米国新リース会計基準:組込リースの網羅性

本稿ではTopic 840の会計基準にしたがって識別されるべき組込リースについて解説します。なお、本稿はKPMG米国で発行されたHot Topicの翻訳版です。

本稿ではTopic 840の会計基準にしたがって識別されるべき組込リースについて解説します。なお、本稿はKPMG米国で発行されたHot Topicの翻訳版です。

ハイライト

米国における現行リース会計基準(以下「Topic 840 」という)上、多くの契約に含まれているリース取引がリースとして識別されていない可能性があります。これらの契約書には「リース」または「賃借」など、組込リースを容易に識別できるための用語が使われていないことが多く、Topic 840では米国リース会計の財務諸表本体への影響が少なかったため、組込リースが識別されていなかった可能性もあります。しかし、新米国リース会計基準(以下「 Topic 842」という)の適用時に実務上の簡便法を適用する場合、組込リースを認識する際にはTopic 842のリースの定義を使うのではなく、 Topic 840のリースの定義を使うことになります。また、もし適用時に実務上の簡便法を適用しなかったとしても 、Topic 842を適用するまでの開示は Topic 840の基準に準拠します。したがって、本稿では Topic 840の会計基準にしたがって識別されるべき組込リースについて解説します。
なお、本稿はKPMG米国で発行された“Hot Topic: ASC 842 - Finding embedded leases under Topic 842”の翻訳版です。
なお、以下のポイントで記載した意見に関する部分については、著者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 既存の契約に含まれている組込リースは、会計上リースとして識別されていない可能性がある。したがって、企業は既存のリース母集団をTopic 842の導入検討作業と共に見直す必要がある。
  • 米国会計基準を適用して作成している米国子会社の単体財務諸表のみならず、その財務諸表を連結している日本基準の親会社の連結財務諸表にも影響を与える可能性がある。
  • 2019年11月にFASBが非上場企業の適用日を1年遅らせた影響で、米国子会社の適用作業がペースダウンしている可能性がある。しかし、組込リースを含むリース母集団を把握するための検討作業には手間を要するケースが多いと考えられるため、今すぐ検討作業を開始することが必要である。

I.組込リースの識別

Topic 840によると、さまざまなタイプの契約に組込リースが含まれています。一般的に以下のような契約に組込リースが含まれている可能性があります。

  • ITサービス契約
  • サービス契約
  • 販売契約
  • 供給契約
  • 特定目的の製造設備契約

また、広告契約、運送契約、建設契約や、関連当事者取引にも組込リースが含まれている可能性があります。
企業は、まず組込リースが含まれている可能性がある契約がどれくらいあるかを把握する必要があります。上記のような契約書を読み、組込リースを識別していくことも1つの方法です。以前識別されていなかった組込リースは、以下のTopic 840 - 10 - 15 - 6(c)のガイダンスに当てはまるものである可能性が高いと思われます:

15 - 6 仮に契約上で借手が固定資産の使用の支配を有する場合、その契約上固定資産を使用する権利があるとする。固定資産の使用の支配が借手にあるかは、以下記載のいずれかの条件を満たさなければならない:
…(a)と(b)省略
(c)借手以外の第三者が契約期間内に生産されたアウトプットの少量以上を買う可能性が低く、さらに、借手がアウトプットに対して支払う価格設定が単位ごとに固定していない、または、アウトプットが借手に渡った時点の市場価格と同等のものではない。


乗り物や機械のような資産を企業の従業員が頻繁に稼働しているような資産使用の契約や、ビル(またはビルの一部)のような資産への物理的アクセスを支配するような契約は、既にTopic 840の組込リースとして会計処理されていると考えられます。
この最初のステップの「組込リースが含まれているリスクがある契約」の網羅性を確認するためには、企業内でのさまざまな部署の協力が必要になります。特に契約内容の詳細については、オペレーションに関与している部署の協力が不可欠と思われます。
組込リースを把握するための一般的なアプローチとしては、まずサンプルベースで「組込リースが含まれているリスクがある契約」を読み直し、その結果必要であればサンプルを拡大するなどの方法があります。具体的には、もし最初のサンプルの中から以前識別されていなかった組込リースが発見されたら、同類の資産の中からさらにサンプルを拡大するか、または、違う資産の中から「同種の組込リースが含まれるリスクがある契約」を選んで契約を読み直すやり方もあります。
この契約のレビューと、契約条項により借手に対象資産の使用の支配があるかどうかという検討作業は、非常に手間を要するケースが多いと考えられます。特にこの検討作業の最初の段階ではリース会計の経験があり、リース会計基準をよく理解している人材が必要になります。最終的には、企業がこれ以上重要な組込リースがないと言えるまで、この検討作業を続ける必要があります。
仮にこの検討作業で以前識別されていなかった組込リースが発見された場合は、即座にTopic 840上の、将来の「minimum rental payments※1」の開示の中に含める必要があります。さらに、Topic 842への適用時にはTopic 840で認識された「minimum rental payments」が、使用権資産とリース負債を認識する時のベースになります。組込リースは、通常非リース要素を含むサービス契約の中に含まれていることが多く、開示すべき「minimum rental payments」はリース要素に配分された契約対価のみであり、非リース要素のサービスに配分された対価は含まれないことに留意が必要です※2


※1パラグラフ840 - 10 - 25 - 5 - 25 - 6とQuestion 13.3.10については、KPMG米国のHandbookを、適宜ご参照
※2パラグラフ840 - 10 - 15 - 19と現行基準との比較の参照ついては、KPMG米国のHandbookのセクション4.2と4.4を適宜ご参照

II.具体例

次の3つの具体例で、企業がTopic 842の適用検討作業の中でTopic 840に基づく組込リースを識別した例を紹介します。これらの企業は実務上の簡便法を適用しています。

