eスポーツの発展に求められるコンプライアンス対応とガバナンス体制とは

過去の不祥事を取り上げeスポーツ競技の透明性や公平性を担保するコンプライアンス対応とガバナンス体制構築の必要性について解説する。

過去の不祥事を取り上げeスポーツ競技の透明性や公平性を担保するコンプライアンス対応とガバナンス体制構築の必要性について解説する。

eスポーツ産業がより大きな市場と産業に発展するには、プロチームの運営・大会の開催に関わるコンプライアンス(法令順守)対応、ガバナンス(統治)構築が大きな役割を果たすと考えている。業界が安全に発展するのになぜリスク管理とガバナンスが必要なのか、具体的な事例で説明する。

2000年代に急激な成長を見せたeスポーツ先進国である韓国では2010年にプロリーグによる八百長が発覚した。トップクラスの現役プロ選手が複数関与しただけでなく反社会勢力も関係し、組織ぐるみの計画的な犯行であった。市場が急成長していく中で、関係者が成長に重点を置き、リスク管理やガバナンスが十分でなかったため、不正行為で資金を狙う反社会勢力の関与を許す結果となった。

この八百長事件は韓国のeスポーツ産業に大きな打撃を与え、eスポーツ専用放送チャンネルの1つがなくなり、半分以上のプロチームが解散するなど関係者の多くが職を失った。残念ながら韓国での八百長は1回で終わらず、2015年に組織ぐるみの計画的な犯行が発覚し、また社会は衝撃を受けた。

他の国でも様々な不祥事件が起きている。例えば、2019年夏には、ある大人気ゲームタイトルのアジア大会の試合中に公平性是非の問題で折り合いがつかず、大会に参加した一部のチームが大会中にボイコットすることもあった。
日本のeスポーツシーンも安全だとは言えない。例えば、2018年には国内プロチーム所属の外国籍選手の在留カードを不法に取得し摘発されることが起きた。仮に悪意がなくても、こうした事件が増えると結果的に業界全般のイメージに悪影響を及ぼす。だからこそガバナンスとコンプライアンスをしっかりする必要がある。

さらに選手個人のドーピング(禁止薬物使用)にも目を光らせる必要がある。eスポーツ業界ではどういったものがドーピングにあたるか議論が必要だが、例えば、過度に集中力を増す薬の使用やエナジードリンクの飲みすぎなどは議論の必要な領域かもしれない。

リアルスポーツの世界では2001年に発足した「日本アンチ・ドーピング機構(JADA)」が国際的な基準に沿って、教育・啓発からドーピング検査・結果管理・人材育成まで様々な活動を行っている。こうしたルールや規定があることで、競技の公平性が保たれる。eスポーツも将来的にはリアルスポーツ同様の対応が必要になってくると考えられる。
リアルスポーツ産業のように、頼もしい企業スポンサーが後ろ盾となることで、チームとリーグが成長していき、より多くの人々が関心を持つ産業として市場が拡大する。そのためには、スポンサーが安心して参入できる競技の透明性や公平性を保つガバナンス体制を構築することが重要だ。

競技の透明性・公平性を保つための要素

  • スポンサーシップに関わるリスク管理
  • イベント運営に関わるリスク管理
  • ゲームコンテンツに関わるリスク管理
  • 放送に関わるリスク管理
  • プロ選手・チームに関わるリスク管理
     

※日経産業新聞 2020年3月5日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
 

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアマネジャー Hyun Baro(ヒョン バロ)

裾野広がるeスポーツ

お問合せ