株式報酬に関する開示ポイント 類型別に留意点を整理

旬刊経理情報(中央経済社発行)19年6月20日号の令和元年6月第1四半期決算の直前対策にあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

旬刊経理情報(中央経済社発行)19年6月20日号の令和元年6月第1四半期決算の直前対策にあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

ハイライト

  • インセンティブ報酬の類型
  • 株式報酬型ストック・オプション 
  • 役員向け株式交付信託
  • 自社株型報酬(事後交付)
  • 役員退職慰労金制度等に代えて株式報酬制度を導入する場合
  • 第1四半期で新たに株式報酬制度を導入する場合のその他の留意点
  • 四半期報告書におけるその他開示上の留意事項
     

この記事は、「旬刊経理情報2019年6月20日号」に掲載したものです。発行元である中央経済社の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

ポイント

  • コーポレートガバナンス・コードの公表、法的論点の整理及び税制の改正により、新たに役員向けの報酬制度を導入、もしくは見直しをする企業が増加している。
  • 最近では、役員退職慰労金制度や株式報酬型ストック・オプションに代えて、株式交付信託や譲渡制限付株式を付与するスキームに変更する事例が見受けられる。
  • 四半期報告書において求められる「ストック・オプション制度の内容の開示」以外に開示上の留意事項として、「株主資本等関係」、「1株当たり情報」、「重要な後発事象」なども考えられる。

はじめに

平成27(2015)年6月に公表されたコーポレートガバナンス・コードでは、経営陣の報酬については、中長期的な会社の業績や潜在的リスクを反映させ、健全な企業家精神の発揮に資するようなインセンティブづけを行うべきとされ、具体的には、「補充原則4 - 2 (1)」において、「中長期的な業績と連動する報酬の割合や、現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定すべきである」とされている。

また、平成27(2015)年7月に公表された経済産業省「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」の報告書(「コーポレート・ガバナンスの実践」(以下、「CGS報告書」という))において、役員に付与する株式報酬についての法的論点が整理され、税制面では、平成28(2016)年税制改正において、一定の要件を満たす特定譲渡制限付株式は事前確定届出給与の対象として損金算入が認められており、さらに平成29(2017)年税制改正においては、業績連動給与(利益連動給与)について、複数年度の利益に連動したものや、株価に連動したものも損金算入の対象とする改正が行われている。
これらを受け、昨今、新たに役員向けの報酬制度を導入、もしくは見直しをする企業が増加している。また、金融庁および財務局等による平成31(2019)年3月期以降の有価証券報告書に対するレビューの重点テーマ審査として、「ストック・オプション等に関する会計処理及び開示」および「従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する会計処理及び開示」が挙げられており、これらの開示について関心が高まっている。

本稿においては、役員等に対して株式報酬制度を導入している場合の第1四半期決算の開示にあたって留意すべき事項を解説する。

なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添える。

インセンティブ報酬の類型

インセンティブ報酬に関する概要や税務上の取扱いについては、経済産業省から「『攻めの経営』を促す役員報酬 - 企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引 - (2019年5月時点版)」(以下、「経産省報告書」という。)が公表されており、会計上の取扱いについては、日本公認会計士協会から、会計制度委員会研究報告15号「インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告」(以下、「研究報告」という。)が令和元(2019)年5月27日に公表されている。

いわゆるインセンティブ報酬は、株価や業績に連動して、支払われる株式数または報酬額が決定される報酬であり、役員等に対して株価上昇や業績向上へのインセンティブを付与する性格を有している。インセンティブ報酬は、報酬の形態によって、金銭で支払われる金銭報酬と株式で支払われる株式報酬に分類される(図表)。

なお、「株式報酬型ストック・オプション」は、あくまでも自社株式オプション(新株予約権)を付与するものであり、自社株式を付与するものではないが、ここでは、効果が同様であることから、広義の株式報酬として自社株式を付与する報酬とあわせて説明する。

【図表】インセンティブ報酬の類型

交付する資産 報酬の種類 概要
新株予約権 株式報酬型ストック・オプション 権利行使価格を1円に設定した株式報酬型のストック・オプション制度
株式 株式交付信託 自社の株式を受け取ることができる権利(受給権)を付与された役員等に信託を通じて自社の株式を交付する株式報酬制度
事前交付型譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック) 譲渡制限付株式を事前に役員等に交付し、勤務に応じて当該制限を解除する形の株式報酬制度
初年度発行型(事前交付型)パフォーマンス・シェア 中長期的な一定の業績等条件の達成によって譲渡制限が解除される譲渡制限付株式を、対象期間の開始時に交付する形態の株式報酬制度
業績連動発行型(事後交付型)パフォーマンス・シェア(パフォーマンス・シェア・ユニット) 中長期的な一定の業績等条件を達成した段階で報酬としての株式(または株式数に応じた金銭)が交付されるような株式報酬制度
金銭

