IFRS適用企業に対するCOVID-19の影響 - 公正価値は適切に決定されているか?

IFRS適用企業における、COVID-19が公正価値の決定に及ぼす影響の解説記事です。

IFRS適用企業における、COVID-19が公正価値の決定に及ぼす影響の解説記事です。

論点は何か?

COVID-19コロナウイルスのパンデミックは、2020年第1四半期の金融市場に大きな影響を与えています。株式市場は急落し、ボラティリティが高まっています。国債利回りは記録的な低水準に達し、企業の債務不履行増加の懸念を反映してクレジット・デフォルト・スワップ指数が急騰しています。多くの資産や負債については、キャッシュ・フロー予測の変更や不確実性の高まり、リスク増加を反映して、公正価値が著しく変動している可能性があります。

公正価値は市場ベースの測定であり、測定日の市場の状況を反映して、市場参加者が使用するであろう仮定を用いて測定されます。IFRS第13号「公正価値測定」によれば、活発な市場における相場価格は公正価値の最も信頼性のある証拠を提供するものであり、相場価格が入手可能な場合には、それを用いて公正価値を測定しなければならないとされています。事後的な市場価格の変化を考慮して、事後的に判明した事実(いわゆる「後知恵」(hindsight))を使用したり、測定日に価格が下落していると見られるものに対する調整を行うことは認められていません。[IFRS 13.77, 79]

特に現在のように、市場が不安定でかつ、経済の見通しが非常に不確実で、急速に変化する可能性がある場合には、重要な観察可能でないインプットを使用して評価を行うことは困難です。

資産(または負債)の公正価値は、測定日における市場の状況を反映しなければなりません。これは、COVID-19の経済的影響の不確実性により、より困難になっています。

詳細説明

「観察可能でないインプット」とは、市場データが入手できず、市場参加者が資産または負債の価格設定を行う際の仮定(リスクに関する仮定を含む)について、入手可能な最善の情報を用いて作成されたインプットをいいます。評価に使用される観察可能でないインプットは、測定日におけるリスクや不確実な市場状況を反映して、大幅な調整を必要とする可能性があります。[IFRS 13.A]

測定日におけるリスクと市況状況の反映

評価技法を用いて公正価値を測定する際に考慮すべき重要な要因やリスクには、以下のようなものがあります。

  • 経済活動の水準。ウイルスを封じ込めるための対策を講じた場合、財やサービスの生産や需要の面で経済活動が大幅に減退し、割引キャッシュ・フローモデルで用いられる将来の予測キャッシュ・フローにマイナスの影響を与える可能性があります。
  • 信用リスク及び流動性リスク。不透明な経済環境は、多くの企業にとって信用リスクや流動性リスクを増大させています。そのため、評価技法のインプットとして使用される自社の信用リスクや取引相手の信用リスクが増加する可能性があります。
  • 予測リスク。COVID-19の経済的影響の重大さと期間を予測することが困難であるため、公正価値の測定は、近い将来の経済及び財務予測の不確実性をより大きく反映させる必要があります。
  • 為替リスク。外貨建ての売上や仕入が多い企業は、為替レートの変動の悪影響を受ける可能性があります。
  • 商品価格リスク。採取産業に属する企業は、商品価格の下落によって重大な影響を受ける可能性があります。経済的にこれらの商品に依存している国の企業もまた、経済的悪影響を受けるリスクが増大しているかもしれません。

これらのリスクに対するリスク・プレミアムやその他の調整を測定するためには、重要な判断が必要となる可能性があります。また、公正価値ヒエラルキーのレベル3に分類される公正価値測定の数が増加する可能性があります(例えば、信用リスクのような観察可能でないインプットが現在の環境下で重要性が増すことによる)。
 

何を開示すべきか?

アニュアルレポート

経済的不確実性の増大が予測キャッシュ・フローや評価技法に使用されるその他の観察可能でないインプット(例:リスク調整後の割引率)に与える影響を考慮すると、企業は、公正価値がどのように決定されたかを財務諸表利用者が理解できるようにするために、主要な仮定や経営者が行った判断の開示とともに、感応度の開示を提供する必要があるかもしれません。これらの開示は、IFRS第13号「公正価値測定」及びIAS第1号「財務諸表の表示」の両方で要求されています。また、IFRS第13号には、金額が公正価値ヒエラルキーのレベル3に振り替えられる場合に、感応度の開示を含む特定の開示要求が盛り込まれています。[IFRS 13.93(e)(iv), 93(h), IAS 1.125, 129]

要約期中財務諸表

IAS第34号「期中財務報告」は、感応度の開示や公正価値ヒエラルキー間の重要な振替を含む、金融商品の公正価値測定に関するIFRS第13号の開示の多くを提供することを企業に要求しています。加えて、IAS第34号は、直近事業年度の末日以降の企業の財政状態及び経営成績の変化を理解する上で重要な事象及び取引を説明することを要求しています。したがって、非金融資産及び非金融負債に関連する公正価値の開示は、当期中の理解にとって重要である場合に要求されます。これは、公正価値が大幅に変化した場合にも適用される可能性があります。[IAS 34.15, 16A(j)]

経営者が今すべきこと

  • 評価について、以下を検討します。

評価は、測定日時点で利用可能な情報および市場の状況に基づき、市場参加者の仮定を反映しているかどうか。

評価は、不確実性の増加やその他のCOVID-19の影響から生じるであろうリスク・プレミアムを組み入れているかどうか。

  • 観察可能でないインプットの重要性が増加することにより、レベル3に分類され、追加の開示が必要になるかどうかを検討します。
  • 主要な仮定や感応度、見積りの不確実性の主要な要因についての開示を拡充することを検討します。

執筆者

会計プラクティス部

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