決算・開示の日程変更における留意点

旬刊経理情報(中央経済社発行)2020年5月1日号に特集「悪材料をどう落とし込むか コロナ禍がもたらす決算・開示への影響 」にあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。 第4章は「金融庁・東証等関係機関の対応を整理する決算・開示の日程変更における留意点」です。

旬刊経理情報(中央経済社発行)2020年5月1日号に特集「悪材料をどう落とし込むか コロナ禍がもたらす決算・開示への影響 」にあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

ポイント

  • 金融庁では、有価証券報告書等の提出期限を延長する措置を講じている。
  • 東証では、年度決算等の内容を確定次第開示とする等の取扱いを公表している。
  • 法務省・経済産業省は、株主総会開催にあたっての留意点を公表している。
  • 日本公認会計協会は、監査スケジュールの再検討ならびに有価証券報告書等の提出スケジュールおよび計算関係書類の報告期限の一律の延長を求める旨を公表している。

はじめに

新型コロナウイルス感染症の拡大は、企業の決算業務および監査業務に多大な影響を与えると考えられる。これに伴い、金融庁、東京証券取引所をはじめとした関係機関は、開示書類の提出に関する事項等を公表している。ここでは、金融商品取引所に上場する企業を主として決算・開示の日程変更に関して前記の公表内容に触れていく。なお、本執筆時点は2020年4月10日であり、同日に公表された緊急事態宣言の影響は考慮していない。
 

金融庁

2020年2月10日、金融庁は、「新型コロナウイルス感染症に関連する有価証券報告書等の提出期限について」 を公表した。本公表文には、金融商品取引法に基づく開示書類の提出延長等に関して、次の内容が挙げられている。

  • 有価証券報告書および内部統制報告書、四半期報告書、半期報告書について、新型コロナウイルス感染症の影響に伴い、中国子会社への監査業務が継続できないなど、やむを得ない理由により期限までに提出できない場合は、財務(支)局長の承認により提出期限を延長することが認められる。よって、前記開示書類の提出期限を延長する場合は所管の財務(支)局長に相談すること。
  • 臨時報告書について、新型コロナウイルス感染症の影響により作成自体が行えない場合、そのような事情が解消した後、可及的速やかに提出することで遅滞なく提出したものと取り扱われること。

開示書類毎に提出期限および本公表文における提出期限の延長の取扱いを表に示すと図表1のとおりである。

(図表1)開示書類提出期限延長の取扱い

開示書類 提出期限 提出期限延長の取扱い
有価証券報告書および内部統制報告書 事業年度終了後3カ月以内 事業年度終了後3カ月以内 やむを得ない理由と認められる場合、あらかじめ所管の財務(支)局長に承認を受けたうえで提出期限の延長が可能 
四半期報告書 四半期終了後45日以内
半期報告書 上半期末から3カ月以内
臨時報告書 提出事由が発生次第、遅滞なく提出 新型コロナウイルス感染症の影響により臨時報告書の作成自体が行えない事情が解消した後、可及的速やかに提出

 

なお、本公表文には、「ここに記載する他にも、今般の新型コロナウイルス感染症により実務上の支障が生じているなど、お困りのことがございましたら、ご遠慮なく所管の財務(支)局までご相談ください。」との旨記載されている。新型コロナウイルス感染症により生じた実務上の支障の内容に応じて、開示書類の提出期限の延長が認められる場合とそうでない場合も考えられるため、各企業の経理・開示担当者は早めに所管の財務(支)局に相談することが望まれる。

また、2020年4月3日には、新型コロナウイルス感染症の影響下における、企業の決算作業および監査等について、 関係者間で現状の認識や対応のあり方を共有するため「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会」が設置され、4月10日に2回目の会合が開催された。
今後、金融庁は上場会社の有価証券報告書の提出期限を一律延期に踏み切る方針であるような報道も見受けられる。
今後も金融庁の公表内容に留意されたい。
 

東京証券取引所

東京証券取引所は、「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた適時開示実務上の取扱い」をはじめとして、いくつかの取組みについて公表している。

