新型コロナウイルス禍の中での犯罪対応など

新型コロナウイルス禍の中で、国際機関や各国当局等が活発な注意喚起をしている点についてポイントを記し、参考情報源を紹介します。

新型コロナウイルス禍の中で、国際機関や各国当局等が活発な注意喚起をしている点についてポイントを記し、参考情報源を紹介します。

(はじめに)本稿の目的

本稿は、新型コロナウイルス禍の中で、国際機関や各国当局等が活発な注意喚起をしている、以下の1.~3.につきポイントを記し、4.で参考情報源を紹介することを目的として作成した。なお、本稿の中の意見は、筆者の私見である。

  1. サイバー空間で犯罪活動が活発化
  2. 「非対面」の重要性
  3. 募金活動・現金給付関連
  4. このテーマに関する当局等の主な公表サイト

1.サイバー空間で犯罪活動が活発化

新型コロナウイルス禍の中で、次に例示するような犯罪活動が主にサイバー空間で活発化しており、注意が必要である。

  1. マスク・消毒用アルコール・防護服等の情報提供や販売を偽装する詐欺
  2. 投資や募金に関する偽の情報の提供
  3. ウイルスに怯える人心の隙を狙うフィッシング(情報盗取)
  4. インサイダートレーディング・相場操縦

こうした犯罪活動は、金融機関をターゲットにすることもあるし、その顧客(取引先企業や個人)をターゲットにすることもある。
金融機関は、自分自身としても顧客を含めても「新型コロナウイルス禍の二次被害」に遭わないように、注意のための情宣・対策等を迅速かつコストをなるべく節減して展開する必要がある。

 

金融機関自身については、例えば、次を意識すべきかと考えられる。

1.について
金融機関自身の備品購入部署等に「新しい調達先候補(例えばメールでアプローチしてくる先など)については、念入りなチェックを促すこと」が適当。「ビジネスメール詐欺(BEC)」については、警察庁サイバー犯罪対策プロジェクトのビジネスメール詐欺に注意!のページをご参照ください。

2.について
金融機関が「詐欺的な募金主体」の募金用口座を提供したりすることが無いように留意する必要(後述の3.参照)

3.について
金融機関の役職員が在宅勤務等で自宅にいる時間が長くなり、インターネットや電子メールの利用が増える中で、犯罪者が送るメールに騙されて貴重な情報(会社・個人両方)を盗取されることが無いように、役職員に対して注意喚起を改めて行うことなどが適当。


組織内の職員間でリモートの会議をする際などは、利用するツールの脆弱性への対応(例えば「Zoomの脆弱性対応」)についても意識すべき。

「顧客が被害にあっていないか」との注意も必要。また、「顧客の誰かが万が一にもこのような犯罪に加担していないか」との観点での注意も必要。

2.「非対面」の重要性

「対面」の金融取引は、相手との意思疎通を行う上での利点も多いものの、新型コロナウイルス感染拡大阻止の観点でみると問題が多い。FATFは「3密」回避を達成して(1)金融機関自身のため、(2)顧客等相手先のため、(3)社会のために、次を推奨している(出典はPDF 4. 参照)

  1. ネットで完結する新規顧客契約(digital customer onboarding、日本では犯罪収益移転防止法施行規則6条1項1号ホ、ヘ、ト、ヲ、ワ、カ、3号ハ、ニ、ホ参照)
  2. 非対面での金融サービス提供
  3. 金融機関と当局の間でのRegTech、SupTechの活用※1

1.に関して最近FATFが金融機関向け指針を公表したDigital Identity(デジタルID)については、KPMGウェブサイト(Digital Identity(デジタルID))を参照。デジタルIDについて、FATFは、「金融機関のCDD対応コストとマネロン・テロ資金供与のリスクの両方を削減する」と指摘している。

 

※1RegTech(Regulatory Technology)は、民間金融機関がIT技術を活用して金融規制に対し効率的に対応すること。SupTech(Supervisory Technology)は、規制当局・法執行機関がIT技術を活用して検査・監督等を高度化・効率化すること。

3.募金活動・現金給付関連

新型コロナウイルス禍で失業や倒産の危機に瀕する生活困窮者が増える中、政府による現金給付とともに民間NPOによる募金活動等の重要性も非常に高まっている。

金融機関は、寄付金提供者と募金先を結ぶ重要なチャネルである。

こうした中でFATFは、これまでNPOのテロ資金供与リスクへの対応例を示してきたが、今回、次を強調した。

  1. NPOのうちテロ資金供与リスクのある先は少ない。FATFはNPOのすべてを高リスク先と分類することを求めていない。
  2. FATF基準は合法で透明性のある金融取引により、正当な資金受取人に資金が届くことの確保を目的としている。マネロン・テロ資金供与のリスクがある地域のすべての金融活動の抑圧を目的とするものではない。
  3. 金融機関による「募金先の本人確認」は重要である。

 

新型コロナウイルス禍の中で金融機関経営が「非常時モード」になるなか、FATFは低リスク顧客・取引についてはメリハリの効いた「簡易な顧客管理」(SDD)を適用すべきだと指摘している(他方で、FATFは、新型コロナウイルス禍の中で犯罪者の資金洗浄やテロリスト達の資金集めが活発化している可能性があることを意識した警戒の必要も指摘している)。


政府による生活困窮者への現金支給の「方法」が各国で注目されている。
それは、次のようなことを背景としている。

  1. 受給権者の本人確認を市役所や金融機関の窓口で行うこととすると「3密」が発生し、感染拡大を進めてしまう(タイの事例につき、Nikkei Asian Review記事参照)。
  2. 「小切手」送付には盗取等のリスクやコストがかかる。
  3. 不正受給対策を伴う必要がある。

こうした中、米国では「FRBが受給者に「デジタルドル」※2を交付すべき」との案が民主党の法案の幾つかあるバージョンの中に登場している(例えばこちらの米国下院金融サービス委員会が掲載した法案)。

 

新型コロナウイルス禍下の生活困窮者への現金支給へのCBDCの利用は、おそらく実務的に間に合わないと考えられる。しかしながら、CBDCの利用可能性のひとつを物語るエピソードだと言える(CBDCについてはKPMGウェブサイト(中銀デジタル通貨が銀行等民間事業者に与える影響・機会)をご参照ください)。


※2中央銀行デジタル通貨(CBDC)。米国は基軸通貨国であることもあり、CBDCには相対的に消極的な国だとされていたが、最近はFRBも研究を進めている(例えば(FRB「The Digitalization of Payments and Currency: Some Issues for Consideration」)(日経電子版「デジタル通貨、「ドル防衛」へFRBも独自研究」))。

4.このテーマに関する当局等の主な公表サイト

「国際機関、諸外国」や「国内」の情報を掲載しております。
「新型コロナウイルス禍の中での犯罪対応など」PDF P.3をご覧ください。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
金融アドバイザリー部
ディレクター 水口 毅

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