「インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告」の解説(後半)

「インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告」の解説(後半)

旬刊経理情報(中央経済社発行)2019年9月10日特大号に「インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告」に関するあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

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この記事は、「旬刊経理情報 2019年9月10日特大号」に掲載したものです。発行元である中央経済社の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

なお、WEBサイトでは前半・後半に分けて掲載しています。「インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告」の解説(前半)」はこちら。

5.インセンティブ報酬のスキームごとの会計上の主な論点

(1)事前交付型の株式報酬
事前交付型の株式報酬として、代表例である譲渡制限付株式(一定の譲渡制限期間を設けた株式を報酬として交付)を前提としたスキームを検討する。現行のわが国の実務では、対象となる役員への金銭報酬債権又は従業員への金銭債権 (合わせて「金銭債権等」という)の付与の決議を経て、制度制定の当初に当該金銭債権等を現物出資として払い込み、会社の株式の割当てを受けるスキームが一般的である。

経産省による手引によった場合の会計処理

経済産業省による「『攻めの経営』を促す役員報酬~企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引~(2019年5月時点版)」(以下、「経産省による手引」という)Q44において、特定譲渡制限付株式を役員等に交付した場合の会計処理として、報酬債権を役員等に付与し、その報酬債権を現物出資するスキームを前提とした整理が示されている。この経産省による手引の考え方によった場合には、設例1の会計処理が考えられる。

(設例1)報酬債権を役員等に付与し、その報酬債権を現物出資するスキームを前提とした会計処理

現物出資時

前払費用       

200

金銭債務等

200

金銭債権等     

200

払込資本

200

金銭債務等(*)

200

金銭債権等(*)

200

(*)自社宛の債権が現物出資により払い込まれることになるため、混同により消滅する。

勤務対象期間(権利確定期間)⇒2年間とする

1年目

 

 

 

株式報酬費用等

100

前払費用

100

2年目

 

 

 

株式報酬費用等

100

前払費用

100

1年経過後に権利不確定により自己株式を無償取得(自己株式数のみ増加)のケース

1年目

 

 

 

株式報酬費用等

100

前払費用

100

損失

100

前払費用

100


なお、事前交付型でも、勤務条件のみの譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)ではなく、譲渡制限解除要件として一定の業績等条件の達成を求める初年度発行型パフォーマンス・シェアは、別途論点がある。たとえば、当初出資時に前払費用等に資産性を認めているのであれば、資本充実の原則との関係により、一定期間にわたって業績等条件が未達となると見込まれる部分を含めて規則的に費用処理することが考えられる。一方、最終的に条件が未達となる部分については役員等に対する株式の交付がないこととなるため、その部分は営業費用として計上せず、未達となる合理的な見積りが可能となった時点から営業外費用などとして計上することも考えられる。

 

2.ストック・オプション類似取引として考えた場合の会計処理の検討

本研究報告では、現行の会社法の規定の制約を考慮しないでストック・オプションと類似する取引として考えた場合の会計処理を考察している(前記「インセンティブ報酬に関する会計上の主な論点」(2)2.参照)(設例2)。

(設例2) 会社法の規定の制約を考慮しないでストック・オプションと類似する取引として考えた場合の会計処理

現物出資時

仕訳なし

勤務対象期間(権利確定期間)⇒2年間とする

1年目

 

 

 

株式報酬費用等

100

払込資本

100

2年目

 

 

 

株式報酬費用等

100

払込資本

100

1年経過後に権利不確定により自己株式を無償取得(自己株式数のみ増加)のケース

1年目

 

 

 

株式報酬費用等

100

払込資本

100

払込資本(※)

100

株式報酬費用等

100

対象となる制度に付される一定の条件の達成部分の見積りに基づいて各期末日に計上していた費用のうち、条件未達により対象となる株式が会社により無償取得されることとなった部分は、その実績に基づいて修正するものと考えられる。

