のれんは償却されるべきか?

IFRSのヒント - 先日、IASBより公表された討議資料「企業結合 - 開示、のれん及び減損」の中で、のれんの償却が議論されていると聞きました。今後、IFRSののれんの会計処理が変わるのでしょうか?

「企業結合 - 開示、のれん及び減損」の中で、のれんの償却が議論されていると聞きました。今後、IFRSののれんの会計処理が変わるのでしょうか?

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のれんとは、いわゆる取得のれんを指し、取得企業が事業を取得した際に支払った対価から被取得企業の識別された資産・負債(これらは基本的には公正価値で測定される)の純額を差し引いたものをいいます(非支配持分は無視します)。ここで、のれんの中には、一般に以下のものが含まれていると考えられています。

  • 被取得企業自身が有する超過収益力(認識された資産・負債には個別に反映されていない、被取得企業が継続的に超過リターンを生み出す源泉。例えば、そこで働く人材やカルチャー等)
  • 被取得企業が取得企業と統合されることから生じるシナジー(取得企業が被取得企業の販売チャネルを用いて自社製品を販売することによる売上増、または、企業が統合されることによるコストの削減等)
  • 取得対価の過大払い又は過少払い

IFRSにおけるのれんは、非償却とされ、少なくとも年に一度の減損テストが要求されています。一方で、日本の会計基準では、のれんは20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって定額法その他の合理的な方法により規則的に償却するとされています。すなわち、日本の会計基準ではのれんは一定期間にわたり償却され、簿価が逓減していくのに対し、IFRSでは償却を行わないので、簿価は当初の金額のまま据え置かれます。

現在のIFRSはのれんを非償却にしていますが、2004年にIFRS第3号が発行する前まではIFRSものれんを償却していました。当時、IFRSが非償却に会計処理を変更した理由は、のれんの耐用年数を見積もることは通常できないこと、また、IFRSの減損テストモデルが十分に機能すると考えられたこととされています。

IASBより公表された討議資料「企業結合 - 開示、のれん及び減損」では、のれんの償却を再導入すべきかが審議され、のれんの償却は再導入しないことが暫定的な見解とされました。しかしながら、当該暫定的見解は、僅差により決定され、多くのボードメンバーが償却の再導入に賛成票を投じたとされています。

のれんを償却することに賛成する意見は、のれんが償却されないと、のれんが過大計上されてしまうことを懸念しています。その理由は、そもそものれんの価値は時の経過とともに減価する(つまり、企業はのれんを費消している)と考えており、のれんを償却しない場合には結果的に(会計基準では計上が認められない)自己創設のれんを計上していることになってしまうことや、のれんの減損テストではのれんの価値の低下をタイムリーに認識できないことを指摘しています。

一方で、のれんを償却することに反対する意見は、財務諸表を利用する投資家の多くが、のれんの償却費を分析から除外(のれんが償却されている場合に、償却をなかったこととして元に戻す)していることや、のれんの耐用年数を見積ることは実務上不可能で、のれんの償却費は恣意的な金額でしかないと主張しています。また、現状の会計処理ではのれんは非償却とされており、現状の会計処理をあえて変更する必要があるほどの明確な根拠はないということも反対派の根拠となっています。

それぞれの主張に一定の合理性があるように思われます。このように意見が対立する背景としては、のれんが企業結合時点というある一時点で測定された目には見えない残余であり、「その残余」が例えば数年後に価値としていくら残っているのかを再測定することが難しいという、のれんの性質に起因する問題があるように思われます。あなたは、どう考えますか?

上記の討議資料についてもう少し詳しく知りたい方は、あずさ監査法人発行のポイント解説速報 - IASB、討議資料「企業結合 - 開示、のれん及び減損」を公表をご覧ください。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
会計プラクティス部
内田 俊也

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