DXを想定したOperational Technologyの技術軌道とは

B to B製造企業は、グローバル競争の中で、OTとITを融合した事業モデルを想定しながら、収益性を向上することになると考えられます。本レポートでは、現状を踏まえた際のDXを想定したOperational Technologyの技術軌道を解説します。

B to B製造企業は、グローバル競争の中で、OTとITを融合した事業モデルを想定しながら、収益性を向上することになると考えられます。本レポートでは、現状を踏まえた際のDXを想定し

1.B to B製造業を取り巻く環境

日本のB to B製造企業の市場目線での財務成果(2018年度)は、PBRも1.3~2倍でROEも10%以上であり、実はそんなに悪くありません。しかし、重電産業を例にグローバルで収益性を俯瞰すると欧米企業が営業利益率で7-15%の水準に対して、日本企業は1-6%の水準に位置し、相対的には低い状況にあります。

製造業が今後10年で直面するであろうメガトレンドは、ロボティクス、VR/AR、AI・機械学習などOT(制御技術)とIT(情報技術)に関わるものが挙げられます。従って、B to B製造企業は、グローバル競争の中で、こうしたOTとITを融合した事業モデルを想定しながら、収益性を向上することになると考えられます。

B to B製造企業がこのOTとITのメガトレンドを考慮するに当たって重要な観点が、「技術のSカーブ」(Foster 1986)です。Sカーブに基づくと、新技術の初期段階は既存技術の性能を下回るため、得てしてメガトレンドで生じる初期の技術革新を軽視しがちとなります。更にSカーブの理論も昨今の技術革新の速さと複雑さを受けて、音楽CDとMP3ファイルのように急激な世代交代となる技術もあれば、HDDとSSD のように緩やかな世代交代となる技術もあり、こうした傾向を見定めながらメガトレンドを補足していくことが重要となります。

Operational Technology

Source:Foster, Richard (1986) Innovation: Attacker’s Advantages, Summit Books.を基にKPMG作成

2.OT×ITのグローバル先進事例

モーションコントローラ業界を例にOTとITの融合の方向性を分析してみましょう。モーションコントローラ業界はエッジコンピューティングが効くなど、個別コンポーネントに関わる要素技術が重要でした。そこにITが融合されることで、動力伝導機構全体の制御の高度化や自律化、省エネ制御などのフルターンキーソリューションへと付加価値は移行してきています。具体的には3DカメラやAI技術を活用した物体認識技術や全てのモータの稼働監視が可能な省エネ制御システムなどが挙げられます。

こうしたOTとITの融合を実現すべくシーメンスやシュナイダーの欧州企業はシステム発想を基盤にコンポーネント領域に拡大するモジュール型の事業アーキテクチャを採用し、日本企業はコンポーネントからシステムを構成するインテグラル型を採用するといった対称的な戦略を採用しています。欧州勢日本勢ともフルターンキーソリューショを整備しつつあり、臨戦態勢は整い、これからの動向が注目されます。

3.顧客利用シーンを想定したOTとITの融合によるPSS(Product Service System)

OTとITの融合で実現できることは平たく言うと、コト売りです。これはPSS(プロダクトサービスシステム)という形で理論立てられています。PSSは10年以上前に提唱されていますが、ここ数年IoT技術の進展により、有効性が認められつつあり、コマツ、HILTI、ロールスロイスなど実現例も登場してきました。B to B製造企業はいよいよ資本財や生産財の提供のみならず、プロダクトライフサイクル最適化、アセット効率化、プロセス支援・代行といった機能をシステムとして提供することが求められています。コマツが建機の販売から建設現場全体の革新を支援する企業として建築バリューチェーンの最適化をシステムとして提供しているのはPSSそのものと言えます。

Source:	“Eight Types of Product-Service System (Arnold Tukker, 2006)を基にKPMG作成

Source: “Eight Types of Product-Service System (Arnold Tukker, 2006)を基にKPMG作成

4.システム売りに必要な経営資源のM&A/スタートアップ活用法

モーションコントローラ業界において、シーメンス等の欧米B to B製造企業は、OT領域での標準化戦略、モジュール化戦略、技術のSカーブ戦略を連ねることで市場規模拡大と付加価値技術の開発と実装を実現しています。そして、ビッグデータを源泉としたIT領域の技術実装を組み合わせたPSSによる自動化を図っています。この事業モデルの変遷に伴い提供価値も機能から便益へとシフトしています。そしてIndustry4.0が目指すネットワーク化を実現すべくエコシステムプラットフォームの構築を意図しているように伺えます。そうなると提供価値は自社を取り巻くステークホルダー全体での「共進」といったエコシステム全体の繁栄といったものになるのではないかと予想されます。

欧米勢のOTとITの融合によるPSSの実現

お問合せ

岡本 准

KPMG FAS 執行役員パートナー/KPMGジャパン 製造セクター統轄パートナー

KPMG FAS

メールアドレス