(※)会社法制の見直しに関する要綱の検討においては「その他資本剰余金」

3.会社法見直しの動向

2019年2月14日に答申された「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱」では、上場会社において、取締役の報酬等として、募集株式の発行または自己株式の処分をするときは、出資の履行を要せず、新株予約権を発行するときは、新株予約権の行使に際して出資を要しないものとしている。また、この場合の株式の発行により資本金または準備金として計上すべき額については、法務省令で定めるものとしている。なお、現時点において、この要綱に基づく関係法案の国会への提出時期は未定とされている。

また、法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会第14回会議(2018年7月4日開催)における「部会資料23 会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案の作成に向けた個別論点の更なる検討」(10頁から13頁)では、ストック・オプション会計基準を参考とした会計処理が議論されており、以下のような処理が示されている。

(i)株式を付与し、これに応じて発行会社が取締役から提供を受ける役務は、その提供に応じて費用として計上し、対応する金額を資本金又は資本準備金として計上する。

(ii)各会計期間における費用計上額は、株式の公正な評価額のうち、対象期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額として算定する。

(iii)付与日から権利確定日の直前までの間に、権利不確定、すなわち当該株式の無償取得の見積数に重要な変動が生じた場合や、権利確定日において無償取得の数が確定した場合において、費用の戻入れをする必要がある場合には、対応する金額をその他資本剰余金から減額する。

(2)事後交付型の株式報酬

労働等サービスの提供を受ける企業が、事前に定められた条件(業績の達成度合いに連動する株式数の決定方法)に従い、事後的に役員等に金銭債権等を付与し、当該債権の現物出資を受けるスキームを前提として検討する 。

実務上、事前に業績目標の達成度合いに応じて交付する株式数が決定される業績連動発行型のパフォーマンス・シェアについては、以下のような法的手続を行うのが一般的と考えられる。

  • 業績等連動期間の開始前において、役員等に対し、一定期間の業績等の状況に連動して、金銭債権等を付与することを決定する。
  • 金銭債権等は、業績の達成度合いと付与株式数を連動させる算式を定め、株式発行時点で、付与株式数を交付するに足りる払込金額相当額を報酬債権とするように定める。
  • 業績等連動期間として定めた一定期間が経過した後、当該金銭債権等を現物出資財産として払い込み、役員等に対して株式を発行する。

1.現行の会社法を前提として考えられる会計処理の検討
現行の会社法を前提として考えられる会計処理の検討は設例3のようになる。

(設例3)現行の会社法を前提として考えられる会計処理の検討

金銭債権等の付与の決議日(制度導入時)

仕訳なし

業績等連動期間(権利確定期間)⇒2年間とする。

1年目

 

 

 

株式報酬費用等

100

負債

100

1年目末 1年目末における株価@10×1年目末における見積交付株数20株×1年/2年

2年目

 

 

 

株式報酬費用等

175

負債

175

2年目末 2年目末における株価@11×2年目末における見積交付株数25株-100=175

・現行実務の現物出資方式を前提にすると、最終的な金銭債権等の金額=業績等連動期間の末日等の株価×業績達成に基づく株数という算式で決定され、業績等連動期間の経過期間に応じて義務が生じていると考えられる。このため、費用計上額も毎期末の時価(株価)により測定し直すものと考えられる。

・事業年度をまたいで業績等連動期間が設定されている場合に、各期末の費用計上累計額は「期末の株価×期末時点の業績目標の達成可能性を考慮した株数×(経過月数÷業績等連動期間)」という算式で算定され、前期末時点での費用計上累計額との差額が当期に費用計上される。

・業績目標の達成見込みは業績等条件と業績目標の達成可能性を勘案し、期待値法又は最頻値法などの方法の中から適切と考えられる方法を用いて金額を算定することが考えられる。

業績等達成により金銭債権等を付与し、直ちに現物出資(新株発行を想定)

負債

275

金銭債務等(※1)

