Product Service Systemに関わる経営管理~PSSビジネスにおける財務モデルとビジネスの定着化に向けた対応~

Product Service Systemビジネスにおける財務モデルとビジネスの定着化に向けた対応について解説します。

Product Service Systemビジネスにおける財務モデルとビジネスの定着化に向けた対応について解説します。

1.IoTがもたらす新しいPSSビジネスモデル

IoT技術の発達とSDGsやESGの価値観の浸透もあり、現代は、モノの所有から利用へ、消費スタイルを変えつつある併存型社会であります。米国の産業アナリストであるジェレマイア・オーヤン氏が策定した経済協働ハニカム(Collaborative Economy Honeycomb)のフィルターを通してみると、小分類のサービス種別は14種類から39種類と約3倍に増加し、多様化する市場ニーズに適用する形で拡大しています。こうした状況における利用型サービスの基本戦略は、囲い込みとなります。

では、製造業にはどのような影響が考えられるでしょうか。この多様化トレンドから製造業がとるべき選択肢は、UX の最大化、製品バリエーションの多様性、プレミアム品質の3つありますが、特に前者2つを束ねたPSSが有効となります。

社会トレンドに対する製造業の影響は?

製造業がとるべき選択肢は3つあるが、トレンドを考慮すると、新しいビジネスモデル(=PSSモデル)への変革が必須となる。

2.PSSの代表的なサブスクリプションモデルの特徴

PSSモデルは、顧客価値を最大化するための、新たなサービスもしくは新たな製品バリエーションを短サイクルで実現し続ける仕組み(「価値循環型のエコシステム」 )と定義できます。

PSSモデルでは、OT×ITを活用し、顧客と直接つながり、オペレーションデータ~顧客データの収集、ニーズの把握・分析が可能な仕組みが必須であり、その中でも代表的なビジネスモデルが、サブスクリプションモデルです。その特徴は、図表1でも示しましたが、「収益モデル」、「顧客への対応」、「顧客との関係性」、「プライシング」、「製品・サービス企画」では従来モデルとは大きく異なります。

サブスクリプションビジネスモデルの特徴 (vs 従来型(プロダクト販売)モデル )

サブスクリプションビジネスモデルの特徴  (vs 従来型(プロダクト販売)モデル )

3.サブスクリプション・ビジネスにおける財務モデル

従来モデルの勝ちパターンは、「販売数を増やす」「値段を上げる」「コストを下げる」でしたが、サブスクビジネスにおいては、長期に亘る顧客とのリレーションを構築し、常に価値を提供し続けることが重要となります。まず、収益については、当年度の定期収益(ARR) の成長と縮小の抑制が必要となります。コストについては、収益向上のための支出として定義され、ARRを加味した、対応コストの最適化を推進するシナリオが必要となります。結果として、サブスクビジネスのP/Lは、今期定期収益からスタートし、翌期の「定期収益」を維持・拡大する施策を講じた結果としての、「見越し収益力」を示すものとなります。

4.サブスクビジネスにおける業績評価

次にサブスクモデルで成長を促進するには、どのように業績管理をすべきかについて考察します。サブスクモデルの成長パターンは大きく2つあります。一つは、ARRの拡大であり、具体的には、新たなARRの獲得、継続ACV (年間契約額)最大化、Churn(離脱客)の最小化があります。もう一つは、コスト低減であり、具体的には、定期コスト(原価、一般管理費、研究開発費)の低減と成長投資費用とのトレードオフの管理があります。

KPIとして、ARRの拡大は、ARRの成長率、サブスクライバー平均売上高、既存顧客維持率・解約率、定期コストの低減は、売上原価率、原価低減率、成長効率指標(新規契約金額を獲得するのに要したコスト効率を最大化するために、支出と実現額の効率性評価)の活用が有効です。

サブスクビジネス KPIツリー

サブスクビジネス KPIツリー

成長シナリオは以下のような体系でKPIツリー展開できる。

5.サブスクモデルを企業に定着させるためには

実際にサブスクモデルを機能させるには、KPI管理だけでは不十分です。サブスクモデルも運用主体は従来のビジネスモデルと同様に人です。よって、サブスクモデルに適した組織のあり方が求められます。特に重要となるのが、営業・マーケティング部門と事業企画・経理部門です。

営業・マーケティング部門が果たすべき役割として挙げられるのが、収益最適化を実現するプライシング機能です。サブスクビジネスの勝ちパターンは長期にわたる顧客とのリレーションであると述べましたが、これは経年的に収益をもたらす仕組みであるため、そのためプライシングにより、収益メカニズムのほとんどが決まることを意味します。

事業企画・経理部門が果たすべき役割が、顧客満足向上の施策意思決定に必要な経営情報をタイムリーに提供していくことです。サブスクモデルの本質は、IoTにより顧客から直接つながっりデータドリブンに事業を進化させ続けることです。よって、営業・マーケティング部門は勿論、マネジメントに向けても顧客施策向上に必要な情報を提供し、組織全体が渾然一体となってサブスクモデルを発展させていくことがPSSに関わる経営管理の要諦でしょう。

サブスクビジネスモデルにおける組織の役割の変化

サブスクビジネスモデルにおける組織の役割の変化

ビジネスモデルが変わると、営業・マーケ部門や事業企画・経理部門の果たすべき役割も変化する。

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