小売業におけるRPA導入の有効活用とは

「小売りの明日」第12回 - 小売業がRPA導入に際し留意すべきポイントについて紹介し、顧客満足へとつながるRPAを活用した業務改革とは何かを考察する。

小売業がRPA導入に際し留意すべきポイントについて紹介し、顧客満足へとつながるRPAを活用した業務改革とは何かを考察する。

RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)という言葉をよく耳にするようになったが、ご存知のようにロボットが人の業務を自動化することを指す。小売業でいうと、例えば、店舗の営業時間終了後に多くの時間を割いている本部への報告業務がその対象だ。店長が報告用の資料作りに追われ、顧客にどう喜んでもらうかという視点がおろそかになってしまえば本末転倒だろう。RPAは、流通小売業だけでなく、業種や企業の規模を超えて検討する価値がある。

ただ、RPA導入はいいことばかりではない。大丸や松坂屋を展開するJ・フロントリテイリングの取組みに重要なヒントがある。同社の公表する「統合報告書2018」では、RPAについて「RPAを起点とした働き方改革」とある。RPAを導入することが目的ではなくRPAはあくまで手段で、RPAの目的は働き方や業務改革であることを明確にしている。
同社では2017年度に48業務、4400時間の削減を実現し、2018年度以降はさらに60業務を加え、5400時間の効率化を見込む。2021年度を最終年度とする中期経営5ヵ年計画においてはグループ全体で300業務規模まで拡大し、2万8000時間の業務自動化による生産性向上を掲げる。これだけの時間を削減することで同社は「残業対策」ではなく「働き方改革」を実現しようとする。RAPによって削減できた時間を今後どのように有効活用するか、という本質的な意味を示している。

また、経理や人事など、ある部門の一部の業務のみを自動化しても会社全体の業務改革にはならず、一部門の従業員の作業時間が減っただけになる。その部門での導入効果を基に他の部門や店舗までに展開しなければ価値の最大化は望めない。
さらに、RPA導入の際に気をつけなくてはならないのが、主幹する部署を決めることだ。導入が進むにつれ、誰が管理しているか分からない“野良ロボット”が増え、会社としての統制が弱まるからだ。この統制を見据えた上で、他部署に展開を図り、並行して、創出された時間を人にしかできないクリエイティブな、より付加価値の高い仕事に充てるかを考えなくてはならない。

あるチェーンストアでは、商品の販売管理のための売上データをまとめる作業に膨大な時間を費やしていた。本来の目的であるデータを見て対策を練ることではなく、データをまとめること自体に現場は四苦八苦していた。RPAの導入でこの作業に追われることがなくなり、対策へと業務の質をシフトできた。同じ流れがJ・フロントリテイリングのRPA展開にも見て取れる。定型業務はロボットに任せ、新規ビジネスの考案や顧客に感動を与えることを考える人と時間を増やし、企業としての価値を創出していくのが重要だ。これこそがRPAの本質といえる。

 

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日経MJ 2019年3月11日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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