新型コロナウイルス感染症影響下における海外子会社の現状と課題 第1回

新型コロナウイルス感染症影響下における海外子会社の現状と課題 第1回

現地政府の指示や要請、医療事情等を踏まえ、駐在員の一時帰国や在宅勤務への切り替えなどの対応を進める一方、管理上の課題も出ていますが、これらは日本企業が潜在的に抱えていた課題が、COVID-19を契機に表面化したものが多いと言えます。COVID-19の影響下におけるオペレーションの維持と回復に焦点を当て、海外子会社が直面する現状と課題について解説します。

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海外子会社の現状

日本企業の製造拠点が数多く集積するアジア各国でのCOVID-19の影響は、本稿執筆時点(2020年5月7日)において概ね以下のとおりです。

各国政府の対応

どの国も入国制限を行っています。新規ビザの発行停止や一時帰国した外国人駐在員のビザを取り消す政策を採る国もあり、入国を許可する国であっても、入国後2週間の隔離を義務付ける規制が行われています。
範囲や程度の差はあるものの、各国政府は外出や移動に関する規制、事業活動などの行動に関する規制を導入しています。

  • 食料、医療、金融、物流など生活に不可欠な業種(エッセンシャルビジネス)は継続が認められていますが、それ以外は事業所への出社を認めておらず、行政による検問の設置やオフィスの巡回確認を行い、違反者には罰金を科す国もあります。
  • 一方で、飲食や遊興など特定の業種のみが規制されている国や、一定の条件(業種の指定、出社する従業員の割合など)のもとで出社の許可申請を行うことが可能な国もあります。

現地子会社の活動状況

多くの国では、業種により事業所への出社が規制されています。

  • 政府による外出・行動制限の強度、業種業態(例えば生活必需品以外の製造業の工場など)によっては、政府による制限の解除まで完全な操業停止を余儀なくされる場合もあります。
  • 在宅勤務による事業継続が可能な場合でも、現地従業員のノートPCやモバイル端末の保有状況、リモートでのネットワーク環境、業務に必要な情報・資料のデータ化などの制約から、駐在員や一部の管理職を除きリモートワークが機能せず、多くの従業員が自宅待機となるケースも多く発生しています。

 

国によっては、一定の条件・範囲内で事業所への出社が認められています。

  • 行政に申請することで限定的な出勤の許可が取得可能な国もあります。(例:週に1回の出勤、決算・支払等の特定業務を行う場合など)
  • また、特定の業種については先行して事業活動の再開を許容する国も存在します。ただし、出勤者の行政への事前登録や出社する従業員の人数制限など、一定の要件が課されます。

日本人駐在員の帰国状況

各国の入国規制により、日本に一時帰国した場合に再入国の見通しが立たない、異動の時期にもかかわらず後任者の労働滞在許可が取れないといった状況のもと、多くの日系企業において事業継続・再開の必要性、従業員の安全確保などを考慮した難しい判断が求められています。

  • 国、企業ごとに事情は異なりますが、現地国の医療に対する信頼度が、各社の駐在員の一時帰国の判断に強く影響しています。
  • 現地政府による出入国規制は短い猶予で発令されることが多く、医療に対する信頼度が低い国では、事業継続・再開のための準備や現地従業員への指示などが不十分なまま、急いで一時帰国せざるを得ない場合もあります。
  • 一方で、資金繰り・支払の対応や事業活動再開の時期を見定める必要性から、医療環境などで不安を感じながらも一部の従業員を現地に残さざるを得ないケースも存在します。

現地日本企業が直面している課題例

これらの環境下において、現地の日本企業は、次のような課題を認識しています。

COVID-19の影響下における事業の継続

駐在員の帰国や在宅勤務に伴い、リモートで作業を行わなければならならず、平常時と比べて業務上のコミュニケーションや必要情報の入手に制約が生じています。
また、現地従業員がリモートワークに従事する場合、労務管理が困難となります。

出社制限解除後の事業再開に向けた取組み

COVID-19の影響下においては、限定された範囲での業務を行わざるを得ませんが、一方で、出社制限の解除を見据えて、現地子会社の本格的な事業再開に向けた準備が重要となります。