(1)2020年2月の公表物

「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた適時開示実務上の取扱い」 (以下、「本取扱い」という)は、上場会社宛に通知した内容を2020年2月10日に公表したものである。具体的な内容は次のとおりである。

  1. 決算および四半期決算の内容の開示

通期の決算内容および四半期決算内容について、今般の新型コロナウイルス感染症の影響により決算手続等に遅延が生じ、速やかに決算内容等を確定することが困難となった場合には、「事業年度の末日から45日以内」などの時期にとらわれず、確定次第開示することで差し支えない。
なお、新型コロナウイルス感染症の影響により、大幅に決算内容等の確定時期が遅れることが見込まれる場合には、その旨(および確定時期の見込みがある場合には、その時期)の適時開示を検討すること。
また、新型コロナウイルス感染症の影響により、有価証券報告書または四半期報告書の提出期限の延長申請を行うことを決定した場合には、その旨の適時開示が必要となる。

          2.事業活動等への影響に関する開示

不正確・不明確な情報に基づく株式等の価格形成を回避し、投資者に適切な投資判断を促す観点から、役職員や取引先その他の関係者の健康および安全の確保を最優先のうえで、可能となった時点では、速やかにかつ積極的に、新型コロナウイルス感染症が上場会社各社の事業活動や経営成績に及ぼす影響等に係る情報開示を検討する。

         3.業績予想に関する開示

今般の新型コロナウイルス感染症が事業活動及び経営成績に与える影響により、決算内容の開示に際して業績予想の合理的な見積もりが困難となった場合や、開示済みの業績予想の前提条件に大きな変動が生じた場合などは、その旨を明らかにして、業績予想を「未定」とする内容の開示を行い、その後に合理的な見積もりが可能となった時点で、適切にアップデートを行うことなどが考えられる。

(2)2020年3月の公表物

2020年3月18日に、「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた対応方針について」 および「新型コロナウイルス感染症に関するリスク情報の早期開示のお願い」 が公表された。2月10日の本取扱いの公表内容と同様、新型コロナウイルス感染症の拡大が事業活動・経営成績に与える影響に関して、適時・適切な開示を上場会社に要請するものである。業績予想には、前提条件や修正時の理由等の記載の充実を求め、決算短信・四半期決算短信には、新型コロナウイルス感染症に関するリスク情報の積極的な開示(添付資料等においても当該リスク情報を記載する等)を求めている。また、上場会社および上場候補会社に対する現行の上場制度の適用につき、企業活動への影響度合いを踏まえ、実態に応じた柔軟な取扱いを講じるものとしている。
そして、2020年3月31日に「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた上場制度上の対応に係る有価証券上場規程等の一部改正について」 (パブリック・コメントの期間は4月14日まで)を公表し、前記の取扱いを規程に反映する準備が進められている。
これらの内容をまとめると、図表2のとおりとなる。

(3)2020年4月の公表物

2020年4月7日には、「緊急事態宣言発令に伴う売買の取扱いを踏まえた情報開示に係る対応」「2020年3月期上場会社の定時株主総会の動向(速報版)について」 および「定時株主総会の延期発表会社の一覧(2020年2月期以降)」 が公表された。「緊急事態宣言発令に伴う売買の取扱いを踏まえた情報開示に係る対応」では、東京証券取引所は緊急事態宣言後の効力発動後も通常どおり株式等の売買を行う予定であること、上場会社には重要性の高い会社情報の適時・適切な情報開示に引き続き配慮を求めることおよび決算作業等の円滑な実施が困難となった場合には当初のスケジュールにかかわらず決算発表日程の再検討を求めることが記載されている。また、「2020年3月期上場会社の定時株主総会の動向(速報版)について」では、2020年3月期上場会社の定時株主総会の開催は6月26日(金)が最も集中する日と見込まれていること、4月6日時点では7月以降の日を予定している会社はないことが記載されている一方で、コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、総会の開催日を7月以降に延期するか否かを検討していると回答した会社もあることが分かる。そして、4月7日時点において2月期決算の会社で1社定時株主総会の延期を発表している会社がある(東京証券取引所「定時株主総会の延期発表会社の一覧(2020年2月期以降)」参照)。


