eスポーツにおけるROI(費用対効果)の課題とは

eスポーツ市場拡大に関する課題の1つである投資について、他のスポーツに比べたeスポーツの費用対効果について考察する。

eスポーツ市場拡大に関する課題の1つである投資について、他のスポーツに比べたeスポーツの費用対効果について考察する。

日本のeスポーツ市場には大きな拡大余地があるが、課題も少なくない。具体的には、高額賞金が提供できないなどの法的な問題、eスポーツ施設の不足、eスポーツ(ゲーム)に対する世間的な理解の不足、大口スポンサーの不足など様々なものが挙げられる。
これらの課題は1つ1つ解決していくべきだが、本質的な問題は、eスポーツのエコシステム(生態系)内に資金が循環していないことであると考える。

日本のeスポーツ市場はそれを支えるファンの数を増やすことで大きくなる。ファンを増やすためには、世界レベルの大会で優勝し、高額賞金を獲得するようなスターチーム(選手)が登場し、それをテレビなどのマスメディアで大きく発信していくことが重要である。それにより、ファンや競技人口が増加することになる。
ファンが増加すると集客力に価値を感じるスポンサーの増加、競技人口が増加するとスター選手発掘機会の増加にそれぞれつながる。そしてエコシステム内に資金が循環するようになり、チームを強化する好循環になると考えられる。リアルスポーツの世界でもサッカーなら中田英寿氏、テニスなら錦織圭選手の登場により、規模を拡大させてきている。eスポーツもリアルスポーツの成功事例を参考にすべきだろう。
ただ、日本のeスポーツチームの現状は厳しい。チームを保有するオーナーは主要事業の傍らチームを運営しているケースが多く、チーム単独の財政状況は赤字が多いと聞く。それではチームの育成に十分な投資はできない。eスポーツ先進国である中国や韓国では、ネット大手の騰訊控股(テンセント)やメディア大手のCJグループが先行投資し、産業として発展させてきたが、日本では市場をリードする企業は存在しない。

なぜなのか。日本の現在のeスポーツ市場を投資する側から見ると、他のスポーツやメディアと比較してeスポーツを選択するほどのROI(費用対効果)がわからない。さらに歴史が浅くチーム運営ノウハウが整備されておらず、選手とチーム間での契約書が交わされていないといった組織としての経営管理にもリスクがある。こうしたことから判断し、日本では投資に踏み込めないと思われる。
結果、日本では投資が不十分でスターチームが登場しにくい、市場の魅力が不明確であるため投資されないという、いわばデッドロックの状態に陥っている。鶏と卵の関係ともいえる。「先行投資してスターチームを育成する」「eスポーツへのROIを可視化する仕組みを作る」など鶏と卵の両面から解除するキーが必要である。

eスポーツのエコシステムの好循環

eスポーツのエコシステムの好循環

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日経産業新聞 2020年2月12日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング
マネジャー 岩田 理史

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