スポーツの枠を超えるeスポーツ - 日本の果たす役割とは

リアルスポーツの延長ではなく、全く違う価値を生むeスポーツの可能性と日本がeスポーツ業界で担う役割について考察する。

リアルスポーツの延長ではなく、全く違う価値を生むeスポーツの可能性と日本がeスポーツ業界で担う役割について考察する。

このシリーズではeスポーツをビジネスの観点で、国内外の市場から社会的な意義、テクノロジー、ガバナンス(統治)まで多角的に解説してきた。eスポーツはゲームを軸とするビジネスだが、その裾野はエンターテインメント関連にとどまらない。教育やヘルスケア領域への活用、障害者や高齢者などの社会的弱者を支援する取り組みに加え、地域・国境・言語・世代を越えるコミュニケーションツールとしても期待できる。

eスポーツは海外では1つのカルチャーとして成り立っており、ゲーム産業世界第3位の日本にとってはビジネスとしてもグローバル市場を目指せるポテンシャルの高い領域である。様々な課題が残る日本市場で、今後eスポーツを成長させていくためのポイントを2点挙げる。

1つ目は、ゲームに対するイメージの改善である。eスポーツに対するネガティブな印象を改善する方法の1つとして、業界の雇用保障の強化が欠かせない。他の職業に比べて寿命が短いこの分野のプロ選手が、安定的な収入源を持ち長期間活躍できる就業的な仕組みや、選手生活以降のセカンドキャリアの道が確保されることなど、1つの職業として認知される道筋を整備することが重要である。

2つ目は、eスポーツが進んでいる先進国の事例から見習うことだ。よく「日本のeスポーツ産業は海外と比べて遅れている」と言われているが、この遅れがかえってアドバンテージ(優位)になることもある。他国の良い事例とうまくいかなかった事例を参考にすることで、「日本らしい」eスポーツを一から組み立て、定着させることができるからだ。

例えば、地方各地のスポーツアリーナの活用、アニメやマンガなどの日本のサブカルチャーとの連携、ヘルスケアとの組み合わせなど、海外の市場では生まれにくい日本独特の文化と融合した形が可能だろう。

「eスポーツ」という名前からリアルスポーツと比較されることも多いが、eスポーツが目指す先はリアルスポーツの延長ではなく、全く違う価値を生むことであると筆者は考えている。なぜなら、一般スポーツでは提供できない、eスポーツならではの価値があるからだ。世界のどこにいても遠隔で参加できることや、簡単なコントローラー操作さえできれば高齢者や障害者も一緒に競技を楽しめることなど、これらは一般スポーツの世界では想像し難い。

「スポーツの枠を超えるeスポーツ」。将来的にはこうした認識が一般的になる可能性もある。高度な技術とアイデアの集合体であり、現在のゲーム産業ができるまで日本は世界に大きな貢献をしてきた。だからこそ、eスポーツの次のステージに向け、日本が果たすべき役割は大きいと思う。

eスポーツが日本で成長するカギ

  • プロ選手に安定的な雇用や収入源を確保し、彼らが長期的に活躍することで業界全体のイメージを改善する
  • 他国に遅れていることを逆手に取り、様々な先進事例を参考にしながら日本らしいeスポーツを一から作り上げる

※日経産業新聞 2020年3月9日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアマネジャー Hyun Baro(ヒョン バロ)

裾野広がるeスポーツ

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