275

金銭債権等(※1)

275

払込資本

275

金銭債務等(※2)

275

金銭債権等(※2)

275

(※1)現物出資時の確定した債権の額は負債計上額と同額とする。

(※2)自社宛の債権が現物出資により払い込まれることになるため、混同により消滅する。

2.ストック・オプション類似取引として考えられる会計処理の検討
本研究報告では、現行の会社法の規定の制約を考慮しないでストック・オプションと類似する取引として考えた場合の会計処理を考察している(前記「インセンティブ報酬に関する会計上の主な論点」(2)2.参照)。
ストック・オプションと類似する取引として考えると、事後交付型の株式報酬に付された一定の条件の達成に応じて、これに見合う株式割当が行われたとする会計処理を行うことが考えられる(設例4)。

(設例4)会社法の規定の制約を考慮しないでストック・オプションと類似する取引として考えた場合の会計処理

業績等連動期間(権利確定期間)⇒2年間とする。

1年目

 

 

 

株式報酬費用等

100

純資産(※)

100

付与日株価@10×1年目末における見積交付株数20株×1年/2年=100

2年目

 

 

 

株式報酬費用等

150

純資産(※)

150

付与日株価@10×2年目末における見積交付株数25株-100=150

※一定の条件を満たすことで払込資本となる可能性がある一方、条件不達成により株式が交付されず払込資本とならない可能性があるため純資産に記載すべきものと考えられる。

なお、株式報酬の付与日測定の原則に従うように事後的な時価の変動を反映しない会計処理を行うためには、会社法・関係省令の改正が必要となるものと考えられる。

 

業績等達成により新株を発行

純資産 

250

払込資本

250

1年経過後に権利不確定による失効が生じるケース(業績だけでなく2年間の勤務も条件とし、1年目末に退職者が生じた前提とする)

1年目

 

 

 

株式報酬費用等

100

純資産

100

純資産 

10

株式報酬費用等

10

※条件未達により株式が会社から交付されない部分は実績に基づいて修正するものと考えられる。

付与日株価@10×失効株数2株(退職者による失効分)×1年/2年=10

2年目

 

 

 

株式報酬費用等

90

純資産

90

付与日株価@10×2年目末における見積交付株数18株-90=90

3.会社法見直しの動向
前述の「部会資料23 会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案の作成に向けた個別論点の更なる検討」では、ストック・オプション会計基準を参考とし、株式の交付を受けることができる権利については、株式等交付請求権(会社計算規則第55条第8項)と同様に、新株予約権に準じて取り扱い、実際に株式会社が株式を発行するまでの間は、株主資本の額を変動させないとする会計処理が議論されている。

(3)権利確定条件付き有償新株予約権に付されたノックイン条項、ノックアウト条項等
権利確定条件付き有償新株予約権に付された種々の条件の主なものとしては、ノックイン条項、ノックアウト条項、強制行使条項などがある。種々の発行条件について本研究報告で考察した結果が図表4である。

(図表4)ノックイン条項、ノックアウト条項、強制行使条項の検討

ノックイン条項

 

一定の株価水準又は業績水準の達成により権利行使可能となる条項

業績条件として扱うことが考えられる。

ノックアウト条項

 

一定の株価水準又は業績水準を下回った場合に権利行使不能となる条項

業績条件として扱うことが考えられる。

株価ノックイン条項

株価ノックアウト条項

株価水準によるノックイン条項、ノックアウト条項

株価条件として扱うことが考えられる。

強制行使条項

一定の条件を満たした場合、新株予約権等を強制的に行使させる条項

株価の一定値までの下落を条件とする条項が一般的

強制行使条項は、株価に連動した条項ではあるものの、業績条件(株価条件)に該当するかどうかは明確ではないため、実務上は、条項が付された経緯なども勘案して実態にあった処理をしているものと考えられる。