(図表2)東証の新型コロナウイルス感染症への対応

上場会社

適時開示

新型コロナウイルス感染症の拡大が事業活動・経営成績に与える影響に関して、適時・適切な開示を要請

  • 業績予想:前提条件や修正時に理由等に関する記載の充実
  • 決算短信:リスク情報の積極的な開示
  • 決算発表時期の柔軟化および影響判明時の開示
  • 株主総会基準日変更の場合の留意事項

上場廃止

  • 債務超過:上場廃止基準における改善期間を延長(1年→2年)(指定替え基準も1年間の改善期間を設定)
  • 監査意見の「意見不表明」、「事業活動の停止」:新型コロナウイルス感染症の影響による場合は対象外
上場申請会社

上場審査

  • 企業の継続性および収益性等:新型コロナウイルス感染症の影響が事業計画に適切に反映されているかどうかを審査(一時的な業績悪化は勘案して審査)
  • 企業内容等の開示の適正性:新型コロナウイルス感染症の影響が適切に開示書類(リスク情報・業績予想等)に反映されているかどうかを審査
  • 限定付適正意見:実地棚卸の立会や事業所の往査が困難な場合における申請直前期の限定付適正意見を容認(2020年3月期から適用を想定)
  • 再審査時の審査料:新型コロナウイルス感染症の影響で上場承認に至らなかった場合の再審査料は免除

 

東京証券取引所をはじめとした証券取引所が公表する決算・開示に関する情報についても、今後の動きに留意されたい。

法務省・経済産業省

法務省は、2020年2月28日に、「定時株主総会の開催について」(2020年4月2日更新) を公表している。ここでは、今般の新型コロナウイルス感染症に関連し、定款で定めた時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合には、その状況が解消された後合理的な期間内に定時株主総会を開催すれば足りるものと考えられる旨、記載されている。
会社法上、株式会社の定時株主総会は、事業年度の終了後3カ月以内に招集しなければならないわけではないものの(会社法296 1参照)、実務上、多くの企業が定款において事業年度の末日を株主総会の権利行使の基準日としていることから、事業年度の終了後3か月以内に定時株主総会を開催しており、当該株主総会で決算の報告を実施していると思われる。
当初予定していた定時株主総会において前事業年度の計算書類の報告が行えない場合、株主総会での決議のうえ、あらためて招集決定(会社法298)や招集通知発送(会社法299)の手続を行うことなく、延会または継続会を開催すること(会社法317)が考えられる。
なお、経済産業省および法務省は、2020年4月2日、新型コロナウイルス感染症に関連し、「株主総会運営に係るQ&A」 を策定した。本Q&Aでは、新型コロナウイルス感染拡大防止のために、株主総会の出席を控えることの呼びかけ、株主総会会場への入場制限、事前登録制の採用、ウイルスの罹患が疑われる株主の入場制限、株主総会の時間短縮等を可能と考える旨が公表されている。当初予定していた定時株主総会の開催日を変更することは実務上困難であり、剰余金の配当基準日を変更したり、株主に株主総会の開催場所での参加を認めるとともに、株主がオンラインで参加することも許容するいわゆるハイブリッド型の株主総会も現実的でないところで、本Q&Aは実務の助けになるように思われる。

日本公認会計士協会

日本公認会計士協会は、2020年3月18日に「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その1)」 を公表し、当協会会員に対し、監査手続に係る留意事項等の他、監査スケジュールの延長等にも留意を促している。ここでは、金融庁、東京証券取引所等の公表物に触れつつ、十分かつ適切な監査証拠を入手するための監査手続の進捗状況によっては、今後の監査スケジュールを再度検討し、監査報告書の提出日を見直す必要がある旨が言及されている。また、2020年4月7日に、「会長声明『緊急事態宣言の発令に対する声明」」 を公表した。これは、金融商品取引法に基づく有価証券報告書の提出等について、その期限を一律に延長することが可能となる対応および会社法に基づく定時株主総会の開催時期(特に、計算関係書類の報告期限)についても、一律に延期することが可能となる対応が必要と考える旨の内容となっている。
前記から、監査により、決算開示スケジュールにも影響が及ぶことが示唆されている。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
マネジャー 公認会計士
山本 靖子

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