上成長率が2倍以上高いことが報告されています。これらの企業のように、より良いCXを設計して顧客にその価値を届けるためには、顧客自身が気づいていないような潜在ニーズにまで掘り下げてアプローチする必要があり、企業は顧客視点で顧客の心理状態を理解し、それに対して何を提供するべきかを突き詰めて検討することが求められます。
このようなCX設計を行ううえで、「お客様の声(VoC)」は極めて重要なインプットデータだと言えます。VoCには、顧客の心理状態を理解するのにヒントとなる顧客の生の声が含まれます。企業が良質なCXを継続的に提供していくためには、日々の企業活動の中でより多く、適切にVoCを収集し、その分析結果から得られる示唆をCX設計に反映させ、企業価値の向上に繋げていくことが必須と考えます。

2. VoCの多様化

VoCに含まれるのは、対面や電話での会話、電子メールやメッセージアプリケーション、アンケートなどを通じて顧客から企業に対して直接伝わる苦情や意見、要望だけではありません。デジタル媒体が多様化し、SNSが消費者・市場に浸透した現在において、他社の管理する評価・比較サイトへの投稿や個人的な「つぶやき」等、企業に対する顧客の評価は世界中に拡散される可能性を秘めています。デジタルに慣れ親しんだ顧客は、それらの情報を収集し、商品やサービスの選択をするうえでの判断基準・参考情報として活用しています。したがって、ソーシャルメディアや比較サイトにおける投稿やつぶやきなど、不特定多数に晒される内容もVoCとして捉える必要があります。また、顧客からの苦情や意見、要望としての申し出以外に、顧客接点における態度や感情表現、行動履歴の中に潜む「顧客の声なき声」も、顧客の潜在ニーズ把握に繋がる重要な内容が含まれていると想定します。
今後、企業がより高度なCXの提供を目指すうえでは、顧客から直接申し出されるVoCのみならず、これまで把握しきれなかったVoCを能動的に収集し、顕在/潜在ニーズを把握していくことが必要です。

II. 金融機関におけるVoC活用の 現状と課題

1. VoC収集方法の見直しの必要性

デジタルを軸とした顧客行動の変化により、多くの業界でこれまで前提としていた経営環境が大きく崩れてきています。金融業界においても例外ではなく、従来型の支店中心の金融機関では、店舗の統廃合や人員削減・配置転換、テクノロジーを活用した次世代型店舗へのシフト、店舗サービスの軽量化など、これまで競争力の源泉であった資産やチャネルのあり方についての見直しを余儀なくされています。金融情報システムセンター(FISC)発行の「平成31年版 金融情報システム白書」によると、2014年度から2017年度にかけ、金融機関の拠点数は年平均2.5%減少した一方、金融機関へのインターネット/モバイル経由の取引を扱う代表的サービスであるANSERのトランザクション数は年平均16.2%増加となりました(図表1参照)。金融機関は、このような顧客接点の遷移を的確に捉えてVoCの収集方法を見直し、今後の対策を検討する必要があります。

図表1 金融機関の拠点数とANSERトランザクション数
図表1 金融機関の拠点数とANSERトランザクション数

2. 金融機関におけるVoC活用の現状

ンターネットやモバイルといったデジタルチャネルへのシフトが進んでいる現状を踏まえ、デジタルチャネルユーザーの窓口となる銀行ウェブサイトでのVoC収集方法と対応事例の公開の有無、主要なソーシャルネットワークサービスの公式アカウントの有無について、都市銀行(4行)、第一地方銀行(64行)、第二地方銀行(39行)の全107行を対象に、KPMGでは独自の調査を行いました(2020年2月15日時点)。

(1) VoCを積極的に受け入れる姿勢

・ トップページでのVoC受付案内:30行(28%)
顧客からの苦情や意見、要望を受け付けるための専用ページリンクとしてページ幅全体にまたがる大きなバナーで「お客さまの声をお聞かせください」と掲載している銀行がある一方、ページ下部に目立たない色の文字列で「ご意見・苦情」と掲載している銀行も存在しています。