パフォーマンス・キャッシュ

一定の業績等条件を達成することで報酬額が決定する現金報酬制度

ファントム・ストック

仮想的に株式を付与し、その配当受領権や株式の値上がり益を事後的に現金で受領する報酬制度

SAR(株式増価受益権。ストック・アプリシエーション・ライト)

仮想行使価格と報酬算定時の株価との差額を現金で受領できる報酬制度

(出所 研究報告より筆者作成)

株式報酬型ストック・オプション

(1) 概要

株式報酬型ストック・オプション(いわゆる1円ストック・オプション)とは、権利行使価格を1円に設定したストック・オプションのことである。制度上はストック・オプションではあるが、権利行使価格が1円であるため実質的に株式と同等の価値を対象者に報酬として与えることができるものとされている。
株式報酬型ストック・オプションは、役員退職慰労金制度の代替として普及したこともあり、退任後10日以内の権利行使を条件としているものが多く見受けられる 。一方で、権利確定条件として業績条件が付されるケースもあるが、この場合、一定の業績を達成しないと新株予約権の一部または全部を行使することができない。

当該スキームは、役員に対して報酬として自社の株式を交付することが難しいとされていたときに普及した制度であり、最近では、業績に連動したしくみを設計しやすい株式交付信託や譲渡制限付株式を利用したスキームに切り替えるケースが見受けられるようになっている。

※ 税務上、権利行使期間を退任した日の翌日から10日間に限定している場合は「退職により一時に受ける給与」に該当すると解されている(平成16年11月2日東京国税局の照会回答)。

(2) 会計処理および開示

株式報酬型ストック・オプションは、あくまでもストック・オプションであることから、企業会計基準8号「ストック・オプション等に関する会計基準」(以下、「ストック・オプション会計基準」という)に従い、発行時の公正な評価額を付与日から権利確定日にわたって費用処理を行うことになる(ストック・オプション会計基準4項および5項)。
権利確定条件として業績条件が付されている場合、いわゆる業績連動型のストック・オプションとなり、業績条件が達成されないことによる失効数を見積って、公正な評価額を算定し、費用処理を行うこととなる。

四半期連結財務諸表規則においては、ストック・オプションに関する注記は定められていないため、四半期財務諸表において特段の注記は求められない。なお、四半期報告書の経理の状況以外の記載に関しては、四半期会計期間において、取締役、使用人等に対して新株予約権証券を発行した場合に、【提出会社の状況】にストックオプション制度の内容を記載することになる(「企業内容等の開示に関する内閣府令」第四号の三様式 記載上の注意(11))

役員向け株式交付信託

(1) 概要

株式交付信託とは、自社の株式を受け取ることができる権利(受給権)を付与された役員等に信託を通じて自社の株式を交付する株式報酬制度であり、役員向けに導入されるものは、「役員向け株式交付信託」などと称される。
株式交付信託を使ったスキームは、毎事業年度ごとに報酬に相当するポイントを付与し、一定期間経過後の退任時に自社株を交付することや、企業の業績達成度に応じて株式交付を行うなど柔軟な制度設計を行うことができる点が特徴といえる。

(2) 会計処理および開示

従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関しては、企業会計基準委員会より実務対応報告30号「従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い」(以下、「実務対応報告30号」という)が公表されている。

実務対応報告30号で定められているスキームのうち、いわゆる株式給付型のスキームは、自社の株式を受け取ることができる権利(受給権)を付与された従業員に対し、信託を通じて自社の株式を交付する取引である(実務対応報報告30号第4項)。

役員向け株式交付信託は、役員等へのインセンティブ報酬を目的とする点において、従業員への福利厚生を目的とする株式給付型の従業員向け株式交付信託と異なるが、その他の点では、両者のスキームは類似する。そのため、実務上は、役員向け株式交付信託についても、そのスキームの内容に応じて、実務対応報告30号の取扱いを参考に会計処理をしていると考えられる(実務対応報告30号26項)。

実務対応報告30号の対象となる取引を行っている場合、取引の概要、信託が保有している自社の株式について純資産の部に自己株式として表示している旨、帳簿価額および株式数などを注記することとされており(実務対応報告30号第16項)、実務上は追加情報として開示している例が多い。役員向け株式交付信託においても、実務対応報告30号を参考に会計処理をし、同様の注記を付している事例が見受けられる。