(4)役員向け株式交付信託
役員向け株式交付信託とは、役員への企業価値向上のインセンティブ付与を目的として、自社の株式を受け取ることができる権利(受給権)を付与された役員に信託を通じて自社の株式を交付する株式報酬をいう。次のような制度が一般的と考えられる。

  • 株式交付規程を制定し、役位、在籍年数、業績達成度等に基づく役員へのポイント付与の基準を定める。
  • 株式の取得原資となる金銭を信託に拠出し一定の受益者要件を満たす役員を受益者とする信託を設定する。
  • 信託は、信託された金銭を原資として企業の株式を、株式市場を通じて、又は企業の自己株式処分を引き受ける方法により取得する。
  • 株式交付規程に基づき役員にポイントを付与する。
  • 株式交付規程に基づく支給条件が成就し受益者要件を満たした役員に信託から株式が交付される 。

役員向け株式交付信託は、役員等へのインセンティブ報酬を目的とするが、株式給付型の従業員向け株式交付信託とスキームは類似するため、実務対応報告第30号の定めを参考にすることが考えられる。

役員向け株式交付信託は、その終了時に、信託に残存する自社の株式については、全て企業が無償取得し、取締役会決議後消却等を行うことが多いと考えられる。これは、対象となる取締役に業績未達成部分の株式を交付することは業績連動報酬の趣旨に反し、また、信託終了時に信託において株式の売却等により生じた余剰金を企業に帰属させることを目的としたものではないためと考えられる。

信託では、無償譲渡による株式譲渡損が生じるが、信託における自社の株式は会社法上の自己株式の規制を受けないこと等と整合的に考えれば、企業は決算時に株式譲渡損を取り込み費用として計上するものと考えられる。また、残存する自社の株式について、無償取得ではなく、その株式を換金して、第三者に寄付するスキームも、労働等サービスに対して金銭が交付されるものではないため、信託で計上した株式売却損益を総額法においても損益として計上し、売却価額と同額の費用(寄付金)を計上するものと考えられる。

(5)株価連動型金銭報酬における取扱い
1.株価連動型金銭報酬の定義とスキーム
株価連動型金銭報酬とは、株式の発行や自己株式の処分は伴わず、金銭によって役員等に給付されるが、報酬額が自社ないし親会社等の株価に連動して決定されるものである。我が国の会計基準等において、株価連動型金銭報酬の会計処理は特に定められていない。

図表1のとおり、一般的に、ファントム・ストック(仮想的な株式の交付あり)とストック・アプリシエーション・ライト(仮想的な株式の交付なし)の2つに区分される。

2.会計処理
勤務対象期間が設定されたものに関しては、勤務対象期間を通じて株式報酬費用等を計上していくことになるものと考えられる。株式報酬費用等の計上にあたり、将来において企業が役員等に対して現金を支払う義務を負っている点に鑑み、引当金の計上要件に従い、引当金の計上の要否を検討するものと考えられる。

6.今後の動向

コーポレート・ガバナンス改革に対応し、会社法、税制の制度整備も進んでおり、2019年6月の株主総会における株式報酬導入促進の動向は今後も継続すると思われる。前述の2019年2月答申の「会社法制の見直しに関する要綱」に対応して、2019年3月7日に開催された公益財団法人財務会計基準機構の第35回基準諮問会議において、法務省より、正式なテーマ提案ではないが今後テーマ提案を行う可能性があるものとして「株式報酬に関する会社法制の見直し」について説明が行われている。同会議の議事要旨では、今後、正式なテーマ提案を受けた場合には基準諮問会議として検討する旨の議長の発言があったとされており、今後会計基準等が開発される可能性がある。

今後、会社法改正に伴う会計基準等の整備が想定されるが、この会計基準等の開発にあたり検討対象とされるスキーム以外も含めた包括的な株式報酬に関する会計上の取扱いについても、本研究報告での考察もご参考にしていただき、検討されることが望まれる。
 

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
パートナー 公認会計士
波多野 直子

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