・ 相談窓口の電話番号掲載:全行記載
・ Webフォームでの投稿受付:約半数の55行
金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」では、苦情等の発生状況に応じ、受付窓口における対応の充実を図るとともに、顧客の利便性に配慮したアクセス手段・アクセス可能時間を設定する等、広く苦情等を受け付ける態勢の整備が求められています。また、受付窓口や申し出の方式等について広く公開するとともに、顧客の多様性に配慮したわかりやすさも求められています。今後、顧客のデジタルシフトがますます進むと予測される銀行業界では、受付時間が限定的な相談窓口への電話のみならず、インターネット/モバイルチャネルで完結するVoC収集手段を拡充する対応が急務になると考えられます。インターネット経由でのアクセスユーザーを電話窓口へ誘導する行為(チャネルスイッチ)は顧客不便を引き起こし、本来のお客様の声を聞き損ねることにも繋がります。

(2) 顧客への真摯な対応
顧客から受けたVoCをもとに実施した施策や改善事例を公開している銀行は、調査対象の18%にあたる19行にとどまりました。VoC対応のフィードバックは、顧客への真摯な対応の表れであり、企業イメージをより良いものとする取組みの1つと捉えられます。公開していた銀行の中には、対応済みの事例だけでなく、顧客の資産保護やセキュリティ強化のために対応できない事例についても、お詫びと理由を交えて掲載しているところも見られました。

(3) デジタルシフトを見据えたVoC収集チャネルの拡充
トップページに埋め込み型のチャット機能を整備している銀行は6行にとどまりましたが、調査対象の66%にあたる71行では、双方向コミュニケーションが可能な主要なソーシャルネットワークサービスで公式アカウントを有していました。今後はこれらのデジタルチャネルを利用し、より多く、適切にVoCを把握するための施策が求められます。

III. 異業種・海外事例にみる VoC活用のベストプラクティス

1. 日系某航空会社の事例

世界における日系航空会社の顧客満足度は総じて高く、格付け会社のランキングでもほぼ毎年トップ10に位置付けられています。ここでは、その中でも国内トップに君臨し続ける企業を取り上げ、VoC活用事例とともに顧客満足度を維持し続ける要因について解説します。

(1) 組織的なVoCの収集
顧客から直接受け取るVoCとともに、客室乗務員や空港スタッフ、予約・案内センターのスタッフ、セールススタッフ等、顧客接点で対応する社員が気づいたことを組織的にレポートする仕組みを有しています。顧客から直接受け取るVoCは年間2~3万件であるのに対し、社員からのレポートは年間7万件を超えています。社員一人ひとりがサービス品質向上に向けた「気づき」を得るために行動し、能動的にVoCを収集・レポート・共有するオペレーションモデルが確立していると想定できます。

(2) ペインポイントの抽出と改善策の立案・実施
収集されたVoCから顧客にとってのペインポイント(困りごと)や課題を抽出し、各部署、または専門部会を通じて改善策を立案、実施する仕組みを有しています。たとえば、車椅子の顧客がボーディングブリッジを渡る際に苦労した経験をVoCとして受け付けた際には、当該顧客の動線を顧客視点で検証することで障害となるポイントを洗い出し、段差解消のためのボードを製作して全機種で利用できるようにしました。このような対応事例をウェブサイトで公開し、顧客へのフィードバックを行っているのも重要なポイントです。

2. 米国某銀行の事例

次に紹介する企業は、2000年頃より顧客を中心に据えた経営に取り組んでおり、シックスシグマの考えのもと徹底して顧客視点でプロセスを見直してきた結果、近年はリテール向け金融サービスにおける顧客満足度で高い評価を得ています。

(1) 顧客にとって苦情や意見、要望を伝えやすい仕組み
自社ウェブサイトのトップページから、VoCを伝えるまでの動線において、顧客の労力を極小化する仕組みを有しています。連絡方法に関しては、ウェブサイトでの入力やソーシャルネットワークサービスを使った双方向コミュニケーションが可能なチャネルを提供するとともに、顧客からの問い合わせが急を要する際には電話での問い合わせに誘導し、対面で会話したい場合には店舗への来店予約に誘導するなど、複数の連絡方法を顧客に提示し、顧客は自身の都合に合った方法を選択できるようにしています。

(2) 業績評価指標の見直し
顧客中心主義の実践に合わせ、社員が顧客にとって有意義なことをした場合には報われるよう、業績評価指標の見直しを行っています。ネガティブな苦情や意見を受けたとしても、その対応が結果的に顧客にとって有意義なものであれば社員が評価される仕組みを構築しており、社内への連携や事例共有の円滑化、さらには顧客に対し真摯に向き合う企業文化の醸成にも寄与すると想定できます。

