「創造」は分野を超える 技術者がカリスマシェフから学べること

「創造」は分野を超える 技術者がカリスマシェフから学べること

カリスマシェフと研究開発を行う「技術者」は、新しく何かを生み出す「創造」のスタイルやアプローチが似ていると思うことがよくあります。

茶谷 公之

KPMG Ignition Tokyo代表取締役社長兼CEO/KPMG Japan CDO

KPMG Ignition Tokyo

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次から次へと新しいレシピを創造し、旬の食材を見事に使いこなし、見たこともない新しい料理をつくっていく。また、朝から市場に繰り出し、売り手との短い会話から、目の前の魚介の鮮度や美味しさを見極める目利きの力を持ったシェフたち。

手に入れた食材を、最適な調理法や新開発の味付けや素材の組み合わせで、次々と素晴らしい料理に仕上げていく姿。さらにでき上がった料理を皿に盛り付ける表現力も素晴らしく、まさしく眼福と言う言葉がぴったりくるような美しい料理をもつくってしまう、圧倒的かつ芸術の域にも達した技量には目を見張るばかりです。

英語ではよく、技術の最高峰のレベルの状態を「State of art (芸術の域)」という表現を用います。われわれ技術者も、開発して世に出していく製品やサービスを、ぜひとも「芸術の域」のレベルまでもっていくことを目指したいものです。

製品やサービスをつくる過程では、アートやデザインも関係してきます。例えばそれは、一般的に、自動車や電子機器の外観における工業デザインだけだと理解されがちですが、昨今では、ハードウェアよりもソフトウェアにおいて、アートやデザインが役に立っています。

ソフトウェア構造の内面的な美しさが、機能や体験に大きく反映され、製品の評価を左右することにもなっているのです。つまり、外観だけではない、製品やサービスを構成するさまざまな要素において、アート性や芸術性という新たな視点が勃興しており、製品やサービスを創造するうえで、重要で注目すべき点になっているのだと思います。

技術開発の仕事に長らく携わっていると、膨大な種類の技術要素を見れば、それらをどう組み合わせたら、これまでになかった新しい製品やサービスがつくれそうかという推察が、かなりの精度でできるようになってきます。

そして、シェフが足りない素材や加えるべき調味料、必要な調理プロセスなどを適切に判断しならが料理に仕上げていくように、技術者も最終形の製品やサービスにするのに、足りない技術があり、それはすぐに実用化されるのか、されないのかといった入手可能性も含めて、製品やサービスの「構想」を考えられるようになります。

スティーブ・ジョブズは、毎年、技術の棚卸しをして、製品に採用できそうな新技術を常にウォッチしていたと言われています。われわれもそういった旬になりそうな新技術に目を注いでおくことで、他社に遅れることなく商用導入を実現することができるのです。そして、商用導入に至らない技術に対しては、試作を多数行うことで、即座に商用化できるようにしておくのが重要なのではないでしょうか。

新メニュー開発のための「文法」

もちろん、新しいメニューは、多くの試行錯誤の末に完成するものの、時にはシェフが期待したほどの人気メニューにならないこともあるかもしれません。このあたりも技術者と同じ苦労ではないかと思います。

私は、30年以上にわたってデジタル技術を基盤にした研究開発、特に新たな一般ユーザ向けのプラットフォームを、ナノミクロンの基礎半導体から地球スケールのクラウドサービスに至るまで、長期スパンで開発するような仕事をしてきました。そのなかで、「新メニューの開発」にはいくつかの「文法」があるのではないかと考えてきました。それを、世界で戦いたいと思っている皆さんと共有したいと思います。

料理とは、基本的に、肉や魚介や野菜や果物などの素材を、香辛料や調味料や油などで「加工」する作業です。このときに、素材を替えることによる新メニュー開発というテクニックがあります。

1つの文法としては、前菜の定番の1つである「生ハムとメロン」という組み合わせ。例えば、この素材を変化させ、「果物+やや脂の多い肉系素材」という一段抽象度の高い関係性に置き換えてみます。すると、「桃と豚背脂」のようなメニューのバリエーションを創造することができます。

暖かいものを冷たい料理として出してみるという、「物理パラメータを逆にする」文法も参考となるかもしれません。技術開発においては、欠点と思われている物理特性を、逆に積極的に活用するような例が、それに当てはまりそうです。

今日では、一大産業基盤をなしている半導体もその好例でしょう。半導体は、金属のような電流を良く通す導体と、逆に電流を全く通さない不導体、そのどちらでもない中途半端な素材であると考えられ、注目されていませんでした。

ところが、不純物が混じっている半導体は、その不純物内にある電流運搬の担い手を制御することで、導体にも不導体にもできなかった物理現象を実現できることが判ったのです。いまでは、ラジオやテレビ、コンピュータやスマートフォンでも活用されることとなりました。

未知の料理を創造するには、新しい「調理法」の開発も必要でしょう。このあたりは、われわれ技術者が、新しいデバイスを創造するときに、製造方法、特に量産方法から考え始めることと、とてもよく似ています。

料理も、時代を経て、人々の好みや調理器具の進化などの変化が起こっており、シェフも、その時々の「旬」を取り入れることで、時代性を維持する努力をしています。われわれ技術者も、進化が劇的に速いデジタル技術を活用して製品やサービスを構築するには、常に「最新のデジタル技術」を意識しておかなくてはなりません。

「創造」こそ人間に求められる仕事

料理のレシピを生成するAIが登場し、また調理の自動化もロボティックスによって加速的に導入されています。ソフトウェア産業においても、AIによるプログラミングの可能性が現実になってきているようです。世界で戦う前にAIと戦う時代がすぐそこに来ているのかもしれません。

AIはまず、定型業務を自動化して行きます。われわれ人間は非定型業務を担うことになりますが、それもそのうちAIに代わり、やがて意思決定業務や戦略立案さえも、AIができるようになるでしょう。

最終的には「創造的な仕事」が、人間が担うべき仕事なのだと思います。昨今は、ビジネススクールよりもデザインスクール、MBAよりもアート修士というトレンドも生まれ始めているようです。

このトレンドは「論理力」とか「分析力」といったアナリティカルな能力から、まさに「想像力」と「創造力」といったシンセティック(合成的)な能力が求められている証左であり、AIなどのデジタル技術が急速に発達していく流れのなかで、今後の人間の役割を暗示しているものとも言えます。

世界ではテクノロジーの進化が加速度的に進み、人間の役割が再定義されています。企業を取り巻く環境が劇的な変化を迎えるなか、私は日本企業の再興には、研ぎ澄まされた「想像力」や「創造力」が必要であろうと考えています。

われわれがカリスマシェフの創造力から学ぶということは、このトレンドの線上にあり、少なくない日本人の達人たちが「食」という普遍的な場において、卓越した創造力を発揮して海外で活躍していらっしゃるのも、世界に挑戦しようとしている企業人や技術者の皆さんの参考になることが少なくないと思います。

カリスマシェフは、創作の「正攻法」や「創造のための文法」を熟知しているだけでなく、「旬の取り入れ方」や「価値転換の方法」など創造のコアとなる要素の扱い方を体得しています。世界で戦いたいと思っていらっしゃる皆さんには、こういったカリスマシェフの創造力から多くを学び、「創造的な仕事」でトップランナーとなって、日本経済の再興に貢献してほしいと願っています。

※この記事は、「2020年4月12日掲載 Forbes JAPAN Online」に掲載されたものです。この記事の掲載については、Forbes Japanの許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMG Ignition Tokyo
代表取締役社長 兼 CEO
茶谷 公之 

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