例1:特定目的の製造設備

前提
顧客は特定目的の製造設備から製造される小型装置製品を12年間メーカーから購入する契約を結びます。この契約上、製造設備は特定されており、メーカーは小型装置製品を他の製造設備から生産することはできません。特別目的製造設備の稼働と維持はメーカーが担当します。この製造設備はこの特別な小型装置製品を生産するために特別にデザインされたものなので、顧客は製造設備のアウトプットを変更することはできません。
しかし、顧客は購入注文を調整することによってアウトプットを生産するか否かを決定し、また生産量を変更することができます。顧客は、契約上、購入注文量に関係なく四半期ごとにメーカーへ一定の最低支払額を支払わなければなりません。

評価
Topic 840上、組込リースが存在します:

  • 契約上対象資産が特定されています(特定目的の製造設備)。
  • 顧客に対象資産の使用を指図する権利があります。なぜなら、顧客が特定目的の製造設備から生産されたすべてのアウトプットを受領し、契約の価格設定が単位ごとに固定ではなく、また価格設定はアウトプットの権利が顧客に移るときの市場価格と同じではない(四半期ごとの最低支払額が決まっている)ためです。

例2:シャトルサービス

前提
ある企業の本社は大きな敷地内にあるため、企業の従業員と顧客は、ビルからビルへの移動や駐車場の行き来に時間がかかっています。移動の時間を短縮させるために、企業はシャトルサービスを従業員と顧客に提供することにします。シャトルサービス会社が企業専用のバス(バスは常に企業の敷地内で運行されている)を使用し、企業のブランドにあわせてバスの外観を改装することも可能です。シャトルサービス会社がバスの運行と維持を担当しますが、バスがどのルートを走るか、どれくらいの頻度で走るか、どの時間帯を走るかは、すべて企業が決定します。企業はシャトルサービス会社に毎月一定額のサービス料を支払っています。

評価
Topic 840上、組込リースが存在します:

  • バスは対象資産として契約から実質的に特定可能です。なぜなら、もしシャトルサービス会社が企業専用のバスを使っていなかったとしても、他のバスをこの企業目的に使うことは、サービス会社にとって非経済的であるからです。
  • 企業がバスの使用を支配しています。なぜなら、企業がすべてのバスからのアウトプットを享受しており(バスは企業との契約専用)、契約の価格設定は単位ごとの固定(たとえば走行距離による固定の価格設定、またはバスの乗車人数による固定の価格設定)ではないためです。シャトルサービス会社にバスの稼働権と維持する権利があることは、結論には影響しません。

例3:外部委託の契約

前提
ある企業はOutsourcerという海外にベースをもった第三者に、コールセンターを外部委託しています。企業はコールの種類や数量に基づいて、Outsourcerに固定額と変動額をサービス料として支払っています。
Outsourcerは自社のコールセンターの中で、この企業向けに特定のスペースを確保し、特定の設備(具体的にはITや電話機器)を使用してサービスを提供しています。コールセンターのスペースと設備は、特にこの企業のためにカスタマイズされた特別なものではありません。Outsourcerは、企業のために使用されているコールセンターのスペースを他のスペースに移す権利があり、また移すことが可能です。また、他のITや電話機器に入れ替えてサービスを提供することも可能です。実際にOutsourcerは、似たような契約でコールセンターのスペースを効率的に活用するために、新しい契約が入ったときに場所の入れ替えをしたことがあります(たとえば、新しい契約が入った時に大きなスペースが必要となった場合、既存のスペースを新しい契約のためのスペースと入れ替えました)。

評価
Topic 840上、組込リースが存在しません。
なぜなら、契約上コールセンターのスペースや契約に使われる設備が特定されているものではないからです。Outsourcerは企業のために使われているコールセンターのスペースを他のスペースに移す権利があり、また現実的に移すことが可能です。また、ほかのITや電話機器に入れ替えてサービスを提供することも可能です。
ただし、もしコールセンターのスペースが特定されていたり、特別目的または企業専用にカスタマイズされた設備を使うことが企業との契約で決まっており、他のスペースや設備と入れ替えることが非現実的または非経済的な場合には、この結論は変わってきます。そのような場合にはコールセンターのスペース、設備、またはその両方がリースに該当する可能性があります。なぜならこれらの対象資産は企業の契約専用に使われているものだから(よって、企業以外の第三者がこれらの対象資産から生み出される少量以上のアウトプットを使う可能性はほぼないから)です。また、契約の価格設定は単位ごとに固定ではなく、アウトプットの権利が企業に移るときの市場価格と同じではないためです※3


※3現行基準と新基準の比較は、KPMG米国のHandbookのセクション3.2を適宜ご参照

III.その他考慮すべき点

Topic 840の開示に使われるリース母集団の網羅性と正確性に対する業務プロセスと、関連する内部統制のコントロールを把握する必要があります。それらを通じて、組込リースの識別や、Topic 840の開示に使われるリース母集団の網羅性と正確性の確認を行います。その結果、その業務プロセスで確立されたリース母集団がTopic 842導入のベースになります。

IV.適用日

上場企業のTopic 842適用日は、2018年12月15日より後に開始する事業年度およびその四半期決算からです。非上場企業の適用日は2020年12月15日より後に開始する事業年度の年度末からで、四半期は2021年12月15日より後に開始する事業年度からです。早期適用も可能です。

V.その他のガイダンス

Topic 840とTopic 842のリースの定義の比較を含めたTopic 842のリースの定義の詳細は、KPMG米国のHandbookのチャプター3を適宜ご参照ください。

執筆者

KPMG米国
Audit
パートナー 前川 武俊
マネージング・ディレクター 田中 李佳

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