eスポーツガバナンスの構築とは

eスポーツガバナンスの構築に必要なスポンサーシップとイベント・大会運営に焦点を当て、ガバナンス構築の留意点について解説する。

eスポーツガバナンスの構築に必要なスポンサーシップとイベント・大会運営に焦点を当て、ガバナンス構築の留意点について解説する。

リアルスポーツでは日本のスポーツ庁をはじめとした様々な協会や団体がガイドラインやガバナンスコード(統治指針)を制定している。eスポーツ産業が健全に発展するために、eスポーツでも同様にリスク要因に対するガバナンス(統治)の構築が求められる。

eスポーツに関して特に大きなリスク要因と考えられる「スポンサーシップ」「イベント・大会運営」の2つに焦点を当て、ガバナンスを構築する際に留意すべき点について解説する。

eスポーツでの企業スポンサーシップは支援対象の違いにより、(1)チームまたはチーム所属の選手向け(2)イベントや大会向けの大きく2つに分けられる。チーム運営者への聞き取り調査によると、企業とスポンサー契約を結ぶようになっても「資金は調達ができたが、正式な契約書が存在しない」もしくは「公式的な契約書が存在するが、実際の資金調達ができない」ことが多いようである。

本来は企業がスポンサーシップを提供する前に、正式な契約を結び義務事項をあらかじめ明確化する必要がある。そしてスポンサー費に対する運営資金の使い道をきちんと把握し、財務状況を確認した上でスポンサーの投資効果について評価し、次期スポンサー活動の判断素材にするのが理想である。こうしたスポンサーシップ先の財務状況の定期的な報告などによりチームやイベント主催者の財務透明性を確保することは、業界全体のリスク要因を下げることにつながる。

チーム運営側がすべきこともある。eスポーツ選手は年齢が10代から20代前半が多く、社会経験がほとんどないことから、企業から支援を受けることに伴う責任や義務、注意すべきことについて熟知している者が少ない。このため、支援を受ける選手やチームに向けて勉強会の形でプロとしての責任や社会的な義務について定期的に意識させることが望ましい。

イベント・大会主催者が当該ゲームタイトルのIP(知的財産)を持たず、第三者である場合に、そのイベント主催者にはリスク要因が多く存在し、場合によっては会社間の訴訟にもなりうる。例えば、あるゲームタイトルのeスポーツベッティング(賭け)で仮に八百長事件が起こると、そのイベントはもちろん、ゲーム会社へも悪影響を及ぼす可能性が高い。

ゲームタイトルのIPに関わる訴訟やイベント中止を未然に防ぐには、関係者間の仲裁や交渉のサービスを提供できる専門組織が必要である。例えば、英国にはESIC( Esports Integrity Commission)という専門集団がおり、八百長防止の活動をしている。

日本のeスポーツ市場が持続的に成長していくには、こうしたeスポーツガバナンスがエコシステム(生態系)全般に構築される必要がある。

eスポーツ運営に関わるリスクの対象とその対策
対象 対策
スポンサーシップ関連 イベントや大会 運営資金や財務状況の把握と公開
チーム・所属選手 支援を受ける責任や義務、注意点を教育

イベント・大会運営関連

ゲームタイトル知的財産 訴訟対策・交渉の専門家に相談、活用

※日経産業新聞 2020年3月6日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング株式会社
シニアマネジャー Hyun Baro(ヒョン バロ)
 

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