  • 出社制限の解除対象となる事業や解除される時期、取引先の事業再開の状況など、現地の状況を継続的に把握する必要があります。
  • スムーズな事業再開に向けて、判断・意思決定事項の整理、業務の優先順位付け、業務手順の明確化、リソースの確保など、計画的な対応が求められます。

 

仮に、現地で出社制限が解除されたとしても、所在国や企業によっては、即座に平常時と同レベルの体制で事業活動が再開できるとは限りません。

  • 出社制限解除後も入国制限が継続される可能性は否定できません。駐在員が一時帰国している場合は、日本からリモートで現地子会社をオペレーションする局面も想定しなければなりません。
  • 出社を許可する従業員数を徐々に増加させるなど、段階的に出社制限が解除される場合は、一部の現地従業員は引き続き自宅勤務または自宅待機となるため、必要な従業員が不足する可能性があります。

制約条件下におけるオペレーション上のリスク

詳細な状況は所在国・企業により異なりますが、上記のような制約下においては、経営管理上のリスクが顕在化しやすく、また実際にいくつかの発生事例も報告されています。

 

指示/判断・意思決定

  • 現地従業員の業務分掌・業務手順が明確にされないまま、その都度、駐在員が対面・口頭による指示をしていた場合、リモート環境下での指示に切り替わった時に現地従業員が理解できず、誤った処理が行われる可能性があります。
  • 同様の理由で、判断・意思決定に必要な情報が現地従業員から適時・的確に報告されないことも考えられます。

チェック・モニタリング

  • チェック・モニタリングの手続きで証憑類の原本が必要な場合、リモート環境下では適時の入手が困難であり、メールやFAX等で入手したとしても、偽造のリスクが伴います。
  • 駐在員が帰国している場合、現地でしか行えないチェック・モニタリングは現地従業員に代行してもらう必要があります。しかし、十分な経験やスキルを持たない場合は、信頼性に懸念が生じます。

職務分離

  • 平常時であれば、職務分離による牽制が可能な業務も、限られたスタッフに権限を集約せざるを得ないため、不正の懸念が高まります。

規律

  • 現場責任者が不在となり、業務ミスや遅延、意図的なルールの逸脱が起こるおそれがあります。

資産保全

  • 駐在員が帰国し、現地従業員に資産管理を任せざるを得ない場合、資産の横領や棄損が懸念されます。

情報の取扱い

  • 在宅勤務を目的とする必要書類の持ち帰りや、セキュリティが脆弱な個人保有のPCおよびネットワークの利用が原因で、機密情報を漏洩・紛失するリスクが高まります。

労務

  • 就業規則や雇用契約が出社を前提とした内容となっている場合、リモートワーク期間中の勤怠管理が現ルールの枠内で対応できません。

人員配置

  • オペレーションを行う上で必要な資格・能力を有する者を常時配置することが困難となります。

リスク顕在化の可能性の高い業務の特定

制約下における海外子会社のオペレーションは、上記のようなリスクを考慮に入れた検討が重要となります。特に、事業に大きな影響を与える可能性の高い業務は、リスクの顕在化を低減するための手立てを事前に講じる必要があります。
海外子会社のオペレーションを維持・再開する上での主な確認ポイントは下記チェックリストのとおりです。制約下でのオペレーションに関して、リスクが顕在化する可能性が高い業務を特定する参考としていただければと思います。

(ご参考)オペレーション確認チェックリスト

 

本稿では、COVID-19の影響を受けるアジア諸国における共通の現状と課題を紹介しました。各種リスクの多くは、今回の状況によって新たにもたらされたものではなく、従前より日本企業が抱えていた子会社管理上の下記のような課題が、各国の対策に伴う業務の制約によって表面化したものです。

  • 業務ルールや標準業務手続きの整備と運用の課題
  • 曖昧な業務分掌
  • 現地従業員の育成、コンプライアンスを含む教育の遅れ
  • これらの結果として生じている、日本人駐在員に依存した業務体制、業務の属人化
  • IT環境、情報セキュリティの課題 など

次回は、本稿で紹介した制約条件下における課題に対して、どのような対応策を講じ得るかを検討します。
(現在制作中につき、完成次第の公開となります。)

 

本稿のPDF版は以下をご覧ください。

 

新型コロナウイルス(COVID-19)への対応

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