四半期財務諸表において、実務対応報告30号で求められている注記事項を記載するか否かは、実務対応報告30号の公開草案に寄せられた「主なコメントの概要とそれらに対する対応」の論点の項目33では「四半期開示の一般原則(前期末から重要な変動があるか否か)で開示を判断することになると考えられる」とされているため、重要性に鑑み必要に応じて注記をすることになる。
その他に実務対応報告30号では、株主資本等関係の注記においては、配当金の総額に含まれる信託が保有する自社の株式に対する配当総額(実務対応報告30号18項)を、1株当たり情報においては、信託が保有する自社の株式を自己株式と同様に取り扱って1株当たり当期純利益等を算定し、その場合、期中平均株式数の計算において控除する自己株式に含めている旨ならびに期末および期中平均の自己株式の数を注記することとされており(実務対応報告30号17項)、この点、四半期財務諸表の記載にあたっても留意する必要がある。

自社株型報酬(事前交付型)

(1) 概要

事前交付型譲渡制限付株式(いわゆるリストリクテッド・ストック)とは、譲渡制限付株式を事前に役員等に交付し、勤務に応じて当該制限を解除する形の株式報酬制度ないし当該制度に用いられる株式とされている。

会社法上、無償で株式を発行することおよび役務提供を対価として資本の払込みを行うことは認められないと解されていることから、従来、報酬として直接株式を付与する手法は採用されていなかった。これが平成27(2015)年公表のCGS報告書において「金銭債権等の現物出資」という法的構成を採用することで、報酬として株式を付与する手法が可能と考えられ、採用する企業が増加している。

(2) 会計処理と開示

事前交付型譲渡制限付株式について、会計基準上明確な定めはない。そのため、現状、会計処理を行うに当たっては、経産省報告書を参考にしているケースが多いと考えられる。具体的には、制度導入時に金銭債権等を役員等に付与して、役員等からは当該金銭債権等の現物出資を受けるという会計処理が行われる。将来の勤務に関わる報酬に対する金銭債権等を役員等に付与することから、会社側では、前払費用等と金銭報酬債務が認識され、役員等から金銭債権等の現物出資を受けたときに、当該債権債務を相殺し、前払費用等と資本金等が計上されることになる。その後の役務提供に従って、前払費用の取崩しによる費用計上が行われることになる。

この場合の前払費用等の取崩しは、役員給与等として営業費用として処理することが考えられる。一方、条件未達による取崩し部分については、研究報告では、営業費用または営業外費用として処理する方法が挙げられている。

なお、研究報告では、初年度発行型パフォーマンス・シェアの会計処理も事前交付型譲渡制限付株式と同様であると考えられるとされている。

自社株型報酬(事後交付)

(1) 概要

業績連動発行型(事後交付型)パフォーマンス・シェア(パフォーマンス・シェア・ユニット)とは、中長期的な業績目標の達成度合いに応じて、交付される株式数が決定する株式報酬とされている。

(2) 会計処理と開示

パフォーマンス・シェア・ユニットの会計処理についても、会計基準上で明確な定めはない。研究報告では、パフォーマンス・シェア・ユニットの決議時点では、株式や新株予約権の発行がなく、また、何らかの義務が生じている状況にもないことから、会計処理は行わず、業績等連動期間の各期末日(四半期決算日を含む。)に、役員等からの役務提供に応じて、業績等連動期間にわたり株式報酬費用等および対応する負債(引当金等)を計上することが考えられるとされている。

業績目標の達成見込みをどのように費用計上額に反映するかについても会計基準等においては明示的な定めがないが、研究報告では、業績等条件と業績目標の達成可能性を勘案し、期待値法または最頻値法などの方法から適切と考えられる方法を用いて金額を算定することが考えられるとされている。

四半期決算日においても負債(引当金等)を計上するとされているが、業績目標の達成度合いごとに「株数」を決定しておくようなスキームでは、株価の変動によっても交付される株式の時価の総額が変動するため、費用計上額も毎四半期末の時価(株価)により測定し直していくことになると考えられる点に留意が必要である。
 

役員退職慰労金制度等に代えて株式報酬制度を導入する場合

前述したとおり、最近では、役員退職慰労金制度や株式報酬型ストック・オプションに代えて、株式交付信託や譲渡制限付株式を付与するスキームに変更する事例が見受けられる。