IV. 顧客に選ばれ続ける金融機関になるための成功要因

金融業界以外で良質なCXに慣れ親しんだ顧客に自社を選び続けてもらうためには、金融機関もまた異業種と同様に顧客視点で自社の商品やサービスを変革していく必要があります。そのためにはVoC活用の高度化と顧客戦略への転換、その戦略に沿ったCX設計が必要となります。金融機関が抱える現状と異業種、海外事例でのベストプラクティスを踏まえ、変革に必要なポイントを解説します。

1. VoCマネジメントサイクルの確立

VoCの収集、分析で得られた示唆をもとに実務オペレーションを改善し、その効果を計測しつつ、顧客からさらなるVoCを得てより良質なCXに仕立て上げ、これらを持続的に運用していくためには、自社独自の活用サイクルを確立する必要があります(図表2参照)。

図表2 VoCマネジメントサイクル
図表2 VoCマネジメントサイクル

2. VoC活用の高度化

(1) VoC活用目的の明確化
多くの金融機関では、顧客からの苦情、意見、要望に対し、システム上の制約やこれまでの業務プロセス、事務規定を正として金融機関目線や都合で対処してきたことが多かったと想定されます。また、縦割りの組織構造になっているため、お互いの業務内容が見えず、顧客からの要望に対して他事業部や他部門と連携した業務改善が行いづらいという構造的な問題を有していることも考えられます。
今後、顧客目線でのサービス変革を実行していくために、VoCは良質なCX実現のインプットであり、選ばれる金融機関になるためには必要なインプットであるという意識を全社レベルで醸成していく必要があります。

(2) VoC収集・分析におけるデジタルチャネルへの対応
顧客行動のデジタルシフトにともない、VoCの収集チャネルにもまたデジタルシフトが必要です。ウェブフォームの整備にとどまらず、自社のモバイルアプリの利用者に対して能動的な評価入力の促進、顧客が気軽にかつ簡便な操作でVoCを投稿できるようなチャットボット等を活用した収集なども考えられます。自社の顧客が利用するチャネルを把握して顧客視点でその動線を検討することで、どのようなデジタルチャネルへと進化させる必要があるのかを定めることが重要です。

(3) テクノロジー活用の検討
VoCをより広範囲かつ適切に把握し、データ分析に基づくことで示唆の質、量が向上します。テクノロジーや各種分析ツールを活用して効率化を図り、VoCの収集や分析のための顧客や社員への負担を軽減する仕組みが求められます。

音声認識技術、自然言語処理
音声認識技術により、VoCを自動的にテキスト化し、自然言語処理(形態素解析→構文解析→意味解析→文脈解析)にて苦情や意見、要望の分類、不要な情報の削除を効率化できます。

ソーシャルリスニング
ソーシャルリスニングとは、ソーシャルメディア上での消費者の声を収集・分析し、自社のマーケティング活動に役立てる手法です。ソーシャルメディアや電子掲示板の発展にともない、不特定多数に晒される投稿やつぶやきを収集・分析するツールやサービスが普及しており、これらを利用することで顧客インサイトの把握を効率化できます。

感情分析技術
声紋や表情、文脈をAIで分析することにより、「顧客の声なき声」としての感情の把握を効率化できます。

これらの技術適用は、各社の状況を踏まえ、投資対効果を捉えながら実施可否や優先順位を検討する必要があります。

3. 顧客戦略への転換

VoCから多くの示唆を得て、顧客中心の視点から顧客のインサイトと期待に対応したバリュープロポジションの強化に繋がる顧客戦略の策定やCX設計を実現しても、実際の業務に落とし込まなければ顧客に対し良質なCXを提供することはできません。策定された顧客戦略やCX設計をもとに、業務プロセスやテクノロジー、組織と人材のあり方、評価制度等のオペレーションを整備していく必要があります。
顧客戦略やCX設計と整合性の取れたオペレーションを策定するために、業務プロセス、組織・ガバナンス、テクノロジー、人材・文化、ソーシング・ロケーション、パフォーマンス管理・評価制度といった6つの観点でオペレーション構築のための論点を整理します(図表3参照)。整理された論点に対し、現状の課題と根本原因について関係者と議論し、施策や取組みの優先順位について合意形成するアプローチを取ることで、部門間で整合性の取れたオペレーションを構築することが可能となります。

図表3 顧客戦略、CX設計とオペレーションの整合性
図表3 顧客戦略、CX設計とオペレーションの整合性

執筆者

KPMGコンサルティング株式会社
シニアマネジャー 前川 知之

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