役員退職慰労金制度を廃止した場合の会計処理については、監査・保証実務委員会実務指針42号「租税特別措置法上の準備金及び特別法上の引当金又は準備金並びに役員退職慰労引当金等に関する監査上の取扱い」の「3.引当金に関する事項」において、制度の廃止に伴い、株主総会において承認決議を行うが、当該役員の退任時まで慰労金の支給を留保する場合は長期未払金として表示し、役員の退任時に株主総会の承認決議を行う場合には役員退職慰労引当金として表示する旨が定められている。

なお、役員退職慰労金制度や株式報酬型ストック・オプションを廃止し、新たな株式報酬制度を採用するとしても、それぞれ異なる制度であることから、それぞれの会計基準等に従い会計処理することになると考えられる。しかしながら、たとえば、従来採用していた株式報酬型ストック・オプション制度を廃止して、当該制度内で付与した株数相当を過去のポイントとして役員向け株式交付信託で確定した受給権として設定する場合など、新旧のスキームにおいて連続性があると考えられる場合には、両者の関係を考慮して会計処理および表示をすることが考えられる。

第1四半期で新たに株式報酬制度を導入する場合のその他の留意点

新たに株式報酬制度を設定する場合、通常は定時株主総会で当該報酬承認の決議を行い、その後の取締役会で新株の発行または自己株式の処分の決議をすることが考えられる。したがって、期中において新株の発行または自己株式の処分が行われることが多いと考えられるが、この場合費用処理するタイミングを検討する必要がある。

この点、研究報告では、ストック・オプション以外のインセンティブ報酬についても、役員等からの追加的な労働等サービスの提供に対応して費用が計上されることを基本としている。具体的には、「報酬制度において設けられている勤務対象期間に相当する期間のほか、譲渡制限付株式を用いたスキームにおいては、譲渡制限期間も判断の一つの要素となり得る。また、業績評価期間、権利不確定(事前交付型における無償譲受を含む。)の条件や役員を対象とする場合にはその任期などとすることも考えられる」とされており、実態に即して判断する必要がある。このため、必ずしも譲渡制限期間で費用処理するとは限らない点に留意が必要である。

また、費用化の開始時点は、「企業と役員等との間で条件が合意された日であると考えられるが、新株予約権の割当てのような明示的なイベントが生じないケースも考えられる」とされていることから、前記の追加的な労働等サービスの提供期間と共に費用化の開始時点をあらかじめ検討しておく必要がある。

四半期報告書におけるその他開示上の留意事項

(1) 株主資本等関係注記

株主資本の金額に、前連結会計年度末に比して著しい変動があった場合には、主な変動事由を注記しなければならない(四半期連結財規92条)。そのため、譲渡制限付株式の発行により資本金及び資本剰余金といった株主資本の金額に著しい変動がある場合には、株主資本等関係の注記を付している事例がある。

なお、譲渡制限の解除条件を満たすことができなかった場合には、定められた条件に従い対象となる株式を会社が無償取得することとなる。この場合、自己株式数を増加させる処理のみが行われると考えられる。

(2) 1株当たり情報注記

研究報告では、事前交付型譲渡制限付株式については、契約上で譲渡制限が付されており、将来的には(条件を達成すること、またはしないことによって)企業の無償取得後の自己株式消却により発行済株式数の減少の可能性があるため、投資家に対する情報提供の観点から、将来的に減少する可能性がある株式数について、一定の追加情報を開示することが考えられるとされている。
また、パフォーマンス・シェア・ユニットについては、同じく事後交付型のスキームである株式交付信託に関して、実務対応報告30号では対象となる信託が保有する株式は潜在株式として取り扱われていないことから(実務対応報告30号66項)、パフォーマンス・シェア・ユニットがワラントに該当するかどうか判断を要すると考えられる。研究報告では、パフォーマンス・シェア・ユニットのスキームが潜在株式に該当しないとしても、投資家に対する情報提供の観点からは、潜在株式調整後1株当たり当期純利益に準じた開示を追加情報として行うことが考えられるとされている。

四半期報告書においても、1株当たり情報が開示されることから、あらかじめこれらの点についての考え方を整理しておくことが望まれる。
 

(3) 重要な後発事象

前述のとおり、新たに株式報酬制度を導入する場合、通常は定時株主総会で報酬承認の決議を行い、その後の取締役会で新株発行または自己株式の処分の決議をすることが考えられる。四半期決算日後において、譲渡制限付株式報酬として自己株式を処分することの取締役会決議をしている場合に後発事象として自己株式の処分の概要を四半期報告書に記載している事例もあり、開示の要否および開示内容を検討する必要があると考えられる。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
シニアマネジャー 公認会計士
三宮 朋広

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